ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語   作:猫禰捏涅

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2.入学初日②:体力測定《1》

「最下位除籍って…!入学初日ですよ!?いや初日じゃなくても…理不尽すぎる!」

「自然災害…事故…身勝手な(ヴィラン)たち…いつどこから来るかわからない厄災、日本は理不尽にまみれてる。そういう理不尽(ピンチ)を覆していくのがヒーロー」

 

麗日から上がった抗議を、相澤が淡々と否定していく。

 

「放課後マックで談笑したかったのならお生憎。これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。“Plus Ultra(さらに向こうへ)”さ。全力で乗り越えてこい」

 

「…これが『ヒーロー科』かあ。厳しいわね」

「厳しすぎるよぉ…」

「きっと大丈夫よ!頑張ろ、お茶子ちゃん」

「うぅ〜…」

 

麗日の他にも顔を青ざめさせている者は数名、特にあのモサモサ黒髪の男子生徒は顔色が酷い。

大丈夫かな、と思いつつネリエルは最初の種目の場所へと歩いていく。

 

個性把握テストの最初の種目は『50m走』だ。

二列のレーンが二つあり、相澤から出席番号順にペアになってそれぞれに並ぶよう指示が出たが、ネリエルはそこで挙手をした。

 

「先生、私は最後にしてもらってもいいですか?一人で走るので」

「お前は…そうか、分かった。最後尾に並んどけ。他の奴らは順に詰めろ」

「ありがとうございます!お茶子ちゃん、また後で」

「あ、うん!」

 

ネリエルは麗日の隣を離れ、最後尾に向かう。列の横を通り過ぎていると、眦を吊り上げた爆豪がそれに噛みついた。

 

「あ゛!?ンであいつだけ特別扱いだよ!!」

「見てりゃ分かるからさっさと並びなおせ。始めるぞ」

 

出席番号が初めの四人がレーンに並ぶ。

 

『ヨーイ…START!!』

 

ロボットの号令と共に、一斉にスタートを切る。

 

「わ、皆速い!」

 

特に速かったのは、ふくらはぎに金属筒がついた眼鏡の男子生徒だ。筒から噴出する爆風が男子生徒の体を前へと押し出して加速させており、記録は『3秒04』と現時点で最速である。

腹のベルトから光線を出してその反動で飛んでいた金髪の男子生徒もそこそこの速度を出せている。

ピンク色の髪と肌の女子生徒と、蛙飛びで走っていた女子生徒も、元の身体能力が高いのかかなりの速さだった。

 

「次」

「あ、お茶子ちゃん。頑張れー!」

 

麗日がスタート位置についたのを見て、ネリエルが声を張り上げる。麗日はそれにはにかみつつ、ぽんぽんと手で服や靴に触れてからスターティングブロックに脚を置いていた。

 

「あ、そういえばどういう“個性”か聞いてなかった」

「オイラの横にも……後ろにも……」

 

一人で並ぶネリエルの斜め前にいる小柄な男子生徒が、八百万とネリエルの間で視線を彷徨わせながら何やら呟いている。

 

(たぶん、触れたものを軽くするとか、浮かせるとかだと思うけど…)

 

「ひ〜〜〜!」

『7秒15』

 

猿のような尻尾が生えている男子生徒から少し遅れて、麗日がゴールする。他にも金髪と赤髪の男子生徒が走っていたが、残念ながら麗日が一番遅れてのゴールだった。

 

「次。とっとと並べ」

 

相澤に急かされ、列が次々に進む。その間、ネリエルの前に並んでいる八百万がジャージの袖を捲り上げて、皮膚から何かをポコポコと生み出していた。

 

「モモちゃん、それ何?」

「補助ソール付きの運動靴ですわ。スプリングが入っているので走りが速くなりますの」

「へえ〜、やっぱりすごいねえ!」

「ありがとうございます。ですが、走力では貴女の“個性”には到底敵いません。早速使われるのでしょう?」

「もちろん。あっそうだ、ズボン脱いでおかないと」

「ズっっっっ脱っっっ!!?」

 

小柄な男子生徒が珍妙な悲鳴を上げる。

ネリエルはジャージのズボンに手をかけて引き下ろし、その下に履いていた淡いグリーンのショートパンツ姿になった。ネリエルの“個性”に合わせて作られた特別な服であり、実は運動靴と靴下も同じく特別なものだ。

