ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語   作:猫禰捏涅

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43.病院にて①

大事件が起きた林間合宿から一日が経ち、ネリエルは搬送先の病院で療養していた。

重傷の緑谷の他にも、(ヴィラン)が撒き散らした毒ガスを吸い込んでしまった生徒達も未だ意識不明のままだ。

 

ネリエルは両腕を粉砕骨折、軽度とはいえあちこちに火傷を負い、森の中を走り回り続けた疲労が蓄積している。

にも関わらず、まるで戦闘中であるかのように冴えた目のまま、骨折した箇所を治療する間も悲鳴一つ上げずに、ただ静かな表情をしていた。

 

今にも飛び出していってしまいそうな緊張感を纏ったままのネリエルに対し、様子を見に来た相澤はため息をつき、治療に訪れたリカバリーガールに対して、とある要請をした。

 

 

 

「で、骨折をわざと半分ぐらい治されてない、と」

「うん」

 

骨は間違いなく綺麗に繋がるが、ギプスは取れない程度。

身体のあちこちに包帯を巻いたネリエルは、見舞いにきてくれた轟、切島、障子、芦戸の四人にそう状態を明かした。他に入院しているA組の生徒は、緑谷と耳郎、葉隠は未だ意識不明、八百万は意識はあるが現在精密検査中である。

 

「本当は今すぐにでも爆豪くんを探しに行きたいんだけど……」

「いやいやいや、ダメでしょ!」

「そう言うのが分かってるから、相澤先生がそうしたんだろうな!」

「ちゃんと理解したってば」

 

芦戸に諭され、切島には呆れられてネリエルは頬を膨らませた。

 

「響香ちゃんと透ちゃん、モモちゃん、緑谷くんも入院してるし…爆豪くんのことはもどかしいけど、こっちの守りも大事だよね」

「いやそういうことでもねえと思うけど!」

「まー、飛び出さないんならいいんじゃない?」

 

そんなネリエルの状態に、爆豪救出のために共に動いていた轟と障子の二人は特に複雑そうな表情をしている。

 

「轟くんと障子くんは、大丈夫?」

「ああ。包帯は再生した皮膚の保護のためで、傷はリカバリーガールに『治癒』してもらったからほぼ完治している。…ずっと、オーデルが前線を張ってくれていたおかげだ。ありがとう」

「俺は怪我してねえ、けど……悪かった、あの炎の(ヴィラン)相手なら、俺が前に出るべきだった」

「ううん。私も先走っちゃってたから、ごめんね」

 

ネリエルは小さく微笑む。

 

「響香ちゃんと透ちゃんの様子はどうだった?B組の人達も、命に別状はないって聞いたけど…」

「うん、しばらくしたら目が覚めるって!後遺症も無さそうだってさ」

「そっか…本当によかった。他の皆は?」

「だいたいは一旦ウチに帰ったよ。あ、麗日は親がこっち来るって言ってた。私らはネリエル達の様子が気になったから、雄英が近くでとってくれたホテルに泊まったんだー」

 

芦戸の言葉に、轟達が頷く。

その時、病室の扉がガラリと開かれ、担当の医師と看護師が顔を出した。

 

「こんにちはー。ごめんね、そろそろネリエルさんは診察をしないといけなくてねー」

「あ、はーい!」

「八百万さんね、彼女は検査終わったからね。お見舞いに行ってもらって大丈夫だよ」

「マジすか!」

 

頭を強く打ってしまい、精密検査を必要としていた八百万も同じ病院に入院している。見舞いに行けるとなれば、大きな問題は無かったのだろう。

 

「よかった!じゃネリエル、また明日も来るから!」

「明日は来れる奴は全員集まろうって話になってんだ」

「そうなんだ。私も動けるようにはなると思うから、響香ちゃんたちのお見舞いに行こうかな」

「無理はしないでくれ。…じゃあ、また」

「手土産も無しに悪かった、今度はなんか持ってくる。またな」

 

それぞれが挨拶をし、ネリエルと互いに手を振りつつ入れ替わりに病室を出ていく。

医師はカルテを手に携えながら、ベッドに座っているネリエルに近づいた。

 

「このあとね、ちょっと警察の人がお話されたいそうでね。大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です」

「よかった、ありがとうね」

 

ネリエルがはっきりと頷くと、付き添っていた看護師が「伝えてきますねー」と言いながら病室を出ていった。

 

「あと先生、明日は動いても構いませんか?友達のお見舞いに行きたくて」

「ああ、他のクラスメイト達ね。いいけど、病室を出る前に看護師に一声かけてね。ナースコール使ってもいいから」

「分かりました、ありがとうございます」

 

