ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクが『ヒーロー』になるまでの物語 作:猫禰捏涅
「ね、ねえキミ!バレー部入らない!?」
「陸上部マネ募集してるんスけどォー!!マネ不足なんですけどォー!!」
「水泳部部員随時募集中でぇーす!」
「ひひひひひ被服部きょきょきょきょ興味ありませんか!!!」
「わ、わ…何!?」
少し早めに登校してクラスメイトの皆とお喋りしよう。
そんなネリエルの楽しみを打ち砕いたのは、校門から玄関口に行くまでの間に話しかけてくる何人もの上級生だった。
手作りらしいチラシがあちこちから差し出され、つい受け取るとそこから部活動への勧誘の話が始まってしまう。上級生なので無理に断るのも気が引けてしまい、気がつくと予鈴が鳴り始めていた。
「すみませんっ、今はちょっと考えられないので!」
そう言って慌てて生徒達を振り切り、広い校舎内を小走りになりながら教室に向かう。
『Hey、二日目から遅刻ギリギリとはファンキーだな!』
「ごめんなさい!」
『素直でよろしい!チャッチャと用意しな!』
英語の授業を担当するプレゼント・マイクに謝りつつ教室に滑り込む。耳郎がひらりと手を振ってくるのに振り返し、芦戸が「おはよネリエル!」と声をかけてくるのに挨拶を返す。
「おはよう、三奈ちゃん」
「おはよーネリエルちゃん。なんかあった?」
「ちょっとね…」
麗日が心配そうな表情をしていたが、本鈴が鳴ったため話は中断となった。
『んじゃリスナーズ!始めるぜ!早速教科書開けー』
昨日の相澤の授業___というよりも唐突な洗礼とは全く違い、午前の必修科目の授業はごくごく普通に進んでいく。
一限目の授業が終わって休憩に入ったところで、麗日が振り返ってネリエルに話しかけてきた。
「ネリエルちゃん、朝どうしたの?」
「部活の勧誘?の人に、声をかけられちゃってたの」
「ああー、入り口のとこにいた人たち?」
「うん、そう」
麗日とネリエルの近くに集まってきた耳郎と芦戸も会話に参加する。
「あたしも勧誘されたよー。でもヒーロー科なんでやる暇ないですって言って断った!」
「あ…そっか、そう言えばよかったのね。ああいうのちょっと初めてで」
「ウチも声かけられたけど、制服見りゃヒーロー科って分かるのに来るモンなんだね」
耳郎がちょんちょんと制服の肩を示す。ヒーロー科、普通科、経営科、サポート科とさまざまな科がある雄英高校で、生徒達を見分けるのは制服の肩章、ブレザーの襟、袖のラインといった細かいデザインの部分だ。
「学校紹介で聞いたけど、実際ヒーロー科で部活動やってる人なんて99%いないらしいよ」
「逆に1%いるんだ。意外」
「やっぱりやる時間ないとかなんかな?」
「じゃない?絶対他の科より忙しくなるもんね。昨日ので確信したよ」
ネリエルは部活動やクラブ活動も行ったことがない。
『ヒーローになる』という目標を見据えていたため部活動のことは特に考えていなかったのだが、いざ入れないとなると少し残念に感じる。
授業は昼までごく普通に進み、昼休憩の後はクラス全体がどこかピリッとした空気に包まれていた。
カリキュラム曰く、『ヒーロー基礎学』という、まさしくヒーロー科独自の授業が始まるためだ。
「わーたーしーがー!!」
「来っ」
「普通にドアから来た!!!」
触覚のような前髪と頼もしい笑顔を携えたナチュラルボーンヒーロー、オールマイトが高笑いと共にドアから現れた。
「オールマイトだ…!!すげえや本当に先生やってるんだな…!!!」
「
「これがオールマイト…」
実力、人気ともにNo.1の名に違わず、クラスの誰もがオールマイトの姿に目を奪われる中、ネリエルは小さく頷いていた。
(昨日のはオールマイトだったのね。騒ぎになるからこっそり授業を見学していたのかな)