 

「あっあああああ脚…!!!太もも…!!!」

「お前ら早く位置につけ。除籍にするぞ」

「はっはぃいいいい!!」

「頑張ってねモモちゃん!」

「はい、行って参りますわ」

 

靴を『創造』したものに履き替えてスタート位置につく八百万を見送り、ネリエルは脱いだズボンをどうしようかと少し迷ってから、ウエストが後ろに来るようにして脚の部分を腰に回し、ぎゅっと結んでおく。

 

前の四人で一番速かったのは爆豪で、爆風で空中を飛んで『4秒13』という記録を出していた。眼鏡の男子生徒に次いで、現時点で二位である。

 

「やっぱりすごい“個性”ね!」

「最後、オーデルシュヴァンク。“個性”使うなら早よしろ」

「はーい」

 

相澤に返事をしつつ、ネリエルは自身の“個性”を発動させる。

 

ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが前世で破面(アランカル)___悪霊だった時の能力、帰刃(レスレクシオン)

理性を得た悪霊が破面(アランカル)であるならば、帰刃(レスレクシオン)は理性なき『獣』であった時分の力を取り戻すことだ。

 

そして、人間として新たな生を得たネリエルに宿った“個性”『カモシカ』は、彼女をそのかつての姿に近いものへと変身させる。

 

「え……?」

「なんか毛が生えてく!!」

 

足の関節が変形し、薄緑の体毛に覆われていく。腰の後ろ辺りから胴体が肥大化していき、上半身は人間のままで下半身が完全に四足へと変化する。

特別にネリエルの体毛から作られたショートパンツに靴と靴下は四足の体毛と完全に同化した。

後ろ脚の蹄が重い音を立ててグラウンドに着地し、土埃が大きく舞い上がる。

 

ついでに、人型の時は指先程度の大きさで耳の上から生えていた小さな角も大きく、長く伸びている。かつての帰刃(レスレクシオン)時と違うのは角はあるが髑髏の仮面は存在しないこと、鎧や武器が顕現しないことである。

 

「へ、変身ンンン!!?」

「デ…カくね!?」

「すげー!ケンタウロスみてー!」

「そっか、だから一人で!」

 

クラスメイト達から口々に驚愕と納得の声が上がった。

 

“個性”により変身したネリエルは地面から頭までが約2mとなり、強い筋力を携えた四足の横幅は人型時の二倍以上となる。

50m走でネリエルが一番最後に走ることを希望したのは、隣で人間に走られると跳ね飛ばしてしまう可能性が高いためだった。

 

「よい、しょ」

 

この姿のネリエルの体重は200kg近い。蹄の硬さも鍛錬により鉄以上の硬度となっているため、スターティングブロックを踏んで壊さないように気をつけながらスタート位置につく。

前脚を少し屈め、人間のままの上半身は前傾姿勢をとる。

 

『ヨーイ…START!!』

 

ド、と轟音がグラウンド中に響き渡る。

ネリエルがゴールラインに到達するのは一瞬だった。

 

『ピピ…2秒52!!』

「な……!僕より速いだと!?」

 

ここまでトップだった飯田 天哉より速いタイムが出た。

 

(さすがに短距離走では負けていられないものね)

 

『カモシカ』の“個性”は、前世と同じく瞬発力に優れている。

大人げないかもしれないとは思いながらも、ネリエルは“元”破面(アランカル)として、この“個性”を持つものとして、短距離では負けられないというプライドがあった。

 

「く…!まさかぼ…俺が走力で負けるとは!やはり上には上がいるということか、流石は雄英高校だ!君、俺は飯田天哉という!君の名前を聞かせてもらってもいいだろうか!」

「もちろん。私はネリエル・トゥ、オーデルシュヴァンク。ネリエルか、ネルって呼んでくれたら嬉しい!」

「ネリエルくん!君とはぜひよきライバルとして切磋琢磨がしたい!よろしく頼む!」

「ええ、ぜひ。よろしくね」

 

“個性”を活用して猛スピードで駆け寄ってきた飯田は、ひたすらに真面目という印象で、記録を抜かされたにも関わらず悪感情は見えない。

 