出歩くことが許可されてホッとしながら、医師の診察を受ける。

 

ベッドの上で済む検温や触診、問診などの簡単な検査のみで、しばらくして茶トラ猫そのものの顔をした警察官がやってくると、すぐに診察は終わりになった。

 

「USJぶりですね、三茶といいます」

「よろしくお願いします」

「少しだけ林間合宿でのことを伺いたいんですが、大丈夫ですか?」

「ええ、話せます」

 

猫の顔故に表情は分かりにくいが、誠実そうな雰囲気を纏う三茶と、ネリエルは向かい合った。

 

 

 

「……———なるほど、怪人『脳無』二体に、(ヴィラン)四人はいずれも黒霧の『ワープゲート』で撤退したと」

「はい。爆豪くんを回収してからは、ずっと撤退に専念していました」

 

轟や障子に先に事情聴取をしていたのだろう、当時の状況を時系列順に整理し、ネリエルの視点から確認していくような形で聴取は進んだ。

 

「何か、他に気づいたことはありますか?どんな小さなことでも構いません」

「そう、ですね…」

 

三茶に状況の確認以外のことを問われ、ネリエルは少し考え込んだ。

 

「……開闢行動隊、と名乗った彼らが死柄木の指示のもと動いていたのは間違いないと思います。…でも、なんとなく印象が噛み合いません」

「印象、ですか」

 

あくまで個人的な感じ方の話だったが、三茶はネリエルに話の続きを促すように頷いた。

 

「USJを襲撃する計画そのもの(・・・・・・)もそうですが、誰かが死柄木に知恵を与えて、彼の成長を促そうとしているような感じがするんです」

「……なる程」

「死柄木個人への印象と、計画への印象が違う。今の死柄木は、計画に見合っていないと思います」

「見合っていない…ですか?」

「簡単に言えば、器じゃ(・・)ない(・・)。そう感じます」

 

そう断言したネリエルに、三茶はぽかんとした表情になった。

 

「あくまで、個人の印象ですが」

「ああ、いえ…もちろん分かっていますよ、少し驚いただけです。ですが、参考になりました」

「はい。……ああ、それと」

「何でしょう?」

 

「『ワープゲート』を攻略する方法に、少々心当たりがあります」

 

今度こそ驚愕に目を見開いた三茶に、ネリエルは微かに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三茶は上官である塚内へ指示を仰ぎ、しばらくするとネリエルの病室には塚内だけでなく相澤とブラドキングも訪ねてきた。どうやら事情聴取のために共にいたらしい。

特にガタイのいいブラドまで加わると、病室の中はかなり手狭になった。

 

「オーデル、体調は?」

「元気です!…腕以外は」

「そこは諦めろ。爆豪を奪還してから治してもらえ」

「ということは、やっぱり爆豪くんの奪還計画が裏で進んでいるんですね」

 

さらりとそう言ったネリエルに、全員が目を見開いて固まった。

 

「……まさか、いや…」

「お前……」

 

思わず、といった風に声を漏らした相澤とブラドと違い、塚内と三茶は一瞬驚いてから視線を鋭くした。

 

「警察と……トップヒーロー達での主導、といったところですか?」

 

四人の様子から相澤とブラドは情報を持っていないと判断し、ネリエルは真っ直ぐに塚内を見て問いかけた。

 

「……なる程。これは、隠す方が逆効果かな。三茶、部屋の前で待機。人払いを」

「はっ」

 

塚内の指示に短く応えて敬礼をした三茶が病室を出ていくと、塚内はベッドの横に置かれた椅子に腰掛けた。

 

「さて、ネリエルさん。どこでその情報を?」

「警察の人の動きから、推測しました」

「推測したって…それだけ、かい?」

「はい」

 

目を見張る塚内と教師達に、ネリエルは特に何の感慨もなく頷いた。

 

『前』のネリエルがいたのは、権謀術数が張り巡らされ、魑魅魍魎が蔓延る虚夜宮(ラスノーチェス)である。

本人がそういった謀を好まず、戦いからも距離を置いていたものの、彼女の本質は熟達した兵士。

 

「何となく、そうかなって」

 

むしろ戦いを厭うからこそ、戦いやそれが始まる前の空気には敏感だった。

 

「……本当かい?」

「嘘を見抜くような“個性”の人っていないんですか?先生」

 

疑り深い目で見てくる塚内に、ネリエルはそう相澤に尋ねた。相澤の目が吊り上がる。

 

「冗談を言ってる場合じゃない!分かってるのか!?お前は今、林間合宿襲撃の容疑者として扱われてるんだぞ…!」

「そっか、そうなりますよね」

 

