ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語   作:猫禰捏涅

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羚騎士


轟とネリエルの会話を追加しました。(5/18)


職場体験編
27.ヒーローネーム / GAMUZA ※5/18追記


 

 

 

 

「ネルー。おやつ食べるかー?」

「うん、食べる!」

「バワ!」

 

体育祭後、雄英が所有するバンで自宅まで送り届けてもらったネリエルはぐっすりと一晩眠ってから、すっきりとした心地で翌日を迎えていた。

ペッシェとドンドチャッカは、また頭を打ったと聞いて大いに心配していたが、元気なネリエルの姿を見たことで落ち着いた。クラスメイト達とはチャットで連絡を取り合い、心配してくれた友人達にも体調は問題ないことを伝えている。

 

そんなネリエルはペッシェ特製のパウンドケーキをおやつに出してもらい、バワバワの頭を膝に抱えながらわくわくとした表情で食卓についた。

 

「休校は明日までだったか?」

「うん、今日明日はお休み。先生からは家にいて静かに様子を見ていなさいって」

「そうだな、頭の怪我は慎重にならないと。私も仕事は少なめにしたから、何かあればすぐに言いなさいね。はい、紅茶」

「ありがとう!」

 

ネリエルの前に紅茶のティーカップを置き、自身の前にはコーヒーが注がれたマグカップを置いたペッシェは、リモコンを取り上げてテレビの電源をつけた。

 

「体育祭の残りの試合、見れてないんだろう?録画しておいたから見ようか」

「ん、確かに。優勝が爆豪くんだったのは、ニュースで見たんだけど」

 

ペッシェがリモコンを操作し、録画を再生する。

パウンドケーキを口に入れながらではあるが、ネリエルはその画面を見てすうと目を細め、真剣な表情になる。

 

二日間の休日の間、ネリエルは運動を禁じられた代わりに何度も何度も体育祭の映像を見返した。

自身で組み上げているトレーニングメニューの内容も見直し、改善点を洗い出す。

 

どこまでもストイックに、『ヒーローになる』という目標だけでなく、そのそばにできた小さな副次的な目標も叶えるため、ネリエルの歩みが止まることはない。

 

 

 

 

 

 

 

「オーデルシュヴァンク。ちょっと…いいか?」

「轟くん?」

 

体育祭後の休日が明けて登校したネリエルが教室の扉に手をかけて入ろうとした時、背後から轟が声をかけてきた。

 

「どうしたの?」

「……USJのことと、体育祭のこと。謝りたくて」

「え」

 

驚いて動きが止まったネリエルに、轟がぺこりと頭を下げる。

 

「USJの時、お前が一緒に落ちてるのは視界に入ってた。でも、(ヴィラン)を倒せりゃそれでいいと思って、全然気にかけてなかった。…ごめん。あと体育祭の時も、無遠慮に…」

「い、いいよ轟くん!頭、上げて?」

 

ネリエルが慌ててそう言うと、轟はそっと頭を上げる。その顔は、以前とは明らかに見違えていた。

 

「あの時は、あの判断が最善だったと思うよ。轟くんが一人で(ヴィラン)を抑えてくれたおかげで、私も動けたから」

「…オーデルシュヴァンク」

 

律儀にネリエルの苗字を呼ぶ轟に、少し苦笑する。

 

「ねえ轟くん、名字じゃ長いでしょ?ネリエルとか、ネルとか…それか、オーデルとか」

「……わかった。オーデル」

「うん。体育祭のことも、気にしてないから。謝らないで?」

「なら、ありがとう」

「うん!」

 

険の取れた表情で小さく笑う轟に、ネリエルも微笑む。

 

話を終えて教室の扉を開け、中に入るとクラスメイト達はずいぶんと盛り上がっていた。

 

「超声かけられたよ、来る途中!」

「私もジロジロ見られて、何だか恥ずかしかった!」

「俺も!」

「俺なんか、小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」

「ドンマイ」

「あ、ネリエル。おはよー。轟も」

「おはよ!」

「おはよう」

 

轟が淡々とした声音ながらも挨拶を返すと、何人かが驚いた表情で振り返った。

 

「えっ轟!?」

「今の轟くん!?」

「ふふ、びっくりするよね!」

「皆も…ごめん。今まで、感じ悪かったろ」

 

轟がクラスメイト達を見回して謝る。

 

