ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語   作:猫禰捏涅

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21.最終トーナメント:一回戦②

「これ、で………!?」

 

投擲したもの(・・・・・・)は緩く放物線を描いて飛び、ほぼ上鳴の頭の真上で頂点に到達する。

 

『なんだ!?ネリエルが何かを投げたぞ!!?』

 

上鳴は直前で投げられたものに気づいたが、攻撃の中止は間に合わなかった。

今までで最も強力な電流が上鳴の全身から放たれる_____がしかし、その全てが鋭く尖った先端のそれ(・・・・・・・・・・)に集約する。

 

『……角、だな』

『つ、角ぉおお!!?』

 

いち早く気づいたイレイザーヘッドの言葉と、素早くカメラにズームアップされたことで、投げられたものが確かに『角』であることが判明する。

よく見ればネリエルの両側頭部から後ろに向かって伸びる長い角が、右側だけ失われていた。

 

「うぇ…!?」

 

避雷針のように鋭く尖った先端の物体を投げることで、雷撃はほぼ全てそちらへと逸らされ、上鳴の渾身の攻撃は結果としてネリエルにはほとんど届かなかった。

ぽとりと上鳴の背後に落ちた『角』はところどころが焦げており威力の凄まじさを感じさせるが、当たっていなくては意味がない。

 

「…ウェ……ウェイ……!!?」

「はい、お終い」

 

耳郎曰くの『アホ面』になって呆けてしまった上鳴に向かって突進し、軽めの体当たりを当てる。

上鳴が押し出されて足が場外に出たところで、ミッドナイトが「上鳴くん、場外!勝者、ネリエルさん!」と宣言した。

 

『こ……こいつァCOOOOOL(クーーール)!!折れた角を『放電』のデコイにしたってことか!!技ありの一本だな!!!』

 

ネリエルの勝利は観客達には少し遅れて認識され、健闘を讃える歓声と共にそのテクニカルさに驚く声も広がっていく。

 

『折れたというより、わざと折ったな。派手に転んだ時だ…体勢が少し不自然だった。その後大きく土煙を上げて走り回っていたのも、角が片方ないことから目を逸らさせるためだろう』

 

相澤による解説で、より大きく観客席がどよめく。

特にざわついたのは一般の観客ではなく、将来の相棒(サイドキック)のスカウトのため、視察にやって来ているプロヒーロー達だ。

 

『マジかよっ!!ますますもってCOOL(クール)!!クレバーすぎる騎士(ナイト)、ネリエル!二回戦進出だぜ!!』

 

“個性”を解いて人型に戻ったネリエルのもとに、ミッドナイトが審判の台から降りて駆け寄ってきた。

 

「ネリエルさん!頭はふらついたりしない?」

「ウェイ…?」

 

上鳴は未だ呆けた顔のままだが、悔しがるより先にネリエルのことを心配そうに見上げていた。

ネリエルは血が滲むこめかみにそっと手を当てる。

 

「大丈夫です。頭を打ったわけじゃなくて、角を折った時に皮膚が少し裂けただけだから」

「それでも頭の傷は軽く見るものじゃないわ。救護所に行ってきっちり診てもらってきなさい」

「ウェイ…ウェイウェイ…ウェイ!」

「ええそうね、上鳴くんは付き添ってあげて」

「本当に大丈夫なのに。角はまた生えるし…」

「ウェイ!!」

 

アホっぽくなった顔を少しだけキリッとさせて、立ち上がった上鳴がネリエルの背をぐいぐいと押し始めた。ネリエルは「はぁい」と返事をして、促されるままにスタジアムの退場口に向かう。

 

「ネリエルー!!カッコよかったぞー!!」

「ファンになりましたー!!!応援しまーす!!!」

「電流くんもよかったよー!!」

「可愛すぎる好きだー!!!」

「怪我は大丈夫かー!!?」

 

退場口付近で観客席が近くなると、声援がはっきりと聞こえてきた。

 

「怪我は平気です!応援ありがとう!」

「ウェーイ!!」

 

ネリエルと上鳴がそう返すと、わっと近くの観客達が大きく盛り上がる。それに手を振り返して、ネリエルはまた上鳴に背中を押されながら退場した。

 

「ウェイ〜…」

「上鳴くん、もしかして気にしてる?角は本当にすぐ生えてくるし、このぐらいの怪我は何ともないよ」

「…ウェイ…そういうことじゃなウェイ……」

 

