ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語   作:猫禰捏涅

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A組女子達の会話を書くのが楽しい。


5.入学初日:昼食

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

「はーーーーー!!!!??」

 

飯田と麗日、緑谷が声を揃えて叫んだ。

ハッ、と小馬鹿にしたように笑った相澤の端末から、ホログラムモニターが起動する。

 

「やっぱりウソでしたわね。まあ、少し考えれば分かることですわ!」

「そゆこと」

「あ、一位だ。やった!」

「すごいわね、ネルちゃん」

 

ホログラムに表示されたランキングで、ネリエルは『ネリエル・トゥ』という略称になって一番高いところに名前が書かれていた。『オーデルシュヴァンク』が無いのは字が細かくなってしまうためだろう。

 

八百万がネリエルに次いで二位、飯田が五位、麗日が十一位、蛙吹が十四位とほとんどが問題ない位置にいるが、『緑谷 出久』の名前が二十一位の一つ飛び出た場所にあり、もし除籍の話が本当だったとしたら危ないところだった。

 

「これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから目ェ通しとけ」

 

終礼の挨拶もなく相澤は生徒達に背を向けたが、また振り返ってペラリと一枚の書類を緑谷に向かって差し出した。

 

「緑谷、リカバリーガール(ばあさん)のとこ行って治してもらえ。明日からもっと過酷な試練の目白押しだ」

 

『保健室利用書』と書かれた紙には相澤のサインが既に入っている。緑谷がそれを受け取ると、相澤はさっさと立ち去ってしまった。

 

「緑谷くん、早く保健室に行ってきたまえ!」

「あ………うん……」

 

心配そうな飯田に急かされ、緑谷が小走りで保健室のほうへと向かうのを見送る。

 

「嘘でよかったあ〜〜〜……!」

「ケロ、初日に突然クラスメイトが一人いなくなるのは悲しいものね」

 

除籍の話が嘘だったという安堵から気の抜けた様子で喋りながら、揃って更衣室に向かう。

 

「私はお買い物に行きたいから帰ろうかしら。皆はどうするの?」

「私も帰るよー」

「んー、お腹空いちゃったから食堂でご飯食べてから帰ろうかな」

「いいですわね!ネリエルさん、私もご一緒しても?」

「うん、もちろん」

「あ、ねえ!」

 

更衣室での会話に、黒髪のおかっぱの女子生徒がひらりと手を振って入ってきた。その後ろで透明人間の女子生徒と、ピンク色の肌と髪の女子生徒も手を振っている。

 

「聞こえちゃったんだけどさ、よかったらウチと…」

「ハーイ!私も食堂行きたい!あ、私葉隠透ね!」

「あたし、芦戸三奈!よろしく!」

「ウチ、耳郎響香。一緒に行ってもいいかな?」

「ええ、ぜひ!一緒に食べましょ」

「もちろんですわ。私は八百万百と申します、よろしくお願いしますね」

「ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク。長いからネリエルかネルでいいよ。あ、ねえ!梅雨ちゃんとお茶子ちゃんも!」

 

ネリエルが二人に呼びかけ、麗日と蛙吹もそれぞれ自己紹介をする。これでA組の女子は全員がお互いの名前を知ることになった。

 

「ネルって呼び捨てでもいいの?」

「ええ」

「じゃネルって呼ぶわ。名簿見た時から名前カッケーなあって思っててさ。話したかったんだよね」

「あ、私も思ってた!なんか響きがドイツっぽいよね!ねね、私もネルちゃんって呼んでいい!?」

「もちろん。透ちゃん、でいい?」

「いいよー!」

 

全てが透明になっている体故か、葉隠は一つ一つの動作が大きかった。ブンブンと腕が振られ、体全体で頷く。

 

着替え終わってぞろぞろと更衣室を出ると、男子生徒も数人廊下に出てきていた。その中に峰田の姿があり、ネリエルと八百万が揃って出てきたのを見ると一気にこちらに駆け出してこようとする。

 

黒影(ダークシャドウ)

『アイヨ!』

「ほぎゃ!!!」

 

しかし、しゅるりと後ろから伸びてきた影が実体化したかのようなモンスターによって峰田の体はがっちりと捕えられた。

 

「淑女らの花園を侵すとは愚の骨頂…」

「離せよおぉおおお!!!」

「あの影みたいなの何!?すごい!」

「常闇の『黒影(ダークシャドウ)』だよ。ありがとね、常闇〜」

「行こ行こ」

 

