追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
同じ頃 冬城県 秋露市 秋露城観光案内所
悪魔軍に占領されていた秋露城を落とした星霊隊は、バスの乗り降りがしやすい、山のふもとにある1階建ての観光案内所に集まっていた。
負傷者はバスの中で待機し、重傷を負わずに動けるメンバーたちで、作戦会議をしていた。
「じゃあ、作戦会議を始めます!」
案内所内で、日菜子は声を張る。そんな日菜子に続いて、菜々子が肩の力を抜いて話し始めた。
「ま、そうは言っても、今は偵察班の帰還待ちなんだけどね。あとは敵の本拠点を落とすだけだから、どこから行くか、それを決めるだけなんだけど」
「最後だからこそ、とても重要なことよ。慎重に決めるべきだわ」
菜々子の言葉を聞いていた、赤いメイド服の女性、
「私たちがこれから攻略するのは、敵の最重要拠点。敵が何の用意もしていないとは考えにくい。油断はせず、気を引き締めていくべきよ」
焔が言うと、周囲の空気感がひりつく。そんな空気を見て、少し肩をすくめて、緑色のメイド服の女性、
「焔。みんなわかってる。そんな怖い顔して言わなくても大丈夫だよ」
「真理子」
「みんなを無駄に緊張させてもいいことないでしょ?ねぇ、幸紀もさ?そう思うでしょ?」
真理子は近くに立っていた幸紀にも同意を求める。幸紀は自分の刀の様子を確認していて、聞いていなかった。
「ほら、幸紀もこう言ってるよ?」
「何も言ってないじゃない」
真理子の言葉に焔が言い返す。そんな様子を見て、菜々子が小さく笑うと、張り詰めていた周囲の空気が、いくらか柔らかくなるのだった。
「全く…真理子はいつも…」
焔が小言を並べようとしたその瞬間、突然部屋にいた数人がざわめき出し、部屋の出口へ歩いていく。異変に気がついた焔と真理子もそれに続くと、四葉が慌てて部屋から出ていた。
「紫黄里!!紫黄里!!どうしたの!?」
四葉が声を張り上げたのを聞き、焔と真理子は四葉のそばに駆け寄る。見ると、四葉は傷ついた姿の紫黄里を抱きかかえていた。
「く…黒い…悪魔…」
紫黄里は声を絞り出すように、言葉を発する。四葉は紫黄里の言葉を聞いて答えた。
「黒い悪魔…?それに襲われたの…?」
紫黄里は何度も頷いてから言葉を続けた。
「…強すぎる…あんなの…勝てないよ…」
「どこでそれに会ったの!?」
「偵察中に…時計台への最短ルートで…ううう…!!」
紫黄里は傷を抑えてうめき声を上げる。
「しっかりして!紫黄里!!」
「千条さん、下がって、今治療する」
紫黄里の様子に声を上げる四葉に対し、璃子が冷静に宥め、紫黄里を連れていく。
一連の様子と、紫黄里の言葉を聞いていた焔は、表情を硬くして言葉を発した。
「黒い悪魔…まさか…」
焔はそう呟いて真理子の方を見る。
真理子の表情からは先ほどの余裕はなくなり、真っ青な表情で、荒い呼吸をしていた。
「お姉ちゃん…」
真理子は俯きながら小さく呟く。焔はそんな真理子の隣に立ち、背中に軽く手を置いた。
「真理子、大丈夫、そんなはずない。奴は幸紀が何年も前に倒したわ。だから、奴じゃないはずよ」
焔の言葉を聞いても、真理子の脳裏にある光景は消えない。それでも真理子はなんとか顔を上げ、無理に笑顔を作った。
「そうだね…きっとそうだから…今は、紫黄里ちゃんの敵を撃つことだけ考えるよ」
同じ頃 アカツキ攻略悪魔軍総司令本部
廃墟に囲まれたコンクリートの上、弥生を追いかけている悪魔、コーキの視界が、建物の壁に映し出されていた。ポラリスは、その映像を見つつヘッドセット越しに指示を続けていた。
「その女は偵察班だ、追い詰めろ」
ポラリスの指示を受けたコーキは、弥生を追いかけていく。追われている弥生は、ライフルを抱えながらコーキに背を向けて走っていた。
『なんなのあいつ…!』
弥生は毒づくと、振り向き様にコーキへ発砲する。銃弾はコーキに直撃するも、コーキは全く怯まず、まっすぐ弥生へ走って行った。
「よし、殺せ!」
ポラリスの言葉に呼応するように、コーキはひと息に弥生まで肉薄すると、片手で弥生の首を掴み上げた。
弥生は必死にコーキの手から逃れようとするが、コーキの力は強かった。
『離してっ!離してよぉっ!』
コーキが刀を振り上げる。そのまま弥生の首を目掛けて刀を振るい下ろす。
その瞬間、真横からコーキの手首に目掛けて針が飛び、刀を持つコーキの手首に突き刺さる。
一瞬コーキが止まった隙を突き、弥生はコーキの手から逃れる。
コーキが弥生の逃げた方向を見ると、江美が針を構えていた。
『ありがとう、江美ちゃん!』
『いいんですよ〜。でも…これはちょっと危険かもしれませんねぇ。行きましょうか〜』
江美は弥生にそう言うなり、煙幕をその場に叩きつける。映像も煙に包まれたが、ポラリスは目を鋭くして声を発した。
「煙の中に衝撃波を放て」
ポラリスが言うと、コーキはそれに従って刀を振るう。
放たれた衝撃波は、通路の両側にあったビルすらも薙ぎ倒しながら、煙の方へと進んでいく。
衝撃波が煙を抜け、あたりの廃墟も壊したかと思うと、次の瞬間には、女性の悲鳴が聞こえてきた。
砂煙が風で吹き抜けると、そこには、うつ伏せに倒れる江美と弥生、そしてその背中に幾らかの瓦礫が載っている光景が映っていた。
『ゲホッ…ゲホッ…!何…!?あんな敵初めてだよ…!?』
『…逃げきれないか…!』
弥生と江美は口々に言いながら、立ち上がる。そんな2人に、コーキは再び刀を構えた。
弥生と江美は逃げようとするが、コーキが武器を構える方が早かった。
コーキが再び刀を振るい、衝撃波を放つ。
逃げられないと悟った彼女たちは、目を閉じる。
彼女たちに衝撃波が触れようとしたその直前、別の方向から違う衝撃波が飛んできて、相殺しあう。
風が吹き抜け、弥生と江美が目を開けると、そこには、黒いロングコートの裾が風に揺れていた。
『ゆ、幸紀くん!』
弥生は現れた幸紀の名前を呼ぶ。呼ばれた幸紀は、目の前にいる悪魔の姿を見て、刀を構えなおしていた。
『お前は…なんだ…?』
幸紀は自分と瓜二つの姿の悪魔に思わず問いかける。
一方、その悪魔を操作するポラリスは、指示を出すのに集中していた。
「奴は強い、撤退だ」
ポラリスの指示を受けると、コーキは幸紀たちに背を向けてその場から逃げ始める。
『待て』
幸紀はコーキの背中に刀を突き立てようとする。しかし、コーキはそれを受け止めた。
幸紀とコーキは鍔迫り合いをする。幸紀は、コーキを押しきれなかった。
(似ているのは姿だけではない…か…)
幸紀の考えをよそに、コーキは幸紀を突き飛ばす。距離を離された幸紀は、即座にコーキへ斬りかかろうとするが、コーキは地面を踏み砕いて瓦礫を飛ばす。
幸紀が瓦礫を切り捨てた一瞬、コーキは姿を消すのだった。