内心で一人納得しているうちに、オールマイトは『BATTLE』と書かれたカードを披露している。
「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う科目だ!!単位数も最も多いぞ!早速だが今日はこれ!戦闘訓練!!!」
「戦闘……訓練…!」
「そしてそいつに伴って…こちら!」
オールマイトが指し示したのは、廊下側とは反対側の壁だ。ガゴッ、という音と共に壁の中から現れたのは細長い棚で、二桁の数字が刻まれたケースが収納されている。
「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた…
「おおお!!!」
ガタガタ、と何人かのクラスメイトが興奮気味に椅子から立ち上がった。
「着替えたら順次、グラウンド・
「はーい!!!」
「格好から入るってのも大切なことだぜ、少年少女!!自覚するのだ!!今日から自分は…ヒーローなんだと!!」
「ヒーロー…」
静かに呟き、ネリエルは決意を新たにする。
(私の
そうして
「ネリエル少女!」
「はい?」
「実は君の
「開発工房…わかりました!」
「多少遅れても順番はこちらで調整しておくから、不備がないようにしっかり見てもらってきなさいね!」
「はい!」
オールマイトの指示を受けてから、
「じゃあお茶子ちゃん、私開発工房のほうで調整してから行くから、また後で」
「そうなんだ、また後で!」
更衣室のほうに向かうクラスメイト達とは別の方向へと足を向ける。
ポケットから地図を取り出して道を辿り、『Development Studio』という看板が掲げられている場所を訪ねた。
「すみません、1-Aのオーデルシュヴァンクですが」
「ああ、
対応したのは重機のようなヘルメットを被ったプロヒーローであり雄英教師のパワーローダーだった。
工房の中に入ると、作業服を着た生徒らしき二人の女子がひらりとネリエルに手を振ってくる。
「サポート科の三年生だよ。実習兼ねて君の
「そうなんですね!よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね!」
「よろしく〜」
「じゃ早速だけどそっちの部屋で着替えてきて。あと調整終わってないのは
「はい」
「こっちね〜」
ネリエルは女子生徒二人に備え付けの暗室に案内された。
「鍵閉めてね!」
「はーい」
女子生徒に言われたとおり暗室の扉の鍵を閉め、早速
ネリエルの
上半身はレオタードをベースに、“個性”としての能力では顕現しない肩や腕の鎧を補完するデザインになっている。
下半身は、太腿までのソックス部分を体毛から、爪先とヒールのカバーを蹄で作ることで分厚い毛に覆われた四足とうまく融合するつくりのサイハイブーツだ。レオタードも同じ素材のため、四足になっても破れることはない。
「よいしょ…」
レオタードを身につけ、サイハイブーツをしっかりと引き上げる。
頭部には防塵の他に眩しさを軽減するサングラスとしての機能もあるゴーグルを装備するのだが、そのゴーグルも
まだ鎧は装着していないが、それらを身につけたネリエルは「落ち着く…」と小さく呟いてほうとため息を吐いた。
「お待たせしました」
「大丈夫だよ〜」
「うわすっごいデザイン…あ、こっちこっち」
制服をアタッシュケースに畳んで入れ、暗室を出ると女子生徒達に手招きされる。二人の手には白い素材でできた鎧のパーツがある。
「はい、着けていってみて。これ説明書ね」
「
「はい!」
近くのテーブルに置かれた説明書を見ながら、大きめの鎧パーツを
「背中に
「ありがとうございます」
「この武器の調整も大変だったよ〜。一回持ってみてくれる?」
「分かりました!」
