ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語 作:猫禰捏涅
『ネリエル
拍手と歓声に見送られ、芦戸は元気よく、塩崎は控えめに手を振りながら退場していく。
「なんだ、B組ヤな奴ばっかじゃねえじゃん!」
「そらヒーロー科だもんよ。にしても強えな、あの“個性”!」
「ケロ、物量がすごかったわ」
「カワイイ顔してエゲツねえぜ…!!」
「シンリンカムイに似てる“個性”だね…!あの『ツル』が伸びる限界はどのぐらいなんだろう!?」
ステージ上には芦戸の撒き散らした『酸』と、溶かされ千切れた塩崎の『ツル』が散らばっている。
各々が感想を述べる中、セメントスがそれらの上にそのままコンクリートを流していき、ステージの表面が綺麗に整えられた。
『さ〜ステージの準備完了!六組目行くぜ!!今度はA組対決だ!!』
「お、もう始まる!常闇と八百万だ!」
「モモちゃーん!常闇くーん!頑張ってー!!」
「ヤオモモファイトー!!常闇くんもファイトー!!」
「どっちも頑張れよー!!」
ネリエルもクラスメイト達と共に声を上げる。
『盾でも矛でもなんでもござれ!八百万百!!
八百万は集中している様子で袖を捲り上げ、鉄板や盾を腕から生み出していく。常闇は腰を落として構え、『
『
「悪く思うな…!!」
『オラァー!!』
合図と同時に『
『『
「くっ、盾を!!」
『遅イ遅イ!!』
『
「そのまま喰らいつけ!!」
『アイヨォ!!』
八百万は武器となるものを作り出そうとしていたようだったが、それよりも早く胴体に『
「あ…っ!」
「このまま…!!」
『押スゼェエ!』
『
「っ…きゃあっ!!」
勝負の決着は一瞬だった。
八百万はしばらく踏ん張ったものの結局押し負け、ラインの外へと転がされてしまった。
「八百万さん、場外!勝者、常闇くん!!」
『早期決着ー!!八百万、『
『速攻選んだ常闇が合理的だったな。八百万に準備させたらどんどん不利になる』
「あー!!ヤオモモー…」
「早かったなあ…」
「こりゃ相性が悪かったか」
腕を振り上げて八百万を応援していた葉隠が肩を落とす。しかし、すぐに背筋がピンと伸びた。
「あ、でもでも常闇くんが進出なんだもんね!おめでとうだ!」
「ケロッ、そうね」
「モモちゃん、ナイスファイトー!」
八百万は転がったまま暗い顔で俯いている。常闇がそこに手を差し伸べ、助け起こした。
「悪いが速攻で決めさせてもらった。それだけ八百万のことを強き者だと思っているのでな」
『ゴメンネ』
「…いえ、真剣勝負ですもの。ありがとうございました。常闇さん、次も頑張ってくださいませ」
常闇と『
『素早い決着だったが、二人ともナイスファイトだ!!ちょっとばかし巻きでいくぜ〜、七組目!!』
退場する八百万と常闇と入れ替わりに、耳郎と切島がステージへと上がった。
「響香ちゃーん!いけるよーっ!!」
「がんばれー!!」
「やったれ切島ー!!」
「どっちも負けんなー!!」
「いやどっちかは負けることになるだろ!」
A組の面々が盛り上がる中、緑谷が時折何やら書き込んでいたノートを抱えながら、「ちょっと…」と言って観客席から出ていった。
それとすれ違いに芦戸が戻ってきて、早足で抜けていく緑谷を見送る。
「あっ、おかえり三奈ちゃん!すごくよかったよ!」
「ありがと!てか緑谷どしたん?」
「ナイファイ、芦戸!緑谷はトイレじゃね?」
「めっちゃいい戦いだったぜ、芦戸!」
「いえーい!」
芦戸はにこにこと笑いながら、上鳴や瀬呂とハイタッチを交わしてネリエル達のほうに歩いてくる。
「三奈ちゃんないふぁーい!」
「どちらが勝ってもおかしくないぐらいだったわ」
「ありがとねー!」
芦戸はネリエルの隣に座り、葉隠と蛙吹の称賛に明るく笑った。
「お、もう始まんね。急いで帰ってきてよかった!」