「素晴らしい走力だな!俺の“個性”は『エンジン』なんだが、君の“個性”は?」

「『カモシカ』よ。脚が四足になって、全体的に筋力も増すわ」

「なるほど…!カモシカというと偶蹄類だな。速いのも納得だ」

「特に瞬発力があるから、一歩目からトップスピードに乗れるの。あとは歩幅かな」

「そうか…」

 

少し悔しげな表情でネリエルの脚をまじまじと観察する飯田に、ネリエルはにこりと笑いかけた。

 

「でもあなた、最高速度は出せてなかったでしょう?」

「! ああ!俺の『エンジン』はまだあんなものじゃないぞ!」

「そうよね。お互い頑張ろ!」

「もちろんだ!」

「ネリエルちゃん、すごーい!!」

「あ、お茶子ちゃん」

 

駆け寄ってきた麗日が、頭一つ分から変身して三つ分は上になったネリエルの顔を見上げてぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 

「どういう“個性”なん!?」

「『カモシカ』よ。筋力も増えて力持ちにもなってるの。私もお茶子ちゃんの“個性”すごく気になる!」

「あっ、言うてなかったっけ!?私はね、『ゼログラビティ』!指先の肉球を揃えて触れたものの引力をね、ゼロにできるんよ」

「えっ、すごい!本当に素敵な“個性”ね」

「えへへ、いやそんな、ありがとう!」

 

ネリエルにストレートに褒められ、麗日が頭を掻く。

 

(本当にすごいわ。私が触れられたら何もできずに浮かされちゃうもの)

 

「麗日さんの“個性”はそういったものだったのですね。私の“個性”は『創造』ですわ。組成と構造を理解しているものであれば、自身の脂肪から作り出せますの」

「え…っ!?本当にすごい“個性”だね!!?」

「すごいよねえ、モモちゃん。頭もいいんだもの」

「ありがとうございます。あら、次は体育館に移動するんですのね」

「早よ」

 

相澤が生徒達を先導し、グラウンドに併設されている体育館へと向かう。

ネリエルは“個性”を一旦解除しようとし___麗日の視線に気づいて、優しく微笑んだ。

 

「ふふ、乗って行く?」

「……えっ!?いいの!!?」

「ええ、もちろん。モモちゃんもよかったらどうぞ?」

「わっ、私もよろしいんですの?」

「女の子二人ぐらいどうってことないよ!」

 

麗日の視線は明らかに、人は乗せられるのかな?と思っていたそれだった。八百万は控えめに佇んでいるだけだったが、やはり気になってはいたようで、ネリエルの提案に期待を隠しきれていない。

 

「じゃあ先にお茶子ちゃんね。私が腕を持って引き上げるから、脚はそこに置いて」

「だ、大丈夫?」

「全然平気よ。はい」

「ありがとう…!」

 

ネリエルは二人に対して体を横向きにし、前脚を一本内側に折り曲げる。麗日の足をそこに置かせ、腕に自身の腕を引っ掛けて一気に体を持ち上げ、背中に跨らせた。

 

「わ、!!?」

「ほら、大丈夫でしょ?」

「すっ…すごーい!私、こういうの初めて!」

「ふふ、どう?」

「景色がいいです!」

「あははっ!」

 

麗日は興奮で頬を紅潮させながらきょろきょろと周りを見渡している。

 

「モモちゃんも、はい!」

「では、麗日さんの後ろに乗りますわ。体毛を掴んでもよろしいでしょうか?」

「体重かけても全然痛くないから、気にしないで」

「ありがとうございます。よ、っと」

 

八百万は片足を曲げた前脚に乗せ、ネリエルの背中の毛を掴んで体を引き上げることで、ほとんど自分の力だけで背中に跨った。

 

「お、経験者の乗り方ね」

「ええ、乗馬の経験はいくらかございますので」

「八百万さん、すごいね!?」

「じゃあモモちゃん、お茶子ちゃんを後ろから支えてあげて。腰に結んでるズボンを掴んでいいから。皆からちょっと遅れちゃった分、速足で行くね」

「わかりましたわ!」

「しゅっぱーつ!」

「おー!!」

 

ネリエルは八百万がズボンを掴んで手綱のようにし、麗日を後ろから支えているのを確認してから足を進めた。

50m走の時に見せた爆発的な加速はせず、ゆっくりと踏み出して徐々に人間が走る程度の速度にしていく。

 

