ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語   作:猫禰捏涅

21 / 35
20.最終トーナメント:一回戦①

「話って…何…?」

 

レクリエーションの時間に最終戦に進出できた喜びに浸る間もなく、緑谷は轟から人気のない通路に呼び出されていた。

 

「えっ…と…轟くん?」

 

左右で色の違う瞳が緑谷を睨みつける。爆豪とは違った方向性で一人を貫き、それでいてクラス内でもトップクラスの実力者である轟の威圧感は、とても高校生のものとは思えなかった。

 

「……気圧された。自分(てめえ)の誓約を破っちまう程によ」

 

『半冷半燃』という強力無比な“個性”でありながら、轟は決して体の左側から発する『炎』を使おうとしない。

 

「飯田も上鳴も、八百万も常闇も麗日も…感じてなかった。最後の場面、あの場で俺だけが気圧された。……本気のオールマイトを身近で経験した、俺だけ」

「………それ、つまり…どういう………」

 

USJでのことを思い出しているらしい轟は、ぼんやりと掌を見つめている。

 

「おまえに同様の何かを感じたってことだ。なァ……」

 

自身の掌から視線を外した轟が、緑谷に問いかける。

 

「オールマイトの隠し子か何かか?」

 

緑谷は大きく目を見開いてしばらく沈黙した。

世間に対して隠されていなければならないオールマイトの真実の姿(トゥルーフォーム)と、『OFA(個性)』の秘密についてばかり意識がいっていた。

 

「違うよ、それは……って言ってももし本当にそれ……隠し子だったら違うって言うに決まってるから納得しないと思うけどとにかくそんなんじゃなくて……」

 

『隠し子』の疑いは斜め上の方向からの切り込まれ方だが、確かに何も知らなければそういう見え方にもなるのかもしれない。

緑谷は弁解のようなそうでないようなことを言いつつ、なんとか話を逸らそうとする。

 

「そもそもその…逆に聞くけど…なんで僕なんかに、そんな……」

「……『そんなんじゃなくて』って言い方は、少なくとも何かしら言えない繋がりはある、ってことだな。…俺の親父はエンデヴァー、知ってるだろ」

「!」

「万年No.2のヒーローだ。おまえがNo.1ヒーローの何かを持ってるなら俺は……尚更勝たなきゃいけねぇ」

 

ヒーローオタクである緑谷が知らないはずがないヒーローの名前だ。緑谷ほどでなくとも轟がプロヒーロー・エンデヴァーの息子であることは少し調べればわかるほど有名な話である。

 

「親父は極めて上昇志向の強い奴だ。ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せたが…それだけに、生ける伝説オールマイトが目障りで仕方なかったらしい。自分ではオールマイトを超えられねぇ親父は、次の策に出た」

「何の話だよ、轟くん…僕に…何を言いたいんだ…」

 

そう言いながらも、緑谷は言い知れない悪寒が忍び寄ってきているのを感じていた。

 

「個性婚、知ってるよな」

「……! “超常”が起きてから、第二〜第三世代間で問題になったやつ…」

「自身の“個性”をより強化して継がせる為だけに、配偶者を選び……結婚を強いる、倫理観の欠落した前時代的発想」

 

大きな社会問題になったとして近代史で必ず学習する言葉だ。日本では既に、“個性”を目的とした婚姻や男女関係の強要は法律で禁止され、厳しい罰則も規定されている。

 

「実績と金だけはある男だ…親父は母の親族を丸め込み、母の“個性”を手に入れた。俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで、自身の欲求を満たそうってこった。うっとうしい…!そんな屑の道具にはならねえ」

 

左側の赤い髪と顔面の左半分を大きく覆う火傷痕を押さえながら、轟の声が徐々に低く、怨嗟に塗れたものになっていく。

 

「記憶の中の母はいつも泣いている…。『おまえの左側が醜い』と、母は俺に煮え湯を浴びせた」

 

ぞわり、と緑谷の背中が粟立つ。

 

