ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語   作:猫禰捏涅

43 / 47
42.林間合宿:三日目④ 〜 雄英職員会議

「なんだ、使わないんじゃなかったか?」

「美学に反するーとか言ってたのにー」

「俺ぁパワータイプとはやらねえ主義なの!つーか脳無の腕を吹っ飛ばした奴にはマスキュラーが対応する手筈だったろ、アイツはどうしたよ」

「知らね」

「どっかでのたれ死んでんじゃねえか!?生きてると思うぜ!!」

 

(ヴィラン)達はのんびりと会話をしている。確実に撤退するためだけに呼ばれた二体の脳無が、彼らを守るように進み出た。

 

「っオーデル、アイツらは…!」

 

USJで実際に脳無と相対したことのある轟が、全力で“個性”を放出する構えを取る。

 

仮面の(ヴィラン)が呼び寄せた薄灰色の肌色をした脳無が、ぐるりとネリエル達に向かって不気味な顔を向けた。

 

「合図から5分経ちました。皆さん、殿は脳無に任せて撤退してください」

「まて、まだ目標が…」

 

黒霧のノイズがかったような声が促すが、障子に目標を奪われた炎の(ヴィラン)が苛立たしげに止める。しかし、対して仮面の(ヴィラン)は平然としていた。

 

「ああ…アレはどうやら走り出すほど嬉しかったみたいなんで、プレゼントしよう。悪い癖だよ、マジックの基本でね。モノを見せびらかす時ってのは………」

 

仮面に手をかけ、覆面で覆われた顔を見せた(ヴィラン)は、ぺろりと舌を出す。

 

見せたくないモノ(トリック)がある時だぜ?」

 

舌の上には、ビー玉が乗っていた。

 

「やっぱり…!」

 

最も重要な目標を奪われたにも関わらず、(ヴィラン)はあまりにも態度に余裕があった。ネリエルは歯噛みしながら障子のほうを振り返る。

 

「ぬっ!!?」

 

彼の手の中で玉が弾け、唐突に木の枝の破片が出現した。ネリエルの蹴りを躱した時、足元から消していた枝だ。

障子は右ポケットに入れられていたそれを、爆豪と思い込むよう誘導され、まんまと引っ掛かってしまった。

 

「すまん…!」

「それより爆豪くんを、」

 

取り返さなければ、という思いはある。

だが、ネリエルの頭の中の冷静な部分が、もう無理だと告げている。

 

そうしてほんの一瞬だけ判断に迷った間に、薄灰色の『脳無』が醜く膨れ上がった腕を、なんらかの“個性”による効果か長く伸ばしてネリエルに掴みかかっていた。

 

「オーデルっ!!」

 

障子が叫ぶが、間に合わない。バキ、ボキッ、という音と共に、前腕がいとも簡単に砕かれた。

 

「っぁ、ぐ……!!」

 

激痛にネリエルの顔が歪む。

 

「ハハハ、お返しだ!マジシャンの腕を折ってくれた代償はデカいぜ?」

 

力が入っていない右腕を揺らしながらも、仮面の(ヴィラン)はネリエルを嘲笑った。

 

「てめェ…っ!!」

 

激昂した轟が氷を放つが、もう一体の脳無が振るった腕によって粉砕され、広がった蒼い炎によって溶かされる。

 

それは壁となり、(ヴィラン)達は背後に開いたワープゲートに向かって後退していく。

 

「おい、念の為に確認しろ」

「あー?へいへい」

 

炎の(ヴィラン)にそう言われ、仮面の(ヴィラン)がパチンと指を鳴らす。

 

ぱっと現れたのは、五体満足で怪我もない爆豪の姿だった。

だが、炎の(ヴィラン)が素早く爆豪の首筋を掴んだために、ネリエル達は動けない。

 

「問題、なし。じゃあなァ、轟 焦凍…また会おうぜ」

「そんじゃ、お後がよろしいようで」

「ネリエルちゃん、またね!今度は恋バナしようね!!」

「さっさと帰ろうぜ!まだまだやり足りねえ!」

 

(ヴィラン)達の姿がワープゲートの中へと次々に吸い込まれていく。金髪の少女に至っては、ネリエルに向かって満面の笑みで手を振っていた。

 

首という急所を掴まれた爆豪は、半身をワープゲートに呑まれながら、視線をネリエル達ではなくその背後へと向けていた。

 

そこへ向かって、ネリエル達の背後から細長い布が勢いよく伸びていく。

 

「かっちゃんっっ!!!」

 

森の奥から、ボロボロの緑谷を背負った相澤が駆けてきていた。

髪が逆立ち目が赤く光っているが、その視線を遮るように二体の脳無が立ちはだかる。

 

「来んな、デク」

 

ワープゲートに呑まれる寸前、爆豪が最後に放った言葉は、幼馴染への拒絶だった。

 

