ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語 作:猫禰捏涅
「———っ!!?」
灰緑の瞳を大きく見開きながら、勢いよく振り返る。
「………ハリ、ベル?」
「ああ」
振り返った先には、ネリエルが思い浮かべた通りの——否、思い浮かべた姿よりもほんの少しあどけない雰囲気で、
「……っ!!!」
「おっ、と…ふふ、変わらないな」
なりふり構わずに駆け出して飛びついたネリエルの体を、褐色の腕がしっかりと抱きとめる。
金糸雀のような明るい金の髪に頬を擽られながら、ネリエルは
「ハリベル、ハリベルだ…!!」
「ああ、ネリエル。…久しぶりだ」
相変わらず淡々としている声だが、ネリエルはそこに込められた万感の思いを感じ取る。
「うん…久しぶり」
きつく抱き締めていた腕を解いて体を離し、同胞の———ティア・ハリベルの姿を改めて視界に収める。
滑らかな褐色の肌と、金色のまつ毛に縁取られたエメラルドグリーンの瞳。鋭い切れ長のそれは、今はゆるく笑んでネリエルを見つめている。
ネリエルも自然と微笑み、今度はそっとハリベルの背中に腕を回して柔らかくハグをした。ハリベルの手が優しくネリエルの背中を撫でる。
「同じだな」
「ええ、そうね」
互いの耳元で囁かれた小さな声でのやり取りは、二人が同じように『前』の記憶を持つことの確認だ。
『今』は初対面であるにも関わらず名前を呼ばれ、視線を交わしただけでも察していたが、改めて確信する。
「ネリエルさん、その、そちらは……?」
「…あ、ごめん、モモちゃん。えっと、昔の友達で…」
「ティア・ハリベルだ。ネリエルとは古い友人だが、連絡を取れていなくて…本当に、久々に再会した」
呆気にとられているA組の生徒達の中からネリエルに声をかけてきたのは八百万だった。
言葉に詰まるネリエルに代わり、ハリベルはさらりと違和感のない説明を口にする。
「そうでしたの…!まさか、こんなところでお会いすることもあるのですね」
「うん、本当に。ハリベルもヒーローを目指してるなんて…それも、士傑に通ってるんだね」
ハリベルは白いシャツに黒いスカート、頭には制帽という特徴的な制服を着ているため、士傑高校の生徒であるのは明らかだった。
しかし、スカートの裾はかなり短くされ、シャツの前は胸の谷間が見えるほど開けられている上に、金のロングネックレスを首にかけているので、さらに谷間が強調されている。
制帽はかき上げた側と逆に長く下ろした前髪の上に斜めにして被っており、全体的にかなり挑発的な着こなしだ。
だが本人が堂々としており、かつネリエルと同じくらい背が高くメリハリのある体型のため、下品ではなくむしろモデルのように魅力的に見える。
「わ、わ、わ、ワイルド金髪褐色巨乳ーーー!!?」
「めっ、めちゃ美人…!」
「スタイル良っ…脚長っ…!?」
「それがふわふわ癒し系巨乳ことネリエルと!!?挟まりてえ、あそこに挟まりてえよおおおお!!!」
「それを言う男は死刑になるんだぜ、峰田くん!」
体を寄せ合って立つハリベルとネリエルの間に突っ込むように、峰田が駆け出そうとする。
しかし、そっと背後に忍び寄っていた葉隠によって襟首を捕まえられ、さらに瀬呂の『テープ』で全身を拘束される。それでも芋虫のように暴れていたが、相澤に足蹴に転がされてようやく大人しくなった。
「オーデル、再会を喜ぶのはいいがまず試験だろう。…そっちの、士傑の生徒さんも」
「ごめんなさい、先生!」
「…失礼した」
注意されて名残惜しく思いながらも、互いの体を離す。ハリベルはスカートのポケットに手を突っ込み、小さなカードを取り出してネリエルに手渡した。
「連絡先だ。同じ会場だからまた会えるだろうが、試験の後にゆっくり話そう」
「うんっ!…って、これ用意してたの?」