ネリエルが励ますも、徐々に言葉を取り戻してきた上鳴は悲しそうに眉を下げてしまった。救護所の扉をノックするとすぐにリカバリーガールに迎え入れられる。

 

「また頭の怪我かい。ふらついたり、頭痛はあるかね?」

「ないです。角をちょっと無理に折ったから、皮膚が裂けたみたいで」

「そうなるんなら無理に折るもんじゃないよ、まったく。チユ〜〜〜!」

 

手早く『治癒』が施され、消毒液を染み込ませたコットンで固まってきていた血が拭われる。こめかみを軽く押して痛みが無いことを確認し、ついでに上鳴も「チユ〜!」と軽い『治癒』でかすり傷などを治療されて、ようやく普段の顔に戻った。

 

「あざます…ネリエル、マジに大丈夫?」

「大丈夫。ほら、ちょっぴり生えてきてるぐらいだよ」

「おお!?え、角ってそんなすぐ生えるもんだっけ?」

「そこはほら、“個性”の一部だから…かな?私もよく分かってないんだけど」

 

普段“個性”を使っていない状態では耳の上から後ろに少し伸びている程度の長さだが、四足になるとその数倍の長さに伸びる。その状態で根本から折れてもまた生えてくるのは以前に確認済みだったため、折って投擲するという選択肢を素早く選べたのだ。

破面(アランカル)は、帰刃(レスレクシオン)状態で失ったものは二度と戻らないという性質を持っていたので、これは能力が“個性”となったことで得られた明確なメリットの一つである。

 

「ほら、ペッツをお食べ。特にあんたはまだ試合をやるんだろう。ちゃんと体を休めておくんだよ」

「はい、ありがとうございます」

「あざます!」

 

もらったペッツを揃ってもぐもぐと咀嚼しつつ保健室を出て、観客席へと向かう。

先に口の中のものを飲み込んだ上鳴が、「そーいやさ」とネリエルを振り向いた。

 

「言うタイミング逃してた。二回戦頑張ってな、ネリエル」

「うん、ありがとう。ここからも勝ち抜くよ」

「おう。まー、悔しくねえって言ったら嘘になるけどよ…なんか嬉しーんだ!」

「ん?」

 

ネリエルが首を傾げると、上鳴はにかりと笑った。

 

「ネリエルが真正面から戦いにきてくれたからな!」

「それは…当たり前のことでしょう」

「でもねえよ。電気系って、わりとどんな形でも『強“個性”』でさ。小さい頃は人を巻き込まないようにする訓練ばっかさせられてたし、ヒーローごっこならいつもトップヒーローの役だった。当たりゃ勝ち、ぐらいに思ってた時もあったよ」

「そうね、すごく強い」

 

明確な事実への肯定として頷いたネリエルに、上鳴は照れ臭そうに頭を掻く。

 

「いやまあ…それをさ、ネリエルはちゃんと考えて攻略したじゃん。怪我はしちまったけど…すげーよ、あの作戦。尖ったものに電流は流れやすいって知識は誰にでもあっても、それをすぐ戦闘に応用できるってのがさ」

「私の“個性”の都合上、電気系にはどうしても弱くなるから。サポートアイテムなしで上鳴くんにどう勝つかを、試合の前からずっと考えてたの」

「へへっ!じゃー俺も、今度は負けねえように頑張らねえとな!」

 

上鳴の突き出された拳に、ネリエルもこつんと拳を当てる。お互い明るく笑ったところで、生徒達に割り当てられた観戦席に辿り着いた。

 

「おかえりー!」

「二人ともめっちゃ良かったぞ!」

「アツい試合だったぜ…!!!」

「ケロ、とてもハラハラしたわ」

「上鳴くん、やっぱ強いねー!」

「角折るとかビビったよ。怪我は大丈夫なの?」

 

クラスメイト達が賑やかに二人を迎え入れる。

 

「やー負けちまった!でもいい試合してたくね!?」

「角はもう生えてきてるし、怪我もちゃんと治してもらったよ!」

 

心配そうな耳郎にネリエルがそう答えると、ほっとした顔になった。

 

『割れたステージの補修も完了!さァーーーどんどん行くぞ、頂点目指して突っ走れ!!』

「あ、次飯田の組だ。ウチもそろそろ行かなきゃ。マジでおめでと、ネル」

「ありがとう!次の次だよね。頑張ってね、響香ちゃん!」

「ん!」

「っしゃ行ってこい切島ー!」

「おうよ!!」

 

