追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
「巫女さん、気をつけて、そいつ、絶対に強い…!」
「ええ、わかっております。ですが、私は負けませぬ」
朋夜を心配する望の声に、朋夜は低く、短く答える。望は、そんな朋夜の背中を見上げていた。
朋夜とフェルカドはお互いに動きを見ながら間合いを取り合う。
先に一歩踏み込み、大剣を振り上げたのは、フェルカドだった。
(間合いに入った、そこだ!)
すぐさま朋夜はフェルカドの首を狙って刀を抜き払う。
目にも止まらぬ抜刀術は、大剣が朋夜の頭に下りるより先に、確かにフェルカドの首を捉えていたはずだった。
「もらった!」
そう叫んだのはフェルカドだった。
フェルカドは振り上げていた大剣を、朋夜のいる位置より遥かに手前側に、軽く振り下ろす。
すると、ちょうど朋夜の刀が描こうとした軌跡の先に、大剣の刀身がぶつかる。
瞬間、速度がついていたせいで朋夜の刀は、逆に彼方へ吹き飛ばされた。
「!」
(居合の極意はその速度!だが、だからこそ!最初の一撃を叩き落としてしまえば!あとはこちらのものよ!!)
大剣の切っ先は、刀が吹き飛んだ朋夜を、正面に捉えていた。
「死ねぃ!!」
フェルカドの裂帛の気合いと共に、大剣による突きが、朋夜に飛んでいく。
だが、朋夜の体は大きく翻り、大剣を間一髪でかわしながら、フェルカドの方に跳んできていた。
「ぬっ!?」
「はぁぁっ!!」
霊力によって強化された朋夜の、空中回し蹴りが、フェルカドの顔面を真横から蹴り抜く。フェルカドはそれをまともに被弾すると、大きくよろめいた。
「フェルカド!!」
そんな光景に思わずポラリスが叫ぶ。しかし、フェルカドは、自分の顔の一部が黒い煙になっているにも関わらず、ニヤリと笑って朋夜の方へと向き直った。
「敵ながら見事!『月暈の巫女』!やはり貴様はこのフェルカドに殺される価値がある!」
フェルカドはそう言って大剣を地面に突き刺し、拳を握って構える。
一方の朋夜は、自分の刀が刺さっている場所を確認した。
(刀は敵側…取りに行って囲まれるより、目の前にいる悪魔を、この手で倒すのが先決…!)
「せいやあっ!!」
朋夜が状況を確かめていると、フェルカドが右の拳を朋夜に振り下ろす。
朋夜は軽い動きでその攻撃をかわすが、フェルカドの拳はそのまま地面を殴り、地面を揺らす。
思わずよろめいた朋夜を、フェルカドは方向転換の勢いを活かし、横から殴りつけようとする。
だが、朋夜はしゃがんでフェルカドの腕をくぐり抜けると、勢いのまま肩でフェルカドにタックルを入れる。
怯んだフェルカドに朋夜は掌底を入れると、そのまま霊力を流そうとする。
しかし、フェルカドが朋夜の手首を掴み、咄嗟に宙へ向けさせると、霊力は虚空へ飛んでいく。
一方の朋夜も、フェルカドの体を蹴り飛ばすと、フェルカドの手を逃れ、状況を仕切り直した。
(よし、このまま…)
朋夜がそう思い、ふと望の方に目をやった瞬間、朋夜の目に、望が敵に囲まれている光景が目に入った。
「いやっ!離して!」
霊力が尽き、抵抗する手段を失った望を、悪魔が2体がかりでそれぞれの手を掴み、川の方へと引きずっていく。
そして、悪魔がもう1体やってくると、望に馬乗りになり、髪を掴んで望の顔を川の水面へと、力任せに押しつけ始めた。
「!!!」
望は必死に抵抗し、両手を動かそうとするが、それも押さえつけられ、逃げ出せなかった。
「望さん!!」
朋夜は望の窮地に思わず絶叫し、彼女の方へ駆け出そうとする。
しかし、そのせいで、正面から来ているフェルカドのラリアットに気づけなかった。
「くらえぃ!!」
「!」
朋夜の細い体が折れ曲がるかのように、フェルカドの太い腕が彼女の胴を殴り抜き、朋夜は吹き飛ばされ、壁になっていた崖に叩きつけられる。
「…くっ…うっ…!?」
朋夜が飛びそうになる意識を保たせ、前を向こうとしたその瞬間、朋夜の足が突然持ち上がる。
同時に、朋夜は、自分の足がフェルカドに掴まれていることに気づいたが、もう遅かった。
「ふん!!」
「がああああっっ!!!!」
フェルカドは、力任せに朋夜の足をあらぬ方向へ捻じ曲げる。経験したことのない激痛に、朋夜も思わず絶叫するが、フェルカドは構わず、朋夜の右腕を掴んだ。
「うっ…ううっ…!!」
朋夜は自分の腕が折られてしまうと察知すると、必死に抵抗しようとするが、フェルカドはそれを払いのけ、朋夜を無理やりうつ伏せにしてから、右腕もあらぬ方向へ捻じ曲げた。
「うあああああ!!!」
「よし、これで霊力は使えまい!トドメと参ろう!」
フェルカドが言うと、部下の悪魔たちが、2体がかりで地面に突き刺さっていたフェルカドの大剣を持ってくる。
フェルカドは大剣を受け取り、朋夜の背中を長い黒髪ごと踏みつけると、彼女の背中に大剣の切っ先を向けた。
「死ねぃ!!月暈の巫女!!」
フェルカドはそう言い放ちながら、大剣を逆手に持ち替え、朋夜の背中に大剣を突き立てようとする。
「!」
瞬間、フェルカドは何かに気づくと、大剣を止め、横に向けて構え直す。
「ぬおっ!」
間一髪真横から飛んできた一撃を受け止めたフェルカドだったが、受け止めた衝撃で大きく吹き飛ばされた。
異様な光景に、ポラリスや他の悪魔たちも一斉に攻撃が飛んできた方向を見る。
フェルカドもすぐに大剣を杖のようにして立ち上がり、自分を吹き飛ばした攻撃の方を見て、そして目を見開いた。
「貴様…!」
朋夜も、体勢を整え、仰向けになって状況を見ると、この状況を変えた1人の男の名前を呼んだ。
「幸紀さま…!!」