追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
前回までのあらすじ
いよいよ悪魔軍が本拠点を構える冬城県に入った星霊隊。望の能力で橋を作り、敵の拠点への奇襲を目指して進んでいく。
望は過去のトラブルから朋夜に対して複雑な思いを抱いており、作戦中も一瞬、自暴自棄になったが朋夜の献身的な想いに胸を打たれて前を向く。
ポラリスの襲撃も退けながら、星霊隊はなおも進む。
6月26日 朝8:00 冬城県 夏目市 夏目中学校
悪魔軍が拠点のひとつとして、この中学校の校舎と体育館を利用していた。
星霊隊はこの先にある悪魔軍の本拠点を攻撃するため、中学校に陣取る悪魔たちを倒すことにしたのだった。
「そおらぁっ!!」
そんな体育館の中で、
体育館の中にいる悪魔は、残り10体ほど。しかし、華燐は1人。それでも華燐は不敵に笑うと、ヌンチャクを振るって構え直した。
(校舎は敵だらけだから皆でいかなきゃいけない。だけどここにも敵がいる。朋夜が怪我させられてるこの状況、1番戦い慣れてるアタシがここを任されるのは当然っしょ!)
構え直した華燐に、悪魔の1体が斬りかかってくる。華燐はヌンチャクで悪魔の剣を受け止めると、悪魔の腹に蹴りを叩き込み、距離を取る。
悪魔が再び斬りかかろうとしたその瞬間、華燐はニヤリと笑って右手を鳴らした。
「消し飛べっ!」
瞬間、華燐に斬りかかろうとしていた悪魔が、体の内側から爆発し、黒い煙に変わる。華燐は他の悪魔たちに対して向き合い、ヌンチャクを構え、ニヤリと笑った。
「さて、次はどいつ!?」
華燐が得意げにしていると、悪魔たちは距離を取るように構える。動きを見せない悪魔たちに、華燐は痺れを切らした。
「来ないなら、こっちからいくよ!」
華燐はそう声を張ると、正面にいる悪魔に駆け出そうとする。
瞬間、彼女の目の前を黒い風のようなものが吹き抜ける。同時に、その場にいた全ての悪魔たちが一瞬にして黒い煙に変わった。
「…え…?」
華燐は戸惑ったが、ようやく目の前の状況が理解できた。
「ふん。やはり大したことはない」
華燐に背中を向けながらそう呟くのは、幸紀だった。
「幸紀さん…」
「これで最後だったようだ。撤収するぞ、華燐」
幸紀は背中越しに華燐にいうと、右手に握っていた日本刀を鞘に納め、振り向いて歩いていく。
華燐の目の前には、悪魔がいた痕跡すら残っていなかった。
「…」
華燐は立ち止まり、眉をひそめる。そんな華燐の姿に気づき、幸紀は華燐に声をかけた。
「どうした」
「いーえ、なんでもないです。今行きます…」
華燐は幸紀に対して少し力のないような声で返事をする。幸紀はそれに構わず華燐の先を歩き、体育館を後にした。
華燐は、そんな幸紀の背中を見送りながら、内心思わずにはいられなかった。
(…幸紀さんほど強いんだったら…アタシたちなんて要らないんじゃないの…?)