相澤の捕縛布は脳無の腕にかろうじて巻きついたが、その脳無を呑み込んだワープゲートが閉じたことであっさりと千切られ、端が地面へと落ちる。

 

「あ…ぁ゛……っ……!」

「クソ……っ!!」

 

目を見開く緑谷と、ワープゲートが消えた虚空を赤い瞳で睨む相澤。

 

「…っ……ぅ、…」

 

ネリエルもまた(ヴィラン)達と爆豪が消えた先を睨みながらも、両腕から這い上がってくる痛みに耐えかねて変身を解除し、がくりと膝を折った。

 

「オーデル…!」

「追わ、なきゃ…っ」

 

骨折程度(・・・・)で力が抜ける体に鞭を打ち、ネリエルは徐々に立ちあがる。

 

「………轟。緑谷とオーデルの腕を軽く凍らせろ。冷却と固定だ」

「は、はい!」

「オーデル、動かないでくれ」

「いいえ…!(アイツ)らは…っ、今が、一番油断してる!すぐに追えれば…っ!」

 

そう言いながら障子の腕を振り払おうとしたネリエルに、相澤の怒号が降りかかる。

 

「ダメだ、もう戦闘許可は解除する!!轟、障子、絶対に飛び出させるなよ。脚まで凍らせても構わん!」

 

この場での戦闘は相澤___プロヒーロー・イレイザーベッドによってのみ、許可されていた。

それを剥奪されては、学生であるネリエル達にできることはもうない。

 

ほんの一瞬だけ、ネリエルは鋭い視線を相澤に向けたが、相澤はそれ以上に強い視線でネリエルを見据えていた。

ネリエルに“個性”は使わせず、場合によっては捕縛布で捕らえておくことも辞さないだろう。

 

「……はあ…」

 

ネリエルは相澤から視線を外してため息を溢し、拘束を受け入れる容疑者のように腕を少し前に出した。

轟の手がそこに翳され、薄い氷の膜が折れた箇所を覆っていく。

 

「脚は……」

「……もういいわ。自分で歩きたいから」

「…そうか」

 

淡々とそう言い、殺気じみた気迫を消したネリエルに、轟と障子がホッと息を吐く。

 

「う……ぅ゛……」

「緑谷…」

 

相澤の背の上で、緑谷は絶望に染まった表情で呻いている。

轟はそのぐちゃぐちゃになった腕にも氷の膜を張りながら、気遣わしげに眉を下げた。

 

「みんな……!」

「ケロ…!無事…じゃ、ないわね…」

 

森の奥から麗日と蛙吹も合流する。

二人とも多少傷はあるが軽傷で、腕が凍っているネリエルと緑谷に慌てて駆け寄ってきた。

 

「腕、どしたん!?」

「これは…応急処置ね?先生」

「ああ……ひとまずな。全員、施設に一旦戻るぞ。ブラドが警察と救急を呼んでいるはずだ」

 

 

 

そこからの状況の遷移は怒涛のようだった。

ネリエル、緑谷、障子はすぐさま緊急搬送となり、他にも森の奥から運ばれてきた意識の無い生徒達もすぐに病院に搬送される。

比較的軽傷か無傷の生徒は警察の事情聴取を受けることとなり、当然林間合宿は中止となった。

 

生徒41名のうち、(ヴィラン)のガスによって意識不明の重体、15名。

重・軽傷者12名。

無傷で済んだのは13名。

そして、行方不明者1名。

 

プロヒーロー6名のうち、1名が強く頭を打たれ重体。

1名が大量の血痕を残し行方不明となっていた。

 

一方(ヴィラン)側は、3名の現行犯逮捕。

彼らを残し、他およそ7名___(ヴィラン)連合開闢行動隊と名乗った者達の大半は、姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ヴィラン)との戦闘に備える為の合宿で襲来…恥を承知でのたまおう」

 

夏休み中でありながら、まるで戦いに赴くかのような雰囲気を纏い、雄英高校の会議室に集まったプロヒーロー達。

その中心で、根津は厳しい意見を口にする。

 

「“(ヴィラン)活性化の恐れ”……という、我々の認識が甘すぎた。奴らは既に戦争を始めていた。ヒーロー社会を壊す戦争をさ」

「認識できていたとしても、防げていたかどうか…これ程執拗で矢継ぎ早な展開……“オールマイト”以降、組織立った(ヴィラン)犯罪はほぼ淘汰されてましたからね…」

『要は知らず知らずのうちに、平和ボケしてたんだ俺ら。“備える時間がある”っつー認識だった時点で』

 

会議に参加しているのはミッドナイト、プレゼント・マイク、スナイプ、そしてオールマイトである。

その中でもオールマイトは際立って重い空気を纏っている。

 