「自分の体育祭が全国中継されていたのを忘れたのか?」
「…あっ、そっか!」
「もし会えたら、と思って持ってきていたんだ。まさか本当に会えるとは、私も思っていなかったが」
ポーカーフェイスをほんの少し緩ませ、ハリベルは微笑む。対してネリエルは満面の笑みで再びハグをして、「また後で」と告げた。
「ああ、後で。…ちなみに、私はおまえの一つ年上のようだぞ」
「…えっ!?ハリベル、二年生なの!?」
「士傑は仮免試験を受けられるのが二年からでな。夜嵐は特例だ」
「てっきり同い年か、年下かと思ってた…」
「私も驚いた。…その辺りも、また」
「うん!」
最後にするりとネリエルの髪を撫で、ハリベルは軽く手を振って去っていった。
渡されたカードを握り締めながら、ネリエルはぶんぶんと勢いよく腕を振ってそれを見送る。
「ほら、はよ戻れ」
「すみません!」
一応それまで待ってくれていた相澤に促され、ぱたぱたと駆け戻る。
「おかえりー。めっちゃ感動の再会してたな」
「本当に会うのが久しぶりで…びっくりしたけど、嬉しいよ」
「しかも士傑って!すごいねっ!」
「うん、でも納得。ハリベル、強いもの」
ネリエルがにこりと笑うと、周囲の緊張感が少し上がる。
「アイツも
A組の生徒達にそう告げた相澤に、「イレイザー!?イレイザーじゃないか!!」と明るい声がかかった。
「テレビや体育祭で姿は見てたけど、こうして直で会うのは久しぶりだな!!」
ヒーローコスチュームを纏った明るく朗らかな女性にも関わらず、相澤はひどく嫌そうな顔をしている。
「あの人は…!」
「結婚しようぜ」
「しない」
「わぁ!!」
女性からの突然の求婚に、芦戸が黄色い悲鳴をあげる。
「しないのかよ!!ウケる!」
「相変わらず絡み辛いな、ジョーク」
「スマイルヒーロー『
もはやお決まりとなりつつある緑谷からの早口の解説に、周囲はへえーと納得の声を上げる。
「私と結婚したら、笑いの絶えない幸せな家庭が築けるんだぞ」
「その家庭幸せじゃないだろ」
「ブハ!!」
「仲が良いんですね」
「昔事務所が近くでな!助け助けられを繰り返すうちに相思相愛の仲へと」
「なってない」
律儀にツッコむ相澤に、Ms.ジョークは楽しそうにしている。
「なんだ、お前の
「イジり甲斐があるんだよな、イレイザーは。そうそう、おいで皆!雄英だよ!」
相澤と同じくプロヒーローであり教師でもあるらしく、Ms.ジョークは教え子達を呼び寄せた。
「
「ネル、気になるとこそこ??」
「おお!本物じゃないか!」
「すごいよすごいよ!
「1年で仮免?へえーずいぶんハイペースなんだね、まァ色々あったからねえ。さすがやることが違うよ」
「傑物学園高校2年2組!私の受け持ち、よろしくな」
Ms.ジョークの教え子達はミーハーな反応をする者、おそらくは嫉妬から嫌味を言う者と反応は様々だが、その中から明るい笑顔を浮かべた男子生徒が出てきて緑谷の手を取った。
「俺は真堂!今年の雄英はトラブル続きで大変だったね」
「えっあ」
「しかし君たちはこうしてヒーローを志し続けているんだね、すばらしいよ!」
真堂と名乗った男子生徒は、次々とA組の生徒達と握手を交わす。
「不屈の心こそ、これからのヒーローが持つべき素養だと思う!!」
「ドストレートに爽やかイケメンだ…」
きらりと光る白い歯でウインクしながら爽やかに笑う男子生徒は、最後に爆豪に手を差し出した。
「中でも神野の
「フかしてんじゃねえ。台詞と面が合ってねえんだよ」
「こらおめー、失礼だろ!すみません無礼で…」
「良いんだよ!心が強い証拠さ!」
しかし爆豪は真堂の手をすげなく振り払ってしまい、切島が慌てて謝っていた。
「ねえ轟くんサインちょうだい、体育祭かっこよかったんだあ」
「やめなよ、ミーハーだなァ」
「はあ…」
「オイラのサインもあげますよ」
「わあー!ネリエルさんだ!
