ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語 作:猫禰捏涅
オリキャラはなかなか気に入ってます。“個性”差別やら迫害やらを描くなら、このぐらいのインパクトは欲しいよな〜と錬成しました。
「直接対峙して、よく分かったよ……あの男は、既に
世界のどこか、誰も知らない闇に沈んだ一室の中で、男が哄笑を滲ませた声で言う。
「なる程、それは好都合だな!やはり君の判断はさすがだ」
カチャカチャ、カラン、と器具を動かす音を立てて、老人は手術台の上の
「ああ、あそこで退いたのは正解だった。どこぞの誰かに火種を譲渡した後なら……何をせずとも、いずれ凡百に成り下がる。後継がそう早く育つこともないだろう」
「では、こちらはその間に力を蓄えられるというわけだ」
ニィ、と男は口元を歪める。
「ところでドクター、死柄木 弔達の様子はどうだい?」
「相変わらずレベル2の辺りから抜け出せておらんよ。レベル3にも行けんようでは、やはり君の器としては相応しくないな」
「フフ…まあ、そちらはじっくりとでいい。それよりも、│試作品《・・・》のほうだ」
男は料理が待ちきれない子供のように、両手を擦り合わせた。
「順調じゃよ!このままいけば、試運転ができる日も近いじゃろうて」
「それは楽しみだ!ワクワクが止まらないね、明日は希望に満ちている!」
邪悪極まりない笑顔を浮かべながら、男は未来への展望を描く言葉を吐いた。
◇
オールマイトは、端的に言って焦っていた。
神野区での
ひいては、彼と共に撤退していった
『ワープ』系の“個性”を用いて、移動の痕跡すら残さずに姿を消したというのが大きい。
そして、裏社会にはそこら中に
引退会見にてオールマイト自身が宣言した、『
故に、それがたとえ四年前という過去の記録だったとしても、「
「塚内くん!!」
「落ち着け、オールマイト」
人払いをした会議室でオールマイトを待っていた塚内は、一台のノートパソコンを弄っていた。
「落ち着いていられない気持ちも分かるだろう?それで…」
「ああ。約4年前に、
ノートパソコンの画面には、音声プレーヤーがポップアップしている。それを再生する前に、塚内は少し迷う様子を見せた。
「その人はどういう……塚内くん?」
「いや…今回はそういった前情報を入れずに、まずは聞いてほしい」
「君がそう言うなら…」
頷いたオールマイトに、塚内は再生ボタンを押した。
微かなノイズ音が走り、『…では、始めます』という声からその記録は始まった。
———先程の聴取で言っていた、『個性の取引』について詳しく聞かせてください。いつ頃、どういった経緯で持ちかけられたのですか?
『半年程前のことです。我々の活動が拡大傾向にあった頃…どこから我々のことを聞いたのか、情報屋と名乗る人物が突然現れ、話を持ち込まれました』
聴取役である警官の質問に返ってきたのは、低く落ち着いた男性の声だ。
その内容に、オールマイトは驚愕する。
「個性の、取引…!!?」
「後で説明するが、ある事件に関連してこの話が出てきたんだ。これが
———何故、その情報屋からの話に応じたのですか?
『我々の悲願ゆえです。ご存知でしょうが、我々は“無個性”を理想とし、人類から“個性”という穢れを祓うことを目的として活動しておりますので』
「待ってくれ」
カチ、と停止ボタンが押される。
「“無個性”を理想とする…って…まさか、彼が言う『我々』とは…“無個性至上主義”の団体かい!?」
「そうだ。…彼の情報は後で話す。続きを聞いてくれ」
再生ボタンが押され、音声が再開した。
———では、あなたは“無個性”となるためにその取引に応じるつもりで?
『結論から言えば、取引は決裂しました。言われた「個性を取り除ける」という言葉は非常に魅力的でしたが…「個性を消滅させる」わけではないと知ったからです』
———と、いうと…?
『我々は“個性”を消し去りたい。ですが、自身の“個性”を他人に押し付けたいわけではないのです。通話の向こうの御仁に、私から取り除いた後の“個性”をどうするのかと聞いたのですが、答えは「適当な人に与えて有効活用してもらうよ」というものでした』
「……ほぼ間違いなく、
「やはりか。この後にもそれらしい話が出てくる」
———“個性”が受け渡しされるだけでは駄目だと?悪用されることを恐れたのですか?
『それもあります。しかし……例を挙げましょうか。その当時の私には、側近が付いていました。彼の“個性”は、『自己細胞分裂促進』。文字通り、自身の体の細胞分裂を加速させることができる“個性”です。傷の治りも早く、上手く使えば一時的にかなりのパワーも得られます』
「っ、アレが好みそうな“個性”だ…!まさか、その側近の人も目当てでこの取引を!?」
「君との戦いでの傷も癒えていないハズ、その可能性は高いだろうな」
———強い“個性”に思えますが、それも消滅させたいと?