数分後 校舎内1階教室
星霊隊のメンバーたちは、食事を取るために教室に集まっていた。
そんなメンバーのひとり、
「朝食のレーションは1人1セットのみです。それと、負傷した方がいましたらお声掛けください」
珠緒は教室の中にいるメンバーたちに情報をアナウンスしながら食糧を配っていく。
ものの数分もかからず、珠緒がその場にいる人数分の食料の配布を終えて、ひと息ついていると、教室の扉が開き、幸紀と華燐が入ってきた。
「あ、幸紀さん、華燐さん、お疲れ様です。食事をどうぞ」
「食事が終わり次第、次の作戦を計画する。職員室に集合するよう、指揮班と作戦班のメンバーにそう伝えてくれ」
珠緒から缶詰を受け取りながら、幸紀は珠緒に指示を出す。珠緒が承知しました、と頷くと、幸紀はすぐにその教室を後にし、どこかへと歩いて行った。
「あとで日菜子さんたちを呼ぶ、と…」
珠緒は食料の缶詰を床に置き、メイド服のスカートのポケットに入れていたメモ帳を取り出してメモをする。
床に置かれた缶詰を、珠緒の目の前で順番待ちしていた華燐が拾い上げた。
「あ、すみません!メモしちゃってて」
「大丈夫、気にしなくていいよ」
華燐はそう言って缶詰を手に持つ。メモを終えた珠緒は、半袖Tシャツを着ている華燐の腕に、傷があることに気がついた。
「華燐さん、怪我してますよ」
「え?...ほんとだ、いつ怪我したんだろ」
「今、手当を…あ、包帯がない…」
珠緒は自分のスカートのポケットの中に包帯がないことに気づくと、すぐに華燐に提案した。
「華燐さん、保健室で待っててもらえませんか?幸紀さんからの連絡だけ済ませたら、治療しますので」
「おっけー。ま、軽い傷だからそんな急がなくていいよ。保健室で飯食いながら待ってるね」
「すみません、お願いします!」
珠緒と華燐はやりとりをすると、ふたりとも教室を出て、廊下を別々の方向へ歩いていくのだった。
数分後 保健室
珠緒に言われた通り保健室にやってきた華燐は、空いているベッドのひとつに腰掛け、配布された缶詰を開けると、割り箸を割り、缶詰の中の米を口の中にかき込み始めた。
そうしているうちに、保健室の扉が開く音がする。華燐が見てみると、珠緒が腰を低くして部屋の中に入ってきていた。
「華燐さん、いますか?」
「うん。お先」
珠緒に声をかけられると、華燐も返事をする。珠緒は保健室の中にあった棚の中から救急箱を取り出し、華燐の座っているベッドの、その隣のベッドに腰掛けた。
「治療しますね」
「ありがとうね」
華燐が缶詰を横に置き、負傷した腕を突き出す。珠緒は慣れた手つきで、華燐の腕に包帯を巻き始めた。
ただ治療されているだけの空気が気まずく、華燐は口を開いた。
「…ねぇ?珠緒ちゃん」
「はい?」
「…あ、いや、愚痴になっちゃうから、いいや…」
「別に、大丈夫ですよ。むしろ、華燐さんと話す機会がなかったから、せっかくだし、おしゃべりしたいです…」
「そう?...でもなぁ、あんまり前向きな話じゃないし…」
「私も前向きな人間じゃないので、大丈夫ですよ」
「うーん…じゃあお言葉に甘えて…」
「どうぞ」
包帯を巻かれながら、華燐は言葉を選びつつ、自分の思っていることを話し始めた。
「...その…アタシって、ここに必要なのかなって」
「え?」
「アタシは、朋夜の手伝いをやってきて、悪魔と戦い慣れてて、強いからここに呼ばれてると思ってた。でも…アタシなんかより、幸紀さんのほうがずっと強くて…幸紀さんひとりがいれば、全部解決しちゃう気がして…アタシなんか要らないんじゃないかなって」
華燐は俯きながら言葉を発する。珠緒が包帯を巻き終えると、華燐は小さく会釈をした。
「ありがと…でも、ぶっちゃけ、みんなも薄々そう思ってるんじゃないかな。『全部、幸紀さんでいいじゃん』って。自分が星霊隊にいる理由ってなんなんだろうって…」
「…」
「珠緒ちゃんはそんなことないか…手当もできて、雑務もこなせて、戦うのだってできるもんね。でもアタシは、悪魔と殴り合うことしかできないから…幸紀さんの成り損ないにしかなれないんだよな…」
華燐は包帯を巻かれた自分の腕を押さえながら静かに言葉を発する。自信のない華燐の姿に、珠緒は言葉を発した。
「華燐さん、そんな…」
珠緒の言葉を途中で遮るように、保健室の扉が開く。2人がそちらを見ると、日菜子がやってきていた。
「あ、ふたりともいた!作戦を伝えるから、視聴覚室に来て!」
「はい!」
日菜子から言われると、華燐と珠緒は立ち上がり、日菜子についていくようにして保健室を後にするのだった。