ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語   作:猫禰捏涅

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28.職場体験①

「最初に言っとくが、私は将来サイドキックを雇う予定はねえ。プロになるなら、自分でコネ作るなり独立するなりで、勝手にやりやがれ」

 

職場体験、当日。

クラスメイト達はそれぞれヒーロー事務所へと向かう中で、ネリエルは地方の都市部の貸しオフィスの一室に来るよう案内され、コスチュームを入れたアタッシュケースを抱えてやってきていた。

 

そこで対面したのは、現在ヒーロービルボードチャートJPにて、No.7(ナンバーセブン)という高い順位をソロ(・・)で維持するプロヒーロー、ミルコである。

そして、ミルコが口を開くなり言い放ったのが、冒頭の言葉だった。

 

「……ええと」

「すみません、オーデルシュヴァンクさん。いえ、ヒーロー名は《ガミューサ》さんでしたね。ご存知かもしれませんが、ミルコさんはサイドキックを雇わず、事務所も持たず、個人で全国を跳び回る(・・・・)という活動方針でして」

「はい、知っています。流石にサポートの方はいらっしゃるとは思っていましたけれど…」

 

ミルコの代わりに話し始めたのは、タブレット端末を携えたスーツの男性だった。かなりガタイがいいのだが、立ち姿や言葉遣いは控えめである。

 

「ええ、その通りです。全国に私のような事務方の人員が点在しており、リモートで自宅から仕事をしたり、ホテルやこういったレンタルオフィスを一時拠点にしたりすることで、ミルコさんをサポートしています。どうぞジムと気軽にお呼びください」

「ジムさん」

「うっし、説明はもういいな?悪いヤツがいねえか見回りにいくぞ!」

「ちょ、ちょっとミルコさん!先にコスチュームですよ!」

「あー?ならさっさと着替えてこい!先行ってんぞ!」

 

ぴょん、と椅子から飛び降りたミルコは、ネリエルのほうを振り向きもせずスタスタとオフィスから出て行ってしまった。

 

すみません、すみませんと低姿勢で謝るジムに案内されたのは、清潔で広々とした多目的トイレだ。

ネリエルはそこでコスチュームへと着替え、ジムからインカムを受け取って、市街地へと繰り出した。

 

「こう…かな」

『おっせぇぞ!!』

「わ!?」

 

耳にかけるパーツが角に引っかからないよう調整していると、突然インカムからミルコの声が響いてきた。

 

「ミルコさん、今どこに…」

『上だよ、上!』

「上?」

 

「なあ、あれミルコじゃね!?」

「マジ!?どこどこ!?」

「えっミルコ来てんの!?ウソー!!」

「わあぁあミルコーっ!!サインくださーい!!」

 

周囲の人々がざわついている。

彼らの視線を辿ってネリエルも顔を上に上げると、雑居ビルの上に立つミルコが白い長髪を風に靡かせていた。

 

『私はとっくに怪しいヤツを見つけてるぜ!』

「この短時間で…!?ミルコさん、それってどこに、」

『喋ってるヒマなんかねえぞ!ついて来い!』

 

一方的にそう言い放ったミルコが、ダンッ!!と雑居ビルの屋上から跳躍する。

熱心にミルコを見上げていた一般市民達が歓声を上げた。

 

「速い…!!」

 

ミルコはビルの屋上を足場にして、ダンッ、ダンッと跳びはねて移動している。

都市部の大通りは平日の昼間にも関わらず人が多いが、屋上伝いであればそれは関係ない。

 

対してネリエルは、一般市民達の間を縫って走る必要があり、しかも装備している鎧をぶつけて怪我をさせないよう気遣わなければならない。

コスチュームを着て走るネリエルを見た大抵の市民は道を開けてくれていたが、スマホを構えてミルコの写真を撮ろうと立ち止まっている者もいる。

 

「っすみません!」

 

「ぅわ!?」

「え、誰アレ?新しいヒーロー?」

「あ、体育祭で見た子だ!ホラ、四位の!」

「マジじゃん!雄英ウェーイ!!」

「てかチョー可愛くね!?」

 

どんどん姿が遠くなっていくミルコを追ううちに、ネリエルのことにも気づく市民も出てきた。

 

(っ…使いたいんだけど、これじゃあ…!)

