ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語   作:猫禰捏涅

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46.寮生活、開始 / 部屋王

雄英高校が全寮制へと移行することを決定し、様々な準備を経てからの登校一日目。

 

元気に過ごせるように、とペッシェが朝食に用意してくれたのは、じゅわっとした食感と卵のふんわり感、ハチミツの優しい甘さが絶妙なフレンチトーストと、野菜たっぷりのサラダだ。

 

「ねーペッシェ、ドンドチャッカぁ」

「なんでヤンスか?」

「どうした?」

 

絶品の朝食を堪能しながら、ネリエルは寮生活の準備と休みの間に考えていたことを、ペッシェとドンドチャッカに話し始めた。

 

「んー…私、友達…になりたい子への対応を、間違えたかもしれなくって」

「なんだと?」

「どう間違えたんでヤンスか?」

 

フレンチトーストを一切れ口に入れてその甘さに頬を緩ませつつ、少し考える。

 

「おいし……あのね、爆豪くんっているでしょ」

「ああ!体育祭で1位だった子でヤンスね」

「表彰台ですごく暴れていたな。その子と何かあったのかい?」

 

ネリエルは芦戸に言われた言葉を思い出す。

 

「爆豪くんってね、向上心がすごいの。だから周りのことをライバル視してて…私にもちょっと突っかかってきてたんだ」

「ああ…想像できるな」

「雄英の会見でも、理想が強いって言われてた子でヤンスよね」

「うん。それで、私は皆と仲良くしたいなって思ってて、あんまりそういうことを気にしてなかったんだけど、爆豪くんはそれを逆に気にするんだよって友達に言われたの」

 

ペッシェは「なるほどなあ」と言いながらネリエルのカップに紅茶を注ぎ足し、ドンドチャッカはバワバワのブラッシングをしながら首を傾げた。

 

「その対応が間違ってた、ってネルは思ったんでヤンスか?」

「んー……あんまり詳細は言えないんだけど…合宿の時にね。ちゃんと爆豪くんとコミュニケーションが取れてれば、もっとうまく対応できたんじゃないかなあって場面があったんだ」

「気にしすぎじゃないでヤンスかねえ。体育祭での様子を見る限りだけど、爆豪くんの態度にも問題がないとは言えないと思うでヤンス」

「それも友達に言われた」

 

ダイニングテーブルの向かいに座ったペッシェが、ネリエルの頭を軽く撫でる。

 

「ネルは責任感が強いな」

「…そうかな」

「私もドンドチャッカと同じ意見だぞ。それに、翻って今度は気にしすぎるというのもよくないと思う。逆に反発を招きそうだ」

「そうでヤンスね」

 

二人の意見は確かに的確だろう。しかしネリエルは小さくため息をつく。

 

「…爆豪くんのこと以外で、何か気になることがあるのかな?」

「うん…爆豪くんは、ノイトラとは違うって分かってたはずなのに、同じような対応をしちゃってたなあって気づいたんだ」

 

ペッシェとドンドチャッカが目を丸くする。二人には『記憶』についてざっくりとした内容は既に話しているものの、具体的な個人の名前を出すのは初めてだった。

 

「その…ノイトラ、というのは?」

「何だかあんまりよくない雰囲気を感じるでヤンス」

 

記憶は無いはずのドンドチャッカの言葉に、ネリエルは「鋭いね」と少し笑った。

 

「んー…彼とは同じ組織にいたんだけど、私のほうが序列としては上で。ノイトラはそれが気に入らなくて突っかかってきてた…って感じかな」

「…ううむ。確かに、一部被るところはあるな」

「その、ノイトラとはどうなったでヤンスか?」

「……最期まで、分かり合えなかった」

 

ネリエルは静かに目を伏せる。

第3十刃(トレス・エスパーダ)だった頃、ノイトラに背後から襲われて頭蓋を割られたことは、苦い記憶として脳裏に焼きついている。

そして、ぼんやりとした意識の中で『ネル』としてノイトラの最期を見たことも、確かに覚えている。

 

「…だから、爆豪くんとノイトラは違うし、それなら違う対応をするべきだったのに…できてなかったんだ」

「気にしすぎ…とも言えなくなったな。しかしだ、ネル」

 

優しいが力強いペッシェの声に、ネリエルは顔を上げた。

 

「『記憶』の話を聞く限り、ネルの前世は一度の失敗がそのまま生死に繋がるような環境だったのだろう?だが、今は違うじゃないか」

「そうでヤンス!何度でも失敗できるのは学生の特権でヤンスよ!先生達にも頼ればいいんでヤンス」

「その通り!ネルが間違っていたと思うなら、次から改善すればいいだけだ。雄英の先生方にも何だって相談できる。違うかい?」

「バワ、バワッ!」

 

ドンドチャッカもネリエルのそばにやってきて優しく笑い、バワバワもネリエルを元気付けるように足元にじゃれつく。

ネリエルはふさふさの毛で覆われたバワバワの顔を撫でまわし、額に軽くキスをして、ようやく明るく笑った。

 

「そうだね。爆豪くんも戻ってきたし…もう取り返しのつかないことにはなってないんだもん。やってみるよ」

「うむ、その意気だ!」

「応援してるでヤンスよ」

「バワ!!」

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 

朝食後、ドンドチャッカに高校まで送ってもらったネリエルは、校舎から徒歩五分という好立地に三日で建てられたという寮、『ハイツアライアンス』の前にやってきていた。

 