芦戸が明るく声をかけると、黒い羽毛に覆われた鳥の頭部をしている男子生徒が小さく頷いた。

ネリエルは『黒影(ダークシャドウ)』の姿に目を輝かせたが、耳郎に促されて歩き出す。

 

「あの峰田って奴、ヤバくない?」

「ちょっと耳郎、聞こえるって!まーでも確かにヤバいけどね、欲が」

「ずっとネルちゃんと…百ちゃんのことも無遠慮に見ていたわ」

「私のことも、ですか」

「気をつけなよー?二人とも可愛いし超スタイルいいんだから!」

「ありがとう。私も皆すごく可愛いと思う!」

「えっ!?」

 

ネリエルがさらりと言った褒め言葉に、女子達は色めき立った。

 

「えっ私も?私もー!?」

「うん、見えないけれどすごく声が素敵だし、動きもとっても可愛い!」

「わー!めっちゃ嬉しいー!」

「ねね、あたしは?」

「三奈ちゃんもとても可愛い!肌と髪の色、すごく綺麗だし似合ってる。あ、それに角が生えてるのがおんなじ!」

「やりぃ!てかそうだね、オソロ!」

 

芦戸は頭の上、ネリエルは耳の上に生えている角を指差し、イェーイと笑い合う。

 

「ケロケロ、ずっと思っていたけれど、ネルちゃんは褒め上手ね」

「そんなことないよー。あ、梅雨ちゃんも可愛い!目がぱっちりしてるし、髪の毛もとても綺麗、私癖っ毛だからちょっと羨ましいな」

「ケロ…ありがとう」

「モモちゃんも可愛いけど、綺麗って感じかな?切れ長の瞳が素敵。それにとても上品ですごいなって」

「まあ、ありがとうございます」

「お茶子ちゃんもすっごく可愛い!柔らかい雰囲気でキュート!ほっぺがもちもちで癖になる!」

「わはは、照れちゃうー!」

「それに響香ちゃんも…」

「うわこっち来た!?ウチはそういうのいいって、ほら教室着いたよ!」

「えー?」

 

ちょうど教室に辿り着き、少し頬が赤い耳郎に席に戻るよう急かされる。

机の上には朝には無かった書類や冊子が積まれていた。入学のしおりやカリキュラム、科目ごとのシラバス等の書類にザッと目を通してバッグにしまう。

国語、数学、英語やその他の通常の科目に加え、『ヒーロー』という単語がついた科目がいくつもあるのが、ヒーロー科に入学したことを実感させる。

 

「ネリエルちゃん、またね!」

「また明日ね」

「うん、また明日!」

 

麗日と蛙吹に手を振り、芦戸と耳郎、葉隠、八百万と合流する。

 

「ご飯何食べよっかな」

「ランチラッシュが食堂やってんだっけ?絶対何でも美味しいよね」

「お腹空いたねー」

「私もです。“個性”の関係もありますが、すごくお腹が空いてしまって」

「『創造』だっけ?」

「はい。組成と構造を理解しているものであれば、自身の脂肪を色々な組成の物質に変換して創造できますの」

「マジですごいね」

「それはお腹空くわー。てかもしかして太んないってこと!?」

「皮下脂肪に関してはある程度コントロールできるということになりますわね」

「マジか羨ましっ!」

「三奈ちゃん、別に太ってないでしょ?」

「これは頑張ってキープしてんのー!運動好きだから今のところ大丈夫だけどさ!」

 

芦戸がムキ、と腕に力こぶを作ってみせる。ネリエルはツンツンとそれを突いて「ムキムキね!」と笑った。

 

「ネリエルもめっちゃ筋肉あるよね!」

「『ヒーロー』になるなら、とりあえず筋力からかなって思って」

「体動かせるに越したことはないよねー」

「あーやっぱそうなる?ウチ、筋力とか体力あんまないんだよね…」

「私もテスト下から三番目だったからマズいよー!」

「透ちゃんの得意分野はまた別でしょ?それにこれから訓練なんだから、きっと自然とついていくと思う!」

「体づくりでしたらアドバイスできますので、よければ頼ってくださいませ」

「ありがたすぎー!」

「マジ?めっちゃ助かる!」

「てか八百万さ、ヤオモモって呼んでもいい?」

「え、ええ!もちろん構いませんわ!ぜひあだ名で呼んでくださいまし!」

 

『LUNCHRUSHのメシ処』という看板が掲げられた食堂に辿り着き、ちらほらといる生徒達に混じって中に入る。

食券形式ではなくメニューがある程度決まっている形のようで、キッチンに通じるカウンターに『カツ丼』『日替わり定食』『カレー』という表示があった。

 

