追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
前回までのあらすじ
悪魔軍の拠点を目指す星霊隊。途中合流した避難民を国防軍に引き渡し、補給物資を受け取りさらに先へ進んでいく。
物資の運搬を担当していた水咲とキララはポラリスの襲撃を受けたが、幸紀の救援により、物資を守り切ることに成功し、さらに前進していく。
6月25日 21:00 冬城県 小春市
街灯すらも破壊され尽くした真っ暗な街の中を、バスのヘッドライトだけが照らす。
幸紀が運転するバスの中で、星霊隊の女たちは、疲労しきった様子で目を閉じていた。
(冬城県に入ったか…悪魔軍の本拠点はこの県の中央、冬城市にあったはず。いよいよ、だが…)
幸紀はそう思いながらルームミラーに目をやる。車内にいる星霊隊のメンバーたちは、やはり全員眠っていた。
(この強行軍でこの有様か…所詮は人間の女、体力はないか)
幸紀はそう思うと、前に目をやる。
街を抜けていき、目の前を流れる川が見える。だが橋が見えなかった。
幸紀はブレーキを踏み、バスを停める。
(最短経路の橋は落とされているか…ちょうどいい。この女たちはここで置いていこう。ここまで役に立てば十分だ。後は、俺ひとりで決着をつけてやる)
幸紀はそう思うと、シートベルトを外し、立ち上がろうとする。
「…幸紀…さま…?」
幸紀がそのまま車を降りようとしたその瞬間、誰かに呼び止められる。幸紀が動きを止め、そちらに振り向くと、ドアの近くの席にいた、赤い瞳に黒い長髪、黒い和服に身を包んだ、
(気付かれたか…)
「どうなさいましたか…?もしや、敵でございましょうか…?」
黙り込む幸紀に対し、朋夜は小声で素直に尋ねる。
(…無視して突っ切るか…いや、『月暈の巫女』は使える。やはり、まだまだこいつらを利用しよう)
「幸紀さま…?」
「この先に続く橋が落とされているようだ。今から偵察に行こうとしていた」
幸紀は朋夜に対して表情を変えず、周囲に気づかれないように小声で話す。幸紀の話を聞いた朋夜は、それを聞くと、椅子から降り、隣で寝ていた華燐を起こさないようにゆっくり彼女の上体を避けさせると、幸紀の方に近づいて話し始めた。
「そういうことでしたら、望さんの力を借りるのが良いと存じます。彼女の地形を変える力で、橋を作るのはいかがでしょうか?」
「…そうだな。そうしよう」
「でしたら、私が、望さんと共に参ります。幸紀さまは、しばらくお休みください。長丁場に、戦続きでお疲れかと思いますので」
「…あぁ、任せる」
「かしこまりました」
朋夜の話に乗り、幸紀は運転席に戻る。
その間に、朋夜は音を立てないようにバスの通路を歩くと、バスの中央付近の座席に座る、緑色のミドルヘアの女性、
「もし?望さん、起きてください」
「…!!」
望は、ひどく驚いたような、怯えたような様子で、前髪で隠していない方の目で朋夜を見る。朋夜も、そんな望の様子に少し驚き、すぐに謝り始めた。
「あ…その、申し訳ありません…望さんのお力をお借りしたく、お声掛けした次第です…その、さように驚かれるとは思わず…申し訳ありません」
「…いや、悪いの、こっちなんで。いーですよ、行きましょ」
謝る朋夜に対し、望は低い声で言うと、椅子から立ち上がろうとする。
しかし、望の片足に一瞬激痛が走り、望は姿勢を崩しそうになるが、前の座席の頭部分に手をかけてなんとか耐える。
そんな望の様子に、朋夜は思わず声をかけた。
「望さん、大丈夫ですか?何か手を…」
「…必要ないです」
望はそう言うと、片足を引きずりながら、座席の頭部分から頭部分へ手を伸ばし自分を支えるようにしてゆっくり前に進む。朋夜は後ろから望に声をかけた。
「望さん、良ければ、肩を…」
「必要、ないです」
「しかし…」
先ほどよりも語気を強める望に、朋夜は言葉を失う。無言で朋夜を見つめる望の表情を見て、朋夜は静かに目を伏せた。
「…出過ぎた真似をいたしました…参りましょう」
朋夜はそう言って頭を下げ、望の後ろを歩いていく。望は足を引きずりながら、ゆっくりバスから降りるのだった。
バスのヘッドライトで照らされている橋の残骸の近くに、望と朋夜はやってくる。望はかつては川の上にかかっていたであろう橋の残骸を眺めながら、霊力で自分の武器である
「望さん、こちらの橋です。お願いできますか?」
「…はい」
朋夜から指示を受け、望は短く返事をする。そうして、橋の残骸の近くにしゃがみ込み、夜の闇の奥底にある川をぼんやり眺めたあと、望は、橋の残骸まで足を引きずりながら歩く。
棍を橋の残骸の上に突き立て、望は目を閉じる。
棍から地面へ青白い光が根のように広がっていくと、次の瞬間、川底から岩石がせり上がり始めるのだった。
「望さん、僭越ながら、お手伝いいたします」
朋夜はそう言うと、望の背中に手を当て、望に霊力を供給し始める。望は一瞬朋夜の方を見ると、小さく礼を言った。
「…どーも」
「いえ…」
2人が沈黙する中、地面から岩石がせりあがる音だけが聞こえてくる。
気まずい沈黙の中、朋夜は息を吸ってから話し始めた。
「望さん。その…私たち、お会いしたこと、ありますよね?」
朋夜のひと言に、望は目を閉じる。
そして、朋夜に背を向けたまま、望は頷いた。
「…そうですね」
「あぁ、やはりそうでしたか…!よかった、人違いだったらどうしようかと…」
「それがどうしたんです」
表情を緩める朋夜に対し、望は突き放すように言葉を返す。朋夜は言葉を続けた。
「いえ、『あの事件』のあと、どうしてらっしゃったのか気になっていたのです。こういう形であれど、お元気そうで…またお会いできて嬉しいです…!」
「そうですか。私はあなたの顔をもう見たくなかった」
「えっ…」
感極まる朋夜に対し、望は背を向けて言い放つ。朋夜は自分の想いと全く異なる望に、驚きを隠せず、戸惑ったが、すぐに何かに気がついた。
「…もしや、その脚のことでしょうか…でしたら…」
「…別にあなたは悪くないですよ。全部、私が勝手に引きずってるだけなんで」
「しかし…」
言葉を続けようとする朋夜を遮り、望は声を張った。
「道、できましたよ。早く戻りましょ」
望は一方的にそう言うと、朋夜の方を見ずにバスへと歩いていく。朋夜は望の背中に手を伸ばそうとした。
「望さん…!」
「しつこい。私はあなたと話したくない。あなたの顔を見るたび、嫌でも現実を見せつけられるから…仕事以外で話しかけないでください」
望は俯きながら、朋夜には目もやらずに言葉を放ち、バスへと乗り込み、幸紀に状況を報告する。
取り残された朋夜は少し俯きながら、バスへと戻る。
バスの中では、すでに望は自分の席で目を閉じていた。
(望さん…)
「おい、早く座れ。動かすぞ」
望の方をぼんやり眺める朋夜に、運転席の幸紀が低い声で指示する。
我に還った朋夜は、バスの座席へと腰掛けるのだった。