「わ、すご、けっこう揺れる!」

「馬に乗る場合もこのぐらいですわ。むしろ、ネリエルさんのほうが安定していますわね」

「そうなんや!?」

「はい、到着!」

「あっ早い!!」

 

相澤と他のクラスメイト達はほとんど体育館に到着しており、三人は最後尾になったがそれでも普通に歩くよりずっと早い到着だった。

ネリエルは体育館の玄関に着くと前脚の膝を折り、二人が降りやすいように体を低くする。

 

「ありがとうネリエルちゃん!めちゃくちゃ楽しかった!」

「それならよかった!」

「私まで、ありがとうございました。とても快適でしたわ」

「いえいえ〜」

 

ネリエルは“個性”を解除する前に、玄関に用意されていた雑巾でよく蹄を拭いてから普段の姿へと戻る。

普通はガイダンスで渡されるであろう用具の体育館シューズが名前の書かれた袋で用意されていたため、それぞれ靴を履き替えて体育館へと上がった。

 

「いいなあ…」

「ヤベェ、超楽しそうなんだけど!?」

「二人も人を乗せて軽々と走れるとは!」

「乗せたの女子とはいえすごいな」

「ハッ……背中に乗ったら自然にバックハグができる……!!!?」

 

三人の様子を見ていたクラスメイト達が羨ましそうにしている。

 

「次、握力測定だ。早く来れたんなら早よしろ」

 

相澤が全員に握力計を次々に渡している。器具の数が大量で、一人一人に行き渡るほどあることが雄英の資金の潤沢さを表しているといえるだろう。

 

「全員分あるんすご…」

「お茶子ちゃんモモちゃん、これどうやったらいいの?」

「えーと、腕を下にしてこう!」

「手の力だけで握ることで握力を測るものですわ」

「へー…」

「? どうしたの、ネリエルちゃん」

 

ネリエルは渡された握力計をじっと見つめてから、相澤のほうを振り返った。

 

「……先生、握力計って手だけですか?」

 

生徒達から記録を聞いて端末に入力していた相澤が呆れた顔をする。

 

「手だけに決まってるだろ。おまえ上半身は人のままなんだからそっちでやれ」

「うーん、脚の関節でやれたらめちゃくちゃいい記録出るはずなのに…」

「それはもう握力じゃないと思うよ…」

「そっか、それなら仕方ないね」

 

ネリエルは納得して頷き、しかし全体的に筋力が増えるので“個性”を使うことにする。

体育館シューズもネリエルの“個性”に対応しているので、そのまま“個性”を使って四足になり、麗日と八百万がやっているところを見様見真似で握力計を握った。

 

「いくつでしたか?」

「えっと、64って出てる」

「64キロ!?すご!」

「平均の2、3倍ですわね!」

「終わったんなら次、また外で立ち幅跳びだ」

「はあい」

 

握力計がさっさと回収され、来たばかりにも関わらずまた外へ出るように急かされる。麗日と八百万の記録も終わってから、休む間もなく体育館の外へ出た。

立ち幅跳びを行っている列に並びつつ、ネリエルは四足に変身して上体を屈め、前に並ぶ麗日からやり方の説明を聞いていた。

 

「なるほど。じゃあこのままやってよさそうね」

「うん、思いっきり跳んじゃって!」

 

次々とクラスメイト達が大きく跳び、砂の上に着地していく。ネリエルの順番が回ってくると、先に跳んでいた長い黒髪の女子生徒が前で手を挙げた。

 

「ケロッ。私、記録を見ておくわ」

「ありがとう!じゃあ行きまーす」

 

助走はせず、その場で立った状態から腕を振って跳ぶのが立ち幅跳びだ。しかしネリエルは四足の下半身をぐっと縮め、腕は振らないまま___ドン!と強く脚を踏み切り、一息で大きな距離を跳んだ。

 

「…後ろ脚で7.8m、前脚だと9.4mね。すごいわ」

 

砂場には目盛りがついており、長い黒髪を蝶々結びのようにした女子生徒は、ネリエルの前脚と後ろ脚のどちらの記録も告げてくれた。

 

「ありがとう!この場合ってどっちになるのかな?」

「お尻をついちゃった場合はお尻のところになるから、後ろ脚のほうになるんじゃないかしら」

「そうなんだ、ありがと!私、ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクよ。ネリエルかネルって呼んで。あなたは?」