『ええ。彼の“個性”は……穢れは、人の身には余るものだったのです。『自己細胞分裂促進』は常時発動型であり、彼の意思で止めることはできませんでした。そして、細胞の寿命は永遠ではなく…“個性”は、分裂を促進する細胞を選ばなかった』
———つまり…?
『私の側近は、その三ヶ月後に亡くなりました。直接の死因は、ガンです。取引の頃には、彼は20代の若者でありながら老人の姿で、全身にガン細胞が転移していた…もうお分かりでしょう。“個性”が、彼を殺したのです』
「……っ」
オールマイトは息を詰めた。
“個性”によっては、そういった風に使うだけ、持っているだけでも肉体に害を及ぼしてしまうものがあることは知っている。
オールマイトが受け継いだ“個性”———『
しかし、それとはまた別のベクトルで生々しく、惨い話だった。
———それは…ご愁傷さまです。そういう事情ならば、その“個性”を無くしたいと思うのは分かります。
『そうでしょう。『自己細胞分裂促進』の“個性”も引き取ろうかと、かの御仁は言っていましたが、彼は頷きませんでした。何故なら、消滅させるのではなく受け渡すだけならば、悲劇が連鎖する。そんなことは望まない、優しい人だったのですよ』
———その意向は、あなたも同じということですか。
『もちろんです。この姿を見れば、分かるでしょう?…まあ、私にはもう見えないのですが』
ほんの少し笑いを含んだ声を最後に、音声記録は終わった。
「“無個性至上主義”を掲げる団体が無数にあることは、君も知っているな」
「ああ…それは、もちろん」
「大学生のサークルレベルから、無個性の人々を支援する財団まで形は様々だが……この聴取を受けている彼が率いているのは、
「宗教…やはりか」
「宗教家らしい口ぶりだったろう。組織名は『
「『
「恐らく。そして彼の名前は、『
ノートパソコンの横に伏せて置かれていた資料が、オールマイトに手渡される。
それを表にひっくり返したオールマイトは、そこに載せられていた人物の写真を見て目を大きく見開いた。
「これ、は………!」
『
「聴取記録は、本来は映像だ。それを捜査本部で共有した時に、差別発言をした捜査員がいてな…。君ならそんなことはしないだろうが、音声だけ抜き出すように上から命令されたんだ」
「そうか…」
人間の頭大になった蛇の頭部。髪も耳も無い流線形で、口は顔の側面の穴——耳孔近くまで裂けている。
何より異様なのは、その
蛇であれば縦に割れた瞳孔を持つ目があるべき部分は、両方とも引き攣れて傷だらけの皮膚で閉ざされ、べこりと凹んでその下に眼球が無いことを嫌でも悟らせる。
皮膚は、本来は身体中に生えているのだろう
代わりに、無理やり鱗を剥がされたように肉が露出し、所々が痛々しく真っ赤に腫れていた。
「こんな……こんな…」
「おおよそ想像できる通りだ。彼の“個性”は『アミメニシキヘビ』で、異形型“個性”として壮絶な差別と迫害を受けた経験がある。その上で、“個性”を消滅させることを「救済」とする教義を掲げているんだ。写真は無いが、自ら口内の
オールマイトは慌てて、いくつかある写真のうち錦川の全身が写っているものを見る。
分厚く巨大な上半身に対し、錦川の脚は奇妙に細く小さかった。その腰あたりから太い尾が伸びていれば、全体的にしっくりとくる姿だろう。
「…バランスがおかしい…」
「杖が無ければ、まともに歩けないそうだ」
「だから、“個性”を無くしたいと…?こんな傷を負いながら…彼は、あれほど誇り高いことが言えるなど」
「オールマイト」
くしゃっと資料を握りしめたオールマイトに、塚内が冷たく、鋭い声を掛ける。
「
「っしかしだね…!」
「何故彼が事情聴取を受けているのか、説明する。二枚目だ」
塚内に有無を許さない口調で言われ、オールマイトは資料を捲った。二枚目には、『
「『
「分派したと?」
「その辺りは推測になるが、内部分裂だろうと見られている。錦川を主導者として『
「それにしても、あまりに名前がかけ離れているような…」
首を傾げたオールマイトの疑問に、塚内は「その理由は不明だ」と答える。
「『希望の光』はそこまで問題じゃない。主に無個性の人々への人道的支援を行っていて、活動は穏健だ。だが、『
三枚目の資料、その題名は「『
「さっ…殺害事件!?」
塚内が重々しく頷く。
「被害者は、『翼』の異形型“個性”を持っていた一般人だ。その人を、『
「———……」
絶句したオールマイトに、塚内も苦虫を噛み潰したような表情をしている。
