ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語   作:猫禰捏涅

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36.林間合宿:1日目①

「指名手配の、(ヴィラン)…!?」

「そんな!」

 

何度も繰り返されるアナウンスと共に、あちこちから警備員が駆けつけ、外に繋がるドアから警察官が駆け込んでくる。

(ヴィラン)の出現という情報に群衆がパニックになる前に、避難のための声かけが始まり、館内の客が外へ出るよう誘導されていく。

 

「私たちも行こう」

「あれ、麗日からメッセ……!?ちょ、これ見て!」

 

耳郎が見せてきたのは、麗日がA組のトークグループに送ってきたメッセージだった。

焦っていたのかいくつか誤字があるが、内容は麗日の現在地と『緑谷が死柄木弔と遭遇した』というものだ。この騒動の中心は緑谷だったらしい。

 

(ヴィラン)連合の…!!」

「外だ。早く行こう!」

 

走り出そうとしたネリエルと耳郎を、八百万が止める。

 

「いえ、お待ちくださいませ。焦って走るのは怪我に繋がりますわ」

「っ、そっか。ごめん、モモちゃん」

「確かにそうだね…」

「他の方のパニックも誘発してしまうかもしれません。警察が来ているのですから、そちらの指示に従いましょう」

 

冷静な八百万の言う通りに、警察の避難指示に従って動く。

 

「死柄木と遭遇したって、ヤバいよな…」

「緑谷さん…」

「緑谷くん、何か色々巻き込まれがちだね…」

 

徐々にだが人混みは動き、しばらくするとネリエル達も外へと誘導された。最初に集合していた地点の近くに警察官らが固まっており、飯田や上鳴の姿も見える。

 

「緑谷くん、皆!」

「大丈夫!?」

「皆さんご無事ですか!?」

 

警察に周りを固められ守られている緑谷は、首元を押さえて青ざめている。

 

「一応、僕は大丈夫…」

「顔真っ青だよ、緑谷くん…!」

「デクくん、死柄木に脅されたって…」

「はあ!?」

 

死柄木はあの特徴的な『手』のオブジェは取り去り、一般人のような顔をして緑谷に近づいてきたらしい。緑谷は、死柄木の“個性”によって緑谷自身と周囲の市民を人質にして脅され、いくつか話をしたのだという。

 

「ごめん…せっかくの休日に」

 

血の気が引いた顔で謝る緑谷に、全員が首を横に振った。

 

「買い物は今度行けばいいし!」

「ちゃんと送ってもらって帰りなよ」

「ウチらも帰るよ、物騒だし…」

 

緑谷は詳しい内容の聴取のため警察署に行くことになり、パトカーに乗せられて去っていった。

 

「また今度、ちゃんと遊びに行こうね!」

「皆様、お気をつけて帰ってくださいませ」

 

他の者もこうなっては呑気に買い物を再開する気にはなれず、そのまま解散の流れになり、それぞれ帰路についた。

 

「はあ……」

 

ネリエルも真っ直ぐに家に帰るためにバスに乗ったのだが、思わず大きなため息が出る。

 

「ヒーローを目指してるとはいえ…普通に楽しみたいんだけどなあ」

 

そんな憂鬱な気分で家に帰ると、在宅で仕事をしているペッシェが訝しげな表情ですぐに帰ってきたネリエルを出迎えた。

 

「あれ?おかえり、早くないかい?」

「ただいま。実は…」

 

ネリエルはショッピングモールで起きたことを説明する。

 

「そんなことが…!?大変だったな、今日はゆっくり休みなさい」

「うん…」

 

手を洗い、ルームウェアに着替えたネリエルはもやもやとした気持ちのままお腹を見せて寝転がるバワバワをぎゅっと抱きしめた。

 

「バワバワ〜、癒して〜」

「バワ!バワバワ!」

 

もふもふとしたバワバワの毛に顔を半分埋めながら、テレビのスイッチを入れる。流れ始めたニュース番組で、ちょうど木椰区のショッピングモールでのことが速報になっていた。

 

「ほら、これだよ。(ヴィラン)連合の…死柄木って奴が、急にショッピングモールに現れたの」

「ああ…この不気味な(ヴィラン)か。近くにいた男子学生を脅迫し、後に逃走…」

「その男子学生が、クラスメイトなの」

「本当か!?いやはや…ネルのクラスは本当にトラブルに巻き込まれるなあ…心配だよ」

「んー……あ、ありがと」

 