「うん!どっちもA組なんだけど、私は響香ちゃんを応援したくなっちゃう」
「そりゃ騎馬戦も一緒だったんだし、いいっしょ!あたしも耳郎応援するー!」
「私もー!」
耳郎を応援するA組の女子生徒陣に対し、男子生徒達は切島に声援を送っている。観客からの声も女性は耳郎に、男性は切島に向けられているのが多い印象だ。
『キラーチューンを刻むビートメイカー!耳郎響香!!』
「うわ、これけっこう恥ずいな…」
『
「よっしゃやるぜー!!」
ガチン、と切島が『硬化』した両拳を打ち合わせる。耳郎は実況による煽りに恥ずかしそうにしながら、リラックスした体勢でしゅるりと『イヤホンジャック』を伸ばしていた。
『
「さー来いよ耳郎!!俺ァぜってえ倒れねえぞ!!」
「そんじゃ、遠慮なく」
これまでは合図と同時にどちらかが走り出す組がほとんどだったが、この二人はスピードを武器にしているタイプではない。
切島はどっしりと腰を落として構え、耳郎もその場から動かず『イヤホンジャック』を伸ばすだけという静かな立ち上がりになった。
「まずは…!」
「! 足元か!」
カッ、と『イヤホンジャック』が地面に突き立ち、流し込まれた爆音で地面が大きくひび割れた。
『騎馬戦でも見せた地面割りで、切島の足元を不安定にしていく!!いいぞ耳郎ー!!』
『オイ公平にやれ。同じ音系だからって贔屓すんじゃねえ』
『ソーソーリー!!!』
「プレマイ先生注意されてるー!」
「あはは、やっぱり似た“個性”だと親近感湧くんだね!」
偏った内容になっていた実況を速攻で相澤に突っ込まれたプレゼント・マイクに、芦戸と共に笑う。
ステージでは、もう一度ドクンと心音が流し込まれて地面が割れ、切島の足元がぐらりと揺れていた。
「っと、ぉ…!」
「はぁっ!」
脚を動かしてバランスを取ろうとした切島に向かって、耳郎が走っていく。
素早く伸ばされた『イヤホンジャック』が切島に突き立てられようとしたが、『硬化』した腕によってあっさりと振り払われた。
「効かねーよ!!」
「ま、そーだよね……!」
時間差でもう片方の『イヤホンジャック』も切島の足に伸びていたが、それも硬い表皮に弾かれる。
『こいつァシヴィー!!耳郎の『イヤホンジャック』が『硬化』した切島に通らない!!』
『どっかに突き刺せりゃ、内部への音攻撃は効くだろうがな』
「うわ、これ耳郎厳しいだろ」
「地面砕いても攻撃にゃならねーしなあ」
「耳郎さんの強みは攻撃の正確さと、相澤先生の言う通り
上鳴、瀬呂、緑谷がそれぞれ分析する。ネリエルはそれを耳だけ傾けて聞きながらステージを見つめ、膝の上でぎゅっと手を握った。
「頑張って、響香ちゃん…!」
視線の先では、耳郎が掴みかかってくる切島の腕を間一髪でかわしたところだ。またも『イヤホンジャック』が切島を狙うが、やはり『硬化』した腕には少しも突き立てることができない。
「届いてなきゃ意味ねーぞ、耳郎!!」
「っぐ、くそ…っ!」
切島のラリアットを横に転がりながら避け、耳郎は一度距離を取る。
『互いに距離を取りじりじりと睨み合う!!イイねェ、イイ緊張感だぜェ!!』
試合の数を重ねたためか、プレゼント・マイクのテンションがかなり上がっている。
「こっちからもいくぜ!!」
「!!」
今度は切島が地面を蹴り、走り出す。耳郎は素早く『イヤホンジャック』を伸ばし、駆けてくる切島の足元をひび割れさせた。
「俺ァ、倒れねえ!!」
しかし、切島は『硬化』した足でしっかりと踏ん張り、バランスを崩しながらも転倒することはなかった。
「あっ!!」
「耳郎ー!」
『ここで耳郎、腕を掴まれてしまったー!!パワーじゃ明らかに切島のが上!!逃げられるかぁ!?』
耳郎の腕が切島に掴まれる。そのまま投げ飛ばそうと切島は力を込めたが、その前に『イヤホンジャック』が地面へと突き刺さった。