飯田対サポート科の生徒の試合が始まろうとしている中、ネリエル達と入れ替わるように耳郎と切島が控室に向かう。

ネリエルは耳郎に激励を送ってから、蛙吹と葉隠が並んで座っている列に行って蛙吹の隣に座った。

 

「お疲れ様、ネリエルちゃん」

「ネルちゃんすごかったよー!大迫力!!」

「ふふ、ありがとう!」

『ザ・中堅って感じ!?ヒーロー科飯田天哉!(バーサス)!サポートアイテムでフル装備!!サポート科発目明!!』

 

騎馬戦で緑谷チームの騎馬となり、サポートアイテムを活用していた女子生徒の名前が呼ばれる。

 

「サポート科がここまで上がってきたの見たことあるか?」

「二、三年生のステージ見てたら何回かはあったぜ、確か。でも一年は記憶にねえなあー」

「自分で作ったサポートアイテムのみ持ち込み可能だから、あれらも全部自作なのよね、すごいと思うわ」

「てかなんで飯田もサポートアイテム着けてんだ?」

 

飯田は発目と同じように背中や足にサポートアイテムを装備しており、ちょうどミッドナイトにそれを指摘されていた。

 

「ヒーロー科の人間は原則そういうの禁止よ?ないと支障をきたす場合は事前に申請を」

「は!!忘れておりました!!青山くんもベルトを装着していたので良いものと…!」

「彼は申請しています!」

「申し訳ありません!だがしかし!彼女のスポーツマンシップに心打たれたのです!!彼女はサポート科でありながら、『ここまできた以上対等だと思うし対等に戦いたい』と、俺にサポートアイテムを渡してきたのです!この気概を俺は!!無下に扱ってはならぬと思ったのです!」

「青くっさ!!!」

『いいんかい…』

『まァ双方合意の上なら許容範囲内…でいいのか…?』

 

飯田の熱の入った演説に、ミッドナイトは非常に楽しそうに笑っている。結局そのままどちらもサポートアイテムありで進めることになり、二人は位置についた。

 

「こういうパターンあんのね」

「いやレアすぎるだろ」

START(スタート)!!』

 

号令と共に、飯田が『エンジン』で一気に駆け出す。それを迎え撃つ発目はどこか自信ありげで余裕そうだ。

 

『素晴らしい加速じゃないですか飯田くん!!』

『は?』

「マイク?」

 

今までもステージ上の声は拾われ中継されていたが、発目は何故か自らに身につけたマイクとスピーカーでより声を拡大させている。

 

『普段よりも足が軽く上がりませんか!?それもそのハズ!!そのレッグパーツが着用者の動きをフォローしているのです!』

「えっ……?」

「これ、まさか……」

『そして私は「油圧式アタッチメントバー」で回避もラクラク!』

 

ネリエルは同じように困惑した表情になっているクラスメイト達と顔を見合わせた。

ステージ上の発目は装備から体を支えるバーを飛び出させ、飯田の突進を回避しながら進路の妨害をしている。

 

「どういうつもりだ…!」

『飯田くんあざやかな方向転換!!私の「オートバランサー」あってこその動きです!』

 

飯田のターンと同時にサポートアイテムが作動すると、素早く発目の解説が差し込まれる。

ざわっ、と観客席全体が騒めいた。

 

「プレゼンだ、これ…!!」

「一人だけコンペやり出してんじゃねえか!!」

「テレビショッピングか??」

『何コレ…』

『売り込み根性たくましいな…』

 

実況解説からも呆れた声が上がったが、ミッドナイトは試合を止めようとはせず見守り続けている。

内容はともかく、一応試合の体は崩れていないためだろう。

 

「飯田くんのことを見てないね…」

「ケロ…これも体育祭っていう、注目度が高い行事の活用方法ではあるんでしょうけど……」

「飯田くんが可哀想になってくるよ〜……」

 

ネリエル、蛙吹、葉隠は何とも言えない表情で、飯田と発目の戦いとも言えない戦いを観覧する。

 

結局、発目は約10分もの間、彼女が作ったサポートアイテムをステージ上でプレゼンし続けた。

 

「ふーーー…、全て余すことなく見て頂けました。もう思い残すことはありません!!」

「騙したなあああ!!!」

「発目さん場外!!飯田くん二回戦進出!!」

 

発目が満足そうな表情で自ら場外に足を踏み出す後ろで、飯田が叫ぶ。

 

