追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち-   作:晴本吉陽

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第1部 星霊隊結成
第1話(1)人類に化けた悪魔


 黒髪を全て後ろにまとめたオールバック、鋭い眼光に傷だらけの顔、ロングコートから靴に至るまで黒一色に染めた、どう見ても悪人しか見えない男。東雲(しののめ)幸紀(ゆきのり)はそういう男だった。

 

 そしてその見た目に違わず、彼は悪人、どころではなく、その正体は文字通りの悪魔、それも悪魔軍最強の剣士だった。

 

 あらゆる世界の支配を目論む悪魔軍は、人間世界の各地にスパイを派遣していた。幸紀も、本当はコーキという悪魔であるが、人間に化け、人間界の有力者である、清峰(きよみね)侯爵という女性の部下として、スパイ活動に勤しんでいた。

 

 

星暦(せいれき)2043年 6月18日 心泉(しんせん)府 霊橋(れいきょう)区 清峰屋敷 

 ある日、幸紀は清峰侯爵に呼ばれて5階建ての洋風な屋敷の最上階、その角にある執務室の扉の前にやってきた。

 幸紀は木製の分厚い扉を叩く。すぐに部屋の中から清峰侯爵の声が聞こえてきた。

 

東雲(しののめ)です」

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

 幸紀は低い声で短く言う。扉を開けて中に入ると、正面にあるデスクに向き合って座っている、黒髪にメガネで地味な顔立ちのスーツの女性、清峰侯爵が、幸紀の方に顔をあげた。

 

「待っていたぞ、幸紀。さっそくだが本題に入る。先ほど、女王陛下から書面が届き、ようやく『星霊隊(せいれいたい)』の結成が許可された」

 

 清峰はそう言うと、デスクの上の封筒を見せる。幸紀は僅かに眉を動かすと、頭を下げた。

 

「『星霊隊』…今後侵略を強めるであろう悪魔に対抗するため、霊力に秀でた人間たちを集めた部隊…おめでとうございます。これも清峰侯爵の地道な訴えがあってこそ」

 

「いいや、それだけではない。実際に被害に遭っているのは民衆だ。罪のない民が苦しむのは、女王陛下も見ていられなかったのだろう。だからこそ、私に命令が下ったんだ。やるからには、悪魔を滅ぼすつもりでやる」

 

 清峰が言うと、幸紀は僅かに眉をひそめるが、清峰はそれに気づかずに話を続けた。

 

「そこでだ、幸紀。『星霊隊』のメンバー集め、そしてその指揮や訓練を、君に任せたい」

 

「俺にですか」

 

「あぁ。君ほどの実力者はそうはいない。悪魔との戦いの主力を担う組織なのだから、1番腕のいい人間に全てを委ねたい。やってくれるか?」

 

「お引き受けします」

 

 幸紀は堂々と言う。清峰侯爵はそんな幸紀の態度に微笑んだ。

 

「ありがとう。悪魔の侵攻も近づいてるという話がある。なるべく早く、腕のいい人々を勧誘してくれ」

 

「了解しました。すぐに準備して出発します」

 

「頼む」

 

 清峰侯爵の言葉を聞くと、幸紀は深々と頭を下げてから部屋を足早に出る。

 廊下に誰もいないことを確認すると、自分の部屋がある屋敷の1階へと歩きながら、1人邪悪な考えを巡らせるのだった。

 

(俺が悪魔軍のスパイであることも知らずに…バカな女だ。最強の悪魔であるこの俺が人間のために働くわけがないだろう)

 

 幸紀はそんなことを考えながら階段を降りていく。途中メイドとすれ違うこともあったが、軽く会釈をして通りすぎると、すぐに自分の個室にたどり着いた。

 

 ベッドと机しかないこの部屋の中に、誰もいないことを確認した幸紀は、机の上に置いてあった大型のタブレット端末に手を伸ばす。ベッドに座りながら、そのタブレット端末でビデオ通話を始めるのだった。

 

「こちらカザン」

 

 タブレット端末から声が聞こえる。端末のモニターには、赤褐色の肌に立派な一本角が生えた、鬼のような姿の悪魔、カザンが映っていた。

 幸紀は特に端末の方も見ずに、靴下を履き替えて出かける準備をしていた。

 

「カザン、俺だ」

 

「おぉ、コーキ。いや、今は東雲幸紀と呼んだ方がいいか?」

 

「コーキでいい。ところで、人間どもは俺たちが侵攻するのに備え始めたぞ。俺にも精鋭を集めてこいという命令が出て、今から出かけるところだ」

 

「ふははは!遅いな人間どもは!我らは今日から侵略を開始するというのに!」

 

「計画に変更はなさそうか?」

 

「あぁ。まずは今お前のいる清峰屋敷から攻略を開始する。お前はその国の北部にある、飛岡県(とびおかけん)千年町(せんねんまち)の集合ポイントに行き、遊撃隊を指揮しろ。連絡役にはサリーがいる」

 

 カザンは幸紀に命令する。幸紀は端末の前に立つと、ニヤリと笑った。

 

「そいつらで北部から侵攻するのが俺の仕事、か。承知しました、カザン司令」

 

「同期のお前にそう言われるのは気分がいいなぁ!はは、まぁ上手くやれよ!」

 

 カザンは大きく口を開けて笑うと、通信を切る。幸紀も端末をカバンにしまうと、部屋を見回した。

 

(この部屋とも遂におさらば、か。楽しかったぞ、清峰)

 

 幸紀は1人そう思いながら振り向き、扉を開けて部屋の外に出るのだった。

 

 

 屋敷を出て歩くこと十数分、幸紀は最寄りの駅から「千年町行き」と書かれた電車に乗りこむ。平日の昼前は比較的電車は空いており、幸紀は電車のドア付近に立った。

 電車の窓から街並みが見える。現代的なビルや住宅が立ち並び、道路は車が行き来している、いつもの光景。幸紀はそう思いながら、ふと腕時計に目を落とした。

 

(現在10時…この街並みもあと2時間の命だな…目に焼き付けておいてやろう)

 

 

 

 

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