追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
一方の弥生と紫黄里は、開いている唯一の窓から悪魔軍の様子を見張っていた。紫黄里が作った毒沼の影響もあり、悪魔軍は盾を展開するだけで動こうとしない。かと言っても、弥生と紫黄里の方も、敵に対する有効な攻撃を持っておらず、ただ睨み合いが続いていた。
「にしても、紫黄里ちゃん、すごいね。あんな能力持ってたなんて、私、知らなかったよ!私1人だったら今頃死んでるね!」
弥生は明るく紫黄里に切り出す。紫黄里は、その言葉に俯いて首を横に振った。
「そ、そんなこと、ないです…なんか一か八かやったら上手くいっただけですし…そもそも、弥生さん1人だったら、こんなことになってなかったはずですし…」
紫黄里はそう言うと、弥生の方に向き直った。
「弥生さん、本当にごめんなさい…!私のせいで、こんなことに巻き込んじゃって…!本当にごめんなさい…!」
紫黄里は深々と頭を下げる。弥生はそれを見ると、少し目を見開いて微笑んだ。
「気にしなくていいよー。ついてきたのは私だしねー。でもさ、ここに来るまですごく焦ってたじゃない?あれはなんでー?」
弥生はライフルを窓の外に向けて、周囲を警戒しながら尋ねる。紫黄里は弥生の言葉を聞くと、また小さく俯いた。
「…周りのみんなが活躍してるのに…私、全然何もできてなくて…だから、何かしなくちゃと思って…そうしなきゃ、みんなに忘れられちゃうって思って…!」
「そんな目立つ黒い羽、誰も忘れないよー」
「そんなことないんです!…少し、自分語りしてもいいですか…?」
「まぁ、今なら敵も動かないと思うし、いいよ。おしゃべりしながら、少しでも気軽に明るくいこ!」
弥生は相変わらず周囲を警戒しながら紫黄里に言う。紫黄里も弓を構えながら話し始めた。
「…私の家、大家族なんです。私含めて10人きょうだいで、私は上から4番目の次女…地味だから、いつもみんなで旅行とか行こうものなら置いていかれたり、忘れられたりしてました…学校に立て篭もってた時もそうです…誰からも忘れ去られて、助けなんて来ないと思ってた…!」
紫黄里の言葉を、弥生は何も言わずに受け止め、ライフルを握る手を強める。紫黄里はそのまま話し続けた。
「助けられて、やっと霊力で役に立てると思ったら…私よりすごい人たちばっかりで…このままじゃ、恩も返せないまま忘れられて…私がここにいる意味すら疑われちゃう…そう思ったら…焦っちゃって…」
紫黄里はそう言って弓を握る手を強め、俯く。そんな紫黄里を見て、弥生は小さく微笑んだ。
「そうだったんだね。うーん、正直、忘れられるとか、置いていかれるとか、そういう感覚は私にはわかんないけど、わかったよ。寂しかったんでしょ?」
弥生が尋ねると、紫黄里は俯いたまま頷く。それを見た弥生は、小さく微笑んだ。
「じゃあ、少しわかる。私も寂しかった時はあるから」
「…え?弥生さんが?いつもみんなと楽しそうに話してるのに?」
「いやいや、今はすっごく楽しいよ。でも、お父さんがいなくなってしばらくは、ほとんど動物とばっかり話してたから、友達欲しいなぁって思ってた時もあるよ」
弥生が平然と語る言葉に、紫黄里は驚きを隠し切れなかった。
「お父さんが…いない?」
「うん。まぁお母さんもいなかったけど。お父さんは子どもの時まではいたんだけど、もうだいぶ前にいなくなっちゃって。それから明宵ちゃんと知り合うまでは1人だったなぁ。だから、紫黄里ちゃんみたいに家族がたくさんいるの、すっごい羨ましいし、今こうやってたくさんの仲間がいるのが、すごく楽しいよ!」
「でも、その中で…忘れられちゃったら…」
「忘れないよう!みんな友達でしょ?」
弥生は笑顔のまま平然と言い切る。そんな弥生の笑顔に、紫黄里は感極まって言葉を失った。