「おはよー!」

「おはよ、透ちゃん。元気そうね!」

「もーすっかり元気だよ!」

「おはよ、ネル」

「響香ちゃん、おはよう!響香ちゃんも元気になって本当によかった」

 

A組で敵(ヴィラン)のガス攻撃を受け、数日間意識不明の状態だった葉隠と耳郎はすっかり元気を取り戻している。

ネリエルはほっと安堵の息を吐き、二人が復帰できたことを喜んだ。

 

「とりあえず1年A組。無事にまた集まれて何よりだ」

 

「皆、許可降りたんだな」

「私は苦戦したよ…」

「フツーそうだよね…ネルは?」

「私はスムーズに」

「あれ…オーデルさんも直接被害遭ったのに?」

「雄英のほうがセキュリティはすごいもの」

「それは確かになー」

 

「無事集まれたのは先生もよ。会見を見た時は、いなくなってしまうかと思って悲しかったの」

「うん」

「……俺もびっくりさ。まァ…色々あんだろうよ」

 

蛙吹から声をかけられた相澤は少々歯切れが悪い様子だが、切り替えるために手を叩く。

 

「さて…!これから寮について軽く説明するが、その前に一つ。当面は合宿で取る予定だった、“仮免”取得に向けて動いていく」

 

“仮免”という言葉に、何人かが「あ」と口を開けた。

 

「そういやあったなそんな話!!」

「色々起きすぎて頭から抜けてたわ…」

「大事な話だ、いいか」

 

相澤の雰囲気が変わり、視線が鋭くなる。

 

「轟、切島、緑谷、八百万、飯田。この5人は、あの(・・)晩(・)あの(・・)場(・)所(・)へ、爆豪救出に赴いた」

「え…」

 

ネリエルは困ったように眉を下げながら、名前を挙げられた五人のほうを向く。他のクラスメイト達の表情も様々で、気まずげな顔をしている者が多い。

 

「その様子だと行く素振りは、皆も把握していたワケだ。色々棚上げした上で言わせてもらうよ。オールマイトの引退予告がなけりゃ俺は、爆豪・耳郎・葉隠・オーデル以外は全員除籍処分にしてる」

 

除籍、という言葉に全員の顔が固くなる。

 

「彼の引退予告と、実際に引退した後は混乱が続くと予想される…敵(ヴィラン)連合の出方が読めない以上、今雄英から人を出すわけにはいかないんだ。行った5人はもちろん、把握しながら止められなかった他の者も、理由はどうあれ俺たちの信頼を裏切った事には変わりない」

 

相澤の声は淡々としているが、底冷えするような恐ろしさがある。切島ら五人はどんどん俯いて顔を暗くしてしまった。

 

「正規の手続きを踏み、正規の活躍をして、信頼を取り戻してくれるとありがたい。以上!さっ、中に入るぞ、元気に行こう」

 

相澤はスタスタと寮に向かって歩き出す。しかし、A組生徒達はそれほどすぐには気分を切り替えられずに沈んでいる。

 

その重たい雰囲気の中で、爆豪が突然上鳴の襟首を掴んだ。

 

「来い」

「え?何、やだ」

 

止めるべきか、とネリエルは悩んだものの、今朝悩んでいたことを思い出して足が止まる。

その間に、爆豪が上鳴を連れて行った茂みの裏で一体何があったのか、いきなり上鳴の放電が溢れ出てきた。

 

「うェ〜〜〜い…」

 

一気に電気を放出したことで許容量(キャパ)を超えたのか、顔がアホになってしまった上鳴が現れた。

 

「バフォッ」

「んっ…!!」

 

思いっきり吹き出した耳郎の横で、ネリエルは何とか耐えたものの呻き声が出てしまう。

 

「何?爆豪何を……」

「切島」

「んあ?」

 

アホな表情のままフラフラしている上鳴に皆が気を取られる中、爆豪は切島に話しかけ何故か一万円札を数枚差し出していた。

 

「え怖っ何、カツアゲ!?」

「違え、俺が下ろした金だ!いつまでもシミったれられっと、こっちも気分悪ィんだ」

「あ…え!?おめー、どこで聞い…」

 

会話の内容の意味は分からないが、何かしらの代金を爆豪が切島に返しているらしい。爆豪の口調こそキツいものの、険悪な雰囲気というわけではなかった。

 

「うェい…?うェイうェうェうェイ!?」

「いつもみてーに馬鹿晒せや」

「だめ…ウチ、この上鳴…ツボッフォ!!」

「響香ちゃん…!」

「ふぇ…ふぇ、ふぇいだうェイ」

 

爆豪は切島に紙幣を押しつけて去っていく。

一方、両親指を立てながら奇妙な言動を繰り返す上鳴に、耐えきれなかった耳郎が思いきり笑い始める。

 

「………わりィな」

「あっはははは、はは、あははは…!はー、ひーっ、ひー!」

「笑いすぎだろ!」

「響香ちゃん、呼吸が」

 

笑いすぎて過呼吸気味になっている耳郎の背を、ネリエルは慌てて摩る。

 