「く、…っ!!」
「地面に!やるな耳郎!!」
踏ん張るだけでなく、『イヤホンジャック』を楔のように使うことで、耳郎はなんとか投げられることは防いだ。
『うまいこと体を固定したが、これじゃ攻撃もできねえぞ!!』
「降参してもいいんだぜ?」
「は、すると思う?」
「いーや!相性最悪だってのにまったく諦めてねえな、その目は!」
だが、切島の力に押されて徐々に耳郎の足がずり下がっていく。
『このまま切島が押しちまうかあ!?両者どーする!!?』
全身で抗っても押し込まれ、汗をかきながらも耳郎はにやりと笑った。
「確かに最悪だよ……でも、
「ぅお!!?」
バカン!!と二人の足元が大きく割れた。同時に耳郎が切島の手を振り払い、さすがの切島も体勢を崩して膝を突く。
「ロックじゃないっしょ…!!」
静かに、しかし力強くそう言い切った耳郎に、会場中からドッ、と歓声が沸き起こった。
「っきゃーーー!!!!!」
「ひゃああーーー!!!」
「かっこいいいいーー!!!」
ネリエルと芦戸は黄色い声で叫びながら互いの手を握って身を寄せ合った。葉隠も悲鳴を上げながら隣の蛙吹に抱きついており、ステージに目が釘付けの蛙吹も、表情は薄いものの少し頬が赤い。
『Yeahhhhhhh!!!ハードなロックにシビれる
『韻踏んでねえで解説しろ。新しいことやり出してんぞ』
耳郎が『イヤホンジャック』を地面の破片に突き刺し、さらに両手も使ってそれを持ち上げている。
「あれをハンマーみたいに使うつもりなのかしら」
「そうかも…切島くんに効くかどうかだね」
「たぶん効かないよ!でも目眩しにはなるかも?」
「あっ、あしみな中学一緒だったんだっけー?」
「そうそう!コンクリぐらいなら砕けたはず!」
同じ中学校だったらしい芦戸が切島のスペックを補足する。
「っい、しょ…!!」
「おぉ!!?」
『ここで耳郎、瓦礫を放り投げたー!!ちなみにサポートアイテムは原則禁止だが、フィールド上のモノを使うのは反則じゃねえぜ!!』
相澤に注意されたためか、プレゼント・マイクが真面目に注釈を入れる。
「こんなん……、っ!?」
切島が『硬化』した腕を振って瓦礫を砕こうとしたが、その前にドクン!と流し込まれた音でそれが粉々になった。
「う……っ!!」
「ここっ!!」
『耳郎、瓦礫の破片で切島を目潰しー!!』
反射的に目を瞑ってしまった切島の顔面目掛けて、『イヤホンジャック』の先端が迫る。
『すかさず二段構えの攻撃!!これが通るかどうか!!?』
だが、カァンッ、という軽い音と共に『イヤホンジャック』はあっさりと弾き返された。
咄嗟に切島が顔全てを『硬化』したためだ。
「響香ちゃん…っ」
俯瞰することができるネリエルの席からは、それらのやりとりがよく見えた。
耳郎と相対している切島からは見えないであろう、体の
「っ
ドックン、と一際大きな音が、切島の
「ぐ…ぁ……っ!!」
『二段構えの攻撃も……っ囮!!?耳郎の音攻撃が、ついにマトモに切島に入っちまったぁあ!!』
『顔を庇わせて意識を逸らした上に、不安定な足場。足を曲げるためには、膝裏はそりゃ『硬化』できねえだろうな』
ぐらり、と切島の身体が傾ぐ。
「あぁーー!!切島ーー!!」
「すごい…!」
「やるじゃん耳郎!!」
「…あっ、でも…!」
瓦礫の上で転ばないよう姿勢を低くしていた耳郎の腕が、ガッと掴まれた。
「あ……!?」
「ぬ゛…ぅううう゛!!」
切島の耳からは血が垂れている。しかし、それでも切島は倒れなかった。
『漢、切島!!!倒れずーーー!!!』
会場が男性達の歓声で沸き立つ。
「響香ちゃん、立て直して…!!」
「早くっ、投げられる!!」
思わず叫んだネリエルと芦戸だが、その声も虚しく耳郎は思いきり腕を振り回されてしまう。
「お゛ぉら゛ぁあっ!!!」