相澤の言葉は厳しいが、根底にはネリエルを信じたい気持ちがあるのが分かる。

 

「どうしたら疑いは晴れますか?」

「……今の状況では、厳しいと言わざるを得ないかな。何しろ、(ヴィラン)連合の内情はほとんど分かっていないんだ。君がシロである証拠も、もちろん無い」

「うーん…」

「だ、だが、彼女がクロである証拠もないだろう!?」

 

呆気にとられた表情で話を聞いていたブラドが、ネリエルを庇うように身を乗り出してきた。担任している生徒でなくとも気にかけてくれる、良い先生だ。

塚内は「そうですね」と頷いたが、ネリエルには探るような視線を向け続けている。

 

「それで、『ワープゲート』の話なんですけど」

 

唐突にそう言ったネリエルに、またもや全員が目を見開く。

 

「はっ!そ、そうか、その話だったな…!」

「そうですよ、ブラド先生。『ワープゲート』の対策を伝えたいんです」

「お前な…!!」

 

苛立った様子の相澤が一歩踏み出すが、塚内が冷静に片手を挙げたことで押し黙る。

 

「聞かせてくれるかな」

「はい。まず、黒霧の能力は、座標を指定してゲートを開くタイプで、対象そのものを転送したり瞬間移動させるようなものではないと思います」

「ああ、我々の見解も同じだ」

「よかったです。それと、指定する座標のうちいずれか一つは、黒霧自身がいる場所でないといけないというルールがあるはずです」

 

ネリエルの言葉に、塚内が少し考え込む。

 

「……例は少ないが、確かにいずれの事件も黒霧本人が現場に出てきている。例えば黒霧がどこかに隠れ潜んでおいて、自身から離れた場所の座標を二点指定して、そこを繋ぐゲートを開く…ということは恐らくできないわけか」

「そうですね。もちろん、本当はできるけど見せていないだけ、という可能性もあります」

 

ネリエルはそう言ってから、「ただ」と前置く。

 

「オールマイトへの攻撃に加わっていたUSJはともかく、撤退するだけだった林間合宿でも顔を出しているので、細かい操作には黒霧自身が確認する必要があるのは間違いないと思います。死柄木の性格的にも、この能力はいざという時のために隠しておこう、とはならないんじゃないでしょうか」

「ふむ…考えられるね」

「それと多分、自分の座標が常に移動していて不安定だったりすると開けないと思います。こういう能力の場合、重要になるのは『自分の座標』と『ゲートを開く先の座標』のはずですから」

 

すらすらと考えられる黒霧の“個性”の弱点を述べるネリエルに、ブラドが感嘆の息を吐いた。

 

「無敵の“個性”のように思えていたが、もしその通りならば案外制限は多いな」

「そうですね。あとは状況から考えて、複数のゲートは開けても一定以上の大きさにはできないみたいです。USJで大人数を一気に一つのゲートで転送するんじゃなく、小さいゲートをいくつも開いていたので。もしくは、大きなゲートを開くのには時間がかかるとか、体力や集中力を削るとかがあるかと」

「ほう…」

「もう一つ状況から分かるのは、一度開いたゲートはその地点から動かせないらしいということですね」

「…確かに、一度開いたゲートをどこかに動かしたりする様子は無かったな」

 

USJで直接黒霧と相対した一人である相澤も、当時のことを思い出しながら呟いた。

 

「なので、考えられる対策としては三つあります」

「三つもか。これは予想外だな」

 

塚内は疑いの目を向けながらも話は穏やかに聞いてくれる。

ネリエルは分かりやすいように三本の指を立てた。

 

「まず一つ。能力者そのものを無力化する」

「うん、それが一番早いだろうね」

「はい。『ワープゲート』が広がる速度自体はそれほど早くありませんし、黒霧自身の反応速度や動きもそこそこでしたから、素早く無力化できるプロヒーローがいれば難しいことじゃないと思います。二つ目は、『ワープゲート』そのものというより転送の妨害方法ですが、転送する人や物の座標をずらすこと」

「ん…一応、感覚としては理解できるね。SFじみてはいるが」

 

塚内が相槌をうち、相澤とブラドも無言ながら話には納得している様子だ。

 

「目視できる距離以上に離れたところに転送したいものがあるなら、それの位置をずらしておけばいいだけです。極端な話、建物ごと移動させてしまってもいいですし」

「なる程…」

「最後に三つ目が、能力者そのものの座標をずらすこと。さっきも言いましたが、自分の座標が安定しないと使えないはずなので、一つ目の無力化に失敗した場合はこの三つ目の方法を使うのもいいと思います」

 