ツインテールの女子生徒がはしゃいだ様子でA組の生徒達に声をかける。ネリエルも握手を求められ、慣れないながら微笑んで手を握り返した。
「おい、コスチュームに着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」
そのまま盛り上がりかけたところを相澤に咎められ、ぞろぞろと会場へと向かう。
「なんか…外部と接すると改めて思うけど」
「やっぱけっこうな有名人なんだな、雄英生って」
「“個性”も知られちゃってるしね」
「あーそうじゃん。ウチら、狙われるかも?」
「かも」
◇
コスチュームに着替えて案内されたのは、巨大なコンテナのような会場だった。
前方には巨大なスクリーンがあるそこに、床が見えないほど大勢のヒーロー候補生達が詰め込まれている。
「多いな…!」
「多いね…!」
ネリエルはきょろ、と辺りを見回すがあまりにも人数が多く、目当てであるハリベルの姿は見つけられなかった。
『えー…ではアレ、仮免のヤツを、やります。あー…僕、ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠、よろしく』
スクリーンの前にスーツの男性が立ち、非常にだるそうな佇まいのまま説明を始める。
『仕事が忙しくてろくに寝れない…!人手が足りてない…!眠たい!そんな信条の下、ご説明させていただきます』
「公安ってそんなに忙しいんだ…大丈夫かな…」
疲れている様子を隠しもせず男性は話す。ネリエルは小さく心配そうに呟いた。
『ずばりこの場にいる受験者1540人一斉に、勝ち抜けの演習を行ってもらいます』
「ザックリだな」
「まじか」
『現代はヒーロー飽和社会と言われ、ステイン逮捕以降ヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくありません』
ステインを発端として湧き上がった、『ヒーローとは見返りを求めてはならない』『自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない』という議論は、SNSに疎いネリエルでも目に入ってきていた。
『まァ…一個人としては…動機がどうあれ、人助けしている人間に“何も求めるな”は現代社会に於いて無慈悲な話だと思うワケですが…。とにかく、対価にしろ義勇にしろ多くのヒーローが救助・
目良の話でネリエルが思い出すヒーローはミルコである。
彼女自身が機動力が高いというのもあるが、周囲やサポートもミルコが極限まで効率的にヒーロー活動を行えるような体制を作っていた。
『君たちは仮免許を取得し、いよいよその激流の中に身を投じる。そのスピードについていけない者、ハッキリ言って厳しい。よって、試されるは
そして告げられた条件に、会場全体が揺れるほど候補生達がざわついた。
「待て待て1540人だぞ!?5割どころじゃねえぞ!!?」
『まァ社会で色々あったんで…運がアレだったと思ってアレして下さい』
「マジかよ……!」
相澤から事前に聞いていた合格率を遥かに下回る合格ラインに、ネリエルは特に表情を変えないがA組の中でも青ざめている者は何人かいる。
『で、その条件というのがコレです』
目良が手に持っているバッジのようなものとボールが、後ろのスクリーンにも解説の画像と共に表示される。
『受験者はこのターゲットを3つ、体の好きな場所、ただし常に晒されている場所に取り付けてください。足裏や脇などはダメです』
スクリーンに映る人型のイラストに、3つのターゲットが貼り付いた。
『そして、このボールを6つ携帯します。ターゲットはこのボールが当たった場所のみ発光する仕組みで、3つ発光した時点で脱落とします。3つ目のターゲットにボールを当てた人が“倒した”こととします。そして
ボールの数もターゲットの数もぴったりで、しかも100人のラインで
相当に苛烈で厳しい条件だ。
