追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち-   作:晴本吉陽

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第23話(6)彼女たちの心 -望と朋夜-

「幸紀さま…!!」

 

「決着をつけにきたぞ、フェルカド、そしてポラリス」

 

 黒いロングコートの裾を払いながら、右手に握った日本刀を回すのは、幸紀だった。

 

 一方、幸紀の姿と言葉を目の当たりにし、ポラリスは一気に声を張った。

 

「全員撤退!まともに戦うな!逃げろ!」

 

 ポラリスは叫ぶと同時に、我先にと撤退を開始する。ポラリスの動きを見て、フェルカドも幸紀の方に大剣を向けながら、ポラリスの背中を守るようにして撤退を始めた。

 部下たちである悪魔たちも同様、フェルカドと共に幸紀に武器を向けながらポラリスを守りつつ撤退し始めた。

 

「今度こそ逃がさん」

 

 部下の悪魔たちに包まれるようにして逃げていくポラリスに対し、幸紀は刀を向けながら静かに言葉を発する。一方のポラリスは背中を向けて走りながら言葉を返した。

 

「好きに言ってろ、俺は帰る!」

 

「逃がさんと言っているだろう」

 

 ポラリスの背後を守るように、多勢の悪魔たちが幸紀に斬りかかろうとする。だが構わず幸紀は、刀を持ち替え、ポラリスに向けて投げつけた。

 

 幸紀が刀を投じるだけで、周囲に衝撃波が走り、幸紀へ寄っていた悪魔たちが、次々に黒い煙に変わる。

 刀の軌道の近くに居ただけでも、悪魔たちの多くが黒い煙に変化していく。

 

 ポラリスは走りながら、背中越しにそんな光景と肉薄してくる刀を目の当たりにしていた。

 

「フェルカド!」

 

「おう!」

 

 ポラリスがフェルカドの名前を呼ぶと、フェルカドは飛んでくる刀とポラリスの間に割って入り、大剣で幸紀の刀を受け止める。

 しかし、幸紀の刀は、受け止めているフェルカドを一方的に押し込み始めた。

 

「ぬううっ!!?ええい!」

 

 フェルカドは改めて力を入れ直すと、大剣で幸紀の刀を弾き落とす。

 そうして大剣を振り払ったフェルカドの視界に見えたのは、武器を持たずにフェルカドの方へ駆けてくる幸紀の姿だった。

 

 幸紀は拳を振りかぶり、隙ができたフェルカドの顔面に一直線に叩き込む。フェルカドは間一髪幸紀の拳を大剣で受け止めたが、幸紀は拳を振り抜き、大剣ごとフェルカドを吹き飛ばした。

 

「うおおおっ!?」

 

「うあっ!?」

 

 フェルカドが吹き飛ばされた先にいたポラリスは、巻き込まれて共に倒れる。幸紀はそんなフェルカドたちの状況を見て、地面に突き刺さった自分の刀を拾い上げた。

 

「若…お早く…!」

 

 フェルカドはポラリスを急かす。ポラリスが手を伸ばし、「悪魔回廊」の入り口を開く間、部下の悪魔たちが時間稼ぎのために幸紀に斬りかかる。

 

「どけ」

 

 幸紀は自分に迫ってくる悪魔たちを斬り捨て、ポラリスとフェルカドに迫っていく。

 

「死ね」

 

 幸紀は目前に見えるポラリスの背中に、刀を突き立てようとする。

 そんな幸紀の刀を、フェルカドが横から弾く。

 幸紀はすぐにフェルカドの方に目をやったが、フェルカドはポラリスと共に悪魔回廊の中に転がり込むのだった。

 

 幸紀の一撃が空を斬る。

 

「…逃したか」

 

 幸紀はひとことだけそう呟くと、刀を振るい直し、鞘に刀を納める。

 彼が周囲を見回すと、あたりは黒い煙が漂うだけで、すでに悪魔たちの姿はどこにもなかった。

 

「望さん…!」

 

 幸紀が悪魔たちを一掃したのを見て、朋夜は、悪魔たちから苛烈な攻撃を受けていた望の元へ、腕と脚を庇いながら這いずっていく。

 望は、水面に押し付けられていた顔を地上に戻し、口から水を吐き、何度も咳き込み始めた。

 

「げふっ、げふっ…!」

 

「望さん、大丈夫ですか…!」

 

 朋夜は望の背中をさすり、水を吐かせ、気道を確保させる。落ち着いた望は、自分の方へ歩いてくる幸紀の姿に気がついた。

 

「…大丈夫…巫女さんも…幸紀さんも…ありがとうございました…」

 

「私もお礼を言わせてください。幸紀さま、ありがとうございました」

 

「礼など要らん」

 

 幸紀は短く言うと、背を向けてバスに向けて歩き出そうとする。朋夜と望も、幸紀の後に続こうとしたが、脚にダメージを負った二人は、幸紀に続く事はできなかった。

 

「っ!」

 

「…」

 