「すみません。あなた利用させてもらいました」

「嫌いだぁああ君ーーー!!」

「きっと飯田くん真面目すぎたから、耳ざわりの良い事言って乗せたんだ…あけすけなだけじゃない、目的の為なら手段選ばない人だ…」

 

二列前に座っている緑谷が発目をそう分析する。ネリエルはそれを聞いて小さく頷いた。

 

「うーん……まあ、そういう人なのね。サポート科としては合ってる戦略か」

「私は、ガチンコ勝負ならちゃんと戦ってほしいなあって思っちゃったよー」

「一応試合にはなっていたけれど、発目さんはずっと逃げていただけだったものね。最初からそのつもりだったみたいだし」

 

降り注ぐ称賛の拍手もまばらだ。

発目は特にそのことは何とも思っていないらしくスタスタと退場してしまい、飯田も悔しそうな表情でステージから下りる。それでもサポートアイテムを外す時には丁寧に取り扱っているあたりが、飯田の真面目さと育ちの良さを感じさせた。

 

『ま、まァなんとなく締まらねェがそれはそれ!次の組行くぜ!!』

「あ!次、三奈ちゃんだよ!」

「ええ、切り替えて応援しましょ」

「あしみなガンバレーー!!!」

 

ステージには芦戸と、クラスメイト達から推薦されて繰り上がってきたB組の女子生徒が上がり、向かい合った。

 

『ヒーロー科A組!強酸系ファンキーガール!芦戸三奈!(バーサス)!B組からの刺客!!キレイなアレにはトゲがある!?塩崎茨!』

「最初の障害物競走で5位だった人だね」

「それは…B組の人達から選ばれる訳ね。強そうだわ」

 

障害物競走ではネリエルの少し後にゴールしており、最後の地雷原で何本ものツル状の髪で体重を分散させることで、地雷の信管を作動させないという発想で攻略していたのが特に印象的だった。

 

「申し立て失礼いたします。刺客とはどういうことでしょう、私はただ勝利を目指しここまで来ただけであり、それは私の背中を押してくださったクラスメイトの方々を…」

『ごっごめん!!』

「真面目だあ」

 

最終トーナメントは15人いるA組に対してB組からは一人という構図を揶揄する実況だったのだろうが、真剣に抗議する塩崎にプレゼント・マイクは慌てている。

 

「いーね、塩崎さん!正々堂々やろーよ!」

「はい。それは、もちろん」

 

ニッと笑った芦戸に、塩崎は神妙な表情で頷く。

 

『すっ、START(スタート)!!』

「先手必勝ー!!」

「防がせて頂きます」

 

芦戸は身体能力が高く、足も速い。素早く駆け出し、突き出した腕から『酸』を噴出する。

しかしシュルシュルと伸ばされた塩崎の『ツル』が束となり、盾状になることでは全て防がれてしまった。

 

「あれがあの子の“個性”かー!髪の毛がツタなんだね!」

「伸びる量に限度はないのかな。だとしたらすごく強いけど…!」

 

(ロカちゃんの能力にちょっと似てる…?植物ってとこはルドボーンにも…)

 

無数の反膜(ネガシオン)の糸を伸ばすことができる能力を持っていたロカ・パラミアと、根を張って枝を伸ばすという植物に似た能力を持っていたルドボーン・チェルートのことを思い出しながら、ネリエルは葉隠と共に声を張り上げる。

 

「三奈ちゃーん!!がんばれー!!」

「いけるよー!!ぜーんぶ溶かしちゃえー!!」

 

ステージでは芦戸が走り回りながら『酸』を放出し、塩崎が『ツル』でそれを防ぐという攻防が続いている。

 

『塩崎『ツル』をどんどん伸ばすが、片っ端から芦戸に枯らされてる!!こりゃ“個性”の相性がなかなかだな!!』

『『酸』はそりゃ植物系には強いだろうな』

 

『ツル』は普通の植物と同じような性質らしく、『酸』をかけられた場所は茶色く変色して力を失っていく。

 

「全部枯らしちゃうよー!!」

「その前に、物量で攻め立てればよいだけのこと…」

「じゃあこっちはもっと濃度と量を上げるっ!」

 

言葉と共に塩崎の『ツル』がさらに長く、多く伸びていく。芦戸もそれに対応して『酸』の放出量を増やす。

 

「塩崎、頑張れー!!」

「A組なんてやってしまえ、塩崎ー!!」

「押し込めー!!」

「捕まえろ!!そこだ!!」

 

