ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語   作:猫禰捏涅

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32.救助訓練レース②

『ラストの組だ!では……START(スタート)!!!』

 

オールマイトのアナウンスと同時に、工業地帯の奥でチカッ、チカッとライトが光るのが見えた。

 

「ん!」

 

光は入り組んだ建物の奥から発されており距離が計りにくいが、ネリエルはすぐさま“個性”を発動する。

 

だが、200kgを超える巨体の『カモシカ』では、密集した建物の間を通るのは難しく、上を行こうと工業用のパイプやそれほど頑丈でないタンクに飛び乗れば、事故は免れない。

 

「はっはァ!!俺が先だ!!」

 

ボボボッ、と手のひらから『爆破』を発動して、爆豪が飛び上がる。

滞空できるのであれば、建造物もパイプも無視するのは当然の選択だ。

 

「ほ、っ!」

 

そして、空中で勝ち誇った顔をしている爆豪を、ネリエルはタンッ、と、ひとっ跳び(・・)で追い抜いた。

 

「は!!?テメ…っ、スカシ女ァ!!」

 

爆豪の怒声が背後から追いかけてくる。

ネリエルはちらりとそれを確認しつつも、二本足(・・・)での跳躍を制御することに、意識の大部分を割いていた。

 

(…っ、やっぱり、まだ慣れない!!)

 

ネリエルが習得した新しいこととは、“個性”による変身を途中までで止めることで、二本足のまま(・・・・・・)途中からだけ(・・・・・・)『カモシカ』の脚になる、という技術だ。

 

メリットは、体重が少ししか増加しないため、身軽な人型を保ったまま強靭な『カモシカ』の脚力を得られることである。

対して、筋肉量が減る分、どうしても四足の時よりもパワーが落ちることがデメリットだ。

 

動きについて参考にしているのは、当然ながらミルコである。

職場体験の後半はかなり平和だったこともあり、彼女の姿勢制御、腕の使い方、足場の選び方など、吸収できそうなものは全て吸収しようと、ネリエルはミルコの動きに必死で食らいついていた。

 

「_____クソっ、待てや、クソが…!!」

 

怒鳴る爆豪との距離を引き離し、無駄のない動きで適切な足場を選びながら、救難信号が発された場所へとほぼ一直線で向かう。

 

「っよし!」

「ネリエル少女!?」

 

ものの数十秒でゴール地点の建物の屋上に着地すると、オールマイトが驚いた表情でネリエルを出迎えた。

 

「これは予想外だ、そんなことができるようになったのかい!?」

「はい!ミルコからヒントをもらって、二本足で『カモシカ』を使えるようになったんです。パワーはどうしても落ちるんですけど」

「なんと…!素晴らしい、人型の体格と『カモシカ』の脚力の良いとこどりというわけだね!ではネリエル少女、これを受け取りたまえよ!」

「わ!」

 

オールマイトがバッ、とタスキを取り出し、「助けてくれてありがとう!」とにっこりと笑いながらネリエルに被せる。

 

そこに爆発音と共に爆豪が着地し、そのすぐ後に、建物やパイプを氷の足場で繋げ、その上を滑走してきた轟が到着した。

 

「クソがぁあああ…!!」

「オーデル、すげえな。それ新技か?」

「うん。パワーは落ちるけど、体が軽い分跳躍力がけっこう上がるんだ」

 

轟と穏やかに話すネリエルを睨みながら地団駄を踏み、ボボッ、と手のひらから『爆破』を出している爆豪を、オールマイトが「爆豪少年!」と宥める。

 

「君も素晴らしい空中起動だったよ。より無駄な動きを無くすことができれば、もっとタイムは上がるさ!」

「一着じゃなきゃ意味ねンだよ、オールマイト…!!!」

Oh(オウ)…そうか、すごい向上心だ!轟少年は、建物の被害も考えて炎は使わず、氷だけにしていたのがよかった!次は足場の選び方をよく考えていこうな!」

「分かりました」

 

少しして障子が『複製腕』から腕を何節も伸ばして手すりを掴み、体を引き上げてゴールする。

最後に、上鳴がひいひいと言いながら梯子に手をかけ足をかけて、屋上に登ってきた。

 

