追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち-   作:晴本吉陽

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第18話(2)奸計-弥生と紫黄里-

同じころ

 

 辰馬弥生は、レストランの外に出ると、正面に見える山を見上げていた。

 

「うーん!やっぱり山はいいなぁ!あー、久々にキャンプしたいなぁ…」

 

 弥生はひとり、誰もいない中で背中を伸ばしながら能天気に言葉を発する。そんな彼女が目を山から地上に向けると、黒い翼のようなものが、車の間をしゃがんで隠れながら山の方へと歩いていくのが見えた。

 

(…うん?なにあれぇ?)

 

 弥生は目を凝らしてその黒い翼を目で追いかける。さらに、黒い翼の進んでいく先に、紫色の悪魔の背中が見えた。

 

(あの羽は…えっと…紫黄里、ちゃんだっけ?じゃあ、あの子、ひとりで悪魔を追いかけてるのかな?危ないから止めてこよ)

 

 弥生は単純にそう思うと、黒い翼を追いかけ始めるのだった。

 

 

 柳生紫黄里は、車の影に隠れながら、ポラリスを追って山道の入り口までやってきていた。

 紫黄里は車の窓越しに、山の中に入っていくポラリスを見つめる。

 

(よし、追いかけ…)

 

「やっほー、紫黄里ちゃん」

 

「!!?」

 

 立ちあがろうとした紫黄里の背後から声が聞こえてくる。紫黄里は驚いて声をあげそうになったが、それを堪えながら振り向くと、弥生が平然とした笑顔で立っていた。

 

「なにやってるの?ひとりじゃ…」

 

「しっ!!」

 

 話を続けようとする弥生の口を慌てて塞ぎ、背中越しに去っていくポラリスの姿と弥生の顔を交互に見ると、紫黄里は慌てた様子で状況を説明し始めた。

 

「弥生さん、今、敵を追跡中なの…!だから、邪魔しないで…!」

 

 紫黄里が切羽詰まった小声で言う。しかし、弥生はすぐに自分の口を塞いでいた紫黄里の手を外すと、いつも通りのトーンで話し始めた。

 

「でも、紫黄里ちゃん、ひとりで追いかけたら危ないよ?」

 

「いや、それは、そうなんだけど…!でも、でも…と、とにかく、追いかけないと!」

 

「あ、ちょっと!」

 

 紫黄里はそう言うと、弥生の制止も振り切ってポラリスが歩いて行った山道へと走り出す。弥生もそんな紫黄里の後を追って山を駆け上がっていくのだった。

 

数分後

 ポラリスは、山の中腹にある木々に囲まれた広場にやってくる。その広場の中には、1階建ての山小屋のようなものがあり、ポラリスは何も言わずにその山小屋の中に入っていく。周囲に悪魔の姿はない。

 近くの草むらに潜んでいた紫黄里と弥生も、当然そんなポラリスの後ろ姿を目撃していた。

 

「あの小屋が悪魔の拠点…あれくらいの大きさなら、そんなに数もいないはず…!ここでポラリスを倒せば勝ちに近づける…!」

 

 紫黄里はそう呟くと、草むらから立ち上がってポラリスの後を追いかけようとする。しかし、隣に座っていた弥生が紫黄里の腕を引いてそれを引き留めた。

 

「待って待って。さすがに一旦戻ってみんなを呼んだ方がいいよ、危ないって!」

 

「でも、今じゃないと…!敵も増えちゃうかもしれないし…!倒すなら今しかないよ!」

 

「そうかなぁ…そうかも…でも…うーん」

 

「と、とにかく、行くね!」

 

「あ、ちょっと!」

 

 紫黄里は言うが早いか、左手に武器である弓を発現させながらポラリスの入っていった山小屋へと走り出す。弥生は紫黄里を引き止めようとしたが、間に合わず、結局弥生も紫黄里とともに山小屋へと走り始めた。

 

 山小屋の扉の前まで走ってきた二人は、軽く周囲を見回して敵がいないことを確認する。弥生が扉から少し離れてライフルを構えたのを見てから、紫黄里は扉を肩で押し開け、小屋の中に突入した。

 

「ポラリス、覚悟っ!...って、え…?」

 

 紫黄里は小屋の中に入るなり声を上げ、弓矢を構える。弥生も少し遅れて小屋の中に入り、ライフルを構えたが、すぐにその小屋の中の「異常」に気がついた。

 

「誰もいない…?」

 

 弥生が小さく呟く横で、紫黄里は状況を理解しきれないまま、建物の2階などにも目をやるが、やはり誰もいない。中にあるのは木製のテーブルと、暖炉、そして東西の向きにあるふたつの窓のみだった。

 

「そんなはずない、さっきポラリスは中に入ってた…!きっと、そこに…!」

 

 紫黄里はそう言って暖炉を覗こうとする。しかし、弥生はそんな紫黄里の腕を掴んで止めると、窓の外を指差した。

 

「紫黄里ちゃん、やつは、あそこにいるよ」

 

「え?」

 

 紫黄里は弥生の指さす先を見つめる。ガラスの窓越しに見えたその先には、ポラリスの姿と、その背後に無数に立ち並ぶ悪魔たちの姿だった。

 

「う、嘘…なんであそこにいるの…!?しかも…この状況…もしかして、囲まれてる…!?」

 

 動揺する紫黄里を気にせず、弥生は山小屋の扉を閉めると、そこにワイヤーを張って罠を仕掛け始めた。

 

「そうみたいだねー。私たち、罠にかけられちゃったみたい。とりあえずここに籠るしかなさそう」

 

「そ、それは、そうですけど、なんでそんなに冷静なんです…!?もっと慌てたりとか…」

 

 紫黄里が平然としている弥生に驚いていると、西側の窓ガラスが甲高い音を立てて割れる。思わず紫黄里がしゃがみ込みながらそちらを見ると、2体の悪魔が窓枠を乗り越えて侵入しようとしていた。

 

「…!」

 

「紫黄里ちゃん、追っ払って!」

 

「は、はい!」

 

 弥生の指示を受けると、紫黄里は慌てて弓の弦を引き絞り、入ろうとする悪魔に対して弓矢を放つ。

 弓矢が悪魔の体に突き刺さると、悪魔はまるで痺れたかのようにその場で動きを止める。

 紫黄里は、改めて弓を引き、悪魔2体の眉間に弓矢を放つと、悪魔たちを黒い煙に変えた。

 

「よし…こんな感じなら…」

 

 紫黄里が小さく呟いた直後、今度は反対側の窓ガラスが割れる。紫黄里が音に驚いていると、新しい悪魔が3体、窓枠を乗り越えて小屋の中に入ろうとしていた。

 

「下がって!」

 

 紫黄里が動けないでいると、弥生がライフルを構えて引き金を引く。弥生は霊力で作ったライフルの引き金を引くたび、存在しないはずの空薬莢を手動で排出する。

 そんなことを3度やっているうちに、悪魔たちは黒い煙に変わっていた。

 

(す、すごい…動いてる相手の頭を、あんなに的確に撃ち抜いてる…)

 

「紫黄里ちゃん!後ろ!」

 

 弥生に言われると、紫黄里はすぐさま振り向く。今度は、窓枠を乗り越えて4体の悪魔が入ろうとしてきていた。

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