 

コスチュームを着て職場体験として現場にいるため、公共の場で“個性”を使うことはできる。

だが、ネリエルが今走っている歩道の上で『カモシカ』になれば、何人かの市民を跳ね飛ばしてしまうことは避けられないだろう。

 

「…!」

 

ネリエルは素早く視線を走らせ、ある物(・・・)を見つけて体を翻す。

トン、と地面を蹴って、車道と歩道を区切る柵を飛び越え、車道___ではなく自転車用のレーン(・・・・・・・・)へと降り立った。

 

「ここなら、っ!」

 

一気に『カモシカ』へと変身し、飛び出す。力は加減したので地面が抉れてはいない。

それでも爆発的な推進力を得た四足の体が急激に加速し、ミルコとの距離を縮めていく。

 

「! あっ!」

 

車の通行を邪魔しないよう、あちこちに目を配りながら走っていたため最高速度は出せていないが、かなりのスピードで走っていたネリエルがようやくミルコの近くにまで追いついた時、少し前の車道を走っていた白い原付が不自然に歩道に幅寄せした。

そして、原付から伸びてきた手が、歩道を歩いていた女性のショルダーバッグを奪い取り、同時にエンジンをふかして加速する。

 

()んぞ!』

 

インカムでそう叫んだミルコが、屋上から跳躍して大通りに飛び降りてくる。

 

「おォらぁっ!!!」

「ぐぎゃっ!!」

 

地面に着地するなり、ミルコは白い原付に飛び蹴りをかました。

ボディを思いきり横に張り倒された原付は、ガシャアン!!と派手な音を立てながら横に滑っていく。

 

「見てたぜ、テメェがコレ(・・)ひったくるとこ!!」

「うぐぁああっ…」

 

ミルコは横滑りしていく原付にひとっ跳びで追いつき、投げ出されて転がる男の体を踏みつけながら、ピンク色のショルダーバッグを奪い取った。

 

「っミルコさん!」

「おー、遅かったな!コレ持っとけ!」

 

ネリエルがミルコの側へと走り込むと、ショルダーバッグがぽーんと投げ渡されてきた。

 

「わ!?っと…すごい、ひったくりしそうな人を見つけてたんですね」

「おうよ。コソコソ怪しい動きしてたからな!なんかやんだろ、って思ってたらビンゴだ」

 

ミルコは、にやっと自信に満ち溢れた顔で笑った。

 

「ソレ、白いワンピース着てるヤツのだ。そのへんにいるだろ」

 

ネリエルはキャッチしたショルダーバッグを抱え、言われた通りの格好の人がいないか辺りを見回す。

 

「すみません、すみません!私です!私のです!」

「あ…!よかった!」

 

泣きそうな声を上げながら駆け寄ってきたのは、ミルコが言っていたとおり白いワンピースを着ている女性だった。

 

「あっこら、バカ正直に渡してんじゃねえ!先にケーサツだ。アンタ、もう通報はしたか?」

「あ、い、いえ、まだです!」

「おっけ。周りのヤツが通報してたなら、そろそろ応援要請が来る頃だな」

「え?」

 

ネリエルが驚いていると、二人のスマートフォンから同時に着信音が鳴った。

 

「おう、ミルコだ!ひったくりだろ?…あー、職場体験やってるガクセーがいる。…へいへい」

 

長い兎耳に挟まれたインカムで応答し、警察と短い会話を交わしたミルコは、ちらりとネリエルを見た。

ミルコの足元では、黒ずくめの男が呻きながらもがいているが、力強く踏みつけられた所から少しも逃れられていない。

 

「ミルコさん。確か、ヒーローが取り締まりに動くのって、警察からの応援要請が来てからですよね?」

「あ?ああ、フツーはそうらしいな。だいたい私が跳んでくほうがはえーけど」

「それって…問題はないんですか?」

「ない!(ヴィラン)を早く蹴っ飛ばせるに越したことねーだろ!」

「それは、そうですね!」

 