『えー…じゃあ
目良の言葉と共に公安の職員達が動き出す。同時に、重い金属音と共に地面が揺れ始め、コンテナのような会場の四方八方が展開された箱のように開いていった。
「わあ…!」
『各々苦手な地形、好きな地形あると思います。自分を活かして頑張って下さい。一応地形公開をアレするっていう配慮で……まァムダです。こんなもののせいで睡眠が…』
目良は愚痴混じりに言うが、ネリエルは周囲を見回して目を輝かせた。
平らな部分もあるが起伏が多く、エリアによってはビル街や住宅街、岩山まであり、試験一つのために大掛かりな会場が用意されている。
「すごいなぁ…」
配られたボールバッグは腰に巻き、ターゲットは左肩、右脇腹、左腿の前に装着しながら、ネリエルはじっくりと会場や他の候補生を観察する。
大抵はそれぞれ同じ学校で固まっており、それは雄英も同じだ。
「先着で合格なら…同校で潰し合いは無い…むしろ手の内を知った仲でチームアップが勝ち筋…!皆!あまり離れず一かたまりで動こう!」
しかし、ネリエルはそう声を上げる緑谷から距離を取る。
「私、別で行動するね!」
「フザけろ、遠足じゃねえんだよ」
「バッカ待て待て!!」
「俺も、大所帯じゃ却って力が発揮できねえ」
ネリエルの他にも、爆豪と切島、轟もその場から離れていく。
「轟くん、ネリエルさん!!」
「緑谷時間ねえよ!行こう!!」
クラスメイトの輪から離れたネリエルに、あちこちから視線が集まる。
それを受け流しながら、ネリエルは背中の槍を取り外して手に構えた。
(連携の練習をしてるわけでもないし…撥ねちゃったら悪いものね)
そう思いつつ、くるりと手の中で槍を回す。
『5———4———3———2———1———……START!!』
「やっぱり、きたね」
号令がかかると同時に、周囲の候補者達が一斉にネリエルに襲いかかってきた。
「潰せ潰せえ!!」
「物量で押せ、近づけんな!」
「遠距離あるやつ、やっちまえ!!」
大量のボールがネリエルに向かって勢いよく投げられる。いくつかのボールには“個性”が作用しているらしく、炎や電気を纏ったものもある。
「よっ」
何一つ気負っていない気楽な声と共に、ネリエルは前方に突き出していた
そして、
「盾ェ!?」
「サポートアイテムだ、奪えるやついねえのか!?」
「後ろ回れ!全方位から囲んで叩けばいい!」
体育祭では当然持ってなどいなかったサポートアイテムに、
ネリエルは前に垂れてきた髪を手で払いながら、悠々と『カモシカ』へと変身した。
「やべぇ…っ」
体育祭を経て、既に脅威として周知されている“個性”に、周囲の生徒が顔を強張らせる。
「はっ!!」
短い気迫の声と共に、
前方でもたついていた幾人かをそのまま撥ね飛ばし、ネリエルは包囲網を突破した。
目指すのは、フィールドの中でも一際高くそびえ立つ、険しい岩山である。
「ふっ!」
「ぎゃぁあ!!」
「くそ…強え…!」
道中で何人かなぎ倒し、ネリエルは投げることなく手に握ったままだったボールを、ターゲットに殴るように当てて一人脱落させた。
「はっ」
「うわぁあああ!!」
『
「っと…あと一つだったのに」
だが、一人の候補者のターゲットを二つ光らせたところで、同校らしい別の候補者に横合いから救出されてしまう。
ボールをターゲットに六度当てればいいというわけではなく、二人
「ネリエル」
背後から聞こえた声に、ネリエルはぱっと顔を輝かせて振り返る。
「ハリベル!」
少し離れた場所に佇むハリベルは、士傑高校の制帽はそのままに、ヒーローコスチュームへと装いを変えていた。
「コスチュームかっこいいね!」
「ああ、おまえもな」
ハリベルのコスチュームは
しかし材質が黒のレザーになっているため、色味がちょうど反転している。
「…色々と、思い出す」
「そうだね…」
大きく広がった襟元で口元を隠すダブルボタンの上着は短く、丈は胸の半ばほどまでの長さになっている。
ボトムスは袴ではなくミニ丈のスカートで、足元は