「お、おお…!?」

「全然いいよー!」

「まあ爆豪よりマシだったしな」

「なんかスッキリした顔してんね、轟!」

 

戸惑いはあるものの皆が轟の謝罪を受け入れ、轟はほっとした顔をした。

 

「何の話してたの?」

「来る時めっちゃ注目されたって話」

「ネルちゃんなら絶対声かけられまくりだったんじゃない!?」

「ううん、今日は兄が車で送ってくれたんだ。だからそういうのは無かったよ」

「あー、なるほど!」

 

普段通りバスで来ていれば、ネリエルにもそういったことがあったかもしれないが、体調を気遣ったドンドチャッカが学校まで送ってくれたのでネリエルは誰とも会っていない。

 

「たった一日で、一気に注目の的になっちまったよ」

「やっぱ雄英すげえな…」

 

ざわつく教室の中に、スッ、と相澤が入ってくる。

 

「おはよう」

 

一気に生徒達は静かになり、全員がきちりと前を向いて自分の席に座って相澤に朝の挨拶を返した。

 

「一限は“ヒーロー情報学”だが、今日のはちょっと特別だぞ」

 

“ヒーロー情報学”はヒーロー関連の法律や規則、判例などを学ぶ科目である。

 

「『コードネーム』、ヒーロー名の考案だ」

「胸ふくらむヤツきたああああ!!」

 

普段の堅苦しい授業から一転した内容に、クラス全体が浮き足だった。

 

「というのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる」

 

相澤の髪がざわりと逆立つと、全員が再び一気に静かになる。

 

「指名が本格化するのは、経験を積み即戦力として判断される2、3年から…つまり今回来た“指名”は、将来性に対する“興味”に近い。卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんてことはよくある」

「大人は勝手だ!」

 

ネリエルから見て教室の反対側にいる峰田が、そんな恨み節を言っている。

 

「頂いた指名がそんまま、自身へのハードルになるんですね!」

「そ。で、その指名の集計結果がこうだ」

 

黒板にグラフが投影される。

多いものから順に上から並べられ、トップは轟の約4000、その次に爆豪の約3000となっているため、二人のグラフが大きく突き抜けている。

 

「例年はもっとバラけるんだが、二人に注目が偏った」

 

轟と爆豪の下には、ほぼ同率でネリエルと常闇が約400、飯田が約300、上鳴が約250、八百万が約100と続いていっている。

 

「わあああ!わあああ!!」

「うむ」

「ふふ、ありがとう、お茶子ちゃん」

 

麗日が自分のことのように顔を輝かせながら、前にいる飯田の肩を揺さぶり、後ろのネリエルの手を取ってぶんぶんと振る。

 

「これを踏まえ…指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう。おまえらは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りある訓練をしようってこった」

「それでヒーロー名か!」

「俄然楽しみになってきたァ!」

 

砂藤と麗日が盛り上がっているのを後ろから見ながら、ネリエルは優しく微笑んだ。

 

「まァ仮ではあるが、適当なもんは…」

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

 

相澤の言葉尻が奪われ、高らかにヒールの音が鳴る。

 

「この時の名が!世に認知されそのまま、プロ名になってる人多いからね!!」

「ミッドナイト!!」

 

豊かな黒髪をかき上げながら、美しいプロポーションを際立たせるボンテージのようなコスチュームを着こなすヒーローが教壇に立った。

 

「まァそういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうのできん」

 

相澤はゴソゴソと寝袋を準備する。

 

「将来自分がどうなるのか、名を付けることでイメージが固まり、そこに近付いていく。それが『名は体を表す』ってことだ。“オールマイト”とかな」

 

ネームボードとペンが前から回されてきて、ネリエルも麗日からそれらを受け取る。

 

「ネリエルちゃん、もう決めてる?」

「うん、一応ね」

「ほあ…!楽しみにしとるね!」

 

麗日は楽しそうに笑い、彼女もまたヒーロー名は既に決まっていたのか、すぐにボードにペンを走らせ始めた。

 

「………」

 

一応決まっているとは言ったが、ネリエルには少し迷いが出てきていた。

 

(『槍』のこともだけど、あんまり破面(アランカル)の時のことに引っ張られるのも、って最近は思うようになったんだよね)

 

ペンの蓋を取ったものの、手が進まない。

 