「皆!すまねえ…!!詫びにもなんねえけど…今夜はこの金で焼肉だ!!」

「うェーい!」

「買い物とか行けるかな?」

「マジか!」

「ハ———、ヒー、ヒー…」

「落ち着いた…?」

 

なんとか呼吸を落ち着かせた耳郎の背中を摩りながら、ゆっくりと寮に向かう。

 

寮は五階建てで、それぞれの階の天井も高く立派な建物だ。

エントランスに入ってすぐは広々とした談話スペースとダイニングで、その豪華さに皆が顔を輝かせた。

 

「1棟1クラス、右が女子棟左が男子棟と分かれてる。ただし、一階は共同スペースだ。食堂や風呂・洗濯などはここで」

「広キレー!!そふぁああ!!!」

「おおおお!」

「中庭もあんじゃん!」

「豪邸やないかい」

「麗日くん!!」

 

はしゃぐ芦戸や葉隠らに対して、麗日は意識が遠くなったらしくふらついている。

 

「聞き間違いかな…?風呂・洗濯が共同スペース?夢か?」

「男女別だ。おまえいい加減にしとけよ?」

「はい」

 

不穏な発言をする峰田に釘を刺しながら、相澤はエレベーターを呼び出した。

二階に上がると、中庭側のガラス窓から明るい日差しが差し込む廊下に、四つの扉が並んでいる。

 

「部屋は二階から、1フロアに男女各4部屋の5階建て。一人一部屋、エアコン、トイレ、冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間だ」

 

例として開けられた部屋は十畳ほどはありそうな個室で、奥の窓を開くとベランダまで付いている。

 

「ベランダもある、すごい」

「我が家のクローゼットと同じくらいの広さですわね…」

「豪邸やないかい」

 

八百万の呟きを聞いた麗日はまた意識を遠くしている。勉強会で八百万の家、というよりも屋敷に行ったことのあるネリエルは、その広さを思い出して確かにと頷いた。

 

「部屋割りはこちらで決めた通り、各自事前に送ってもらった荷物が部屋に入ってるから、とりあえず今日は部屋作ってろ。明日また今後の動きを説明する。以上、解散!」

「ハイ先生!!!」

 

元気よく返事をして、全員が早速自分に割り当てられた部屋に向かう。

ネリエルが割り当てられたのは女子棟三階の端の部屋で、同じフロアにいるのは葉隠と耳郎だ。一つ開けて隣が葉隠で、反対の端にいるのが耳郎となっている。

 

「じゃ、また後でね」

「二人とも、後で部屋見せてね!私も見せるから絶対だよ!?」

「ふふ、もちろん。私も楽しみ!」

 

そう言って耳郎と葉隠と分かれたネリエルは、割り当てられた部屋へ足を踏み入れる。

 

「よし…!」

 

部屋の中にはいくつかの段ボール箱が積まれていた。

その山を前に気合を入れ、ネリエルは早速手前の段ボール箱から開封していく。

 

「んっ!」

 

ネリエル自身の私物はそれほど多くはない。

しかし、その半分以上がトレーニング器具であるため、重さはかなりのものになっている。

 

「よいしょ…っと」

 

ダンベルにウェイトバー、バーベルのシャフトとプレート、プッシュアップバー、アブローラー、プルアップバー、トレーニングチューブその他諸々。

ストレッチにも使うローラーやストレッチバンドなども段ボール箱から取り出し、主にベッドの下の収納スペースにしまい込んだ。

 

「ふう!」

 

重たいトレーニング器具を片付けて一息ついてから、服はクローゼットへ、参考書や教科書は机や本棚に収納して、ネリエルは最後に残った一番大きな段ボール箱を開ける。

 

そこには、巨大な———それこそ『カモシカ』の姿となったネリエルでも、悠々と寝そべることができそうなほど巨大な薄緑色のビーズクッションが、段ボール丸々一つを使って詰め込まれていた。

 

これはペッシェとドンドチャッカからネリエルへのプレゼントである。

元々、家でも同じ形で色は濃い緑色のビーズクッションを使っていたのだが、寂しがるバワバワのためにネリエルの匂いが残るそれは置いてきている。代わりに、色が違う同じものが贈られたのだ。

新生活頑張れ、という二人からのメッセージである。

 

「えい!…ふふっ!」

 

段ボールを畳んでまとめ、ビーズクッションを部屋の真ん中にででんと置いたネリエルは、くすくすと笑いながらその上に飛び込んだ。

分厚いビーズクッションは勢いよく飛び乗ったネリエルの体も柔らかく受け止め、包み込む。

 

「んー…、ん?」

 

家のものと変わらない心地よい感触を堪能していると、トントンと扉がノックされた。

 

「はーい?」

「葉隠だよー!ネルちゃん、お部屋できた?」

「うん、ちょうどできたところだよ!」

 

ネリエルの部屋を訪ねてきたのは葉隠だった。部屋を覗き込んだ葉隠は、楽しそうに両手を挙げる。

 

「すごーい!でっかいクッション!」

「兄からのプレゼントなの」

「えーいいなー!」

「座ってみる?」

「いいの!?…あ、待って!」

 

ネリエルの誘いに乗りかけた葉隠だが、ぶんぶんと体ごと大きく首を横に振る。

 