一つ目と二つ目の話には頷いていた塚内が、最後の話に少し首を捻る。

 

「つまり、黒霧は『動きながら咄嗟に素早くゲートを開く』ということはできない、と?」

「恐らくは。まず座標を指定して次にゲートを開くっていう二つの段階を踏む上に、自分を起点とする能力なら、激しく動いている時にはできないか、できても座標がずれると思います」

 

手振りも交えながらのネリエルの説明に、塚内が深く頷いた。

 

「…君の話を鵜呑みにするわけにはいかない。だが、一考の余地はあるね。これまでの黒霧や死柄木の動きと照らし合わせて考えてみても、齟齬が無い」

 

塚内はそう言い、懐から取り出した手帳にさらさらとネリエルから聞いたことを書き込んでいく。

 

「……オーデル。お前、なんでワープなんて珍しい“個性”の性質に詳しいんだ」

「うむ……正直なところ、仲間として能力の内容を知っていた、と言われたほうが納得できるほどの情報量だ」

 

呆れたように問うてくる相澤と、率直な感想を言うブラドに、ネリエルは苦笑した。

 

「そうなると、仲間の情報を売っているってことになりますけど。うーん…」

 

何故、ネリエルが『ワープゲート』という希少な“個性”について、これほど確度の高そうな推論を述べられるか。

それは、黒霧の『ワープゲート』が、『解空(デスコレール)』と性質が似ていることに気づいたからだ。

 

解空(デスコレール)』は(ホロウ)が扱う技の一つであり、使えば『(ガル)(ガンタ)』という、世界と世界の狭間にある虚ろな空間へと向かう入り口を開くことができるものだ。

黒腔(ガルガンタ)』内では霊子で足場を作り、自分の足で走る必要があるものの、空間と空間を繋げられるという部分では、黒霧の“個性”と共通する部分が多い。

つまりは、ネリエルが挙げたそれらの弱点もまた『(デスコ)(レール)』に共通している。

 

病室のベッドに座ったまま、ギプスと包帯を巻かれた腕をゆっくりと持ち上げて、ネリエルは空中に指を滑らせた。

 

「ん?」

「何を…」

 

何も、起きない。

乱杭歯が並ぶ怪物の口のように空間が引き裂かれることはなく、底の無い暗闇は現れない。

 

「…重要なのは、能力自身の座標と転送先の座標。黒霧は(ヴィラン)連合のアジトかどこかにいたとして、林間合宿の場所は関係者以外は誰も知らなかったはずです」

 

ネリエルの言葉に、塚内がハッとした表情になる。

 

「! そうか…黒霧はGPSか何かで得た座標を使って、そこに『ワープゲート』を開いたと?」

「仮面の(ヴィラン)はうまく動き回っていましたが、土地勘がある様子でも、地形の下調べをしているわけでもなさそうでした。(ヴィラン)連合のほうも、襲撃ギリギリまで合宿の本当の場所は知らなかったんでしょう」

「オーデル、お前携帯は…」

 

ネリエルが言いたいことに相澤は気づいたらしい。少しだけ視線を相澤に向けてから、ネリエルは塚内を真っ直ぐに見つめた。

 

「あの肝試しの時、私はスマホを持っていませんでした。それに充電器を忘れてて、二日目には電源が切れていたんです」

「…GPSは電源が切れても動く場合がある。それに、他の持ち物にGPSが仕込まれている可能性もあるが」

「私の荷物も、私自身も隅々まで調べてもらって構いません。ただ、あの合宿にいた全ての人とその持ち物、スマホの中身もできれば調べたほうがいいと思います。位置情報を送信した記録とかも分かるはずですよね?」

「そこまでは…できない。任意の事情聴取と協力要請の範囲を超えている」

 

塚内は少々苦々しげな顔をした。もしネリエルの仮説が合っていたとして、位置情報を使った痕跡を見つけることができれば、容疑者を絞り込めるかもしれなくても、その手段を取れないもどかしさに。

 

「つまり、内通者があの合宿参加者の中にいるとっ!?」

「たぶんそうじゃないかな、って私が思ってるだけです」

「お前、そういう発言はやめろと…!」

「何も無ければ多少疑いが晴れるんですから、強引にでも調べて損は無いと思ったんですけど…ダメなんですね」

「強引にはダメだね。だが、本人の同意があれば別だ」

 

ネリエルはそれなら、と頷く。

 

「どうぞ、スマホの中身でも何でも調べてください。ロックは0000で解除できます」

「いや、そのパスコードはやめておいたほうがいいんじゃないかな…」

 