「…流石、早いな」

「ひ〜!俺こういうのダメだあ!」

「障子少年、“個性”の使い方が上手くなってきているな!これからもどんどんそこを伸ばすといいぞ!上鳴少年は……うん!地の体力を鍛えるのと、何かサポートアイテムを考えるのもアリだ!何でも相談に乗るからね!」

「はい」

「うはぇ〜い…」

 

講評を終え、授業の終了時間も近いためか、オールマイトが「では、待機場所に戻ろうか!」と急いでいる様子で先導する。

ネリエルは、ゴールしてすぐにまた戻ることになり、へばっている上鳴に近づいた。

 

「上鳴くん、大丈夫?運ぼうか」

「っい、いや!さすがにそれは情けねえよ、自分で歩く!」

「そっか。じゃ、頑張ろ!」

「おうよ!」

 

いくらか息を整えた上鳴が、ネリエルの提案は断って歩き出す。

待機場所では、オールマイトと共に四組目のメンバーが戻ってくるのを他のクラスメイト達が首を伸ばして待っていた。

 

「ネリエルーっ!何あれー!?」

「新技か!?ぽんぽん跳ねててヤバかった!」

「すごいよネリエルさん!『カモシカ』と人型のハイブリッドだよね!?」

「やっぱあの動きってミルコ?」

 

目を輝かせながら口々に質問してくる友人達に取り囲まれる。

ネリエルが習得した新しい技のことを説明すると、あちこちから感嘆の声が上がったが、オールマイトが少し気まずそうに咳払いをした。

 

「あー、君達?」

「あ、すみませんオールマイト」

「いや、気持ちは分かるとも!だがそろそろ総評をせねば!」

 

ようやく落ち着いた生徒達が、オールマイトの前に集合する。

 

「今回は、職場体験を通した皆の成長がよく分かった!これからも、ヒーロー基礎学ではインプットだけでなくアウトプットも大事にしていくぞ!」

 

オールマイトはA組の生徒達を見回して力強く頷く。

 

「皆も、自分の得手不得手を感じられたと思う!長所はもちろん伸ばして、短所はどうしたら埋められるかを考えよう!」

「はい!」

「よし!では解散!よく体を休めなさいね!じゃっ!」

「ありがとうございました!!」

 

オールマイトはサッと手を挙げ、猛スピードで去っていく。

 

(マッスルフォームの限界かな?)

 

トップヒーローが忙しくしているのは当たり前として誰も疑問に思ってはいないが、ネリエルはオールマイトの事情を内心である程度察していた。

 

「緑谷もやばかったけど、ネリエルも進歩やばいねー!」

「アレいいね、やっぱ小回りきく感じ?」

「うん!あとは、自分の重さをあんまり気にしなくてよくなったよ」

 

更衣室で着替えながらの話題はやはり大きな成長を見せた緑谷とネリエルのことになった。

ネリエルはミルコの破天荒さを思い出しつつ、新技を使えるようになった経緯を話す。

 

「実は、似たようなことは前からやってたんだけどね」

「え、そうなの?」

「うん。私は“個性”を使うと、全体的に(・・・・)筋力が上がるんだけど、上半身の見た目はほとんど変わらないでしょ?だから少しだけ腕とか肩の力を強くしたいなって時、そこだけ“個性”をちょっと使うみたいな感覚でやってたの」

「あーね!便利そうじゃん」

 

ネリエルは頷き、両手でビンの蓋を開ける時の動作をしてみせた。

 

「便利だよ、蓋が開かない時とか。それをミルコに話したら、『じゃあ脚のほうでもちょっと使うとかできんじゃね?』って言われて」

「で、やってみたらできたと!」

「そうそう」

「あれ、待って…」

 

コスチュームを脱いで制服に着替え始めていた耳郎が、何かに気づいた様子でふと顔を上げる。

 

「どうかされましたか、耳郎さん」

「なんか、不穏な会話が聞こえる…」

「え?」

 

顔を顰めた耳郎の言葉に、女子生徒達は着替える手を止めて耳を澄ませた。

 

「___そうさ!わかるだろう!?女子更衣室!!」

 