ミルコの明快な答えにネリエルが頷いていると、警察車両のサイレンがだんだんと近づいてきた。

2台のパトカーが近くに停まり、数人の警察官が降りてくる。

 

「よう、おめーらも遅かったな!」

 

何人かは交通整理のために道路に立ち、二人の警察官がミルコの元へと駆け寄り、敬礼をした。

 

「はあ、ミルコさんが速すぎるんですよ…!ともかく、協力感謝します。そちらのひったくりは現行犯逮捕で」

「おー頼む!」

 

警察官の一人が手錠を携え、ミルコが押さえつけている男の側にかがみ込む。

 

「う゛ぅう゛…なん、だよぉ…なんで、オレが…!」

「はあ?」

 

手錠を手にかけられながら呻く男の言葉に、ミルコが鼻を鳴らした。

 

「なんでって、テメエがつまんねえことしてるからだろ。豚箱の中で反省しとけ!」

 

語気こそ荒いが、ミルコの言葉は正論だ。男は何も言い返せずパトカーへと連行されていった。

 

「じゃー後処理よろしく。ほら、バッグ渡せ」

「はい、ではよろしくお願いします」

「協力、感謝します!被害者の方は申し訳ありません、少し事情を伺いたいのですが」

「は、はいっ」

 

ネリエルがショルダーバッグを差し出すと、警察官はぴしりと敬礼して受け取る。

被害者の白いワンピースの女性は「あっ」と声を上げて、ミルコのほうを振り返った。

 

「そのっ、ミルコ!助けてくれて、本当にありがとうございます!!いつも、応援してます…っ」

「おう、サンキュな!今度からは車道に気をつけろよ!」

「はいっ!!あのっ、アナタも!ええと、ミルコのサイドキック…さん?」

 

女性は未だ『カモシカ』の状態で立つネリエルのほうも振り返った。

 

「いえ、私は…」

「コイツは職業体験に来てるガクセーだ」

「雄英高校の一年生です。ヒーロー名は、《ガミューサ》といいます」

「…あ、体育祭の!そうだ、すっごい試合してましたね!アナタも、助けてくれてありがとうございます!“個性”もすっごくカッコいい!将来はミルコのサイドキックですか?応援してますね!!」

 

ネリエルはミルコの『将来サイドキックを雇う予定はない』という言葉を思い出して否定しようとしたが、その前に警察官に声をかけられた女性は、「本当にありがとうございました!」とぺこぺこと会釈をしながら離れていってしまった。

 

「何チンタラやってんだ。早く次行くぞ」

「あ…はい!」

 

ミルコは既にひったくりの現場からは興味を無くしたような様子だ。最初のようにすぐ跳び(・・)出してはいないが、スタスタと歩き出している。

“個性”を解除して歩道へと戻ったネリエルと一応話をしてくれる気はあるようで、ミルコが少し後ろをついて歩くネリエルを振り返る。

 

「改めて言うけど、私はお前を採る気はねーぞ」

「それは、構わないんですが。ならば何故ミルコさんは私をスカウトしてくれたんですか?」

「久々にギラついてる(・・・・・・)ヤツが多かったからな!面白そうだと思って声かけただけだ。もう一票はバクゴーってヤツに入れたぜ、来なかったけど!」

 

スカウト権を持つプロヒーローはスカウトを二票まで入れることができる、という話を思い出す。

そして、ミルコからの『ギラついている』という評価に、ネリエルは首を傾げた。

 

「爆豪くんと私、ですか。そんなにギラついている(・・・・・・・)ように戦っていましたか?」

 

ネリエルは、自身が体育祭での戦いを冷静沈着に進めていた自覚がある。

多少肉体の感覚(・・)が追いついておらず、無茶と言われるようなことをした自覚もあるが、それでも行動の全ては至って合理的だったはずだ。

 

だが、ミルコはヒーローらしからぬ顔で、にんまりと笑った。

 

「戦い方の話じゃねえよ。ヒヅメ(・・・)の癖に、肉食獣みてえな目をしたヤツがいりゃあ気になるモンだろ」

「……!」

 

ネリエルは僅かに息を呑んだ。

 