(……でも、他の名前なんて全然思いつかないし。やっぱり、コレ(・・)かなあ)

 

しばらくの間悩んでから、キュッキュッとネームボードに書き込んでいく。

 

ネリエルが考え込んでいる間にそれなりに時間が経っていたらしく、ミッドナイトが教室を見渡し、「じゃそろそろ、出来た人から発表してね!」と声をかけた。

 

「は、発表するんや…!?」

「そうみたいだね」

「うわ、うわ〜、これ恥ずかしいな!?」

 

麗日がそわそわと体を動かして動揺している。その間に、真っ先に手を挙げていた青山が教壇に上がっていった。

 

「行くよ……“I can not stop twinkling.(キラキラが止められないよ☆)”」

「短文!!!」

 

ガバッ、と掲げられた青山のネームボードには英語の短文が書かれていた。明らかに名前ではないのだが、ミッドナイトは特にその点は咎めなかった。

 

「そこは“I”を取って、“Can't”に省略した方が呼びやすい」

「それねマドモアゼル☆」

 

青山の次に前に立ったのは芦戸である。

 

「じゃあ次アタシね!エイリアンクイーン!!」

2(ツー)!!血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!!」

「ちぇー」

 

映画からの引用で、しかも敵役なのでさすがにミッドナイトからダメ出しをされ、芦戸は口を尖らせながら席に戻っていく。

 

「皆個性的だね」

「いやこれ大喜利…!?」

 

ネリエルの素直な感想に麗日がツッコんだ。

 

「じゃあ次私、いいかしら。ケロッ」

「梅雨ちゃん!!」

 

蛙吹が教壇に上がり、少し頬を赤く染めながらネームボードを掲げる。

 

「小学生の時から決めてたの。フロッピー」

「カワイイ!!親しみやすくて良いわ!!皆から愛される、お手本のようなネーミングね!」

 

蛙吹の発表で、面白ネーミングが続きそうになっていた空気が変わる。その次に前に立ったのは切島だった。

 

「んじゃ俺!!烈怒頼雄斗(レッドライオット)!!」

「『赤の狂騒』!これはアレね!?漢気ヒーロー、“紅頼雄斗(クリムゾンライオット)”リスペクトね!」

「そっス!だいぶ古いけど、俺の目指すヒーロー像は“(クリムゾン)”そのものなんス」

「フフ…憧れの名を背負うってからには、相応の重圧がついて回るわよ」

「覚悟の上っス!!」

 

ミッドナイトにプレッシャーをかけられるも、切島は力強く応えた。

そこを皮切りに、どんどんクラス中から手が挙がる。

 

耳郎は何故か上鳴から「耳郎おまえさァ、ふざけんなよ!」と怒鳴られていたが、気にした様子もなく『ヒアヒーロー イヤホン=ジャック』というヒーロー名を発表した。

 

障子は触手からのネーミングであろう『テンタコル』、瀬呂は“個性”ほぼそのままの『セロファン』である。

尾白が『テイルマン』、砂藤が『シュガーマン』と語感が被っていたので、男性ヒーローにはありがちなネーミングのようだ。

 

『エイリアンクイーン』を却下された芦戸は、『ピンキー』という可愛らしい名前を披露した。上鳴は『チャージズマ』、葉隠は『インビジブルガール』と続く。

 

「良いじゃん良いよ、さァどんどん行きましょー!!」

 

テンションの上がっているミッドナイトによって、次々に生徒が指名され教壇に上がっていく。ネリエルも手を挙げ、指されるのを待つ。

 

『万物ヒーロー クリエティ』という名前を発表した八百万は、「この名に恥じぬ行いを」と真面目な表情だ。

その次は轟だったのだが、ボードには『ショート』と名前そのままが書かれていた。

 

「名前!?いいの!?」

「ああ」

 

特に思い入れもない様子で轟は席に戻って行く。ネリエルは、その次に教壇の上へと立った。

 

「『ガミューサ』、です」

「あら、不思議な名前ね。どういう意味を込めたのかしら?」

「スペイン語で羚羊(レイヨウ)の意味なんです」

「ああ!羚羊、カモシカのことね!呼びやすいし良いわ!」

 

いくらか迷ったものの、ネリエルは結局、前世で破面(アランカル)として持っていた『帰刃(レスレクシオン)』の名前そのままをヒーロー名とすることに決めた。

 