「峰田だ」

「また不埒なことを言ってるわ」

「うわ、絶対コレじゃん!穴空いてる!」

「本当ですか!?」

 

やたらと峰田の叫び声がクリアに聞こえると思ったら、隣の男子更衣室と接する壁に、ごく小さな___それこそ覗きこむためにあるような穴が空いていた。

耳郎が険しい表情でその近くに『イヤホンジャック』を突き立てる。

 

「オイラのリトルミネタはもう立派なバンザイ行為なんだよォォ!!ネリエルのダブルメロン!!八百万のヤオヨロッパイ!!芦戸の腰つき!!葉隠の浮かぶ下着!!」

 

聞こえてきた叫び声に女子生徒達が顔を歪め、それぞれの体をジャージや腕でサッと隠す。

 

「麗日のうららかボディに蛙吹の意外おっぱァアアア_____」

 

ヒュッ、ともう片方の『イヤホンジャック』がしなる。

 

「あああ!!!!」

 

ごく小さな穴を正確に狙いすまし、『イヤホンジャック』の先端が壁の向こうへ突き刺さる。

穴を覗き込んでいたのだろう峰田が目から爆音を流されて悶絶し、悲鳴が壁の近くから遠ざかった。

 

「ありがと、響香ちゃん」

「何て卑劣…!!すぐにふさいでしまいましょう!!」

 

耳郎は峰田を制裁した後、何故か少し落ち込んだ様子でネリエルの隣に戻ってきた。

入れ替わりに、八百万が壁の補修剤とヘラを手の中に『創造』し、穴にしっかりと塗り込みにいく。

 

「ありがとね」

「ん。ネル、早くシャツ着なよ」

「うん。……メロンって、私の髪色にかけてたのかな?」

 

ネリエルは、白いレースのブラジャーに包まれた自分の胸を見下ろしながら呟く。

 

「そんなん気にしなくていいから!!」

「そうよ、ネリエルちゃん。あんなもの耳に入れるべきじゃないわ」

「ごめんなさーい」

 

耳郎と蛙吹に怒られ、ネリエルはくすくすと笑いながら首をすくめた。

 

「返事が軽いんだもんなあ」

「まーネリエルは強いし、なんかあっても大丈夫って思ってるのかもだけどさ!」

「ネリエルちゃん、それでも気をつけたほうがええよ…?」

「ネルちゃん美人なんだからさー!」

「警戒しておくに越したことはないわ、ケロッ」

「防犯グッズが必要でしたら、仰ってくださいまし」

「それを言うなら皆もだよ!あっモモちゃん、防犯グッズはちゃんと持ってるよ、ほら」

 

普段から持ち歩いている___というよりも、ペッシェとドンドチャッカによくよく言い含められて持ち歩くことにしている、小さな催涙スプレーの缶をポケットから取り出して八百万に渡す。

『創造』の“個性”を持つが故の癖なのか、八百万は缶を回して成分表示を読んだ。

 

「内容量は少ないですが、成分が良いですわね」

「一回きりのやつだよ。今のところ使ったことはないんだけどね」

「それが一番ですわ」

 

八百万から返された催涙スプレーを、しっかりとブレザーのポケットに収める。

 

「…というかモモちゃん、もしかして催涙スプレーも創れるの?」

「ええ、もちろん。よく使われる催涙成分の化学構造式や、スプレー缶の構造は頭に入っておりますわ」

「うわ〜!本っ当にすごいね!」

「ヤオモモって理論上は何でも創れるってことでしょ?ヤバいよね!」

「頭良くなきゃ使えない“個性”だよー!」

「本当に尊敬するわ」

 

心底感心したネリエルと女子生徒達から口々に褒められ、八百万は頬を赤くしながらも胸を張った。

 

「とっ、当然ですわ!ヒーローを目指すものとして、これぐらいはできなくては!」

「おお〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー…そろそろ夏休みも近いが、もちろん君らが30日間、一か月休める道理はない」

 

ある日のHR(ホームルーム)、相澤が教壇に立って徐に話し始める。

 

「まさか…」

「夏休み、林間合宿やるぞ」

「知ってたよーーーやったーーー!!!」

 

