ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語 作:猫禰捏涅
「私は出たいという意見に変わりはありません!私のドッ可愛いベイビー達を存分にアピールできる最大の場ですので!!」
「発目さん、さっきから思ってたけどちょっと自己中すぎるよ…!他の人の意見も聞こうよ!」
「もちろん意見は聞きますよ!ユーザーのフィードバックを聞き入れて改善するのが優秀なデザイナーです!ということでどうでしたか私のベイビーは!存分に助けられたでしょう!?素晴らしい性能だったでしょう!?」
「そういうことやなくてさあ…!」
「う、麗日さん、やっぱりいいよ…発目さんと、常闇くんか麗日さんで…」
「チームリーダーの役割を果たしていたのは緑谷だ。そうまで緑谷に譲られてしまうと、俺の立つ瀬がない」
「そうだよ!私もデクくんは行くべきやと思う!」
「それを言うなら、常闇くんと麗日さんだって、い、行くべきだよ!」
クラスメイト達から離れ、スタジアムの裏手で話し合う緑谷チームの空気は、どこかぎこちないものになっていた。
騎馬戦の上位4組が最終トーナメントへの進出とされていたが、4位の耳郎・ネリエルチームが2名体制で、16名枠に対して14名となったため、5位だった緑谷チームから2名繰り上げることになっている。
どの2名を繰り上げるかはチームでの話し合いをするようにとミッドナイトから指示を出されたのだが、発目は『サポートアイテムのアピールのため進出したい』という意見を崩さず、緑谷がそれに対して譲ると常闇と麗日も譲る。
それでいて緑谷の表情からは『絶対に出たい』という気迫が漏れ出ており、全員の意見や空気が噛み合っていなかった。
「……埒が開かんな。このままでは休憩時間が終わってしまう」
「あ…そ、そうだね。お昼ご飯は絶対食べないと、だよね」
「ああ。全員何か食べてからもう一度集まろう。時間は…十五分前でいいか」
「……そうだね。そうしよっか」
「私は『出たい』という意見のままですので!話し合いには参加いたしますがそこの所よろしくお願いしますね!ではベイビーの整備をしてきます!」
発目はそう言ってポケットから工具を取り出しながらすたすたと歩き去っていく。麗日がその後ろ姿を見て、はあとため息をついた。
「確かに彼奴のサポートアイテムには助けられたのだが…」
「なかなか強烈やね…」
『フミカゲ、出ナイノ?』
「俺とて出たい。だが、上がれるのは2名のみとなれば、騎馬戦での実績を鑑みて正当に評価するべきだろう。そうなると緑谷は進出するに値すると思っている」
「で、でも一番活躍していたのは正直、常闇くんだろ!」
「そのための策を出して、俺をうまく使ったのはおまえだ。……いや、今はいい。ともかく昼食を食べに行こう」
「そうだね。ちょっと落ち着いて考えてみようよ」
「……う、うん……」
思い詰めた表情の緑谷の背中を、麗日がそっと押す。
三人はそうして食堂へ行ったのだが、緑谷は食事の間中ずっと暗い表情でブツブツと何やら呟いていた。
その後、午後の部が開始される十五分前に再び四人は集まって話し合ったのだが、やはり全員の意見は噛み合わず、どの2人が進出するのかは結局決定しなかった。
◇
「あ。そういや16人のとこ14人になってたの、どうなった?」
緑谷チームがスタジアム裏で話し合っていた頃、救護所からそのまま食堂へ行って雑談をしながら昼食をとる中で、耳郎がふと思い出したようにそう言った。
「やはり緑谷さんチームから二人繰り上がる予定ですわ。あの場ではすぐに決まらなかったので、休憩明けまでに四人で話し合って決めるそうです」
「緑谷と常闇が有力だけどねー。サポート科の人も進みたがってて、緑谷チームちょっと揉めてんの」
「それ以外の三人が譲り合っちゃってるんだー!」
「そうなんだ…」
確かに周囲を見回すと、緑谷と麗日、常闇とサポート科の女子生徒の姿がどこにも見えない。
「じゃあ、お茶子ちゃんは辞退しちゃったの?」
「いいえ。まだどうなるかは分からないわ」
「そっかあ」
「ごちそうさまでした。さて、私はチアのユニフォームを準備いたしますわね」
「へ?チア、って?」
話の流れの中で唐突に出てきた単語を理解しきれず、耳郎が八百万に聞き返す。
「午後の部の前にレクリエーションがあるのですが、女子は応援合戦に参加しなければいけないそうですの」