「ざっと話したが、俺がおまえに突っかかんのは見返す為だ。クソ親父の“個性”なんざなくたって……いや…使わず一番になることで、奴を完全否定する」

 

あまりにも重たい轟のバックグラウンドを聞いて、緑谷は何も言えずにいる。

 

「言えねえなら別にいい。おまえがオールマイトの何であろうと、俺は右だけでおまえの上に行く。時間とらせたな」

 

そう言って背を向けた轟に、緑谷が一歩、踏み出した。

 

「僕は…ずうっと助けられてきた。さっきだってそうだ…僕は、誰かに救けられてここにいる」

 

緑谷の脳裏には、これまで自身を助けてくれた人達の顔が思い浮かんでいる。

自らに“個性”を譲渡し、指導してくれているオールマイト、『ヒーローになる』という夢を応援すると言ってくれた母。相澤も言葉は厳しいながら、緑谷を的確に導いている。

入試前の些細なことから騎馬戦まで助けになってくれている麗日、USJで共に窮地を脱出した蛙吹と峰田、怪人の手から文字通り救い出してくれたネリエル。先程のことで、ここに一緒に騎馬を組んだ常闇と発目も加わった。

 

「それに色々と、僕は幸運にも……助けられてる。尾白くんも…」

 

轟に呼び出される前、控室で緑谷が一回戦で当たる心操の“個性”について、推測混じりだが伝えにきてくれた尾白もいる。『俺の分まで頑張ってくれ』という言葉をかけられ、緑谷は気合を入れ直していた。

 

「オールマイト…彼のようになりたい…その為には1番になるくらい強くなきゃいけない。君に比べたらささいな動機かもしれない…。でも、僕だって負けらんない。僕を救けてくれた人たちに、応えるためにも…!」

 

ぐっと拳を握り、今度はまっすぐに轟を見返す。

 

「さっき受けた宣戦布告、改めて僕からも…僕も、君に勝つ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネリエルは結局レクリエーションには参加せず、観客席で観覧しながら休憩している耳郎の隣にずっと座っていた。

 

「ネル、三番目でしょ?そろそろ準備しておきなよ」

「うん、そうだね。じゃあ行ってくる」

「行ってらー」

 

最終トーナメントの一回戦、初戦は緑谷対心操で、ネリエルは三組目だ。すぐに順番は回ってくるであろうことを見越して耳郎にそう言われ、ようやく席を立つ。

スタジアムの中央ではセメントスがコンクリートを操ってステージを成形していた。

 

『サンキューセメントス!ヘイガイズアァユゥレディ!?色々やってきましたが!!結局これだぜガチンコ勝負!!』

 

プレゼント・マイクの実況を聞きながら控室へ向かう。

 

『頼れるのは己のみ!ヒーローでなくてもそんな場面ばっかりだ!わかるよな!!心・技・体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!』

 

(そうだ……私は目立たないと。もし、一護がいるのなら……)

 

気持ちを切り替えるために、ネリエルは深く深呼吸をした。一度目を閉じてもう一度開けば、友人の怪我にまだ少し揺らいでいた瞳は凪ぎ、冷静な光だけが宿る。

 

『一回戦!!成績のわりに何だその顔、ヒーロー科緑谷出久!!(バーサス)!ごめんまだ目立つ活躍なし!普通科心操人使!!』

 

控室で座って集中を高めながらも、実況を聞けばある程度の状況は把握できる。

 

『ルールは簡単!相手を場外に落とすか行動不能にする、あるいは「まいった」とか言わせても勝ちのガチンコだ!!』

 

ネリエルは少しの接触で、心操という男子生徒はそれほど体を鍛えてはおらず、ヒーロー科である緑谷に身体能力という点では全く及んでいないことは見抜いている。

ただの力比べであれば、オールマイト級(・・・・・・・)のパワーを使わなくとも緑谷が勝つだろう。

 

「何かありそうだから、そう簡単にはいかないだろうけど」

『ケガ上等!!こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから!!道徳倫理は一旦捨ておけ!!』

 

あまりにも明け透けな物言いに、ネリエルは苦笑した。

 

