追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
同日 9:30 秋露城公園
幸紀と星霊隊のメンバーたちが乗るバスが、ここの一角に止まる。
そのバスから最初に降りてきたのは、幸紀だった。
幸紀は正面に見える城を見上げると、何も言わずに霊力で刀を発現させ、ゆっくりと歩き始めた。
(正面に見えるあれが『大手門』…俺はあそこを抜いて、真正面から最短ルートで最上階を目指すという話だったな)
公園を出て、幸紀は早速、真正面に見える閉じた門と、それに続く木製の橋へ歩いていく。
城の最上階からその様子を見ていたポラリスは、得意げにニヤリと笑うと、外に見えるように手を上げた。
幸紀が門へ行こうと、橋に足を置いたその瞬間、橋は轟音を立てて崩れ落ちる。幸紀の足元には、水が張られた堀だけがあった。
「やれ!!」
悪魔軍の声が聞こえてくると同時に、城壁の内側から、幸紀に向かって無数の石が投げられる。幸紀はそれに動じもせずに、淡々と眺めていた。
「…今更そんなものが効くわけがないだろう」
幸紀は呆れたように呟くと、飛んでくる石を避けもせず、姿勢を低くして霊力をため、刀を一気に抜き放って衝撃波を放つ。衝撃波が門に直撃すると、一瞬にして門が破壊された。
幸紀は霊力を駆使して堀を飛び越えると、城壁の内側に侵入する。
直後、ふたり分ほどの幅しかない通路を塞ぐような長さの、丸太が数本、正面から転がってきた。
「人間たちには効いただろうが…」
幸紀はそう呟くと、怯むことなく正面から転がってくる丸太を一刀両断する。やってきた丸太は、幸紀に触れることすらできずに粉々にされた。
ひと息すらつかない幸紀に対して、悪魔たちが出撃し、雪崩のように狭い通路を埋め尽くしながら幸紀に迫ってくる。
だが、幸紀は悠々と歩きながら、思いのままに刀を振るい、悪魔たちを蹴散らし始めるのだった。
(他の奴らもうまくやれ)
その頃
公園で待機していた星霊隊のバスから、続々と星霊隊のメンバーたちが出撃していく。
ついに最後のメンバーである日菜子と焔が裏側を目指して出発すると、華燐と珠緒だけが、バスの外に立ち止まり、周囲を見回していた。
バスの中にいるのは、負傷したメンバーたち。華燐は珠緒と共に、バスの外で敵が来るかどうかを見張っていた。
「…」
華燐は無言で俯く。そんな華燐の様子に気がついた珠緒は、少し不安になりながら話しかけた。
「華燐さん…?」
「…ん?」
「さっきの話…」
「…ああ。『アタシなんかここに必要ない』って言ったやつ?」
「はい。余計なお世話かもしれないんですけど、気になっちゃってて…」
「…ありがと。珠緒ちゃん、優しいんだね...まぁただの愚痴だから…そんなに気にしないで」
華燐はバスに背中を預けながら、空を眺めつつ、笑顔を作り、言葉を返す。そんな華燐に、珠緒は言葉を返した。
「…わかりました。そんなに気にしません。でも、少し、私の話を聞いてほしいなって…その、華燐さんと仲良くなりたいから、おしゃべりの一環で」
「あぁ、いいよ。ごめんね、アタシばっか暗い話しちゃって。聞かせて」
華燐は珠緒に軽く謝ると、珠緒の話を聞く体勢に入る。珠緒はそんな華燐の様子を見てから話し始めた。
「…いや、私のも、大した話じゃないんですけど…その…私も、私より遥かに完璧で、私なんか要らないんじゃないかって思うような人と一緒に働いているんですよ」
「そうなの?」
「はい。メイド長の、
「あぁ、あの赤毛の…」
華燐が思い出したように焔の特徴を言うと、珠緒は静かに微笑みながら頷いた。
