ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語   作:猫禰捏涅

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39.林間合宿:三日目①

「補習組、動き止まってるぞ」

「オッス…!!」

「すいませんちょっと…眠くて…」

「昨日の“補習”が…」

「だから言ったろ、キツイって」

 

夜遅くまで座学の補習を受けていた五人は、翌日の訓練中ぐったりとしていた。

ネリエルは規則正しい生活をしているタイプなので、芦戸が帰ってきたところには起きていなかったのだが、12時は過ぎていたらしい。

 

「砂藤・上鳴は、容量(キャパ)が直接死活に関わる。容量を増やすには、反復して使い続けるのが基本。瀬呂は容量に加え、テープの強度、射出速度の強化。芦戸も溶解液の長時間使用によって、皮フに限度がある、その耐久度を強化。切島は筋力と硬度を上げることで相乗効果を狙う」

 

つらつらと相澤が挙げられるのは、それぞれの弱点、つまりは伸びしろである。

 

「そして何より、期末で露呈した立ち回りの脆弱さ!!おまえらな何故他より疲れているか、その意味をしっかり考えて動け。麗日!青山!」

 

補習組だけではなく、岩山の近くで訓練していた麗日と青山にも飛び火した。

 

「おまえらもだ。赤点こそ逃れたがギリギリだったぞ。30点がラインだとして、35点ぐらいだ」

「ギリギリ!」

「心外☆」

「気を抜くなよ、皆もダラダラやるな。何をするにも原点を常に意識しとけ。向上ってのはそういうもんだ。何の為に汗かいて、何の為にこうしてグチグチ言われるか、常に頭に置いておけ」

 

四足歩行の状態で、岩を背中に乗せてバランスを取りながら筋力トレーニングをしていたネリエルは、相澤の言葉を聞いて静かに思考の海に沈んだ。

 

(原点…(ネリエル)の原点は…)

 

ふわ、と頭の中に黒崎一護の顔が思い浮かぶ。ネリエルが『ヒーロー』を目指す原点はやはり彼であることを改めて思い出せば、トレーニングにはさらに身が入った。

 

「そういえば相澤先生、もう三日目ですが」

「言ったそばからフラっとくるな」

「今回オールマイト…あ、いや他の先生方って来ないんですか?」

 

オールマイトフリークであり、特に彼を慕っている緑谷はそのことが気になったようだ。

 

「合宿前に言った通り、(ヴィラン)に動向を悟られぬよう、人員は必要最低限」

「よって、あちしら4人の合宿先ね」

「そして特にオールマイトは、(ヴィラン)側の目的の一つとされている以上、来て貰うわけにはいかん。良くも悪くも目立つからこうなるんだ、あの人は…」

 

嫌そうにしながらため息をついた相澤に、ネリエルはふと宙を見上げる。

 

「そっか…じゃあもし、ここがバレて(ヴィラン)が来たら…生徒の中に内通者がいる可能性もあるのね」

 

誰に聞かせるでもなく呟いた言葉に、相澤と緑谷がバッと振り返った。

 

「……っ!」

「い、いや、ネリエルさん!?それはさすがに…」

「あ、ごめんなさい。万に一つの可能性としてあるかなって思ったんだけど、言い方が良くなかったね」

「言い方というか…そ、そんなことは考えたくないよ…」

「そうだね」

 

純粋な善良さを滲ませながら困った顔をしている緑谷に、ネリエルは曖昧に微笑んだ。

 

「それより皆!今日の晩はねぇ…クラス対抗肝試しを決行するよ!しっかり訓練した後は、しっかり楽しいことがある!ザ!アメとムチ!」

 

話題を変えるピクシーボブの言葉に、疲労困憊ながらも生徒達は楽しみを思い出して少し元気になった。ただし怖いことは苦手なのか、逆に耳郎などは元気を無くしている。

 

「ああ…忘れてた!」

「怖いのマジやだぁ…」

「闇の狂宴…」

「イベントらしいこともやってくれるんだ」

「対抗ってところが気に入った」

 

体育祭でもA組への対抗心をむき出しにしていた物間が、不敵に笑っている。

 

「というわけで、今は全力で励むのだぁ!!!」

「イエッサァ!!!」

 

ネリエルも気合いを入れ直したが、喉が渇いていることに気づき、水分補給はしようと一旦岩を背中から下ろした。

人型に戻って、ウォータージャグが置かれている一角に向かうネリエルの背中に、声がかかる。

 

「オーデル」

「先生」

「さっきの発言だが…」

「さっき…ああ、ごめんなさい。無闇に疑うようなことを言うものじゃなかったですね」

 

ヒーローを目指して入学している生徒達に対して良くない発言だったと反省している。

 

「……そうだな。それに、(ヴィラン)がここに来るかもしれないという趣旨の発言も良くない」

「はい、ごめんなさい」

 

ネリエルが素直に頭を下げると、相澤は小さくため息をついた。

 