胸と鳩尾をカバーする鎧を着け終わり、女子生徒の一人が背中のアタッチメントを調整している間に、差し出された『武器』を受け取る。
それまで近くで生徒達を見守っていたパワーローダーが口を開いた。
「そういう
「そうなんですか?」
「いや、君の“個性”なら、空いた両手に何かを持ちたいと思うのは自然だと思ったから納得したよ。拳じゃあどうしても限界はあるしね。あとは、君自身で過度に武器に頼りすぎないことだけ気をつけなさい」
「はい、気をつけます」
ネリエルが要望を出していたのは、
しかし、渡された槍の先端は丸く削られている。ネリエルが首を傾げると、パワーローダーが一枚の紙をぴらりと差し出した。
「これ、サポートアイテム会社からの説明書ね。ヒーローってのは、『明確な殺傷能力を持つ武器』を装備するのは好ましくないとされているんだ。
「それで刃がないんですね」
「そう。このアイテムも規定ギリギリなんだよ。時間はかかったけど審査は通ったから、一応装備できるけどね。場合によっちゃあ差し戻し、作り直しになるから、くれぐれも扱いには注意すること」
「分かりました」
ネリエルはパワーローダーからの警告にしっかりと頷いた。
(そうよね…
そう考えながら槍をくるりと回し、軽く構える。
「持った感じ、どう〜?」
「ええ、軽くて取り回しがいいですし、馴染みます」
「君の角から作ってるからかね〜?硬いのに軽くていい素材だよ〜」
「折ってもまた生えてくるんだっけ?」
「普段からちょっとずつ伸びてます。変身したらそれがそのまま大きくなる感じ」
「いいね〜」
ネリエルの角は永遠に伸び続けるため、伸びすぎないように普段は削ったり、場合によっては素材にするために折る。
今回使われているのはネリエルが以前に一年ほどかけて伸ばしてから折り取っていた両角で、削って槍の穂先へと加工し、持ち手のサポートアイテムに装着されている。斬魄刀とは比べるべくもないものの、ネリエルの手にしっくりと馴染んだ。
「じゃあこれで…背中にくっつけとくね!」
「ワンタッチで外せるようになってるからね〜」
「ありがとうございます」
槍は持ち手のネジがしっかりと締め直されてから、背中のアタッチメントにガチャリとくっつけられる。
「回ってみて〜」と声をかけられてネリエルがくるりとその場で一回りすると、女子生徒達はパチパチと拍手した。
「いい!似合う!」
「ヒーローって感じ〜」
「出来たね。じゃあさっさとグラウンド・
「分かりました。ありがとうございます、先輩達!先生も!」
「いえいえ〜」
「頑張ってね!」
パワーローダーと女子生徒達に見送られ、ネリエルは開発工房を後にして更衣室へ向かった。
グラウンド・
「すごい広い…あ、あそこかな?」
大通りに並ぶビルの一棟が、何故か爆炎で焼け焦げており倒壊寸前だ。ネリエルがそこへ向かうと、すぐ近くのビルの側に赤い
「ネリエルさん!こちらですわ」
「モモちゃん!ありがとう、迎えにきてくれたの?」
「ええ、地下への入り口が分かりにくいかと思いまして。ネリエルさん、素敵な
「ありがと!モモちゃんのも動きやすそうでいいね!寒くはない?」
「今のところは大丈夫ですわ。もし寒くなったら防寒機能付きのマントを創って羽織ることにしております」
「それなら安心だね」
ビルの外に出てきて待ってくれていた八百万と共に、地下へ続くドアから入って階段を降りていく。
「戦闘訓練って何やってるの?」
「2対2のチーム戦で、ヒーロー役と
「屋内でしかも対人戦なんだ。チームはどういう組み分け?」
「くじ引きでランダム、どちらの役になるかもランダムですわ」
「わ、結構大変だね」
階段を降りた先はホログラムモニターがいくつも浮かぶ小さな部屋になっていた。
「遅れてすみません」
「大丈夫だよネリエル少女!」