「何をやっても完璧な人なんですよ。お料理も上手で、美人で、霊力も強くて、戦っても強い人で…毎日のようにその人に叱られて、私、自分が必要なのかなぁって、思ったことがたくさんあるんですよね」
「珠緒ちゃんも…」
「でも、メイド長が厳しいのは、誰よりも私に期待してくれてたからでした。誰よりも私の力を信じてくれてたから、厳しくしていたんです」
珠緒の語る言葉に、華燐は微笑んで頷き、しかしまた表情を曇らせた。
「…良い話だね。でも、焔さんはそうかもしれないけど、幸紀さんは違うよ、きっと。アタシのこと、使えないと思ってるから、今回も攻撃じゃなくて、ここの留守番をやらせてるんだろうよ」
「それは違うと思います」
「?」
華燐の言葉に、珠緒がはっきりと言う。華燐は少し驚いたが、珠緒は小さく謝りながら話し始めた。
「あ、ごめんなさい。その、私の知っている幸紀さんって、もっと容赦がない人なんです。だから、使えないって思った時点で、そもそも見捨てるでしょうし…信頼できない人間は、自分の目の届く範囲に置いておくと思います」
「そういう人なの?てか、それ、ギリギリ悪口じゃない?」
「いやいや!幸紀さん本人がそう言っているんですよ。『俺は役立たずは切り捨てる』って。だから、事実を言っているだけです」
「いや…ふふ、そっか」
珠緒の言葉に、華燐は小さく笑う。いくらかリラックスした華燐の横顔を見て、珠緒も穏やかに微笑んだ。
「私は、星霊隊に必要のない人なんていないと思います。華燐さんに助けられた瞬間だって、たくさんありますから。私にとっては、明るくて、前向きで、強い華燐さんが、憧れみたいな存在です」
「…なぁに?お世辞ぃ?」
「え!?いや、そんなことないです!」
華燐への想いを吐露する珠緒に、華燐は照れ隠しに茶々を入れる。珠緒が否定するのを聞いて、華燐は口を開けて笑った。
「アッハハ、ごめんごめん。なんか、褒められ慣れてなくて。でもありがと。そう言ってくれると、頑張ろうって気になれる。珠緒ちゃんの期待を裏切らないようにしなきゃね」
爽やかに笑う華燐の笑顔を見て、珠緒も安心したように笑う。
「ところで、珠緒ちゃんって…」
華燐が雑談を続けようとしたその瞬間だった。
公園のまわりの草むらから、物音が聞こえてくる。
珠緒と華燐は、雑談をやめると、それぞれ自分の武器であるナイフとヌンチャクを発現させていた。
「…風の音じゃないよね」
「…はい。間違いなく…います…!」
華燐と珠緒は確かめ合うと、物音がした方向に武器を向ける。
直後、草むらをかき分け、物音の正体が姿を現した。
「やれやれ。いつになったら消えるかと思ったが…待つのも飽きたわ」
低く野太い声と共に、鉄塊にしか見えない大剣を振り下ろす音が聞こえてくる。その音のすぐ横に、紫色の肌の巨漢が、そこに立っていた。
「あいつは…朋夜を怪我させたフェルカド…!ダチの仇は取らせてもらう!」
フェルカドの姿を見るなり、華燐はヌンチャクを構えて声を張る。一方のフェルカドは、呆れたように鼻で笑った。
「ふん。巫女でもない小娘2人に容易くくれてやれる首ではない。者ども!ゆけぃ!」
フェルカドが声を張ると、草むらから10体ほどの悪魔が現れる。華燐と珠緒は一瞬固唾を飲むと、身構えた。
「珠緒ちゃん、ここを抜かれたら…!」
「ええ…車内の負傷者もみんな殺されてしまいます…!」
「させないよなぁ!」
「もちろん!」
華燐と珠緒は互いの想いを確認する。
そうして、こちらに向けて駆けてくる悪魔たちに対し、正面から向かっていくのだった。