「さっきね、あしみなが来たんだけど…男子も巻き込んで、お部屋披露大会しない?って誘われたの!」

「お部屋、披露大会…!楽しそう!」

「楽しそうだよね!上の人らには麗日が声かけに行ってるって。うちらは耳郎ちゃんが部屋できてそうなら誘っていこ!」

「うんっ!」

 

大会の楽しそうな響きに誘われ、ネリエルは葉隠と共に耳郎の部屋を訪ねた。先ほど葉隠が訪ねた時は、まだ部屋が出来ていないからと出てこなかったらしい。

 

「耳郎ちゃーん!お部屋できた??」

「……あー、一応できたよ。てか、マジでやんの?」

「あしみなちょーやる気だよ!」

「私も皆のお部屋が見たい!」

「えー、マジか…」

 

耳郎は細めに扉を開け、渋々といった様子で出てきた。三人で揃ってエレベーターホールに行ってボタンを押すと、ちょうど降りてきたエレベーターに芦戸、麗日、八百万が乗っていた。

 

「お、ちょーど合流!」

「いえーい!」

「あれ、梅雨ちゃんは?」

 

蛙吹は5階に割り当てられていたはずだが、エレベーターに乗ってきていない。それに気づいたネリエルが尋ねると、麗日が声を上げた。

 

「梅雨ちゃんは…ちょっと気分が優れんって」

「そっか、初日だし疲れちゃったのかもね」

「じゃー他の皆でお部屋披露大会だっ」

 

そうして蛙吹を除いたメンバーで一階のリビングへと降りていくと、部屋作りを終えた男子生徒達が集まって駄弁っていた。

 

「男子、部屋出来たー?」

「うん、今くつろぎ中」

「あのね!今話しててね!提案なんだけど!お部屋披露大会、しませんか!?」

 

芦戸からの提案に、即座に「いいじゃねえか!」と反応したのは峰田だった。

何故かひどく乗り気の峰田によって、あれよあれよという間に男子棟の二階に揃って行くことになり、早速標的にされた緑谷の部屋が開け放たれる。

 

「わああダメダメちょっと待———!!!」

「オールマイトだらけだ、オタク部屋だ!!」

 

緑谷の部屋は壁一面にオールマイトのポスターが貼られ、あちこちにオールマイトのフィギュアが飾られて家具の一部までもオールマイトグッズという、オールマイトオタクの鑑のような部屋だった。

 

「憧れなんで………恥ずかしい…」

「かっこいいよね、オールマイト。こんなに集めるってすごいなあ」

「ガチファンだなーとは思ってたけど、ここまで来ると尊敬だわ」

 

麗日からの率直な感想に、緑谷は目を合わせられず顔を真っ赤にして俯いている。ネリエルはグッズを一つ一つ眺めて感心し、耳郎も頷いている。

 

「やべえ、何か始まりやがった…!」

「でもちょっと楽しいぞコレ…」

「フン、下らん…」

 

恥ずかしがりながらも部屋は見せてくれた緑谷と違い、常闇は部屋の扉を体で塞いでいる。

葉隠と芦戸が力づくで常闇を押し退け、扉を開放した。

 

「無理に見たいわけじゃないんだけど…」

「マジで見せたくないなら鍵かけりゃいいんだし。なんだかんだ大丈夫でしょ、って…うわ暗っ!」

 

耳郎が叫んだとおり、常闇の部屋は窓が暗幕で覆われており、家具も黒色だらけで非常に暗かった。

 

「黒!!怖!」

「貴様ら…」

「このキーホルダー、俺中学ん時買ってたわあ」

「男子ってこういうの好きなんね」

 

切島は壁に飾られていた龍や剣、十字が主なモチーフになっているキーホルダーを懐かしそうに眺めている。

 

「剣(つるぎ)だ…カッコイイ…」

「偽物、だよね」

「あ、うん、そうみたい」

 

ベッドの足元に立てかけられていた剣は、見た目は立派だがプラスチック製の偽物のようだった。

ネリエルは剣を見て一瞬身構えてしまった体の力を抜く。

 

「出ていけ!!」

 

叫んだ常闇によって部屋から追い出された一行は、その隣の青山の部屋に向かう。

青山が高笑いしながら堂々と開け放った扉の先からは、やたらと眩しい光が溢れてきていた。

 

「まぶしい!!」

「ノンノン、まぶしいじゃなくて、ま・ば・ゆ・い!」

 

常闇の暗い部屋との対比もあり、目が潰れそうなほど輝いている個性的な部屋だ。

 

「思ってた通りだ」

「想定の範疇を出ない」

「目がチカチカする…」

「なんで部屋にミラーボール要るんだよ」

 

しかし、普段の青山の言動からするとイメージ通りではあったため若干盛り上がらなかった。

 

「楽しくなってきたぞ、あと2階の人は…」

 

そう言った麗日が振り返った先で、細く開いた扉の隙間から峰田が顔を出している。

 

「入れよ…すげえの…見せてやんよ」

 

何故かひどく息が荒い。

 

「3階行こ」

「入れよ…なァ…」

 

峰田の言葉は全員からスルーされた。部屋の披露ももちろんスルーされ、次に3階のフロアへと上がる。

最初に披露されたのは、エレベーターから近かった尾白の部屋だ。

 