「私は日替わり定食にいたしますわ」

「私カレー!」

「ウチも…あ、でも恒常メニューもあるんだ」

「あたしカツ丼にしようかな。ネリエルは?」

「私もカツ丼!あ、大盛りにしよ」

 

それぞれ列に並び、適当な雑談をして待っているとすぐに順番が回ってきて、カウンターのスタッフに注文を伝えてお金を渡すとすぐに食事が出てきた。

大量の学生達を捌くために非常に効率化された動きだったが、カツは揚げたてでほかほかと湯気を立てており、小鉢に味噌汁まで付いている。飲み物はセルフサービスで用意されており、ネリエルは水をカップに注いでお盆に乗せた。

 

「すごく美味しそう!」

「あっ、あの席空いてるよ」

「いーね!あそこにしよー!」

 

ちょうどまとまって空いていた席に向かい合って座る。ネリエルの隣には耳郎で、向かいには残りの三人が並んだ。

 

「いただきまーす!」

「いただきます!揚げたてだ〜!」

「がっつりカツ丼…しかも大盛りいけんのすごいね。ウチうどんにしちゃった」

「そんなメニューもございますのね」

「恒常メニューにあったよ、そばとかうどんとか。ねえ、ネルって生まれが外国なの?」

「ん、うん。そうよ。ただどこの生まれなのかは知らないんだ」

「知らない?ってそれ聞いていいヤツ?」

 

何か事情があるのかと顔を曇らせた耳郎に、ネリエルは「大丈夫よ」と笑った。

 

「覚えていないぐらい小さい頃に日本に移住したみたい。多分ヨーロッパ圏じゃないかとは思うんだけど、すぐに児童養護施設に預けられたから両親が分からなくて」

「あっ……ごめん」

「? どうして謝るの?んー、美味しい!」

「いやなんか…」

「今も施設から通われているのですか?」

「ううん、今は『兄』二人と暮らしてる。あ、実の兄弟じゃないんだけど、本当の家族みたいに仲がいいの!ペットのバワバワもいるし」

「そうだったんだ!ペットの子の写真とかないの?見たーい!」

 

葉隠にそうねだられたが、ネリエルは首を振った。それなりにカメラの性能もいいスマートフォンを持ってはいるものの、全く使いこなせていないのだ。

 

「実は、スマホを使うのが苦手で。というか電子機器全般…」

「そういえば、推薦入試の時にも携帯電話を持っていらっしゃいませんでしたわね」

「連絡先も覚えてなくてごめんね、モモちゃん。普段使わないから持ち歩く習慣がなくて、あの日も家に忘れていっちゃってたの」

「今時そういうことあるんだー!?」

「てか推薦なの!?二人とも!?」

 

耳郎が驚いて八百万とネリエルを見比べる。芦戸は「めっちゃテストよかったし納得!」と頷いていた。

 

「二人ともすごいね!」

「ですが、まだまだこれからですわ。先生はもっと過酷になると仰っておりましたし」

「てか初日から除籍って脅してくる先生が担任とかビビったよね」

「抹消ヒーロー、イレイザーヘッド!だっけ?」

「そうそう!あ、葉隠ってさ、“個性”消されたら見えるようになんの?」

「ハッ、そうだ!先生に“個性”消されたらわたし見えちゃう!やだアイデンティティがー!」

「アイデンティティなのね」

 

大げさな身振りで体を震わせる葉隠は、透明で分かりにくいが腕で体を抱きしめているらしい。

 

「葉隠は“個性”、『透明』?」

「正確には『透明化』だよー!そういえば“個性”紹介はしてなかったね!」

「そういやそうだ。ウチは『イヤホンジャック』ね。このプラグを刺して音で攻撃したり、音聞いて索敵もできるよ」

「あたしは『酸』!ちょっとここじゃできないんだけど、肌から色んな濃度の酸を分泌できる!」

「私は『カモシカ』よ。下半身がカモシカになって角も伸びるのと、全体的に筋力も上がって頑丈になるわ」

 

葉隠は変わらず見えないが、おそらくピースサインか何かのポーズを取ったらしい。芦戸は腕をまくってピンク色の肌を見せる。

耳郎の『イヤホンジャック』がしゅるしゅると動くところにネリエルが人差し指を差し出すと、プラグの先端が正確に指先を突いてきたのでかなり精密に操作ができるようだ。

 

「あれカモシカなんだね。何の動物か分かんなかったや」

「でっかかったよねー!」

「隣通った時振動やばかったよ!」

「驚かせてごめんね」

「や、それは全然大丈夫。ってかヤオモモさ、麗日と一緒にネルの後ろ乗ってたよね?あれめっちゃ羨ましかったんだけど!」

「ゴホン、あ、あれは…」

 