簡単すぎるパスコードに苦言を呈した塚内に、相澤とブラドも頷いた。

多少使い慣れはしたものの、ネリエルは連絡を取る以外でほぼスマホは使わない。汚れたり画面が割れたりはしないようにはしているが、使い方はそこそこ雑だ。

 

スマホを放り込んでいる鞄はベッドの脇の机に置いてあり、それを塚内が「預かるね」と言って引き取る。

 

「一応、今までのことが全部間違っている可能性も考えられます」

「ああ、もちろんそれも想定しているよ。そうだとしても、考え得る可能性をいくつか潰すきっかけにはなる。ありがとう」

「……私を内通者候補の容疑者として拘束しなくていいんですか?」

 

そういった処置をされることもネリエルは覚悟していたが、塚内は笑って立ち上がった。

 

「まさか。何の証拠もなくそんなことはできないよ。今の君は、捜査に非常に協力的になってくれる市民の一人だ。協力、感謝します」

 

お手本のように綺麗な敬礼をした塚内は、清く正しい警察官だった。

 

 

 

 

 

塚内が三茶を伴い、忙しそうに去っていった後には相澤とブラド、ネリエルが残された。

雄英教師二人は大きなため息をつく。

 

「いくらか、寿命が縮んだような気がするな……」

「好き勝手やりやがって……(ヴィラン)連合の協力者と見られてもおかしくなかったんだぞ」

「ごめんなさい」

 

ぺこりと下げられたネリエルの頭に、相澤の拳が軽くぶつけられた。

 

「まあ、これで容疑は多少薄くなるだろう。悪くはねえ」

「全部デタラメで、捜査を混乱させようとしてるのかもしれませんよ?」

「どんな証言であろうと、精査して裏を取るのが警察の仕事だ。矛盾があればすぐに分かるし、例え嘘だったとしても逆に事実を絞り込める。あんまり彼らをナメるんじゃない」

「そうですよね、すみません」

 

素直に謝ると、相澤はまたため息をつきながらも、ネリエルとしっかりと目線を合わせる。

 

「……もう飛び出そうとはしないな?」

「はい」

「ならいい。リカバリーガールがまた明日ここに来る。その時に腕を完治させてもらえ」

「分かりました」

 

二人の会話の後、ブラドが「…ところで」と少々気まずげに声を上げた。

 

「はい?」

「結局、なぜワープのような希少な“個性”の性質に詳しいかどうか、答えていない気がするのだが。いやもちろん、答えにくい事情があるなら深くは聞かんがな?」

「ああ……誤魔化そうとしたわけじゃないんですが、説明が難しくて」

「…警察には言いづらいことだと?」

「いえ、そういうことでもないです。えーと…」

 

相澤とブラドの視線が探るようなそれになる。ネリエルは困ったように微笑んでから少し俯き、考える。

二人は、根気強くネリエルの言葉を待っていた。

 

ややあって、ネリエルは口を開く。

 

「………前世の記憶(・・・・・)…って、言ったら…信じられますか?」

 

「……は…?」

「はあ…?」

 

ぽかん、と口を開けた相澤とブラドに、ネリエルは眉を下げる。

 

「信じられないですよね」

「い、いや…前世か。まあ……そういう年頃ではあるか…」

「おいブラド。いや、俺も正直…心からは信じられんが」

「こんなこと言ったら、やっぱり捜査の撹乱って言われちゃうかなと思って」

「……そうだろうな」

 

こんな荒唐無稽な話を信じるほうが難しいだろう。相澤とブラドは、一気に歯切れが悪くなった。

 

「つまり…前世で『ワープゲート』のような“個性”を使っていたということか?」

「その時は“個性”じゃなくて……うーん…超能力?みたいなものだったし、『ワープゲート』ともちょっと性質が違ったんですけど」

 

相澤に尋ねられて、ネリエルは言葉を選びながら答える。

 

「ともかく、次元と次元をつなぐ門を開く能力…みたいなものを持っていて。その知識に加えて、USJと林間合宿での状況から色々と考えて話しました」

「うむ……そうか……」

 

何を言うか思いつかなくなったのか、ブラドが黙り込む。相澤は三度、深いため息をついた。

 

「……程々にしておけ」

「はあい」

 

相澤も全くと言っていいほど信じていない様子ではあるが、頭ごなしに否定はしないだけいい方だろう。

二人の中でどういった解釈をされたのか、ネリエルの言葉に対してそれ以上の追求は無く、その日の面会時間は終了した。

 

 

 

 

 




なんで解空(デスコレール)なんていう便利技を、虚や破面が戦闘中に緊急避難用として使わないんだ?ってことを、何となく馬鹿真面目に考察していた時の説を採用しました。
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