「ワァー普通だァ!!」

「普通だァ!すごい!!」

「これが普通ということなんだね…!」

「言うことないならいいんだよ…?」

 

一名を除いて個性的な部屋が続いた2階に比べ、尾白の部屋はまさしく部屋、という感じのごく普通の部屋だった。特に特徴的なものもなく、すぐにその隣の飯田の部屋へと全員の興味が移る。

 

「難しそうな本がズラッと…さすが委員長!」

「おかしなものなどないぞ」

 

飯田の部屋はベッド横の壁がほとんど本で埋め尽くされていた。対して、反対側の壁には棚がかけられ、いくつものメガネがきちっと置かれている。

 

「メガネクソある!」

「何が可笑しい!!激しい訓練での破損を想定して…」

 

麗日はずらりと並んだメガネに吹き出していたが、ネリエルは壁に並べられ、時に平積みにされている本の山のほうを見て首を傾げた。

 

「…飯田くん、これ地震の時は大丈夫?」

「あ、確かに。寝てる時に地震きたら、本がベッドのほうに倒れてくるかもじゃん」

「そうですわね…飯田さん、もう少し本の高さを低くするか、本棚や本が倒れた時に、動線を塞がない位置に移動させてはどうでしょう?」

 

日本は地震大国である。

“個性”の発現により、かつての頃より地震による被害は抑えられるようになり、“個性”を併用した工事で災害からの復興もずいぶんと早くなったが、地震そのものが無くなったわけではない。

雄英高校でも年一回の避難訓練を行なっているほどに、地震は未だ身近な災害だ。

 

「む!?確かにそうだな!?すまない、ありがとう!後ですぐにレイアウトを変えるとしよう!」

 

飯田も部屋の問題に気づいたらしく、素直に礼を言う。

八百万の具体的なアドバイスの通り、本の山の高さを低くするかベッドから遠ざければ問題は解決するだろう。

 

その次に訪ねた上鳴の部屋も、物が多かった。

 

「チャラい!!」

「手当たり次第って感じだナー」

「えー!?よくね!?」

 

だが、勉強関連のものが多い飯田に比べて、多種多様な趣味のための機器やファッションアイテム、雑誌などに溢れており、今時の若者らしい部屋である。

 

前二人とは対照的に、床に置かれている物が非常に少なかったのが口田の部屋だ。

 

「ウサギいるー!!可愛いいい!!」

 

大型犬であるバワバワは連れてこられなかったネリエルと異なり、口田は一羽のウサギを部屋で飼っていた。

女子達の声のトーンが一気に上がり、可愛らしいウサギの周りに集まろうとしたのだが、一気に耳をピンと立てたウサギは一目散に部屋の端に逃げていってしまった。

 

「あれ!?」

「怖がらせちゃった?ごめんね口田」

「……!?……!!」

「え、普段はこんなことない…?人混みも大丈夫って?」

 

口田曰く、この子はウサギとしては珍しく撫でられるのが好きで、初めましての人が撫でても抱っこしても大丈夫なほど、非常におっとりとした性格のはずなのだという。

それが、部屋に人が来ただけで逃げてしまうのを見たのは口田も初めてらしい。

 

「……!ごめん、口田くん。私のせいかも…」

 

部屋の中に入りかけていたネリエルは、そう言いながら一歩後ろに下がった。

 

「え、なんで?」

「私、小動物から避けられちゃうんだ。…多分だけど、私のことを『強い動物』って感じて、怖がっちゃってるんじゃないかな」

「……あ、え!?ネリエルさん、それってもしかして『カモシカ』がってこと!?」

「うん」

 

ネリエルの“個性”のことに思い至ったらしい緑谷が尋ねてきたことに頷く。

ネリエル自身は動物全般を好んでいるのだが、ウサギの他にも、ハムスターやハリネズミといった特に警戒心が強い小動物から好かれた経験が全く無いのだ。

 

「…!……!!」

「ごめんね、口田くん。わざとじゃないんだけど…すぐに出るね」

 

小さな声だが、気にしないでという言葉が口田から聞こえた。それでも申し訳なく思いながら、足早に口田の部屋を離れる。

 

「はー、そういうこともあんのね」

「動物系の“個性”だと、どうしても相性があるみたいなんだ」

 

「それはそれとしてよぉ…」

 

口田の部屋を出て廊下に集まったクラスメイトの中で、最初のほうに酷評された四人が険しい表情をしている。

 

「釈然としねえ」

「ああ…奇遇だね。俺もしないんだ、釈然…」

「そうだな」

「僕も☆」

 

その四人を代弁するかのように———結局彼の自室は披露されていないが———峰田が女子達をびしりと指差す。

 

「男子だけが言われっ放しってのはぁ変だよなァ?『大会』っつったよな?なら当然!女子の部屋も見て決めるべきじゃねえのか?誰がクラス一のインテリアセンスか、全員で決めるべきなんじゃねえのかあ!!?」

 

ただ部屋を披露していくというだけだったはずが、部屋をそれぞれ批評することに話が変わっている。

しかし、芦戸が「いいじゃん!」と乗ったことで、その流れがそのまま続いた。

 