「まあ、あの人(井上織姫)には劣るけど、とんでもない“個性”だものね」

『だがまぁもちろん命に関わるよーなのはクソだぜ!!アウト!ヒーローは(ヴィラン)捕まえる(・・・・)ために拳を振るうのだ!』

「…………」

 

軽薄なようでいて、プレゼント・マイクも紛れもなく『ヒーロー』であることが分かる言葉だった。

 

『そんじゃ早速始めよか!!レディィィィィイ____START(スタート)!!』

「……すう……はあ…」

 

ネリエルは再度深呼吸をする。ゆったりとした呼吸を意識しながら体の力を抜いていると、観客席の騒めきも少し聞こえてくる。

 

『オイオイどうした、大事な緒戦だ盛り上げてくれよ!?緑谷、開始早々_____完全停止!?』

「……やっぱり、何かあったか。『催眠』とかかな」

『アホ面でビクともしねえ!!心操の“個性”か!!?全っっっっっっ然目立ってなかったけど彼、ひょっとしてやべえ奴なのか!!!』

 

ネリエルは内心で心操への警戒度を引き上げる。

催眠や精神干渉といった能力がどれほど厄介であるかということ、使い手によっては無敵とも思えるほどの理不尽さを持つことはよく知っている。

 

『だからあの入試は合理的じゃねえって言ったんだ』

『ん?何?』

『二人の簡単なデータだ。個人戦になるからまとめてもらっといた。心操、あいつヒーロー科実技試験で落ちてる。普通科も受けてたのを見ると想定済みだったんだろう。あいつの“個性”は相当に強力なものだが、あの入試内容じゃそりゃポイント稼げねえよ』

 

障害物競走で出てきたロボットを“個性”を使って倒し、ポイントを稼いでいく内容だったというヒーロー科の入試は、確かにそういった物理的な干渉ができない“個性”の生徒にとっては難しいだろう。

 

『ああー!!緑谷!ジュージュン!!なるほどこりゃ強力だぜ!!緑谷はまんまと心操の“個性”にかかっちまったわけだが、果たして解けるモンなのか!?それともこのまま場外になっちまうかあ!!?』

「厄介だなあ…」

 

“個性”となったネリエルの力は、あくまで身体能力の延長だ。精神に作用する“個性”と戦うとなると、ネリエルにとっては厳しいものになる。

純粋なパワータイプと見られる緑谷にしてもそうだろう。このまま二回戦に進むのは心操かと思われた。

 

『____これは…緑谷!!とどまったああ!!?』

「……あら」

 

予想に反して、緑谷は心操の“個性”に何かしらの方法で抗ったようだった。

そのまま緑谷と心操は取っ組み合いになったことが実況から知らされる。そうなればパワーで勝る緑谷が順当に勝つだろう。

 

『二回戦進出!!緑谷出久ーーー!!』

 

そのアナウンスを聞いて、ネリエルは控室の椅子から立ち上がりながらゆるめに結んであるツインテールを整える。普段付けているオレンジ色のリボンは汚したくないため、体育祭の前に外してきていた。

屈伸して膝を伸ばし、脚裏の筋肉を重点的に解していく。午前中は障害物競走と騎馬戦は連続で行ったため温まっていた筋肉が、休憩を経て少し冷えてしまっている。

 

IYAHA(イヤハ)!緒戦にしちゃ地味な戦いだったが!!とりあえず両者の健闘を称えてクラップユアハンズ!!』

 

実況は意識から少し外し、ストレッチと軽い運動に集中する。

関節はよく動かして入念にほぐし、有酸素運動として腿上げを行って体を温める。

 

体は霊体(・・)であり、能力も魂に根差すものだった『前世』とは異なり、“個性”としての力はネリエルの筋力や体の調子と強く紐づいている。そのため体を鍛えながら日々を健康に過ごし、動く前に準備運動をすることは『今』のネリエルにとっては当たり前となっていた。

 

『お待たせしました!!続きましては〜こいつらだ!』

 

体を動かしている間にプログラムは進行し、一回戦の二組目へと突入した。

 