ネリエルが声をかけると、オールマイトは一瞬だけモニターから目を離して___眼窩が暗くなっているので分かりにくいが___すぐにまた視線を戻す。
クラスメイト達も真剣にモニターに見入っていたが、麗日が二人に気づいて振り返った。
「あ、ネリエルちゃ…ん!?」
麗日はネリエルの格好を見て、ギョッと目を見開いた。
「わァーーーーー!!!?」
「わ、びっくりした」
「麗日さん、お静かに」
「ごっごめん!でもこれは…八百万さん以上に…!」
麗日は大声で叫ぶと同時に、自身の目をバッ!と手で塞いでいたが、指の隙間からチラチラと瞳が覗いている。
深い緑で縁取りのラインが走るネリエルのレオタードは、
その上、両脇腹の部分と胸の谷間の部分がくり抜かれていて布が無い。
麗日の視線はネリエルのどこを見たものかと迷い、うろうろとしていた。
「そ、それでいいんネリエルちゃん!?」
「ええ。動きやすいし、ほぼ要望通りよ」
「ほぼ……?」
「レオタードの部分が軽量化されてるの」
「軽量化するところそこなの!?その…胸とか…脚とかは…?」
「胸のアーマーは要望通り。脚もほら、こうやって…」
ネリエルは少し八百万と麗日から離れてから“個性”を使い、半身を四足に変化させる。ブーツとレオタードの一部は違和感なく『カモシカ』の被毛に溶け込んでいる。
鼠蹊部あたりも被毛で覆われ、ようやく目から手を離した麗日が大きなため息をついた。
「ネリエルちゃん…できればずっとそのままでいよう…?」
「? 戦闘中はそのつもりだけれど」
狭いモニタールームの中で『カモシカ』の体は場所を取るからとネリエルはすぐに“個性”を解く。
2m近くになっていた身長が元に戻る際、白い鎧に包まれた胸はほぼ揺れなかった。鳩尾を包む鎧と繋がっているのでしっかりとホールドされているためだが、その分胸が寄せ上げられており、柔らかな白い肌とくっきりとできた谷間が目立つ。
いつの間にかネリエルの近くに来ていた峰田が、その部分を凝視しながら力強いサムズアップを掲げた。
「アーマードおっぱい最高」
「黙れ」
背後から伸びてきた肌色のコードが峰田の頭をスパァン!と叩く。耳郎が峰田を脇へと押しやりながらネリエルに話しかけた。
「ネル、ルール聞いた?」
「うん、モモちゃんから。すごく分かりやすく説明してもらったよ。私ってどのチーム?」
「ああ、それはまだ決まってないんだよね。ネルの順番は最後で、体力が余ってる誰か三人と一緒にもう一回くじ引きでチームと役を決めるってさ」
「そういうことね、ありがとう」
並んでモニターを後ろから眺めていると、オールマイトが『ヒーローチーム、WIN!!』とアナウンスした。
「あっ、梅雨ちゃんのチームが勝った!」
「蛙吹さんも常闇さんも、とても冷静でしたわね」
「常闇の“個性”めちゃくちゃ強いし。あ、これ三組目ね」
「もうそんなに進んでたの?」
「二組目が爆速で終わったんだよねー」
戦闘を終えた蛙吹と常闇、瀬呂と切島の四人が階段を降りてモニタールームへと戻ってくる。
オールマイトがコホンと咳払いして講評を始めた。
「蛙吹少女、とても冷静な動きと確保テープの扱い方だった!改善するところというと、切島少年を確保した後に少し気が緩んでしまっていた部分だな!常闇少年も冷静で素晴らしかったが、『
「ケロケロ。分かりました」
「改善に努める所存」
「切島少年の防衛の姿勢はとてもよかったが、死角からの不意打ちには対応できていなかったな。君の“個性”は守ることに向いているから、色々なところに目を配るようにしよう!瀬呂少年は立体的な動きがとても巧みだった!『核兵器』に気を取られて蛙吹少女の動きに翻弄されてしまっていたが、君なら次からはもっと冷静に対応できるだろう!」
「うっす!!!」
「あざす!!」
「よーし!!では次!ヒーローは…Gコンビ!