「応援合戦……?」
「ネリエル、やったことない?こう、ポンポンを振るやつ!」
「チアリーダーのことだよね。私達でチアのチームを組んで応援対決をする、ってこと?」
「そーだよー!フレーフレーって!」
チアリーダーについては知識があったネリエルは納得したものの、ふと首を傾げた。
「そのためのユニフォームを、モモちゃんが用意するの?」
「ええ。そのつもりですが、何か問題でも…?」
「うーん…モモちゃんが蓄えてる脂肪って、いわば武器だよね?それなのに学校側がユニフォームを用意せずに、最終戦に参加するモモちゃんを消耗させるようなことをするの?」
「あ………」
腕まくりをしていた八百万が動きを止めた。蛙吹が口元に指を当て、ネリエルと同じように首を傾げる。
「確かに変ね。百ちゃん、そのお話は誰から聞いたのかしら」
「その…峰田さんと、上鳴さん…ですわ」
蛙吹の目がじとりと据わる。他の四人も頷きあった。
「怪しいわね」
「めちゃくちゃ怪しいよ」
「私もそれは怪しいと思う」
「そう言われると…怪しー!」
「よし、先生に聞きに行こ!!」
水を飲み干してそう言った芦戸に、ネリエル達も頷いて立ち上がる。
返却口にお盆を返し、揃って実況解説席へと向かった。
『ハァん!?確かにチアリーダーズは呼んでるが、女子生徒の応援合戦なんてモンはねェよ!!?』
「おい、そんなこと言い出したのはどこのどいつだ……」
実況解説席で昼食を食べていたプレゼント・マイクと相澤を訪ねて『応援合戦』について聞いてみれば、即座に否定が返された。
蛙吹が深いため息をつく。
「やっぱりそうよね。変だと思ったわ」
「わ、私、峰田さんと上鳴さんに、相澤先生からの言伝だと言われ…!」
わっ、と顔を覆った八百万に、芦戸と耳郎が目を見開く。
「ふつーに悪質じゃん!?」
「先生からだって嘘つかれたら、そりゃ信じちゃうよ…」
「モモちゃん、私はモモちゃんの素直なところが好きよ?」
「ヤオモモ元気出してー!」
「私、ご指摘いただかなくては、気づかずユニフォームを出してしまうところでしたわ…ありがとうございます…」
「モモちゃんが消耗しちゃうようなことにならなくて良かった」
ネリエルと葉隠は落ち込む八百万の背中を撫でる。
相澤が大きな舌打ちをして椅子から立ち上がった。
「アイツら……そろそろ懲りたほうがいいな。締めてくる」
『Oh……イレイザー、ブチギレだぜ』
「あと十分か…おまえらは休憩しとけ。この後のレクに参加するかは自由だが、間違っても応援合戦なんてモンはねえぞ」
実況解説席を出ていく相澤の背中からは、怒りのオーラが立ち上っているように見えた。
『聞きにきてくれてナイスだぜ!確かにいい加減にしたほうがよさそうだな、あのガイズは!』
「ネルとヤオモモのチア姿が見たかったとかだろうなー…」
「たぶん女子生徒全員よ。先生の名を騙るのは卑怯だわ」
『もしあったとしても、ユニフォームを生徒に作らせるなんてしねーよ!休憩時間にはちゃんと休憩しときなー!』
そう言って手を振るプレゼント・マイクに見送られ、ネリエル達は一度控室へと戻った。
「次レクリエーションだよねー」
「自由参加だっけ?ウチは休憩しときたいんだけど…」
「基本全員参加だったはずだよー!私はやる気満々!どの競技も面白そう!」
「私も最終戦には残れなかった分、アピールしていかなきゃね」
「最終種目の参加者は、確か自由参加でしたわ。私は休憩にいたしますが、ネリエルさんはどうされますの?」
「……ん、どうしようかな」
ネリエルはレクリエーションにあったいくつかの競技を思い出しながら考える。
今は少しばかり気分が落ち込んでいるものの、発表されたプログラムを見て「出てみたい」とワクワクしていたのは間違いない。
「まあ後で考えればいいんじゃない?てかそろそろ行かないとだ!」
「そうだね」
「ネリエルちゃん、目はマシになった?」
「うん、腫れも引いたよ」
すっかり溶けてぬるくなった保冷剤をポケットに入れ、ネリエルは自分の瞼に触れた。普段よりも熱くなっているので赤みは引いていないだろうが、腫れぼったくはなっていない。
『最終種目発表の前に、予選落ちの皆へ朗報だ!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!本場アメリカからもチアリーダーを呼んで、一層盛り上げていくぜ!!』