『ヒヅメ』というのは俗称で、文字通り()を持つ動物の特徴を“個性”で発現できたり、異形型の“個性”としてそれらの形質を持っている者のことを指す。

ネリエルの『カモシカ』は偶蹄類であるため、まさしく該当する“個性”だ。

蔑称や差別用語というわけではないが、人によってはそうやって一括りにされることを好まない者もいる。

 

「肉食獣、ですか。初めて言われましたね」

「そうかァ?思ってるヤツは思ってんじゃねえ?」

 

言葉ではそう言いながらも、ネリエルは内心でひっそりと呟く。

 

(でも、的を得ているかもしれない)

 

“個性”としては『カモシカ』という草食動物の特徴を発現するものになっているが、ネリエルの本質は『破面(アランカル)』、ひいては『(ホロウ)』だ。

 

(ホロウ)』とは善なる魂魄を食い荒らす怪物であり、紛れもなく悪霊である。動物の性質に当てはめて考えるのであれば、『肉食獣』という表現は確かに順当だろう。

 

「…ミルコさんは、」

「ミルコでいーって。敬語も別にいらね、気にしねえし」

「じゃあ、ミルコ。ソロ(・・)でのヒーロー活動について、いくつか…」

 

聞きたいことがある、と続けようとしたネリエルの言葉は、スマートフォンからの着信音に遮られた。

 

『緊急です!!○×通りを居眠り運転と思われる乗用車が逆走中!地域担当のヒーローは対応を!!』

 

警察からの無線に組み込まれた回線らしく、この地域にいるヒーローに対して一括での応援要請だ。

 

「向こうの通りだ、行くぞ!」

「はい!」

 

すぐさま姿勢を低くし、ミルコが車道へと飛び出していく。

ネリエルもすぐに『カモシカ』へと変身しながら、それを追った。

 

無線で示された通りに辿り着くと、パトカーが何台か出動して他の一般車両を規制している。

それによって開けられた道路のほぼ中央を、フラフラと明らかにおぼつかない運転で逆走していく乗用車がいた。

 

「アレか!よし、お前、止めて(・・・)みろ!」

 

街灯の上にタンッ、と着地したミルコは、その下で一時停止したネリエルに挑発的な笑顔で指示を出した。

 

「いいの?車を潰すことになるけれど」

「この状況でアレを止めれるんなら、文句は言わせねえよ。それにヒーロー保険ぐらい入ってンだろ」

「了解。じゃあ、止めてくる」

 

ミルコとネリエルは、逆走する車両が向かってくる先に到着している。

指示に応えたネリエルは、道路の中央へと進んで四つ足をしかと踏み締めた。

 

『あー、今のとこから200メートル先でその車止める(・・・)。引きずり出す準備しとけ!』

 

ミルコの警察への指示がインカムから流れてくる。

 

フラフラとあっちこっちに揺れながら近づいてくる車体を、ネリエルは後ろ脚に力を込めながら、静かに凪いだ表情で見据えた。

 

残り数メートルで車両がネリエルに激突する、というところで前脚を思いきり張り上げる。

 

「___ふっ!」

 

完璧にタイミングを合わせ、前脚を振り下ろす。

ドガン!という轟音と共に、車両のボンネットが大きく陥没する。ネリエルはボンネットを踏みつけた姿勢のまま、わずかに後ろ脚が後退する程度で車両をその場に押し留めた。

 

『へえ、やるじゃねえか!』

 

街灯の上から見ていたのだろうミルコの声は非常に楽しげだ。

 

「窓割れてる、早くロック開けろ!」

「出せ出せ!!」

 

周囲で急停止したパトカーからは、窓を割るためのハンマーを携えた警官も何人か降りてきた。

だが、ネリエルが踏みつけた衝撃と共に車体の中ではエアバッグが膨らみ、サイドの窓も割れている。そこからロックを外してドアが開けられると、中からは高齢の男性が引きずり出されてきた。

 

「意識あるか!?」

「あります!ですが応答なし、おそらく痴呆かと…!」

「それでも連行せにゃならん、身分証探せ!」

 