「えっとじゃあ、部屋王を決めるってことで!!」

「部屋王」

「別に決めなくてもいいけどさ…」

 

尾白はそう言ったが、結局全員で部屋を見て最後に投票することで、『部屋王』を決めることになった。

 

全員で男子棟の4階に上がったのだが、同じ4階フロアの部屋を割り当てられたはずの爆豪は場にいない。

 

「爆豪くんと切島くんと障子くん……だね」

「爆豪くんは?」

「「くだらねえ先に寝る」ってよ。俺も眠い…」

「じゃあ切島部屋!!ガンガン行こうぜ!!」

「どーでもいいけど、多分女子には分かんねえぞ」

 

蛙吹の他にも爆豪を欠いた状態だが、切島の部屋が披露される。

 

「この男らしさは!!」

 

切島の部屋の壁には大漁旗や熱い言葉が書かれた横断幕、ポスターなどで溢れている。炎柄のカーテンの前にはサンドバッグ、床にはバーベルが転がっていて、まさにトレーニング好きの男子の部屋、といった感じだ。

 

「……うん」

「彼氏にやってほしくない部屋ランキング、2位ぐらいにありそう」

「アツイねアツクルシイ!」

「ホラな」

 

芦戸には冷めた反応をされ、葉隠と麗日からも褒められたとは言えない言葉をかけられた切島の目は若干潤んでいる。

 

「あ、あのサンドバッグ。私も使ってたことあるよ」

「マジでえ!?」

 

ネリエルの着眼点は同じトレーニング好きとして、トレーニング器具に向いている。

 

「うん。でも後ろ脚で蹴りを入れた時に破れちゃったから、買い替えたんだ。タケフスポーツっていうメーカーのサンドバッグ、丈夫ですごくいいよ!」

「お…おお…!サンキュな!俺もつい『硬化』した腕で殴っちまってたまに破くんだよ!次やっちまったらそこのにするわ!」

 

切島は先ほどまでと一転して嬉しそうな表情になった。

二人以外のメンバーは若干盛り上がれず、隣の障子の部屋の披露に移る。

 

「トレーニング器具のことは分かんない…次!障子!!」

「何も面白いものはないぞ」

 

そう言った障子の部屋には、布団と文机と座布団ぐらいしか置かれていなかった。

 

「面白いものどころか!!」

「ミニマリストだったのか」

「まァ、幼い頃からあまり物欲がなかったからな」

「こういうのに限ってドスケベなんだぜ」

 

あまりにも物寂しい部屋は批評するところも特に無かった。

 

「次は一階上がって5F男子!」

「瀬呂からだ!」

「マジで全員やんのか…?」

 

そこそこ夜遅くなってきているが、先導する女子達の勢いは止まらない。

その勢いのまま瀬呂の部屋が披露され、異国風情溢れる部屋に全員から歓声が上がった。

 

「おお!!!」

「エイジアン!!」

「ステキー」

「瀬呂こういうのこだわる奴だったんだ」

「オシャレだねー!」

「へっへっへ、ギャップの男瀬呂くんだよ!」

 

リゾート風のインテリアで統一された空間には瀬呂のこだわりが感じられる。瀬呂の部屋だけ南国の風が吹いているような雰囲気だった。

 

「次、次ー!」

「轟さんですわね」

 

瀬呂の隣は轟だ。少し眠そうで目が開ききっていない轟の部屋に押しかける女子達は少しソワソワとしている。

 

「さっさと済ましてくれ、ねみい」

 

そう言って開かれた扉の先には、畳張りの和室が広がっていた。

 

「和室だ!!」

「造りが違くね!?」

 

奥の窓に障子戸まではめ込まれている徹底振りで、家具も桐箪笥に文机と全て和風である。

 

「すごい…!!」

 

ペッシェとドンドチャッカと住む家も全てフローリングで、畳の部屋をあまり見たことがなかったネリエルは目を輝かせた。

 

「実家が日本家屋だからよ。フローリングは落ち着かねえ」

「理由はいいわ!」

「当日即リフォームってどうやったんだおまえ!」

 

上鳴と峰田に詰められた轟はぼそりと答える。

 

「………頑張った…」

「何だよこいつ!!」

 

「大物になりそ」

「イケメンのやることは違えな」

「じゃ次!男子最後は!」

「俺」

 

轟の個性的すぎる部屋に呆れていた砂藤は、部屋を披露しながら「まーつまんねー部屋だよ」と溢した。

 

「轟の後は誰でも同じだぜ」

「ていうか、良い香りするのコレ何?」

「ああイケね!!忘れてた!!」

「この香り、ケーキかな…?」

 

砂藤の部屋にはふわりと甘い匂いが漂っている。ペッシェがネリエルのためにお菓子を焼いてくれている時の家の香りに似ていて、ネリエルはすんすんと鼻を鳴らしながら微笑んだ。

 

「そうそう、シフォンケーキ焼いてたんだよ!皆食うかなと思ってよォ…ホイップがあるともっと美味いんだが……食う?」

「くう〜〜!!」

「いいの!?」

 

オーブンから取り出され、さらに甘く良い香りを漂わせるシフォンケーキに女子達が歓声を上げた。

 

「模範的意外な一面かよ!!」

 