「弥生さん…!」
「友達のことを忘れることなんてないよ!だから、今結構ヤバい状況だけど、きっとみんな助けに来てくれる!私はそう信じてるよ!」
「…はい!私もそう、信じます!」
弥生に言われると、紫黄里は力強く頷き返す。弥生も紫黄里に微笑み返すと、弥生は改めて敵の隊列に向けてライフルを構えた。
「じゃあ、ここもみんなが来るまで耐え抜こう!って言っても、ここまで全然敵に動きがないけど…」
「…弥生さん、何か、匂いませんか?」
紫黄里は弥生に対して尋ねる。弥生はそう言われると、鼻を利かせた。
「確かにー。焚き火みたいな、いい匂い~」
「よくないですよ!こ、これ、私たちの小屋が燃やされてるんじゃ…!」
「えっ!?」
「見張っててください!」
紫黄里に言われた弥生は、窓の外を警戒し続ける。その間に、紫黄里はさきほど塞いだ窓の方へと駆け寄り、窓を塞いでいた板を剥ぎ取る。
そして窓枠から身を乗り出し、左右を見回した。
「!!や、弥生さん!火が、火が付いてる!!」
「嘘でしょ…!?」
紫黄里の絶叫に、弥生もすぐに窓枠に駆け寄って様子を見ようとする。しかし、その窓枠の向こう側から、悪魔の大軍が迫ってきているのが見えた。
「敵を抑えなきゃ…これじゃ火なんて消せない…!」
「でも、火が大きくなってきてます!!敵を倒してたら、間に合わなくなりますよ!?」
「ううーん…!こんなの、どうやっても…!」
2人が悩んでいる間にも、窓に向けて悪魔の大軍が迫り、小屋の外側の火の手は勢いを増していく。
「しょうがない、ここは諦めて、小屋から出よう!紫黄里ちゃん、さっきの、ばら撒いて!」
「はい!」
弥生の指示を受けると、紫黄里は悪魔たちが迫ってくる進路に向けて弓矢を放ち、毒沼を作り出す。その間に、弥生は入り口に仕掛けた爆弾を解除していた。
「毒、撒きました!」
「うん!こっちも解除できた!さっそく逃げ…」
扉の前にしゃがみ込んでいた弥生を、吹き飛ばすように乱暴に扉が開く。床を転がった弥生の視界に、扉から入ってくる無数の悪魔たちが見えた。
「こ、こんなに…!」
思わずたじろいだ紫黄里だったが、すぐに弓を構え、悪魔たちを撃ち倒す。すぐに弥生も援護射撃に加わり、敵を撃ち倒していくが、彼女たちが敵を倒すよりも多く敵は増えていく。
2人は武器の都合上、敵から距離を取るように扉から離れていく。しかし、すぐに彼女たちは背後から強い熱を感じた。
「っ!火が、ここまで…!!」
紫黄里は自分の背後を見ると、燃えていく自分の黒い翼を投げ捨て正面から迫ってくる敵を見る。やはり、どんなに見返しても敵の数は減るどころか増えていた。
「シネェエアア!!」
銃撃の間を掻い潜ってきた悪魔が、弥生に向けて駆け寄り、棍棒を振り下ろしてくる。
弥生はすぐさまライフルで受け止めたが、押し負けていく彼女の背後は燃え盛る炎で包まれていた。
「うぅぅぅああぁ!!」
「や、弥生さん!!」
このままでは弥生が火炙りにされる。紫黄里がそんな心配をするのもよそに、悪魔は紫黄里の元にも駆け寄り、紫黄里の首を締め上げ、持ち上げると、炎の中へと歩き出す。
(し、しまった、このままじゃ、燃えちゃう…!!)
必死に身を捩って抜け出そうとする紫黄里だが、息ができないことと自分の周りを包む熱に、死を間近に感じていた。
「い、いや、だ…死にたく…ない…!」
紫黄里が涙をこぼしながら言葉を発している間にも、弥生は両腕を悪魔に持たれ、紫黄里と同じように炎の中で宙吊りのような形にされていた。
「うああああ!!!あ、ああ!!!助けてえええ!!」
弥生は、紫黄里が聞いたこともないような絶叫をあげて助けを求める。しかし、ふたりとも悪魔に拘束されたまま、ゆっくりと火炙りにされていく状況に変わりはなかった。
「ごめん…なさい…」
息ができなくなっていく中、紫黄里は、その言葉を絞り出すのが精一杯だった。