実況を聞きながら控室からスタジアムへと歩いていくと、チアリーダー達が華やかなダンスで観客達を盛り上げている。
近くの入場口からはB組の生徒達も出てきているが、当然女子生徒達がチアリーダーの格好をしているということはなかった。八百万が怒りにプルプルと拳を震わせる。
「本当に、とんでもない嘘ですわ…!!」
「あれ、上鳴と峰田じゃない?転がってるの」
「本当ね。相澤先生によっぽど怒られたみたい」
生徒達が続々と整列する中、A組の列のところで上鳴と峰田がぐったりと地面に横たわっている。
「チアリーダー…ユニフォーム……うぅ……見たかった、ぜ……」
「くそぉ…!応援……!オイラは応援されてえだけだったんだよ……!!」
「アホだろ、コイツら」
「自業自得ですわ!!」
「ケロ、嘘を吐くのは感心しないわ」
「なーんでそーいうズルいこと考えるかねー!」
耳郎の『イヤホンジャック』がびしびしと二人を突く。それに気づいた上鳴が、「おお、耳郎…」と少し頭を上げた。
「怪我は大丈夫かよ……?」
「とっくに完治したわ!つーかそういうの気遣えんのに、なんでこっすいことすんだよ」
「ウッ……欲には逆らえなかったんだ……あと峰田にノせられた……」
「てめえだってノリノリだっただろうがよー!!」
峰田が地面を転がりながら上鳴に掴みかかっていった。
『さァさァ皆楽しく競えよレクリエーション!それが終われば最終種目、総勢16名からなるトーナメント形式!!一対一のガチバトルだ!!』
プレゼント・マイクの実況と共に、くじ引きの箱を抱えたミッドナイトが台に上がっていく。
「トーナメントか…!毎年テレビで見てた舞台に立つんだあ…!」
「毎年トーナメントだっけ」
「形式は違ったりするけど、毎年サシで競ってるよ。去年はスポーツチャンバラだったはず」
「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!レクに関して進出者は、参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も温存したい人もいるしね」
ミッドナイトはそう言いながら、生徒達を見渡して緑谷チームが固まっているところに視線を向けた。
「今から16名の組み合わせを決めたいんだけど、緑谷くんチームは繰り上がる2人は決まったかしら?」
「そっ、それが……実はまだで……」
「少々、話し合いに手こずっている」
「私は出たいです!皆さんも出たいそうです!ここまでくるともうじゃんけんでいかがでしょう!?」
「ええ!?でも先生は話し合いでって…」
「最終的にじゃんけんで決めることを話し合ったという結論でいいんじゃないでしょうか!」
「いやそれはちょっと…!」
緑谷チームはごちゃごちゃと話し合っているが、まだ結論は出ていないらしい。ミッドナイトが「困ったわね」と言うと、A組の列の中からすっ、と手が挙がった。
「あの…!すみません。俺、辞退します」
挙手をしてそう言ったのは尾白だった。
「尾白くん!何で…!?せっかくプロに見てもらえる場なのに!!」
「騎馬戦の記憶…終盤ギリギリまで、ほぼボンヤリとしかないんだ。多分、奴の“個性”で…」
ちらりと尾白が心操へと視線を向ける。確かに尾白は騎馬戦で心操を支える騎馬として参加していたが、その動向はネリエル達とは交わらなかった。
「チャンスの場だってのはわかってる。それをフイにするなんて愚かなことだってのも…!」
「尾白くん…!」
ネリエルと耳郎がB組の騎馬から集中砲火を浴びていた場面が多かったとはいえ、最後の十数秒で0ポイントから急に3位の『1090』ポイントにまで唐突に成り上がっていたのは、不気味な挙動だった。
(どういう“個性”なのかしら。それとも、何か…)
尾白や緑谷、ネリエルから向けられる視線から逃げるように、心操は無言でふいと別の方向を向く。
「でもさ!皆が力を出し合い争ってきた座なんだ。こんな…こんなわけわかんないままそこに並ぶなんて…俺は出来ない」
「気にしすぎだよ!本戦でちゃんと成果を出せばいいんだよ!」
「そんなん言ったら私だって全然だよ!?」
「違うんだ…!俺のプライドの話さ…俺が、嫌なんだ」
顔を覆ってしまった尾白に、ネリエルは少し眉を顰めた。
(記憶………もしかして、記換神機?)