「ケロッ、私は蛙吹梅雨よ、梅雨ちゃんと呼んで。あなたのことはネルちゃんって呼んでもいいかしら」

「もちろんよ、梅雨ちゃん!」

 

蛙吹はあまり表情が変わらないが、それでも可愛らしい人であることはすぐに分かる。ネリエルはまた友人ができたことが嬉しくなり、“個性”を解除して蛙吹に近づいた。

 

「ケロケロ。私の“個性”は『蛙』なのよ。蛙っぽいことならだいたいできるわ。あなたの個性と少し似ていると思ったの」

「確かに似てる!私のは『カモシカ』、カモシカっぽいことならだいたいできるのも一緒ね」

「ケロッ、やっぱりそうなのね。違うのは私は『異形』で、あなたのは『発動』のところかしら」

「そうね、私は意識しないと“個性”は使えないから」

 

「おーい、次反復横跳びだって!」

「あちらですわ」

「わかった!梅雨ちゃんも一緒に行こう」

「ええ、行きましょう」

 

麗日と八百万に声をかけられ、次の種目のためにラインが引かれているところへと向かう。

 

「初めまして、私、蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

「梅雨ちゃん!麗日お茶子、私もお茶子でいいよ!」

「八百万百と申しますわ。お好きに呼んでくださいませ」

「ケロケロ。お茶子ちゃん、百ちゃん、よろしくね」

「ちょうど四人になったから、二人ずつでやろ!」

「あっ、ごめん…コレもどうやったらいいか教えてもらえる?」

 

ネリエルが尋ねると、蛙吹が首を傾げた。

 

「ケロ?やったことがないの?」

「うん。このラインを使うの?」

「そうよ。じゃあ、先に私がやりましょうか」

「あ、じゃあ私数えるね!」

「ありがとう」

 

蛙吹が手本を見せるために三本あるラインの中央を跨いで立つ。麗日が置いてあったタイマーが20秒にセットされていることを確認し、「行くよー」と声をかけた。

 

「よーい、スタート!」

「ああやってサイドステップを踏み、三本のラインをそれぞれ超えるごとに1と数えるのですわ」

「へえ〜!それを20秒間はけっこうしんどそうね」

「全力でやるとかなり疲れますわね。…ところでネリエルさん、この種目では“個性”は使われますの?」

「それなんだよね…」

 

八百万の疑問に、ネリエルは唸り声を上げた。

 

「う〜ん…どうしようかな。見た感じ四足には…対応してないような気がする」

「そう…ですわね……」

「はい、終わり!梅雨ちゃん、57!すごいねえ!」

「ケロッ、素早さにはけっこう自信があるのよ」

 

蛙吹はそう言ったとおり、ほとんど息を上げておらず得意げな顔をしている。

 

「ひとまず私と麗日さんでやりましょうか。それぞれ数えていただけますか?」

「分かったわ」

「オッケー!その間にちょっと考えておく」

「四足でやるかどうかよね。難しいわね」

「そうなんだよ…」

 

麗日はまた服と靴にポンポンと触れ、それらを無重力状態にして重さを無くす。

八百万は袖を捲り、反射板のようなものを二つ作り上げて左右のラインの外側に置いていた。

 

「それじゃあ始めるわね。よーい、スタート」

 

タイマーが押され、二人がステップを踏み出す。ネリエルは八百万がラインを跨いだ数を「1、2、3…」と数えつつ、自身がやる時のことも考えていた。

 

(四足でサイドステップをそもそもやったことないかも…?)

 

「はい、終わり」

「っはー!けっこう疲れるよね、これ!」

「そうですわね。補助に反射板を作りましたが、それでも疲れますわ」

「お茶子ちゃんは47回よ」

「ありがとう梅雨ちゃん!」

「モモちゃんは55回!」

「ありがとうございます。ネリエルさん、どうされますか?」

「…私、一度四足でやってみる!」




○ネリエル
“個性”は『カモシカ』。下半身が四足歩行のカモシカの体になる。
今の所できるのは現実のカモシカに準じたことだが、筋力はトレーニングによってかなり増えている。
厳密にどの種類のカモシカとかはないが、ニホンカモシカのような小型種ではなく、大型のカモシカのほうが特徴が近い。

○相澤先生
「オーデルシュヴァンク」呼びが長いので、効率的じゃないかもと思い始めている。
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