ペッシェが持ってきてくれたおやつのドーナツを口に運んでいると、スマホが何度も振動してメッセージの着信を知らせた。

トークアプリを開くと、A組のトークグループが麗日の報告を皮切りに、ショッピングモールでの事件の話題で持ちきりになっている。

 

「……大丈夫かなあ」

「うーん……ネル、ドンドチャッカが心配してまた学校に送るというようなら付き合ってやってくれ」

「ん、わかった」

 

もやもやとした嫌な予感のようなものは残っていたが、ネリエルはそれには意識を向けないようにしながら、ネリエルは残る休みを過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ヴィラン)連合の首魁、死柄木弔との遭遇。

治安の悪化もあり、林間合宿は中止になるかと思われたが、例年の合宿所をキャンセルし、行き先は当日まで明かさないという方針で日程は変わらず実行されることになった。

 

保護者にも行き先を伝えられないという部分に一部不安はあるものの、林間合宿には行けることをネリエルは喜んだ。

 

そして、夏休みに入り、林間合宿当日。

 

「え?A組補習いるの?つまり赤点取った人がいるってこと!?ええ!?おかしくない!?おかしくない!?A組はB組よりずっと優秀なハズなのにぃ!?あれれれれえ!?」

 

合宿所に向かう大型バスが集まるバス乗り場が当日の集合場所だったのだが、同じく集合しているB組の生徒達の中から物間が進み出てきて、A組の補習組を煽りに煽った。

その物間の首筋に、拳藤がトッ、と手刀を落とす。

 

「ごめんな」

 

物間はB組の姉貴分にずるずると回収されていった。

 

「物間、怖」

「体育祭じゃなんやかんやあったけど、まァよろしくねA組」

「ん」

 

B組の女子生徒達が明るく声をかけてくる。

 

「よりどりみどりかよ…!!」

「おまえダメだぞ、そろそろ」

 

峰田は女子生徒のほうばかりを凝視し、切島に呆れられていた。飯田が「A組のバスはこっちだ、席順に並びたまえ!」と張り切っている。

 

「一時間後に一回止まる。その後はしばらく…」

「音楽流そうぜ!夏っぽいの!チューブだチューブ!」

「ポッキーちょうだい」

「バッカ夏といやキャロルの夏の終りだぜ!」

「終わるのかよ」

「席は立つべからず!べからずなんだ皆!!」

「しりとりのり!」

「りそな銀行!う!」

「ねえポッキーをちょうだいよ」

「ウン十万円」

 

相澤が何か言いかけていたが、特に何も言わずそのまま前に向き直る。

 

「なーこの動画見た?」

「え、どれ?あっ可愛い!」

「ちょー可愛いよねこれ」

 

普段の相澤であれば、騒がしい生徒達を睨みつけ、静まり返らせていたところだ。

だが友人達とのお喋りに夢中のA組はその違和感に気づかず、注意されないのをいいことにバスが一時停まるまでずっと喋り続けた。

 

「休憩だーー……」

「おしっこ、おしっこ…」

「つか何ここ、パーキングじゃなくね?」

「ねえアレ?B組は?」

「お…おしっこ…」

 

一時間後、到着したのはパーキングエリアでも道の駅でもなく、がらんとした展望台のような場所だった。地面も整備されておらず、土が剥き出しだ。

 

「トトトトイレは…」

「何の目的もなくでは、意味が薄いからな」

 

そう呟いた相澤の前に、ザッと人影が現れる。

 

「よーーーうイレイザー!!」

「ご無沙汰してます」

 

相澤がぺこりと会釈をした。

 

「煌めく(まなこ)でロックオン!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

 

現れたのは茶髪の女性と金髪の女性の二人組で、猫を模したコスチュームで決めポーズを取る。傍らには幼稚園生ぐらいの男児がいた。

 

「今回お世話になるプロヒーロー、『プッシーキャッツ』の皆さんだ」

「連名事務所を構える4人一チームのヒーロー集団!山岳救助等を得意とするベテランチームだよ!キャリアは今年でもう12年にもなる…」

「心は18!!」

「へぶ」

「山岳救助……」

 

相澤の紹介と共に、ヒーローオタクである緑谷からも補足説明が入る。キャリアの部分で金髪の女性に口を塞がれていた。

ネリエルは期末試験での『救助』の課題を思い出し、ピクリと反応する。

 