死神達が取り扱う道具の中で、短期間の記憶を置換する装置があったことを思い出す。しかしすぐに首を振ってその考えを追い出した。
(いえ、そんなはずはないわよね。それに、記換神機だけだとハチマキの争奪戦を勝ったことに説明がつかないし…やっぱり、彼の“個性”かな)
「僕も同様の理由から棄権したい!実力如何以前に…
「そういうことなら僕も!本当なら庄田くんと一緒にドワーッて活躍して、B組の皆の道をバーンッ!と切り開くはずだったのに!ずっとシーン…となっちゃってた!」
B組の小柄だが体格のいい男子生徒と、頭部が吹き出しになっている男子生徒も同じく手を挙げて棄権の意思を示した。尾白も加え、心操の騎馬を担当していた三人である。
「なんだこいつら…!!男らしいな!」
『何か妙なことになってるが…』
『ここは主審ミッドナイトの采配がどうなるか…』
それまで黙って三人の主張を聞いていたミッドナイトが、おもむろに鞭を取り出して構えている。
「そういう青臭い話はさァ…好、み!!!」
満面の笑みで楽しそうにしながら、ミッドナイトはピシャァンッと鞭を振るった。
「尾白、庄田、吹出の棄権を認めます!!」
「て、ことは……」
生徒達の視線が緑谷チームに向く。緑谷は目を大きく見開いて固まっており、麗日が必死に彼の肩を揺すっていた。
「デクくん!デクくん、私達全員で進出だよ!」
「うむ…正直複雑なところはあるが。これもまた福音と思うべきか…」
「なんの、ラッキーを拾うのも実力のうちですよ!具体的にはスポンサーの獲得などですね…!あれにはやはり時の運というものが絡んできますからね…!」
ようやく実感が追いついたのか、緑谷がだばっと涙を流し始めた。
「ぼ、僕…!!最終戦に…!!?」
「ああ。少なくとも何もしてない俺よりかはさ、緑谷達のほうが相応しいと思うし」
「お、お、尾白くん…!!」
「僕と庄田くんもスッポリ抜けたから、これもう1人の枠がポカッと空くよね?」
「そうだね。ミッドナイト、どうか他のB組のチームから1人繰り上がりを許してもらえるでしょうか!」
「ええ、そうしなさい!」
庄田と吹出と呼ばれた男子生徒は、ミッドナイトから許可をもらって嬉しそうにB組のクラスメイト達を振り返っている。
「ウチらの二人体制から、こんなことになるとは…」
「予想外だね。でもこれで、決まりかな」
B組の生徒達の中から誰が繰り上がるかはすんなりと決まったらしく、頭髪が蔓になっている女子生徒が進み出てきた。
「がんばれ、茨!」
「おまえならB組の思いを任せられるぜ!!」
「クラスメイトの方々からいただいた、この機会…必ず活かして参ります」
敬虔な信者のように女子生徒は手を組み、ミッドナイトに頭を下げた。
「オーケー、では16名の最後の一人はB組、塩崎茨さんね!ボールに名前を書いて…と。さあ、これで全員が揃ったわ。1位の轟くんチームからじゃんじゃん引いていきなさい」
騎馬戦で1位だった轟チームからくじ引きの箱が回されていく。轟チームの最後に引いた上鳴が、「お、ネリエルとじゃん!」と声を上げた。
「うわっネル、上鳴と?気をつけてね」
「『帯電』だよね、うん、気をつけないと」
「ウチはあのウェイ顔の…んふっ、イメージ、なんだけど。電気系は強いよね」
「ウェイ顔?」
ネリエルが首を傾げると、耳郎は笑いを堪えている顔で上鳴を指差した。上鳴は呑気にネリエルに向かって手を振っている。
「上鳴ね、
「そうなんだ。
「はー…タイマンするならそれ越すの狙ってもいいかもね。…あ、ウチも決まった。切島かあ」
心操がくじ引きの最後で、彼の相手は緑谷に決まった。それぞれの組み合わせがまとめられ、巨大モニターに表示される。
「というわけで、組はこうなりました!」
ネリエルの一回戦の相手は上鳴、耳郎は切島に決定した。2回戦に勝ち上がれば飯田か発目のどちらかと戦うことになる組み合わせだ。
既にこの時点で全生徒中のベスト16に入っているという快挙であるものの、ネリエルはトーナメント表の頂点を見つめて薄く微笑んだ。
緑谷と轟の対話はレクリエーション中にずれ込みましたが、原作通り行われています。…書いたほうがいい?