型も何もない、単なるパワー任せの投げだった。
「ぅあぁっ!……っ、ぐ…!!」
それでも耳郎の体は吹き飛び、何度か跳ねながらラインの外へと転がり出た。
「耳郎さん、場外!!勝者、切島くん!!」
わぁあああっ、と大歓声が巻き起こる。
「あぁー……!」
「よっしゃ切島ーー!!」
「耳郎もナイファイ!!めっちゃよかったぞー!!」
「耳郎ーー!!ナイスガッツーー!!」
「響香ちゃーん!!すっごくかっこよかったーー!!」
その歓声に負けじとクラスメイト達と共に声を張り上げ、耳郎と切島を称える。
ステージ上では切島が耳郎に手を差し伸べ、助け起こしていた。
「あ、ありがと……ごめん切島、今聞こえてないよね?」
「え?耳郎なんか言ったか??」
「あっやっぱ聞こえてない!!と、とりあえず切島、観客席のほう向いて!!」
切島は耳に手を当てて耳郎の言葉を聞こうとしているが、耳殻から垂れてくる血は止まっていない。
耳郎は慌てて切島の背を押して観客席のほうを向かせ、立ち上がっている観客がいるほど会場が盛り上がっていることを見せた。
「あー俺これ鼓膜ヤったか!!あっ、応援あざーす!!!」
「カッコよかったぜーー!!!」
「いいガッツだった!!」
「二人ともナイスファイトーーー!!」
ようやく鼓膜が破れていることを自覚した切島は、それでも満面の笑みで観客達に手を振った。耳郎も少し照れた様子ながら手を振り、会場を見回す。
「あ……」
その途中、A組の生徒達が集まっているところで視線を止めた耳郎が、にかっと笑って拳を突き出した。
「響香ちゃんちょーかっこいいー!!」
「ね!どっちも全力ですっごいスリルだった!」
「とてもいい戦いだったわ。“個性”を活かすって、こういうことよね」
葉隠が元気よく両手を振り、芦戸と蛙吹も手を振ったり拳を突き出したりする。
「…うん、とてもよかった」
ネリエルもそっと拳を突き出し、優しく笑った。
耳郎と切島はミッドナイトに救護所に行くよう指示されて退場していく。
『一進一退、ドキドキハラハラのイイ戦いだったな…!!!』
『もうちょっと落ち着いて実況しろ』
『ソーリーソーリー!!さて八組目に行きたいとこだが、またもやステージがボッコボコだからな!セメントス、修繕頼むぜ〜!』
セメントスがステージの修繕のために動いている間に常闇と、少し遅れて八百万も観客席へと戻ってきた。
「お疲れ常闇ー!!」
「ナイス速攻!推薦組に勝っちまうとはなあ」
「策がうまくハマってよかったと考えている」
「おかえり、モモちゃん。結果は残念だったけど…お疲れ様」
「ナイスファイト、ヤオモモ!」
「よく頑張ったよー!」
「…ありがとうございます」
芦戸の隣に座った八百万は、眉を下げて悲しげな表情をしている。
「百ちゃん、元気がないわね。無理もないけれど…」
「何もできなかったのが…少し、堪えましたわ」
「モモちゃん…」
「………ネリエルさん」
どう声をかけたものかと悩むネリエルに、八百万のほうから声をかけてきた。
「ネリエルさんなら…常闇さんと、どう戦われましたか?」
「……私?えっ、と……」
「すまん、話が聞こえてしまった。だが、俺もオーデルシュヴァンクならどう戦ったのかは気になるから、聞いてもいいだろうか」
少し離れたところに座っていた常闇が、女子達が座る列の前に移動してきてネリエルを見上げた。
「常闇くんまで?うーん…そうね…」
「ネリエル、二人とも勝ち上がったら常闇と戦う可能性もあるけど、いーの?」
「それは…戦いのパターンは一つじゃないし、大丈夫かな」
芦戸の問いかけにネリエルがそう答えると、八百万と常闇の表情が真剣なものになった。ネリエルは少し考え込んでから話し出す。
「対常闇くんで、まず一つ選択肢としてあるのは、逃げることかな」
「え……」
「逃げる、か」