上鳴と峰田は、何故か歓声ではなく悲鳴を上げていた。

 

「あんまぁい!フワッフワ!」

「すごいね、シフォンケーキってちゃんとふわふわにするの難しいのに!」

「瀬呂のギャップを軽く凌駕した」

「素敵なご趣味をお持ちですのね、砂藤さん!今度私のお紅茶と合わせてみません!?」

「オォ、こんな反応されるとは…まァ、“個性”の訓練がてら作ったりすんだよ。…てか、ネリエルも菓子作りやるのか?」

 

砂藤に尋ねられ、ネリエルはシフォンケーキのかけらを飲み込みながら答える。

 

「ん、たまに!食べるほうが好きだけど、兄が料理とかお菓子を作るのを手伝うんだ。ものによっては市販より美味しくできるし」

「ああ、わかる。買うより安上がりだし、出来立てって美味いんだよな!」

「うん、これもすごく美味しい!生地の作り方が上手なんだね」

「おうよ、シフォンケーキは得意だぜ!」

 

砂藤は得意げに胸を張った。

 

「ちっきしょーさすがシュガーマンを名乗るだけうまっ!」

「ここぞとばかりに出してくるな……うまっ…」

「男子は以上…うまっ」

「次は私たちうまっ…だね!」

「さっぱりした甘さだからいくらでもいける」

「うむ!」

「女子棟とつながってんのは1Fだけだから」

「うまっ…一旦降りて…」

「やだなー……うまっ」

 

モチャモチャと食べながらわちゃわちゃと階下に降り、女子棟に入って3階へと上がる。

 

「マジで全員やるの…?大丈夫?」

「大丈夫でしょ、多分」

「………ハズいんだけど」

 

最初に披露されるのは耳郎の部屋になったが、耳郎は気乗りしない様子で少し頬を赤くしている。

それでも扉を開けて見せてくれた先では、部屋中に楽器が溢れていた。

 

「思ってた以上にガッキガッキしてんな!」

「すごーい!かっこいいーっ!」

 

一気にテンションの上がったネリエルは、ぱたぱたと部屋に駆け込み、楽器類を眺める。色彩も赤と黒で統一された部屋の中はスタイリッシュでとても格好良い。

 

「ギターだ!ドラムも…キーボードも!え、すごいね響香ちゃん、本当にこれ全部弾けるの!?」

「まァ、一通りは…」

「耳郎ちゃんはロッキンガールなんだねえ!!」

「かっこいいねーっ!!」

「これが仰っていたバンド楽器ですのね。こんなにたくさんの種類が…」

 

耳郎は恥ずかしそうに『イヤホンジャック』の先端を突き合わせているが、満更でも無さそうだ。

 

「女っ気のねえ部屋だ」

「ノン淑女☆」

「そんなことない、かっこいいしすごいよ!」

「いーよネル、次の部屋行こ」

「次は私、葉隠だ!」

 

好き勝手なことを言う上鳴と青山は無視して、耳郎に背中を押されながら次の葉隠の部屋へと向かう。

 

「どーだ!?」

「お…オオ、フツーに女子っぽい!ドキドキすんな」

 

ピンク色を基調として、花やリボンのモチーフで溢れた可愛らしい部屋だ。

 

「可愛いお部屋だね!ぬいぐるみが沢山…!」

「いーでしょ!…って、正面突破かよ峰田くん!」

 

他の者が部屋を見回す中で、峰田が真っ直ぐに服を収納している引き出しに向かっていって開けようとしていた。

耳郎の『イヤホンジャック』が伸びて峰田の耳から爆音を流し込んで制裁し、瀬呂の『テープ』によってあえなく捕獲される。

ぐるぐる巻きにされた峰田を引き摺りながら、一行はネリエルの部屋へと向かった。

 

「ふふ、どうかな?」

「めっちゃトレーニング器具ある、やば!」

「でっっっかいクッション!すごー!」

 

大半は収納したがそれでも端にたくさん並べられたトレーニング器具、そしてやはり部屋の真ん中に鎮座する巨大なビーズクッションに注目が集まる。

 

「『カモシカ』の体重と蹄で踏んでも破れないクッションだよ!ヒーロースーツにも使われてる素材なんだって」

「これ、すっごい飛び込みたくなるね!」

「どうぞ?」

「やったーっ!」

 

ネリエルの許可を得た葉隠がクッションに思いきりダイブする。「私も!」とその後に芦戸が続いて飛び込んだが、それでもクッションの上のスペースには余裕がある。

耳郎がその余った端に座り、「すげー」と笑っていた。

 

「ね、ネリエルさん!こんなサイズでヒーロースーツ素材のクッションなんて、どこにも売ってないよね…!?」

「うん、そうだよ。兄がフリーランスのサポートアイテムメーカーだから、オリジナルで作ってくれたの」

「えっ、す、すごい!!どこのメーカーのヒーロースーツ素材!?」

「えっとね…」

 

ヒーローオタクとしての緑谷が出てきて、ペッシェが丹精込めて作ってくれたクッションの自慢も兼ねて話しながら4階へと向かう。

 

「じゃーん!!カワイーでしょーが!!」

「おォ…」

 

芦戸の部屋は濃いピンクや紫色に彩られたなかなか派手な部屋だ。しかし本人には似合っており、統一感があるので散らかった印象は無い。

 