大胆に開いた胸の下半分と腹はぴったりとした素材のインナーで覆われており、しっかりと鍛えられて引き締まった体のラインが強調されている。
ハリベルはターゲットを右前腕、左鎖骨あたり、左腰に装着していた。
その三つはネリエルと同じく、どれも光っていない。
「………」
「………」
お互いの姿を見とめた後、無言でそれぞれの得物を構える。
ネリエルは槍、ハリベルは右手に携えた鮫の歯のような形状の、身の丈半分ほどもある大剣である。
「———ふっ!」
「は…っ!」
ほぼ同時に駆け出し、ガァン!!!と、轟音と共に槍と大剣が激突する。
近くで見ればすぐに分かったが、ハリベルの大剣もネリエルの槍と同じく刃は潰されており、剣であるのは形だけだ。
両者共に、重量級の獲物。
しかし、動物系の“個性”を持つ
「…やはりな」
ハリベルは手首を返して槍を逸らし、ネリエルに押された勢いをバックステップで殺す。
「真正面からは流石に不利か……ふ、っ!」
「ぅぐぅ!!?」
それを隙と見て背後から攻撃してこようとした別の候補生を、ハリベルは大剣の横腹で殴り倒す。
ついでにボールをターゲットに押し当てて三つ目を光らせ、その候補生を脱落させた。
「これで一人目だ。おまえは?」
「私もあと一人だよ!」
そう答えつつ、ネリエルは腰溜めに槍を構えて駆け出す。
ハリベルは低く腰を落として大剣を後ろに引き、迎え撃つ姿勢だ。
「——
「!!」
ハリベルの口から出た、聞き覚えのない技名。
だがネリエルは素早く反応し、四つ足で地を蹴って大きく横に飛んだ。
空いた空間を、高速で渦巻く水の塊が切り裂いていく。
それを横目で見送り、ネリエルは呟いた。
「
「ああ、違う。『今』の私が編み出した技だ」
大剣を振り抜いた姿勢のハリベルの周囲に、徐々に水が集まっていく。
『
「おまえは体育祭で“個性”を晒したのに、私がそうでないのは不公平だろうから言っておく」
「あら、いいの?」
「おおよそ推測はついているだろう?それに、プロになれば“個性”を知られているのは当たり前だ」
真っ直ぐにネリエルへと向けられた大剣の先を、多量の水が渦巻きながら覆っていく。
「私の“個性”は『
同時に、ドリルのように渦巻く水の塊がいくつもハリベルの周囲に浮かぶ。
「…
水でできた十本の槍が、ネリエルに殺到した。
「はぁあっ!!」
気迫の声を上げ、ネリエルは槍を振り回して
また、水の槍を放つと同時に走り出していたハリベルの姿からも目を離していない。
再び、槍と大剣がかち合わされる。
またもネリエルが、身体能力と上段からの打ち込みの勢いに任せて押し込もうとするが———
「っ!?」
ハリベルよりも膂力は勝っているはずにも関わらず、今度は逆に押し込まれてしまう。
ガツン、と重い音と共に穂先を弾かれ、ネリエルは後ろに跳んだ。
「“個性”の噴射で…!そんな使い方もできるんだ!」
ハリベルが持つ大剣は、ジェット噴射のような水の渦で後ろから支えられていた。
「なかなか便利だぞ。『今』の膂力は物足りんのでな」
ハリベルが、渦巻く水を纏わせながら大剣を振り上げる。
これまでよりも明らかに剣速が早い。
「は、っ!!」
四つ足でしかと地面を踏み締め、ネリエルは油断なく全力で大剣を受け止める。
鍔迫り合う槍と大剣の向こうで、ハリベルはどこか楽しそうに薄く笑っていた。
「
今度は聞き覚えのある技名に、ネリエルは一度槍を強く押し込んでから一気に後ろへと飛び退った。
まさしく大瀑布の如き水流の壁が、二人の間を断つ。
「
「当然だ」
しかし、
もしもかつての技と同じ規模であれば、周囲で隙を窺う数十名ごと、ネリエルは押し流されていただろう。
「ふ——…」
ネリエルは
水流の壁が消えた先、ハリベルは剣先をネリエルに向けて構えていた。
大剣に渦巻く水は纏っていない。
「…っ!!」
だが、ネリエルは本能に走る危機感に、ぞわりと肌を粟立たせた。
「———
「な——……」