「あ、ウチとヤオモモのとこじゃん。行ってくる!」
「では、行ってまいりますわ」
「二人とも頑張ってねー!」
耳郎がチームメイトの上鳴を呼び寄せてビルの外へ、八百万は峰田と共にビル内へと向かう。
「お茶子ちゃんはもう終わったの?」
「うん、一戦目だったよ」
「緑谷がよく避けたんだよー!」
「三奈ちゃん。もう終わった?」
「あたしはまだ!葉隠んとこは終わったよ!」
「あ、透ちゃん。…毛布?」
芦戸は興奮した様子で、葉隠は手袋と靴の他に肩から毛布を羽織っている。
「私は尾白くんと一緒に、轟くん障子くんコンビと戦ったんだけど、轟くんに一瞬でビルごと凍らされちゃって!うー、まだ寒い!」
「ヤオモモが毛布作ってくれたんだよね!」
「大変だったんだね…風邪ひかないようにしてね?」
「うん!」
すぐに終わってしまった二戦目は葉隠のコンビ対轟のコンビだったようだ。
「麗日んとこはさ、緑谷がマジですごかったよね!」
「うん。私はデクくん…緑谷くんとコンビで、相手が飯田くんと爆豪くんだったんだけど」
「それは…大変ね。爆豪くんって、緑谷くんを敵視していたんじゃなかった?」
ネリエルはちらりとモニタールームの隅を見た。そこではどこか暗い顔をした爆豪がぼんやりとモニターを見ており、いつもと違う様子に首を傾げる。
「うん。それで爆豪くんの相手をデクくんがしてくれて、私は飯田くんと戦ったんだ。でも、フロアの物は全部片付けられてたから浮かせられるものがなかったし、飯田くんの脚の速さには勝てなくて…」
「飯田くんのお茶子ちゃん対策がよく練ってあったのね」
「そうだね。そうしたら、デクくんが『超パワー』のパンチで下から床を突き破ってくれて、それを目眩しと武器にして『核兵器』を確保できたの」
「てことは、勝ったんだ!すごいね!」
「いやあ…瓦礫を飛ばすなんて、『核兵器』の扱いとしてダメだったし。確保する時に自分を浮かせる超秘を使ったんだけど、それで負担が大きくなって、終わった後吐いちゃったし」
「吐いたの!?大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!ちょっと酔っただけだから!『
「ふふ、そうね。私も頑張らないと」
ぐっと拳を握った麗日を微笑ましく見てから、モニターに目を向ける。
画面の中では八百万が峰田と共に『核兵器』のあるフロアで、八百万が5分間の準備のうちに創り出した鉄板で全てのドアや窓を塞いでいるところだった。
「さすがね、百ちゃん。全方位隙がないわ」
「あ、梅雨ちゃん。お疲れ様!」
「ケロケロ。ありがとう」
戻ってきた蛙吹は、表情は薄いながらも嬉しそうにしている。
「百ちゃんはタイムアップ狙いかしら」
「ぽいね。てか、峰田あんま動いてなくない?ずっとヤオモモの近くにいるだけじゃん」
「どういう“個性”なのかなあ」
峰田の視線は八百万のほうを向いているばかりで、何か“個性”を使うような素振りを見せない。そんな状態でも八百万が一人でどんどんバリケードを分厚く重ねていくため、フロアはヒーローが簡単に侵入できないようになっていく。
カメラに映るヒーローチームの耳郎と上鳴は、耳郎が『イヤホンジャック』で索敵をして
上鳴が手に電気を纏わせながらその真下に行き、耳郎がその場から離れたところで一気に体から電撃を放出する。
「おおお!!!」
「電気系か、つえー!」
「こりゃ一網打尽…ちょっと待て」
「届いて…ねえな!」
「いや少しは届いてる!けど対応がはえー!」
八百万は地面の下からパリッと微かに電撃が来た瞬間、ゴムシートを創り出して広げ、その上に飛び乗っていた。
峰田も近くの柱に黒っぽい粘着質のボールのようなものをくっつけてそれを掴んで体を浮かせており、電撃による
「あ、下からじゃなくて横から行くっぽいな」
「これ間に合うか?」
「バリケード破るのにも時間かかるしなあ」
耳郎の索敵で