「グレープジュース!!」

「ポップ&キッチュ!!」

「………」

「うん!!」

 

峰田はボードに書く文字もデザインして発表し、口田は丸っこい文字で『ふれあいヒーロー アニマ』という可愛らしいヒーロー名を発表している。

 

「爆殺王」

「そういうのはやめた方が良いわね」

 

その次の爆豪はデカデカとした文字で物騒なヒーロー名を出し、ミッドナイトに即却下された。

 

「じゃ、私も…」

 

恥ずかしそうにしながら麗日が壇上に上がる。ボードには『ウラビティ』というヒーロー名が書いてあった。

 

「考えてありました」

「シャレてる!」

 

爆豪とは対照的に麗日のヒーロー名はミッドナイトに褒められ、麗日も照れつつも嬉しそうに笑っていた。

 

「思ったよりずっとスムーズ!残ってるのは再考の爆豪くんと…飯田くん、そして緑谷くんね」

 

麗日の前の席で、ペンがあまり動いていなかった飯田はボードを持って前に立ったが、書かれていたのは『天哉』という自身の名前そのままだった。

 

「あなたも名前ね」

 

何も言うことなく戻っていった飯田の次は緑谷で、ボードに書かれた文字にクラス内が少しざわついた。

 

「えぇ緑谷、いいのかそれェ!?」

「うん。今まで、好きじゃなかった。でも、ある人に“意味”を変えられて…僕にはけっこうな衝撃で…嬉しかったんだ」

 

緑谷のボードには『デク』という名前が書かれている。

 

「これが、僕のヒーロー名です」

 

『デク』は、爆豪が緑谷のことを指して『木偶の坊』という意味を込めて呼んでいた蔑称だったはずだが、ボードを掲げる緑谷の表情はどこか誇らしげだ。

 

「爆殺卿!!」

「違うそうじゃない」

 

仮とはいえヒーロー名が決まっていないのはこれで爆豪一人だけになったが、当人はまたもや物騒なヒーロー名を提案して却下されている。

 

「ネリエルちゃん、名前カッコいいねえ!」

「お茶子ちゃんもすごく素敵。グラビティとかけてるんだよね?」

「えへへ…そうなんよ」

 

「爆殺神!!!」

「爆殺から離れましょ?」

 

爆豪はその後何度も似たようなセンスの名前を発表したが、その度にミッドナイトに却下され、結局彼のヒーローネームが時間内に決定することはなかった。

 

授業が終わる直前、寝袋から這い出してきた相澤が総括を始める。

 

「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すから、その中から自分で選択しろ。指名のなかった者は、予めこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件、この中から選んでもらう」

 

様々な事務所名が書かれたプリントが掲げられる。

 

「それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なる。よく考えて選べよ」

「俺ァ都市部での対・凶悪犯罪!」

「私は水難に係わるところがいいわ。あるかしら」

「今週末までに提出しろよ」

「あと二日しかねーの!?」

 

個別に紙束を配っていた相澤がネリエルの元にもやってきて、『オファー オーデルシュヴァンク宛』と書かれた束が手渡される。

 

「ありがとうございます」

「ん。…ああ、オーデル。○印がついてるのは、事務所(・・・)じゃなく、個人(・・)からのスカウトだ」

「個人、ですか」

 

ネリエルが首を傾げると、相澤は眠そうにしながらも淡々と話を続ける。

 

「プロは大体事務所を構えてるモンだが、そうじゃないヒーローもいる。大抵が個人主義だから、スカウトを出すこと自体がほぼ無いんだがな」

 

8ページ目だ、と言われ、ネリエルは紙束をめくった。

 

「事務所があったほうが、ヒーロー活動の実績は当然安定しやすい。それがないにも関わらずスカウト権を持ってるのは、相当な実力のヒーローってことだ。動き方は特殊になるだろうが、検討して損はない」

「わかりました、ありがとうございます」

 

頷き、オファーの山に目を落とす。

五十音順に事務所名が並べられている中で、8ページ目はヤ行とラ行の名前が記載されている。

 

「……ラビットヒーロー、《ミルコ》」

 

相澤が言っていた通り、他にリストに並ぶ事務所名と違い、一人のプロのことだけを指す個人(・・)のヒーロー名。

 

ネリエルはその名前を見て、薄く笑った。

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