「うん。ただ、このステージに限ってのことだけど、障害物がないし面積も狭いから、全方位に攻撃できる常闇くんから逃げ切るのは難しい。だから正確には逃げるというより、次の準備をするために退避する」
ネリエルは自身を指差した。次いで、八百万を真っ直ぐに見る。
「私なら、常闇くんに勝っている部分はスピードと体格だと思う。モモちゃんも、この部分は準備さえすれば常闇くんを上回れるはず」
「そう……でしょう、か」
訝しげな八百万だったが、常闇はこくりと頷いた。
「ああ。だからこそ、俺は八百万に準備をされたくなくて速攻を選んだ。もし初手で全力の逃げを選択され、十分に準備する時間を与えてしまっていたら…結果はどうなっていたか」
「分からないよね。相澤先生も言っていたけど、モモちゃんに準備をされればされるほど、相手は不利になるもの」
にこっ、と八百万に笑いかけ、ネリエルは話を続ける。
「戦いは、
「や、マジでその通りっしょ。なんで急に弱気よ?」
「三奈ちゃん…」
語尾を萎ませてしまったネリエルに、芦戸が首を傾げた。
(だって私、今…
「ヒーロー科の先生でもないのに、偉そうに言っちゃったかなって…」
「いえ…とても参考になりましたわ。ありがとうございます、ネリエルさん」
「俺も、礼を言う。もしオーデルシュヴァンクと戦うとなれば、厳しいものになりそうだ」
「あっ、二人に変な癖とか付いてほしくないから、あんまり
慌ててネリエルはそう言い募ったが、八百万と常闇は神妙な顔で考え込んでいる。
「戻ったぜー!!二回戦、進・出!!」
「切島おめーー!!」
「ガッツがヤバかったぜガッツが!!」
「つか鼓膜治ったんだな!」
「おうよ!!」
鼓膜を『治癒』で治療されたらしい切島が戻ってきて、嬉しそうな表情で男子生徒達の輪の中に入っていった。
「ただいまー…何、どしたん?」
「あっ響香ちゃん!!おかえり!とってもカッコよかった!!」
「ありがと、ネル。負けちゃったけど、全力は出せたかな」
耳郎も観客席へと戻ってきて、真剣な表情の八百万や常闇に不思議そうな顔をしながら、常闇の隣に座る。
「なんか話してたの?」
「オーデルシュヴァンクから、戦いのアドバイスを貰っていた」
「あーね、ネル強いもんね。てか上手いって感じ?」
「うむ。障害物競走や騎馬戦では力押しの印象があったが、上鳴との戦いを見てそれだけではないと感じた」
「ネリエルちゃんは“個性”の使い方もすごく上手だわ」
耳郎と常闇、蛙吹の言葉に周囲の生徒達がうんうんと頷く。
「だよねー。ネル、ウチにも後でアドバイスくれない?」
「え!?あっ、ネ、ネリエルさんのアドバイスっ!!?」
「むっ!?なんだと、ネリエル君の!?」
ばたばたっと足音を立てながら戻ってきて耳郎の言葉に食いついたのは、どこかに出かけていた緑谷と、試合を終えた飯田だった。
「緑谷、お前の考察も聞きたいところだが…次の試合が始まるな」
「あっ…あー!耳郎さんと切島くんの試合、見たかった…!」
「良ければ後で話を聞かせてくれ」
「あ、うん!もちろん、常闇くん。ネ、ネリエルさん、良かったら僕にも話してくれたり…その…」
「ネリエル君、よければ俺にも…いや、君とは次戦うのだからダメだろうか!?」
耳郎と反対側の常闇の隣に行き、揃って座りながら振り返った緑谷と飯田に、ネリエルはにこりと笑った。
「体育祭の後で…私の独学からになっちゃうけど、それでよければ。飯田くんと、響香ちゃんも」
「ぜっ、ぜひ!!」
「ちょー聞きたいから、後で絶対ね」
「ぼ…俺にもとは有り難い!是非頼む!」
「……うん」
ネリエルはほんの少し逡巡してから、それでも心底嬉しそうな友人達のために、こくりと頷いた。
常闇が頑なにネリエルを「オーデルシュヴァンク」と呼ぶのは、ドイツ語っぽい響きがめちゃくちゃカッコいいと思ってるからです。