耳郎が足に装着しているスピーカーのようなサポートアイテムを使い音での攻撃をしたものの、バリケードは少し揺らいだだけだった。
「難しいわね。このままタイムアップになってしまいそうだわ」
「モモちゃん、やっぱり強いね」
「あ、バリケードが一個破れた!」
「フロアに侵入はできたけど…何やろ、あれ!」
「峰田ちゃんの“個性”だと思うわ。あのボールは色んなものをくっつけちゃうのね」
耳郎の攻撃で破ったバリケードの隙間からフロアに入った途端、峰田が投げた黒いボールが床にくっつき、二人の足がそれに捕えられる。
なんとか外そうとしているものの、そのままオールマイトがタイムアップを告げ、三組目は
「戻りましたわ」
「あー負けちゃった!悔しいー!」
「くそー、もうちょい時間があればなあ」
「オイラの『もぎもぎ』最強だぜ!」
「四人ともお疲れ様!」
四人がモニタールームに戻ってきて、オールマイトの講評が始まる。
「八百万少女の動きは完璧に近かったな!欲を言えば、峰田少年とより綿密に連携して動けていると、最後までヒーローコンビをフロアに入れることもなく勝利できただろう!峰田少年、『もぎもぎ』の投擲は見事だったが、八百万少女から離れて自分ができることを探すのも大事だぞ!」
「その通りですわね。精進いたしますわ」
「もっとトラップ仕掛けりゃよかったかー」
「上鳴少年は、“個性”は強力だが遠距離は苦手みたいだな!コンクリは電気を逃がしてしまうから、そのあたりも考えて動けるとよりいい!耳郎少女の索敵は素晴らしかった!もっと詳細な聞き分けもできるようになれば、バリケードの薄いところなんかも判別できると思うぜ!」
「うぃーす、頑張ります!」
「はい!」
「さあ次は、ヒーローがEコンビ!
「よーし、行ってくる!」
「頑張ってね!」
テンション高くビルの外に向かう芦戸を見送ると、オールマイトがネリエルのほうを振り返ってきた。
「ネリエル少女!ここが終わったら希望者を募ってくじを引き直すから、少し待っててくれな!」
「はい、大丈夫です」
「ありがとう!」
きらりと白い歯が光るオールマイトの笑顔に、ネリエルも微笑み返す。
「砂藤の“個性”が糖分で強くなる増強系なんだっけ?」
「口田の“個性”ってあれ?鳥を操ってる!すご!」
「話すこともできるのなら、口田くんが索敵できるね」
砂藤が『核兵器』の前に陣取り、口田は何羽もの鳥を集めて準備をしている。5分経ったところでオールマイトが号令をかけた。
「よーし、それじゃあもうそろそろ始めるぜ!Eコンビ対Fコンビ!START!!!」
芦戸と青山が揃ってビルの中に踏み込んでいく。長い廊下に行き当たったところで、芦戸が肌から分泌した『酸』を床に撒き、その上を滑りながら宙返りを披露した。
「ああいう使い方もできるのね!」
「三奈ちゃん専用の移動手段ね。でも、青山ちゃんのマントに『酸』がついちゃったみたいだわ」
モニターの中で芦戸が『ごめん!』と口を動かしている。青山はショックを受けてはいたものの、すぐに二人揃って先を急ぎ始めた。
しかし、
「あーそれは避けられるわ」
「やっぱ位置バレしたらキツいな」
「お、砂藤は増強使わずにいく感じか」
「時間制限あるんじゃなかったっけ?」
物陰から放った『ネビルレーザー』は避けられ、青山は鳥の群れによって目眩しをされる。同時に芦戸が飛び込んできていたが、砂藤が“個性”を使うことなく芦戸を確保しようと動く。体格も基礎的な膂力も砂藤のほうが上であることは間違いないが、芦戸は素早く動いてその手を躱した。
「避けた!三奈ちゃんってすごく動けるよね!」
「足元に『酸』を使って滑らせてたわ」
「運動神経いいなあ!」
芦戸はさらに『酸』の飛沫で視界を遮ろうとしたが、砂藤が小瓶から砂糖を口に入れて身体能力を向上させ、一気に距離を詰めたことであえなく確保テープを腕に巻かれてしまった。
「あー!」
「砂藤もけっこう速えな!」
「そんまま速攻青山のほう行った!」
「青山少年も確保!