だが反省しつつも、ネリエルは心中では意見は変えていない。

どんな組織であれ、絶対に一枚岩であるということは九割九分あり得ない。どんな存在であれ、変質することがある。

 

そのことを、身をもって知っているからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「腹もふくれた皿も洗った!お次は…」

「肝を試す時間だー!!」

 

クラス全員で肉じゃがを作り、それなりに美味しい夕飯を食べた後は肝試しの時間となった。

特に楽しみにしていた芦戸や上鳴が大いにはしゃいでいる。

 

「その前に大変心苦しいが、補習連中は…これから俺と補習授業だ」

「ウソだろ」

 

楽しみに思いきり水を差す言葉と共に、補習組の五人が相澤の捕縛布に捕らえられた。

 

「すまんな、日中の訓練が思ったより疎かになってたのでこっち(・・・)を削る」

「うわああ堪忍してくれえ試させてくれえ!!」

「ああ…三奈ちゃん…!」

 

ズルズルと相澤に引きずられていくが、相澤が合理的かつ有言実行であることは分かり切っているため、誰も文句は言えなかった。

プッシーキャッツも、補習組のことはあっさりと見送って肝試しの進行を始める。

 

「はい、というわけで脅かす側先攻はB組、A組は二人一組で3分置きに出発。ルートの真ん中に名前を書いたお札があるから、それを持って帰ること!」

「闇の狂宴…」

 

森の中に肝試し用のルートが設定されており、B組の生徒達は既にスタンバイしているらしい。

 

「脅かす側は直接接触禁止で、“個性”を使った脅かしネタを披露してくるよ」

「創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だ!」

「やめて下さい汚い……」

「なるほど!競争させる事でアイデアを推敲させその結果、“個性”に更なる幅が生まれるというワケかさすが雄英!!」

 

くじ引き用の箱が持ってこられ、クラス全員が引いていく。

 

「嫌だなあ…ネル、こういうの平気なの?」

「うん。ホラー映画も見るし、お化け屋敷も平気だよ」

「うわ〜、ネルと一緒になんないかな!」

 

前世が幽霊みたいなものだったから、とは言わず、本当に嫌そうな表情をしている耳郎を微笑ましく見る。

 

「ウチ3番だ」

「お!私もだよー!」

「葉隠とかあ、よろしく」

「よろしくー!私もわりと怖いの大丈夫だよっ」

「マジ?頼もし過ぎ」

「あ、私は8番だね。誰だろ…」

 

ネリエルが引いた番号は8番だった。補習で5人抜けているので、普段は21人で奇数だったところを二人ずつのペアを組むことができる。

 

「あ…ね、ネリエルさん!僕、8番…」

「緑谷くん!よろしくね」

「よ…っ、よろしく…!」

 

そっと声をかけてきたのは、ネリエルと同じ番号を書いた紙を持った緑谷だった。

ネリエルが幾分か低い場所にある顔を覗き込むと、緑谷は顔を赤らめて視線を逸らした。

 

「おい尻尾…代われ…!」

「俺は何なの…」

「緑谷ァ!オイラと代わってくれよぉお!」

「そっ、そういうワケには!!」

「青山ぁあああ!」

 

目の敵にしている轟とペアになってしまった爆豪が尾白に声をかけ、何かに突き動かされているような様子の峰田が、緑谷と青山にぷるぷると震える手を伸ばしている。

 

「ペア決まったね!そんじゃ早速一組目、ヤミヤミキティとショージキティ、GO!」

 

しかしペアの組み換えは認められず、サクサクと肝試しへと送り出されていく。

 

「わ、奥から悲鳴上がってるね」

「そっ、そうなの?よく聞こえるね…」

「けっこう耳良いんだ。『変身』したらもっと良くなるけど…」

「脅かされる側は、できるだけ“個性”禁止にされちゃったね」

「それに、面白くないからね」

 

四足歩行の『カモシカ』形態では森の中の狭い道を歩きにくい、ということもあるが、聴覚が鋭くなり気配にも過敏になるため、脅かし役がどこにいるか大体分かってしまう。

 

「あ、響香ちゃんの悲鳴だ」

「今のは僕にも聞こえた!B組の人達、脅かしに力入れてるみたいだね…!」

「“個性”を使ったら色々なことができそうだもんね!楽しみ……、ん…?」

「ど、どうしたの?」

 

麗日と蛙吹が森の中に消えていったのを見送ってから、ネリエルは鼻をひくつかせた。

 

「なんか…焦げ臭い匂いがする…」

「え…?」

「まさか、これ___…っ!」

「ぅわっ!?」

 

鼻に届いた匂い、そしてふと見上げた空に黒い煙が立ち昇っているのを見て、ネリエルはすぐさま“個性”を発動した。

 

「___火事ですっ!森の奥から…!」

「え!?」

 

徐々に強くなってくる焦げ臭い匂いが、変身すると同時に強くなる。

戸惑っている緑谷を庇うように前に出た瞬間、少し後ろにいたピクシーボブが不自然にぐらついた。

 

「ピクシーボブ!?」

「っあ、何…っ」

 