相澤の宣言に、クラス中が一気に浮き足立つ。

 

「肝試そー!!」

「風呂!!」

「花火」

「風呂!!」

「カレーだな…!」

「行水!!」

「自然環境ですと、また活動条件が変わってきますわね」

「いかなる環境でも正しい選択を…か。面白い」

「湯浴み!!」

「寝食皆と!!ワクワクしてきたぁあ!!」

 

「ただし」

 

相澤の睨みに今度は一気に静かになる。

 

「その前の期末テストで、合格点に満たなかった奴は…学校で補習地獄だ」

「みんな頑張ろーぜ!!」

 

切島が拳を握りながら全員を鼓舞する。ネリエルも「おー!」と笑顔で拳を突き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒーローの卵達が華やかに夢への道を進む傍らで、『悪意』が溢れ始める。

 

「ヒーロー殺し_____捕まるとは思わなかったが、概ね想定通りだ。彼と(ヴィラン)連合の間の繋がりを匂わせることができた」

「なかなかに危ない橋じゃったがのう」

 

いくつもの機材が並べられた薄暗い部屋の中で、白い光を放つモニターの前に腰掛けたスーツの男が、ザラついた低い声で愉快そうな笑い声を響かせた。

 

「フフ……悪い癖とは、なかなか治らないものだね。色々と手回し(・・・)に苦労させられた」

「まったくじゃ!」

 

スーツの男の言葉に、小柄な人影が深く頷く。

 

「あのヒーローに跳んで(・・・)こられては、少々厄介だったからね。まさかそこにあの子がいるとは、僕も予想外だったけれど」

 

男が見ているモニターの画面には、雄英高校襲撃事件の主犯たる、『手』の(ヴィラン)___死柄木弔の姿が映し出されている。

さらに別のモニターに表示されているのは、ラビットヒーロー《ミルコ》の写真と共に、彼女の活躍を称える記事だ。

 

『ヒーロー殺し』こと“ステイン”についての大量の記事に埋もれかけているが、それでも現時点で女性ヒーロートップの人気を誇るミルコの記事は、多くのアクセス数を得ていた。

 

また、その隣で明らかな強“個性”の『カモシカ』を披露し、職業体験にも関わらず様々な活躍をしてみせた、ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク_____《ガミューサ》も、その美貌も相まって世間からの注目が殺到している。

元々、雄英高校体育祭の時から話題になっていた生徒だが、さらに固定のファンまで出来てきている状態だ。

 

「彼女も、死柄木弔と直接相対した一人。今のところは、優秀なヒーロー候補として知られ始めているが……」

「うん?そうではないというのかね?」

「さあ、どうかな」

 

心底楽しそうな笑いを含ませ、男の声は続く。

 

「オールマイトを初め、ミルコや他の正統派(・・・)のヒーローでなく、No.2(エンデヴァー)だったのもいいね。あの男はファンも多いが、アンチも膨大だ」

「うむ。まあ、ワシも『脳無』をエンデヴァーと戦わせて耐久性のデータを取れたから、良しとするわい」

「ここからは…暴れたい奴、共感した奴…様々な人間が、衝動を解放する場として(ヴィラン)連合が求めはじめる。死柄木弔は、そんな奴らを統括しなければならない立場となる!」

「出来るかね、あの子供に。ワシは先生が前に出た方が事が進むと思うが…」

「ハハ…では早く体を治してくれよ、ドクター」

 

軽い調子でそう言う男の顔には目も鼻も存在しない、不気味な風貌だ。体には無数の管が繋がっており、呼吸すらも喉に取り付けられたチューブで補助されている。

ドクターと呼ばれた小柄な人影が、やるせ無さそうに首を振った。

 

「『超再生』を手に入れるのが、あと5年早ければなあ…!傷が癒えてからでは意味のない、期待はずれの“個性”だった」

「いいのさ!彼には苦労してもらう!次の“僕”となる為に」

 

男が顔の中で動かせるのは口だけだ。

だが、まるで見えているかのように断言する。

 

「あの子はそうなり得る___歪みを生まれ持った男だよ」

 

 

 

「今のうちに謳歌するといいさ、オールマイト。“仮初の平和(茶番)”をね」

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