青山は向かってくる砂藤に『ネビルレーザー』を発射したものの、『核兵器』を気にしたのか軌道が逸れていた。そのまま砂藤に接近されて確保テープを巻かれ、EコンビとFコンビの試合は終了となった。
「まずはヒーローコンビ、口田少年!索敵とてもよかったぞ!ただ、情報の共有のためにもう少し積極的に喋っていこうな!砂藤少年は
「はい!次は最初っから“個性”使って全力でいきます!」
「芦戸少女、体捌きは見事だが青山少年との連携が疎かになってしまっていたから、一緒に動くのであればチームメイトと合わせることを気をつけよう!青山少年は『ネビルレーザー』が強力な分、『核兵器』と建物を傷つけないよう気を配っていたな!持続時間もあって使い所が難しいとは思うが、その辺りを見極められるようになろうな!」
「はーい!悔しー!」
「ウィ☆」
オールマイトは講評を終え、よしと一つ頷いてくじ引き用の箱を取り出した。
「では最後にネリエル少女の組だ!あと三人、誰かもう一度やりたい人はいるかい!?」
「…俺、行きたいです」
「俺も!」
「おお!障子少年、尾白少年!」
す、と手を挙げたのは障子と尾白だった。轟とのコンビ相手と対戦相手の一人である。
「轟一人にやられちゃって、全然動けなかったんで」
「索敵以外を全て任せていたから、体力が余っている」
「ハイハイハイハイハイ!!オイラも!!オイラも体力ギンッギンに余ってるぜ!!!」
「峰田少年!ではこの三人を加えて、新たにコンビを組み合わせよう!」
峰田が視線をネリエルに固定したまま、勢いよく手を挙げている。八百万と耳郎が不快げに眉を顰めた。
「アイツ…」
「不埒な目的としか思えませんわ」
「うーん、まあ同じコンビになった時にちゃんと動いてくれればいいかな」
「そこが問題だよねー!ヤオモモん時動いたの最後だけだったじゃん?」
峰田の動機に不純なものがありそうだが、オールマイトはアルファベットの書かれたカラーボールと、何も書かれていないカラーボールをいそいそと取り出している。
「障子少年がB、尾白少年がE、峰田少年がC!ネリエル少女をこの無地のカラーボールとして混ぜて…それでは、ヒーローコンビ!」
バン、と取り出されたのは「C」と「E」のカラーボールだった。
「尾白少年と峰田少年がヒーローコンビ!ひいてはネリエル少女と障子少年が
ネリエルの戦闘服のラフです。
【挿絵表示】
特に本編に関わりないのですが、たまたまミルコと同じコスチューム会社が作ったという設定。レオタードの縁に入ったライン、首元のファーが共通したデザインになっています。女性ヒーローの戦闘服を作った実績が多かったとかでしょう。