「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設は、あの山のふもとね」

「遠っ!!」

 

茶髪の女性がかなり遠くに見える山の麓を指差す。驚きと共に戸惑いがA組の中に広がっていく。

 

「え…?じゃあ何でこんな半端なとこに……」

「いやいや…」

「バス…戻ろうか……な?早く…」

 

何か嫌な予感を感じ取った数人が、バスに戻ろうとジリジリと後退りし始める。

 

「今はAM9:30。早ければぁ…12時前後かしらん」

「ダメだ…おい…」

「戻ろう!」

「バスに戻れ!!早く!!」

 

怯えた表情でバスに駆け戻ろうとする生徒に構わず、金髪の女性が地面に手を当てる。

 

「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」

「悪いね、諸君」

 

ボゴ、と地面の土が盛り上がる。ネリエルは咄嗟に後方へと飛びさすった。

 

「合宿はもう、始まってる」

 

「皆!!」

 

展望台の地面が全てひっくり返るような土の濁流。

ネリエルは近くにいた葉隠の体を引き寄せ、四足になろうと_____したのだが、“個性”が発動できなかった。

 

「!? これは、っ」

 

土の流れに足を取られなならも首だけで振り返ると、いつの間にかバスの上に飛び乗り、土石流から逃れている相澤と目が合う。相澤は瞳が赤く輝き、髪が逆立っていた。

 

「ネルちゃん!」

「っ、大丈夫!」

 

『カモシカ』となれば荒れた地面でも動けるネリエルを、確実に崖の下へと落とすための対策だろう。しかし“個性”を封じられながらも鍛え上げられた体はしなやかに動き、土塊と石を蹴りながら崖を下る。

 

「私有地につき“個性”の使用は自由だよ!今から三時間!自分の足で施設までおいでませ!この…“魔獣の森”を抜けて!!」

 

茶髪の女性が告げたのが今回の『Plus Ultra(課題)』ということだ。それを理解したA組の生徒達は、口々に文句を言いながらも土石流の衝撃から立ち直っていく。

 

「“魔獣の森”…!?」

「なんだそのドラクエめいた名称は……」

「雄英こういうの多すぎだろ…」

「文句言ってもしゃあねえよ、行くっきゃねえ」

「透ちゃん、平気?」

「うん、ちゃんと受け身も取ったし無傷だよ!大丈夫!」

「耐えた…オイラ耐えたぞ」

 

峰田がズボンを押さえながら走っていく。その先に、確かに“魔獣”めいた風貌の怪物が佇んでいた。

 

「マジュウだーーー!!?」

「“静まりなさい獣よ、下がるのです”」

「口田!!」

 

動物に声を伝えられる“個性”、『生き物ボイス』を持つ口田が前に出て指示を出す。だが、“魔獣”の動きは止まらない。

 

(違う、生き物じゃない!)

 

ネリエルの五感は、“魔獣”が息もしておらず血も通っていない、ロボットのような存在であることを的確に感じ取っている。

それと同時に、ネリエルは『抹消』が解けているのを確認して“個性”を発動した。

 

「はぁーっ!!」

「ぬぅぅっ!!」

「オラァァアア!!!」

 

ネリエルの他にも緑谷、飯田、轟、爆豪が同時に“魔獣”にそれぞれの“個性”で攻撃を仕掛ける。

ネリエルの前脚での蹴り、緑谷の超パワーでのパンチ、飯田の加速力の乗ったキック、轟の氷結、爆豪の爆破が一気に炸裂して、“魔獣”は爆散した。

 

「土…!!」

「やっぱり、ピクシーボブの“個性”だ!」

 

“魔獣”の体はボロボロと崩れ落ち、土と石の塊へと変わり果てる。

『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』のこともよく知っているらしい緑谷が解説する。

 

「ピクシーボブは『土流』、土を操る“個性”だよ!その応用でこの魔獣を作り出して動かしてるんだと思う!」

「マジで“魔獣の森”ってわけかよ…!」

「遠慮なく壊してよさそうだが、これがあと何体いるのか…」

「ハッ、俺にゃ関係ねえ!!全部ぶっ壊して進んでやらぁ!!」

 

威勢よく叫んだ爆豪が先陣を切って駆け出す。砂藤が「あっオイ!爆豪!」と声をかけたが全て無視だ。

 

「待てよバクゴー!こんな広い森で単独行動はヤベえって!」

「うるっせェ!!もたついてるほうがヤベえだろが!!」

「たっ…確かに、そうかもしんねえけど!!」

 