『優秀!!優秀なのに拭いきれぬその地味さは何だ!ヒーロー科、瀬呂範太!!(バーサス)、2位・1位と強すぎるよ君!同じくヒーロー科、轟焦凍!!START(スタート)!!』

 

早速二回戦が始まったため、準備運動に区切りをつけ、いつでも控室から出られるように準備をしておく。

 

『場外狙いの早技(ふいうち)!!この選択はコレ最善じゃねえか!?正直やっちまえ瀬呂_____!!!』

「轟くん相手なら不意打ちか……それもありね」

 

ネリエルがそう頷いた時、スタジアム全体の気温が数度下がったような感覚があり、控室のドアの隙間から冷気が流れ込んできた。

USJで覚えがある、轟が『氷』を使った大技を放った気配だ。

 

『瀬呂くん、行動不能!!』

『お………オイオイオイ、一瞬かよ!!轟、大質量の氷攻撃で瀬呂の攻撃も反撃も完封しちまった!!コイツぁシヴィー!!不憫な男、瀬呂には会場からのドンマイコールをプレゼントだ!!』

『だいぶ雑だが…まァ強力には違いないな』

 

轟と瀬呂の戦いは、時間にして三十秒にも満たないほどだった。ネリエルは椅子から立ち上がり、控室の扉を開ける。

外気温は明らかに一、二度程度は下がっていた。体を冷やさないよう軽いストレッチを続けながら、出番に備えるべく通路に出る。

 

『氷は溶かしてくれちゃいるが、こりゃびしょ濡れになるな!一時ステージの補修に入るぜ!三組目の参加者はちょっと待っててくれ!!』

 

実況を聞いてネリエルは通路の壁に手をつき、脚の筋肉を伸ばし始める。

 

しばらくして控室が並ぶ廊下に続く階段を登ってきた轟と、ネリエルの視線がかち合った。

 

「轟くん、二回戦進出おめでとう。なんだか元気が無いけれど、大丈夫?」

「………問題ねえよ」

「そう…」

 

顔色もどこか悪いように見えたので声をかけたのだが、轟はひどく荒んだ表情でネリエルを睨め上げている。

 

「……USJで、おまえは…なんであの時、あんなに動けた?」

 

轟が唐突にぶつけてきた疑問に、ネリエルは小首を傾げた。

 

「…あの『脳無』とかいう怪人とのこと?」

「ああ。……おまえは、爆豪が反応できなかったあの『脳無』の拳を二度も避けただろ。その後も…オールマイトと『脳無』が戦ってる中で、相澤先生の救助のためにずっと動いてた。それに“個性”もだ、使い方があまりにも手慣れてる。どこかで訓練でもしてたのか?」

 

ずっと疑問に思っていたのか、轟は矢継ぎ早に話す。その言葉と態度からは、轟が何かに焦っていることが感じられた。

 

「あの拳を避けられたのは…そうね、少し『ズル』をしてるからかも」

「『ズル』……?何か、特殊な訓練方法でもあるのか」

「ううん。梅雨ちゃんとも話したことがあるんだけど、私達のような“個性”は()がけっこう鋭いの」

「……動物系“個性”の特徴か。後天的に身につけられるものじゃねえな」

「そうかもね。あと“個性”については、昔から訓練をしてたからかな」

 

実際にはネリエルの冷静な思考や動きは戦闘経験の厚さから齎されるものであり、『破面(アランカル)』としての記憶から由来している。

しかし鋭い五感から得られる情報は常人よりも多く、野生的な第六感のようなものが働くのも確かであるため、ネリエルはそんな『ズル』の部分にはそれ以上触れずに、悔しそうな轟に対して曖昧に微笑むに留めた。

 

「あの時、あの場のほとんどの奴が、オールマイトに気圧されてた。(ヴィラン)の親玉でさえだ」

「…ええ」

「でも、おまえだけは…普段通りみたいな態度だった。そんな風にいられるようになる秘訣でもあんのかと思ったが……」

「梅雨ちゃんだってすごく冷静だったよ。あと…」

「……?」

 