同時に、ガサリと茂みが動く。ピクシーボブの体は、そこに引き寄せられるように飛んで行ってしまった。

 

「はい、どーん!」

「っ、が、ぁ……」

 

茂みから飛び出してきた人影が、長い棒状のものを振るう。ピクシーボブの頭が、ゴキンッと嫌な音と共に殴り飛ばされた。

 

「飼い猫ちゃん、おーしまいっ」

「まさ、か……!」

 

急所である頭部を殴打されたピクシーボブは、意識を失って崩れ落ちる。長い棒で彼女の顔をおさえつける長髪の男性と、背中に巨大な武器を背負うトカゲを人型にしたような容貌の男性。

 

「何で…!万全を期したハズじゃあ……!何で…何で(ヴィラン)がいるんだよォ!!!」

 

躊躇いなくプロヒーローを攻撃し、行動不能にした。間違いなく、(ヴィラン)である。

 

「ピクシーボブ!!」

「やばい…!」

 

マンダレイが冷や汗を流す。

 

「っ…!」

 

長髪の男性からピクシーボブを引き離すべく、蹴りを入れようとしていたが、ネリエルはギリギリのところで脚を止めた。

今のネリエルは仮免すら取得していない学生であり、(ヴィラン)との交戦は認められない。雄英高校の敷地内だったUSJとも、職場体験でミルコの監督下にいた時とも違うのだ。

 

だが殺気に反応してか、長髪の男性がネリエルをちらと見る。

 

「まっ、キュートな子!アナタ、ミルコと一緒にいた『カモシカ』ちゃんね?」

「さっきの妙な引力……いえ、磁力ね。あなたは?」

「アラ…あれだけで見抜いてくるの?末恐ろしいわネ!」

 

少しでもピクシーボブから気を逸らさせようと、“個性”は解かないまま長髪の男性に話しかける。

その男性の横から、トカゲの男性が歩み出てきた。

 

「ご機嫌よろしゅう雄英高校!!我ら(ヴィラン)連合開闢(かいびゃく)行動隊!!」

 

大仰に腕を広げながらの名乗り、そして聞き覚えしかない組織名に、ネリエルはさらに深く身構えた。

 

(ヴィラン)連合…!?何でここに…!!」

「ウフフ、この子の頭潰しちゃおうかしら、どうかしら?ねえ、どう思う?」

「させぬわ、このっ…」

「待て待て早まるなマグ姉!虎もだ、落ち着け」

 

拳を握りしめた虎と、ピクシーボブの頭を棒状の武器で押さえつけるマグ姉と呼ばれた男性___女性の間に、トカゲの男性が割り込む。

 

「生殺与奪は全て、ステインの仰る主張に沿うか否か!!」

「ステイン…!あてられた(・・・・・)連中か___…!」

 

保須市で“ヒーロー殺し”と相対したという飯田が反応する。そしてその飯田を、トカゲの男性が指差した。

 

「そしてアァそう!俺はそう、おまえ、君だよ()()()()!保須市にて、ステインの終焉を招いた人物」

「ネリエルさん、下がって…!」

 

マンダレイに腕を引かれ、ネリエルは(ヴィラン)達から目を離さないまま、蹄を鳴らして後ろに下がる。

同時に、全員の頭の中にマンダレイの『声』が響きだした。

 

(ヴィラン)二名襲来!!他にも複数いる可能性アリ!動ける者は直ちに施設へ!!会敵しても決して交戦せず撤退を!!》

 

「申し遅れた、俺はスピナー。彼の夢を紡ぐ者だ」

「わっ……」

「何でもいいがなあ、貴様ら…!」

 

スピナーと名乗った男性は、様々な刃物を束ねて巨大にした武器を背中から取り出した。

虎が生徒達を庇うべく、険しい顔で前に出てくる。

 

「その倒れてる女…ピクシーボブは最近、婚期を気にし始めててなぁ、女の幸せ掴もうって…いい歳して頑張ってたんだよ……そんな女の顔キズモノにして、男がヘラヘラ語ってんじゃあないよ…!」

「ヒーローが人並みの幸せを夢見るか!!」

 

スピナーが虎を嘲りながら、巨大な武器を振りかぶる。

 

「虎!!『指示』は出した!他の生徒の安否はラグドールに任せよう、私らは二人でここを押さえる!!」

 

『テレパス』を終えたマンダレイが、虎の横に並んだ。

 

「皆行って!!良い!?決して戦闘はしない事!委員長、引率!」

「承知致しました!行こう!!」

 

指示を受けて、肝試しにはまだ出発していなかった者を連れて撤退しようとする。

 

「ネリエルくん、君も…!」

「待って、緑谷くんも…」

「……飯田くん、先行ってて」

「緑谷くん!?何を言ってる!?」

「緑谷!!」

 

(ヴィラン)を目の前にしながらも、緑谷はどこか別のところに気を取られているようだった。

 

「マンダレイ!!僕、知ってます(・・・・・)!!」

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