「派手だな!」

「でもあしみなっぽい!」

「素敵なお部屋!」

 

芦戸と同じフロアにいるのは麗日だけで、「味気のない部屋でございます…」と謙遜しながら案内された。

 

「馴染んでていいと思うよ!」

「生活感があるねー」

「もうずっと昔から使ってる家具ばっかりだから…!」

 

麗日は恥ずかしいのかすぐに案内を終えた。一行の後ろで尾白と常闇がこそこそと会話をしている。

 

「なんかこう…あまりにもフツーにフツーのジョシ部屋見て回ってると、背徳感出てくるね…」

「禁断の花園…」

 

5階フロアの住人は蛙吹と八百万だが、蛙吹はこの場には参加していない。

麗日が蛙吹は気分が優れないから、と断りを入れて最後の女子部屋の披露は八百万だけになった。

 

「優れんのは仕方ないな。優れた時にまた見してもらおーぜ」

「じゃ最後は八百万か!!」

「それが…私、見当違いをしてしまいまして…」

 

いつも優秀なはずの八百万だが、そう言いながら恥ずかしそうに扉を開く。

 

「皆さんの創意工夫溢れるお部屋と比べて…少々手狭になってしまいましたの」

 

それなりに広いはずの部屋が、ほとんど巨大で豪華なベッドに占領されてしまっている。

 

「でけえーー!!狭!!どうした八百万!」

「可愛いけど、ちょっと大きいね…?」

「まああの家のやつなら、納得ではあるんだけど…」

「ええ、私の使っていた家具なのですが…まさかお部屋の広さがこれだけだとは思っておらず…」

 

八百万の屋敷であれば、確かに見劣りしない品格と大きさのある家具である。

大きすぎるベッドによって部屋の中には踏み込めず、なかなかお目にかかれない豪華さの家具を、入り口付近から眺めるだけにとどまった。

 

「えー皆さん投票お済みでしょうか!?自分への投票はなしですよ!?」

 

お部屋披露大会の言い出しっぺである芦戸が、投票用紙を取りまとめて1階の談話スペースで司会進行を務める。

投票用紙と投票箱は、委員長決めの時のように八百万がささっと用意をしていた。

 

「それでは!爆豪と梅雨ちゃんを除いた…第一回部屋王、暫定一位の発表です!!」

 

きりりと顔を引き締めた芦戸が、結果の書かれた紙を読み上げる。

 

「得票数6票!!圧倒的独走、単独首位を叩き出したその部屋は———……砂藤——力道——!!」

「はああ!!?」

 

個性的な部屋が並んだ中で、トップに躍り出たのは部屋自体は普通、しかし絶品のシフォンケーキで皆の心を掴んだ砂藤だった。

 

「ちなみに全て女子票!理由は「ケーキ美味しかった」だそうです」

「部屋は!!」

 

もちろんネリエルも砂藤に投票した。部屋作りで体力を使ったところに甘味が染みたのもあるが、やはり女子はスイーツに弱いということである。

 

「てめーヒーロー志望が贈賄してんじゃねー!!」

「知らねーよ、何だよすげえ嬉しい!」

 

上鳴と峰田に飛びかかられている砂藤に、ネリエルはくすくすと笑いながら声をかけた。

 

「砂藤くん、ケーキ本当にありがとう!よかったら今度一緒に作ろ!」

「お…おぉ!!」

「ムキィイイイイ!!!」

「この野郎ぉおおおお!!」

 

『部屋王』を終え、さすがに夜遅いので眠くなって欠伸をしたネリエルに、巨体の影が近づいてきた。

 

「…オーデル」

「障子くん?どうしたの?」

「あのクッションのことなんだが…市販はされていないんだよな」

 

話しかけてきたのは障子である。ネリエルが持つビーズクッションが気になったらしい。

 

「うん、兄の手作りだよ。プロだからもちろんクオリティはすごいけど…あ、もしかして欲しいの?」

「ああ。俺は体の大きさがこうだから、合う家具がなかなか無いし、あっても高い。だが、ヒーロースーツ素材の大きなクッションはいいなと少し思って…」

「確かに、あの座布団だと障子くんには小さいよね。そうだなあ…」

 

ネリエルは少し悩んでから、ぱっと顔を輝かせた。

 

「じゃあ、ペッシェに個人受注で作れるようにならないか頼んでみるよ!」

「…いいのか?迷惑になるのでは…」

「ううん、個人のフリーランスだから、商品が増えるのは大歓迎。それに、今まで現場に向けたサポートアイテムばかりだったから…日用品にも需要が出るのはむしろ喜ぶと思う!」

「…それなら、良かった」

 

マスクで隠れていて分かりにくいが、障子が少し嬉しそうな表情をする。

連絡しておくね、と約束してそれぞれの棟に分かれ、その日は解散となった。

 

 

 

 




ネリエルのあざと可愛さに翻弄される男子達…。
次の戦闘訓練に早く行きたくてめちゃくちゃ詰め込んでしまいました。

ちなみに、ネリエルも除籍処分しない組に入っていたのは、相澤はネリエルのことを信じている反面、塚内との会話を聞いていた以上きちんと監視しなければ、とも思っているからです。
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