ネリエルは少し言葉を切り、轟にそっと笑いかけた。轟が眉を寄せて訝しげな顔をする。

 

「轟くん、すごく周りを見てるね。クラスメイトの性格も、“個性”も、動きも」

「………は?」

「とってもいいことだと思う。騎馬戦でも効果的な騎馬を組めてたし……あっごめん、轟くんが周りを見てないように見える、みたいな言い方しちゃった」

「……いや…別に……」

 

轟はふいっと顔を逸らす。

その時プレゼント・マイクの『次の組、上がってきな!』というアナウンスが聞こえてきたことで、ネリエルは綻ばせていた表情を引き締めた。

 

「行かなきゃ。じゃあまたね」

「……ああ」

 

小さく手を振って轟に背を向け、ネリエルは入場口のほうへと歩き出した。

 

『セメントスよりステージの補修と乾燥完了とのこと!さァ行くぜ!!』

「_____よし…」

 

息を整えてから“個性”を発動し、四足となった状態でスモークが焚かれているステージ目掛けて早足で歩くと、わああっと観客席が盛り上がった。

ステージに上がって一定の距離を置いて向かい合うと、上鳴がにやりと笑いながら腕をぐるぐると回している。

 

『さァ次の対決もA組同士だ!!勇猛なる『カモシカ』の騎士(ナイト)!!ヒーロー科、ネリエル・トゥ!!(バーサス)!スパーキングキリングボーイ!上鳴電気!!』

 

壁一枚向こうで聞いているように、歓声はすでに意識から遠ざかっている。低く身を屈めたネリエルに対し、上鳴は手先を前に向けて構えていた。

 

「ネリエル!体育祭(コレ)終わったらお茶とかどうよ?」

「_____ん…」

START(スタート)!!!』

 

上鳴が何か言っていたものの、ネリエルはプレゼント・マイクの号令を聞いて反射的に飛び出す。

 

「っうわいきなり!!?っぐ!!」

 

ネリエルが十分に力を溜めてから踏み込めば、スタート位置の距離感はたった一歩で縮められる。

しかし同じA組としてネリエルの動きは上鳴に知られており、初撃の体当たりは上鳴の体の芯からは外れた。

 

『ネリエル、いきなり体当たりをかます___!!かなりの勢いだったが、上鳴なんとか場外は回避!!』

「っぱ強え…!最初からいくしかねえな!!」

「___っ!!」

 

上鳴は体勢を崩しながらも、バリバリバリッ、と強力な電撃を体から迸らせた。ネリエルは咄嗟に飛び退いたが、腕が電流を掠めてばちんと弾かれる。

 

「もう、いっちょお!!!」

「っあ゛、ぐっ!!」

 

先ほどよりも強い電撃が放たれ、ネリエルの体を強かに打つ。電流によって筋肉が痙攣させられ、否応なく体が硬直した。

だが、ネリエルは四足を強く踏み締め、地面に倒れることは回避する。

 

「っ、く…!!」

「……は!?これで倒れねぇのかよ!!?」

 

その時、ネリエルの右手は無意識に投擲するもの(・・・・・・)を求めて一瞬彷徨ったが、それを振り払うようにして強く一歩を踏み込む。

上鳴が驚愕に目を見開いたところを目掛け、投げ飛ばすために腕を掴むべく手を伸ばす。

 

「隙だらけよ!!」

「あ…っくそ!!」

「ぐ、ぅ……っ!」

『上鳴、腕を掴まれたが電流で反撃!!遠距離ない分ネリエルが不利かあ!!?』

 

しかし上鳴は全身が武器も同然であり、掴んだ手から強力な電流が流れ込んでくる。どうしても動きが止まってしまったところで上鳴はネリエルから走って距離を取り、そこから再び電撃を走らせた。

 

「っ、ふっ!」

「やっぱ脚早すぎんよ…!もう、一発!!」

 

ネリエルは一度は避けたものの、次は全方位に向けてドォンッ!と放たれた特大の雷撃からは逃れられなかった。

 