「その事件を教唆した疑いがあるとして、錦川は一時拘束されたんだよ。さっきの聴取はその時に撮られたものだ。だが、証拠不十分で不起訴になった」
「なっ」
「『
塚内はノートパソコンを閉じながらオールマイトに尋ねる。
「こんな事情だから何を言っても先入観になりそうで、まずは音声を聞いてもらった。……どう思った?」
「……理知的で、穏やかな人だと。声だけでも、人格者だと確信していた」
「その印象も間違っちゃいない。ただ…
塚内の考察に、オールマイトも頷く。
「恐らくはそれが理由で、『
「それは、そうだろうな…」
「だから、
「まで?……まさか」
気づいたオールマイトに、塚内はため息をついた。
「さっきの音声で、聴取をしていた警察官だ。聴取の約半年後に警察を辞めて、家族に『出家する』と言い残してから連絡が取れなくなっている。タイミング的に、『
「そんなに影響を受けてしまったのか…」
「それで、本筋の事件とは関係ない部分まで踏み込んでいるというのもあるが、触れにくい記録として埋もれていたんだ」
「……なら、どうして今になって?」
オールマイトの当然の疑問に、塚内がもう一組の資料を渡す。
「『
渡された資料には、『
「死穢八斎會…ヤクザか!」
「ああ。数年前から、動きが妙だと警戒されていた指定
「一歩手前どころか、ほぼ犯罪者じゃないか。それが何故、宗教法人と?」
「それがさっぱりでな」
肩を竦めた塚内に、オールマイトはぽかりと口を開けた。
「
「どれだけ地道に調査しても、シッポを出してくれなくてね」
「うーん…取引は決裂していたと言っていたが、まだ
「ああ、だから今はより手を広げるために、
ビシッ、と岩になったかのようにオールマイトが固まる。
「協力感謝するよ、オールマイト」
そう言ってニコリと笑った塚内は、オールマイトの肩を叩く。
手の中の資料には、確かに「調査協力:ナイトアイ事務所」という文字があった。
◇
『
「そうだよね」
薄々予想してはいたものの、ミルコの言葉にネリエルは残念そうにため息をついた。
ビデオ通話の向こうで、ホテルの一室を背景にくつろいでいるミルコが、ブドウを一粒口に放り込む。
『
「言い方は悪いけど、間違いではないかな」
ミルコの明け透けな発言に苦笑しつつ、ネリエルはどうしようかと悩む。
「今の情勢からして、1年生はインターン受け入れの実績が多いところにしか行けないらしくって。ミルコ、心当たりない?」
『んあー?』
フルーツをもりもりと食べながらも、ミルコは一応考え込む様子を見せた。
『……アイツんとこはどうだ?デニム野郎』
「デニム…あ、ベストジーニスト?」
『おう!いっぺん聞いてみっか、待っとけ。おーい!』
ミルコは画面の外にいたらしいスタッフに声をかけた。職場体験にいたサポート要員とは別の女性スタッフが画面に見切れ、ミルコが簡潔に指示を出す。
「いいの?ベストジーニストって復帰したばかりなんじゃ」
『だからこそだろ。ウチはそーゆー時は臨時スタッフを使うけど、アイツんとこは今多分、手が足りてねえぜ。つけ込んでやりゃいいんだよ』
「つけ込むのかあ」
『お、返事きたってよ。はえーな!』
話の進み方の早さに驚くが、ベストジーニストといえばミルコとチャートトップ層を争うヒーローである。
その彼の元でインターンが行えるのなら、ネリエルにとっては願ってもない。
『早速明日面接に来いってよ!ついでに実力も見るらしいぜ』
「本当に話が早いね。でもありがとう、助かるよ!」
『気にすんな。強え奴が増えるのは歓迎だからな!後でメッセージにも送っとく。じゃまたな!』
「うん、また!」
ひらりと手を振ったミルコにネリエルも振り返し、ビデオ通話を終える。
「……あ、そうだ」
ふと呟いたネリエルは、メッセージアプリを起動する。
ハリベルとのトークルームを開き、『土傑はインターンってある?』とメッセージを送ってみる。
土曜日の午後とあって休息を取っていたのか、ハリベルからはそう時間を置かずに返信があった。
『あるぞ。私はフルードというヒーローのところでやっている』
「フルード…?」
『敵犯罪ではなく、水害対策を専門とするヒーローだ。有名ではないが、実績は十分にある』
軽く調べてみると、確かに過去の災害のニュース記事がヒットし、大きく活躍したヒーローとして名前が出ていた。
「ハリベルは、こういう方向性にしたんだ…」
『力を磨くにせよ、別の方向に伸ばすにせよ、インターンはいい経験になるはずだ。頑張れ』
ストレートなハリベルの激励に微笑んでお礼を返し、ネリエルは