少し離れてB組の生徒達が固まって座っているところから、大きな声援が聞こえてくる。

 

「やれるぞ芦戸ー!!」

「がんばれー!投げ飛ばせー!」

「溶かしちまえー!!」

 

負けじとA組の男子達も大声を上げて芦戸を応援する。

それに応えるように芦戸は高く飛び跳ね、くるりと宙返りをしながら塩崎の横をすり抜けた。

 

『おっと芦戸これはいい動きだ!!塩崎の防御網を抜いていく!!』

「おりゃあ!!」

「は…!」

 

展開されていた『ツル』の盾をかわし、横から『酸』がぶち撒けられる。

塩崎は反応するも、伸ばされた『ツル』は数本で、その隙間を抜けた『酸』が塩崎の腕や体にかかる。

 

「く…っ!」

「よっ、と!!」

 

着地した芦戸が一気に駆け出す。『酸』を周囲に撒いて『ツル』を枯らしながら、塩崎に肉薄する。

 

『塩崎の得意は中遠距離!!近づかれればなす術なしかー!!』

「甘い…です!」

 

だが、枯らされるよりも早く、多くの『ツル』が芦戸に向かって殺到する。

これまでほぼ同じ位置に立ったまま防御も攻撃も行っていた塩崎だが、バックステップで『酸』の礫を避けながら、足元に這わせていた『ツル』を全て芦戸の迎撃に動員した。

 

「この!!まだまだぁっ!!」

「もう少し…!」

 

塩崎に対し、芦戸は“個性”の相性は有利であるものの、接近する必要がある。近づけば近づくほど密度を増す『ツル』の層に、芦戸が顔を歪めた。

 

「三奈ちゃん…!!」

「頑張って!あと少し!」

「もうちょいー!!」

 

視界の外から地面を這っていた『ツル』が、塩崎まであと三歩ほどのところまで近づいた芦戸の足首に巻きつく。

 

『あーっと!!ここまでうまくかわしていた芦戸、捕まってしまった!!』

「こんなん、溶かせば!!」

 

芦戸はジャージの裾が溶けていくのにも構わず脚からも『酸』を分泌している。

 

「ああ…っ!」

「『ツル』が多すぎるよー!」

 

しかし『酸』が『ツル』を枯らすスピードが徐々に追いつかなくなっていき、芦戸の体に巻きつく本数が増えていく。

 

「っ、これで……っ!!」

「わ、あぁあっ!?」

『塩崎、渾身の力で芦戸を投げたー!!このまま場外になるかー!?』

 

何本もの『ツル』を溶かされながら、塩崎は髪全てを費やし芦戸の体を巻き取った。

涼しい顔をしていることが多かった塩崎は、歯を食い縛りながら上半身を捻り、髪を振り回して芦戸を投げる。

 

「ああー!!!」

「『ツル』を解いて!」

 

葉隠が悲鳴を上げ、ネリエルは咄嗟に叫ぶ。芦戸も『酸』を大量に出して拘束を溶かそうとしているものの、何本も束ねて固めることで拳のようになった『ツル』が芦戸を追撃した。

 

『塩崎の追撃ー!!『ツル』の拳が芦戸を捉えたー!!』

「芦戸さん、場外!!勝者、塩崎さん!!」

 

芦戸がステージの外へと転がり落ちた。ミッドナイトが勝者を宣言すると、観客席だけでなく、B組の生徒達がいる一角から一際大きな歓喜の声が上がる。

A組の面々は、対照的に深いため息を漏らした。

 

「ああ〜……!」

「くそ、あとちょっとだったなー!」

「惜しい!!」

「三奈ちゃん!!すごかったよー!!」

「とてもよかったわ、三奈ちゃん!」

「あしみな頑張ったよー!!」

 

尻餅をついている芦戸のもとへ塩崎が駆け寄っていく。

 

「大丈夫ですか?」

「いてて…あ、ありがと。へーきだよ!」

 

塩崎は躊躇なく芦戸に手を差し伸べた。芦戸はジャージで軽く手を拭ってからそれを握って立ち上がる。

 

「とてもお強かったです。“個性”はもちろん、体の使い方が特に。見習わせていただきます」

「そっちこそ強かったよ!あたしももっと物量出せるようにならなきゃね!」

 

二人はそのまま固く握手をし、互いを褒め称えている。それぞれの“個性”を存分に活かし、どちらも全力を出し切ったいい試合だった。

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