「己の不甲斐なさに心底腹が立つ…彼らが必死で戦っていた頃、私は…半身浴に興じていた…っ!!」

 

疲れを癒すため体を休めていたことすらもオールマイトは自責している。

 

「襲撃の直後に体育祭を行う等…今までの「屈さぬ姿勢」はもう取れません。生徒の拉致、雄英最大の失敗だ。奴らは爆豪と同時に、我々ヒーローへの信頼も奪ったんだ」

「現にメディアは、雄英の非難でもちきりさ。爆豪くんを狙ったのも、恐らく体育祭で彼の粗暴な面が少なからず周知されていたからだね。もし彼が(ヴィラン)に懐柔されでもしたら、教育機関としての雄英はお終いだ」

 

根津は新聞を広げ、ニュースサイトを表示したタブレットを見せる。

それを横目に見ながら、プレゼント・マイクが重たげに口を開く。

 

『信頼云々ってことで、この際言わせてもらうがよ…今回で決定的になったぜ。いるだろ、内通者』

 

会議室の空気がさらにひりつく。

 

『合宿先は教師陣とプッシーキャッツしか知らなかった!怪しいのはこれだけじゃねえ、ケータイの位置情報なり使えば生徒にだって___……』

「やめてよ、マイク」

『やめてたまるか、洗おうぜこの際てってー的に!!』

 

ミッドナイトが眉を顰める。

 

「おまえは自分が100%シロという証拠を出せるか?ここの者をシロだと断言できるか?」

『Umm…』

「お互い疑心暗鬼となり内側から崩壊していく。内通者探しは焦って行うべきじゃない」

 

スナイプに冷静に諭され、プレゼント・マイクは黙り込んだ。

 

「少なくとも私は君たちを信頼してる。その私がシロだとも証明しきれないわけだが、とりあえず学校として行わなければならないのは生徒の安全保障さ。内通者の件も踏まえ…かねてより考えていた事があるんだ。それは…」

 

根津の言葉が、『でーんーわーがーーー来た!』という独特な着信音によって遮られ、オールマイトがそそくさと席を立つ。

 

「すみません、電話が」

『会議中っスよ!電源切っときましょーよ!』

 

軽薄な印象に反して真面目に注意したプレゼント・マイクにオールマイトは申し訳なさそうにしながら会議室を出ていった。

 

『ハァ……校長、今んとこ一番アヤシーのって、オールマイトの秘密を知ってるっつー生徒二人でしょ?』

 

声を潜めながらのプレゼント・マイクの言葉は、A組生徒である緑谷とネリエルのことを指している。

緑谷は偶然が重なって、ネリエルは彼女自身の優れた嗅覚によって、オールマイトの本来の姿が痩せこけた男性であることを知っている二人だ。

 

「うーん…それだけで疑うのは弱くないかしら?現に、オールマイトの情報はどこにも出ていないんだし」

『ネリエルのほうはどうよ?俺も成績を見てるが、ヒーロー候補生としては()()()()()()()()()って意見には、正直賛成できちまうね』

「とはいえ、あくまで容疑者候補…でしたかね、校長」

 

スナイプに尋ねられ、根津は頷く。

 

「ここ最近、彼らにはよくよく注意を払っていたが、怪しい動きは見られなかったという報告もある。いずれにせよ、今の段階では誰もが容疑者候補になり得るね」

 

プレゼント・マイクが大袈裟に肩をすくめる。

 

『まどろっこしい、やっぱ頭を叩くのが手っ取り早ぇな!』

「それはそうね。(ヴィラン)連合…これだけ派手に動いたんだもの、どこかに必ず痕跡が残っているはず」

「開闢行動隊とやらで尖兵を増やしたようだが、人数が増えれば隠蔽も難しくなるからな」

 

そう結論に達した時、会議室の扉が壊れかねないほどの勢いで開かれ、扉に近い席にいたプレゼント・マイクは『うおっ!?』と小さく跳び上がった。

 

「扉が壊れてしまうよ、オールマイト」

「すみません校長!しかし少々気合いが抑えきれず…!!」

「…何か、進展が?」

 

鋭く察して問いかけた根津に、オールマイトは力強く首肯する。

 

「分かった。すまないが皆、退出してくれ。オールマイト、話を聞こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————翼も無く。

 

 

 

——————剣も無く。

 

 

 

——————光も無く。

 

 

 

——————ただ、そうあれかしと請われ。

 

 

 

——————小さな憐れみが胸を刺す。

 

 

 

——————まるで、穴を穿つかのように。

 

 

 

 

 






USJで脳無の腕を吹っ飛ばしたせいで(ヴィラン)連合の警戒度が上がり、難易度がちょっぴりハードになっていました。

というか(ヴィラン)連合のセリフ考えるの楽しい。
ネリエルや他キャラよりエミュりやすい気がします。ヒーローらしい言動って難しいんですよね…。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。