警察官達がバタバタと慌ただしく動き出す。

ネリエルはボンネットから脚を下ろし、ぴょんと横に降りてきたミルコを振り返った。

 

「あー、ジイさんの暴走か。めんどくせえな!」

「最近増えてるっていう、高齢者による交通事故ね」

「下手すりゃ周り巻き込んでの大事故になるヤツだ。よくやった!」

 

遠慮のない物言いである分、褒める言葉もストレートだ。自分のことのように嬉しそうに胸を張ったミルコに、ネリエルはにこりと微笑んだ。

 

「協力感謝致します!ええと…」

「雄英高校一年、《ガミューサ》です。ここには職業体験で」

「私が目をつけた!コイツはやれるヤツだと思ってたぜ!」

 

敬礼をした警察官に、ミルコがネリエルの腰のあたりをバンバンと叩きながら前に押し出す。

ネリエルが“個性”を解いて人型になり軽く会釈をすると、警察官は何故か一歩後ろに身を引いた。

 

「あ…ああ、一応、話は伺ってます。そう、ですか、学生がこれを…」

「後処理はどうなる?」

「あっ、ええと…痴呆が疑われる高齢者のため、ひとまず警察署で取り調べと同時に保護します。本格的な捜査は、身元が判明してからになるかと…」

「おっけ、なら後はウチのサポートに引き継いでくれ。じゃあな!」

 

ミルコはあっさりと頷き、またもやさっさと現場に背を向けた。ネリエルは「よろしくお願いします」と一礼してからその後を追う。

 

「大体こういう感じだ。分かったか?」

「…ああ、ソロのヒーロー活動が、ということ?」

「そ。私は書類とかめんどくせえから、後処理は全部サポート任せだ。サポートの詳しいことなら、後でジムにでも聞いとけ!」

 

ミルコの活動方針は単純明快で分かりやすく、またネリエルの理想(・・)にも近いものだ。

 

(このヒーロー活動のやり方なら、探しやすい(・・・・・)かも)

 

ネリエルの『探し物』はあくまで個人的な事情であり、本質的にはヒーローとしての活動とは関係がない。

ネリエルとて、それによって他に迷惑をかけるのは本意ではないため、完全に分業制を確立させて活動しているミルコの動き方は非常に参考になった。

 

「にしても、今日はわりと忙しいな!」

「出動してすぐに二件も…普段は違うの?」

「まあな。でもたまにあるぜ、こういう日は。お、たい焼き!」

 

ミルコはぴこん、と長い耳を立てると、通り沿いに立つたい焼き屋に寄っていってたい焼きを二つ買い込んだ。

 

「ほら、お前もエネルギー補給しとけ!」

「わ、ありがとう!」

 

さらりと奢ってくれたあたり、どうやらミルコは面倒見は悪くないタイプらしい。

二人で揃ってたい焼きを齧りながら、歩道を歩く。

 

二、三口でぺろりとたい焼きを平らげたミルコが、「そういや」と話し始めた。

 

「今日、本当は“ステイン”を追ってみっかと思ってたんだけどな。さすがにサポートの手が回らねえってことで、こっちになったんだよ」

「…『ヒーロー殺し』」

 

『ヒーロー殺し』こと(ヴィラン)名“ステイン”については、飯田の兄でありプロヒーローの《インゲニウム》が襲撃された事件を聞き、ネリエルも詳しく調べていた。

 

「17名のヒーローを殺し、23名のヒーローを再起不能にした…」

「しかも神出鬼没、今まで何の手掛かりもねえ。私も何度か追っかけたけど、逃げ足が早えんだ」

 

“ステイン”は確かに神出鬼没だが、これまでに出現した7か所全てで、必ず四人以上(・・・・)のヒーローに危害を加えている。

だが飯田の兄ことインゲニウム拠点とする保須市では、まだインゲニウム一人しか襲われていなかった。

 

「『ヒーロー殺し』が出てくるのは、次も保須市じゃないかと言われているけれど」

「らしいな。こだわり(・・・・)が強えタイプだ」

 

ミルコがネリエルを見てニヤッと笑う。

 

「いざとなりゃ保須市に跳んで(・・・)いく。覚悟しとけよ?」

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