耳郎に詰め寄られ、定食の味噌汁を啜っていた八百万が咳払いをする。

 

「私から提案したの。二人とも乗ってみたそうにしてて可愛かったから」

「ええ、はい、そのですね…別荘で飼っている馬を思い出しまして…授業中だというのにはしゃいでしまいましたわ…」

「真面目〜!思ってたけどヤオモモってめっちゃお嬢様だよね!」

 

芦戸がケラケラと笑う。

 

「あ…馬に例えてしまったのですが、これはネリエルさんに失礼でしょうか?」

「いいよ?でも馬にはむしろ対抗意識燃やしちゃうかな」

「燃やしちゃうんだ」

「響香ちゃんもイヤホンに対抗意識ない?」

「あ〜あるかも、安いイヤホンとか。自分で聞いたほうが音質いいじゃん?みたいな」

「だよね。そんな感じで私のほうが気遣えるし乗り心地いいぞーって思ってる」

「そういう感じかー」

 

うん、と頷きながら最後の一口を口に入れる。少し冷えても粒立ったままの白米にタレが染み込んでおり、最後まで美味しいカツ丼だった。

 

「ん!めちゃくちゃ美味しかった!ごちそうさまでした」

「大盛りなのに早くない?」

「ご飯食べるの好きなんだあ」

 

ネリエルは水を飲みつつ幸せそうに笑う。

破面(アランカル)であった頃にも食事にはこだわっており、食材の乏しい虚圏(ウェコムンド)でも色々と創意工夫して料理をしていた。

しかし、やはり現世の食事は格が違う。

 

「日本のご飯って本当に美味しい…。外国のご飯を知ってるわけじゃないんだけどね」

「まーめちゃくちゃ治安いいほうだし、食にはこだわりあるしね。ごちそうさま」

「ねー、今日普通に帰る?」

「さすがにっしょ。めっちゃ疲れたし…てかお腹いっぱいなっちゃったから電車の中で寝るかも」

「皆は電車通学?」

「だよー!」

「あたしも」

「ウチも。「は」ってことはネルは違うの?」

「うん、私はバス。家が終点の近くなんだ」

「めっちゃいーね、ずっと座ってれば着くってことでしょ?」

「そう、すごい楽」

「ヤオモモはー?」

「私は家の者に送迎をしてもらっていますわ。…ですが、どこかで電車通学に切り替えようかと」

「お嬢様だー!なんで切り替えるの?」

「経験はやはり大事かと思いまして」

 

真面目な表情をしている八百万に、芦戸が首を捻る。

 

「そんないいモンでもないけどね。通勤ラッシュと重なったらもうぎゅうぎゅう詰めよ?」

「映像で見たことはございますが、それほどまでに…?」

「ウチとかそんな身長ないからさあ、たまに足浮くんだよね」

「私も私も!あ、私は認識されてなくて浮いちゃう時ある!」

「透ちゃん、気をつけてね?」

「まー大丈夫だよ!」

「え待って食堂閉まりそうじゃない?」

 

何気なくキッチンのほうを見た耳郎の言葉に、全員がそちらを向く。

カウンターに用意されていたものが全て撤去され、スタッフが片付けにシフトし始めていた。

 

「マジじゃん!早!」

「いや多分ウチらが遅かったんだわ」

「片付けようか」

「よく見ると周りに生徒さんがいらっしゃいませんわ」

 

バタバタと席から立ち上がり、返却口にお盆を返しに行く。

食堂にはもうほとんど生徒はおらず、下校口まで行っても姿はまばらだった。

 

「お喋りに夢中になっちゃったね!」

「ね。まだ話したいけど、明日から毎日会えるからいっか」

「そーだよ。じゃウチら駅組こっちだから」

「じゃね、また明日!」

「うん、またね!」

「お気をつけて。皆様、また明日」

 

駅に向かう葉隠、芦戸、耳郎に手を振り、校門前で迎えの車を待つ八百万と別れる。

ネリエルが利用するバス停は雄英の横手にあり、見るとあと10分ほどで次の便が来ることが電光掲示板に表示されていた。

 

「んー、まだちょっとお腹空いてる。ペッシェ、おやつ用意してくれてるかな?ドンドチャッカはまだお仕事かな。バワバワ、拗ねちゃってないかな」

 

記憶(・・)が無くともずっと優しい『家族』に、新しい友達ができたことを報告しようと、ネリエルは嬉しそうに微笑んだ。

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