 幸紀はそんな朋夜と望の状態に気づくと、足を止め、2人の元に戻ると、2人を両脇に抱えた。

 

「…え?」

 

「さっさと心愛に治してもらうぞ」

 

 幸紀はそう言葉をかけると、両足に霊力を込めて、大きく跳躍する。

 

 崖の下にいた3人は、幸紀のジャンプで一瞬にしてバスのある崖の上まで戻ってきた。

 

 

 幸紀はそのまま朋夜と望を抱えたままバスの中に戻ってくると、空いていた席にふたりを座らせた。

 

「心愛を起こしてくる。少し待っていろ」

 

 幸紀は低い声で2人に言うと、バスの後部座席で眠っている心愛の方へと歩き出す。

 

 

 望とふたりきりになった朋夜は、声をひそめて話しかけた。

 

「望さん」

 

「…」

 

「あなたが無事でよかったです」

 

「…ありがとう」

 

「…望さん。今なら、望さんの気持ちが、少しだけわかる気がします。今まで当たり前にできていたことができなくなり、人の手を借りなければならない無力感…ましてや、望さんは生き甲斐や友人すらも失った…全てに投げやりになる気持ちも理解できます」

 

 朋夜は望の横顔を見ながら言葉をかける。一瞬、足の痛みに表情を歪めてから、朋夜は話を続けた。

 

「あなたが私に憤るのも当然です…ですが、それでも、私は、助けられなかった命もたくさん見てきたから…あなたが生きていてくれたことが本当に嬉しかったのです。だから、生きるのを諦めてほしくなかった…!」

 

「…エゴだね」

 

「そうです。でも、ただのエゴで終わらせはしません」

 

「…?」

 

「あなたが元の生活を取り戻せるように、一緒にお医者様を探します」

 

「…は?」

 

 朋夜の言葉に、望は驚きを隠せなかった。

 

「巫女さん、何言ってんの?この脚、普通の医療じゃ治せないんだよ?心愛の能力ですら無理だった。気休めならやめて」

 

「いいえ。この世には、まだ見ぬ霊力の使い手が数多おります。その中には心愛さん以上に人を癒すことに秀でた霊力の使い手もいるはずです。私には、巫女として培った人脈があります。それを辿っていけば、もしかしたら、もう一度、望さんが踊れるようにしてくれる人がいるかもしれません」

 

「もう一度…踊る…」

 

 朋夜の言葉に、望は思わず顔を上げて、しかし自分の脚を見下ろす。朋夜はそんな望にさらに声をかけた。

 

「私が、必ず見つけ出します。だから…だから、望さん、希望を捨てないでください。これからも、一緒に頑張りましょう…!」

 

 朋夜は静かに、だが力強く訴える。

 

 望が何も言わないでいると、心愛と幸紀がやってきた。

 

「望ちゃん!朋夜ちゃんも、怪我したんだって!?今から、心愛が歌うから、ちょっと待ってて!」

 

 心愛は霊力でマイクを発現させ、歌う準備を始める。幸紀はそんな光景を横目で見て、運転席へと歩いていく。

 

「…ありがとう」

 

 望は、誰にも聞こえない声で、顔を上げながら呟く。

 

「え?望ちゃん、何か言った?」

 

「…ううん、何も。これからも頑張らなきゃいけないから…治療、お願いね」

 

「うん!任せて!」

 

 望がそう言ったのを聞き、朋夜は満足げに微笑む。

 前髪で隠した望の瞳に、涙が浮かんでいたのは、朋夜も、歌う心愛も、決して知らない。

 

 

 

隊員紹介コーナー

 

隊員No.14

名前:翡翠(ひすい)(のぞみ)

年齢:17

身長:158cm

体重:49kg

スリーサイズ:B88(E)/W56/H89

武器:長棒()

外見:緑色のミドルヘアで片目を隠している。黒いカーディガンを着用

家族構成:父母姉

所属班:補給班

過去

中学時代は実は心愛以上に評価されていたダンサーだった。

積極的で明るく、自信に溢れた性格から同性の友人も多く、クラスの中心人物だったが、高校進学直後に悪魔によって脚を不自由にさせられ、友人たちも誰1人として見舞いに来なかった。

その後、霊力が扱えるようになり、歩けるようになったが、今でも霊力が尽きると歩けなくなってしまう。

 

 

隊員No.17

名前:月暈(つきがさ)朋夜(ともよ)

年齢:19

身長:169cm

体重:41kg

スリーサイズ:B80(B)/W55/H90

武器:日本刀

外見:黒髪のロングヘア、赤い瞳、黒い和服

家族構成:母

所属班:指揮班

過去

幼いころから「月暈の巫女」として育てられてきており、上流階級との関わりなども多いほか、悪魔との戦闘経験も豊富で、同時に救えなかった命も多く見てきた。

その一方で、同年代の友人が少なく、華燐と明宵しかいないため周囲からは浮いてしまっていた。

なので、年齢が近く、自分が救えた命である望には、やや特別な思いを抱いている。

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