「う゛、ぁっ!!」

『おおっと、たまらず転倒!障害物競走の地雷でも、騎馬戦で地面を割っても揺らがなかったネリエルだが、流石に電気系相手は動物系として分が悪いかあ!!?』

『いや、今何か…』

『しかしすぐに起き上がったぁ!上鳴、その隙を突いて放電するもかわされる!』

 

四足の巨体が地面を横倒しに滑ったことで、大きく土埃が舞う。ネリエルはすぐさま跳ね起きながら、その中を無差別に走っていく電撃をできる限り回避した。

 

「もーそろ倒れてくれてもよくない!!?」

「まだ、まだっ!」

 

電撃を食らっても倒れないよう、強く地面を踏みつけながら走る。土煙が舞い上がったが、その間から覗くネリエルのこめかみからはたらりと血が流れてきていた。

 

「ちょ…っ、ネリエル、頭から血ィ出てんぞ!?大丈夫か!?」

「あら、敵を心配するの?」

「敵て!?いや、頭の怪我はそりゃするよ!!」

 

上鳴は断続的に電撃を放ちながらも、ネリエルの怪我に気づいて焦った顔になる。しかしネリエルはあくまで冷静で、言葉を返しながらも反撃の隙を狙って低く構えている。

プレゼント・マイクもネリエルの様子がモニターに抜かれたことで怪我に気づいたらしい。

 

『オイオイ!土煙でよく見えねえが、ネリエル、頭部から出血してねぇか!?これ止めたほうが…っとぉ、また走り出したぁ!』

『あいつ…』

 

ステージの脇にいるセメントスが動いた気配がしたが、ネリエルは構わず走り出す。

 

「悪いけど、容赦はしないわ」

「なんか性格変わってねえ!!?ッッあっぶね!!」

 

ネリエルの手が触れそうになる度に、上鳴は放電して距離を取る。

 

「…づ…ッ!!」

「タフすぎんだろ…!っこの…!!」

『また直撃!だがネリエル、倒れない!!つーか頭の怪我はホントに大丈夫か!?』

 

『槍』のサポートアイテムは手元になく、手脚が伸ばせる範囲でしか攻撃を繰り出せない。

近接に持ち込んでも、電撃をくらって動きが止まる。同時に放たれる光で目が眩むのも厄介だった。

 

『やっぱこの距離感は上鳴有利!!ネリエルが倒れちまうか、それとも追いつけるのか!?』

「女の子にあんま強いの食らわせんの悪いかと思ってたけど…!一気に決めるしかねえか!!」

「手加減なんてしていたの?」

「俺にだって許容量(キャパ)ってもんがあんの!ってもしかしてそれ狙い!?」

「さあ、どうかしら」

 

ネリエルは土埃とコンクリートの欠片を巻き上げながら、リングの周囲を駆け出す。

 

「もうちょいなら、ウィける…っ!」

 

上鳴はネリエルの姿を目で追いつつ、体に力を込めている。パリパリと微かに走る電流が髪を靡かせた。

 

『さァさァ盛り上がってきた!!勝つのはネリエルか、それとも上鳴か!!』

「どっちも頑張れー!!!」

「いいぞ電流ボーイ!!」

「ネリエルー!!カッコいいぞー!!!」

 

プレゼント・マイクの煽りで観客達がより一層盛り上がる。

 

「これで……!」

「!」

 

上鳴が全身に電流を纏わせたまま、ダッ、とネリエルに向かって駆け出す。

ネリエルは後ろ脚で立ち上がって前脚を振り上げ、上鳴が向かってくる直線上を踏みつけてステージにヒビを入れた。

 

「どぉわぁっぶね!!っでも…っ!!」

 

足元のコンクリートが砕けた余波で体勢を崩しながら、雷撃を確実に当てようと上鳴が距離を縮めてくる。

それをトン、と地面を蹴って横に体を逸らし、ネリエルは手の中の物を頭上へと投げ上げた(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 







轟&緑谷の会話入れてみました!書いてたらなんかネリエルと轟の会話も生えてきました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。