切島が慌てて爆豪を追いかけていく。爆豪の物言いは乱暴だが、確かにタイムリミットを決められているのであれば、その場に踏みとどまっている場合ではない。

 

「っ…せめて、陣形を決めよう!」

 

飯田がビシッと右手を挙げ、提言する。

 

「爆豪くんはそのまま先行、切島くんがそのフォローでいい!俺もすぐ後に続く、轟くんと緑谷くんも一緒に前方を担ってもらえるだろうか!?」

「それがいいだろうな。俺は右にいく、緑谷は左頼めるか」

「うっ、うん、任せて!」

「私は少し離れたところから遊撃と偵察に当たるね!常闇くん、右側頼んでもいい?」

「ああ、任された」

 

四足の状態を維持する予定のため、他の人を跳ね飛ばさないよう、ネリエルは全員が固まっているところからは少し離れ、彼らと並走するように走り出す。

ネリエルの逆側には常闇が展開し、砂藤がフォローに入った。

 

「後方は私が指揮いたしますわ!耳郎さん、障子さんは横に展開して偵察に当たってくださいませ!芦戸さん、上鳴さんはその後詰めに!」

「りょーかい!」

「分かった」

「アトヅメじゃー!」

「やるぜえ!!」

「蛙吹さん、瀬呂さん、尾白さん!木の上に登って方角の確認と偵察をお願いします!」

「分かったわ」

「おっけ!」

「了解!」

「口田さんは後方から全体の援護を!葉隠さんは後方の偵察、青山さん、麗日さんはそちらのフォローをしてください!」

「よーし!」

「ウィ☆」

「任せて!」

「峰田さんは…………落ち着いたら後方の援護に入ってくださいまし!」

 

期末試験を経て、より頼もしくなった八百万が後方の中央で指揮を取りながら、腕から様々なものを作り出していく。

 

「補給の際は経口補水液のボトルを作りますので、皆様適宜お声がけください!参りましょう!」

「おう!」

「いくぜー!!」

「おおー!!」

 

あちこちから上がった鬨の声を聞きながら、ネリエルは少しスピードを緩めて八百万の横に体をつける。

 

「モモちゃん!丈夫な長い棒ってお願いできる!?」

「…! かしこまりましたわ!こちらを!」

 

ネリエルの意図を察した八百万が、1メートルほどの黒い棒を何本か生み出す。

 

「カーボン素材のパイプですわ!熱には弱いのでお気をつけくださいませ!」

「ありがとう!」

 

一本をネリエルのほうへ投げ、残りは“個性”に直接の攻撃能力がない葉隠と麗日に渡し、彼女自身も装備する。

ネリエルはパイプを構えながら再び加速し、先行してずんずん進む爆豪と同程度のラインにまで駆け上がった。

 

「爆豪くん!突出しすぎないで!」

「ウゼエ黙れ死ねくたばれ!!!」

「おいバクゴー!!」

「流石に言い過ぎだぞ爆豪くん!?」

「かっちゃん…!」

 

ネリエルの忠告に、爆豪は即座に罵倒を返してきた。この反応速度はほとんど反射だろう。ネリエルは呆れた表情で小さくため息をつく。

 

「いいわ。独断で先行しすぎるようなら、私が蹴り飛ばしてでも後方に戻すから」

「あ゛ァ!!?」

「君は君で過激だな、ネリエルくん!!」

「ネリエルさん…!」

「というより……」

 

ダンッ、と一歩大きく前に出ながら右腕を大きく引き、パイプを槍に見立ててチャージする。

 

「…___そんな言い争いをしている暇が、無さそうなの」

 

木の陰からぬう、と現れた魔獣の体に向かって突進、接触する瞬間に腕が伸びきるようにパイプ突き出す。

爆発的な加速とネリエルのパワーが乗った攻撃は、土の魔獣を一突きで粉々に粉砕した。

 

同時に、先頭を走る爆豪と切島、二人を追う飯田が正面から現れた魔獣を撃破する。

 

「まだ来てる!十時と、八時の方向から二体ずつ!」

「三時の方向から二体、五時の方向から三体だ。囲まれたな」

 

軽く頭を振って髪に降りかかってきた土を落とし、パイプをくるりと回す。耳郎と障子からの情報通り、四方八方から森をかき分ける音が近づいてきている。

 

「第一波、ってところかな…!」

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