追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
部屋の外に出た幸紀は、結依の足音が聞こえる方へと走り出す。幸紀の足は速く、ものの数秒で結依のいる駅の奥にたどり着いた。
「おい!」
幸紀が声をかける。結依は、幸紀に背を向けて座り込み、軍刀の刃を自分の首に突きつけ、いつでも自分の命を絶てるようにしていた。
(あ、コーキ!!助けて!!コイツ頭おかしくなっちゃった!!私もろとも自殺する気だよコイツ!!)
「おかしくなんかありません!!私は!!今だけは絶対に正気です!!」
(意志が強すぎて乗っ取れないんだよ~!早くなんとかしてよコーキぃ!!)
「止めないでください!!コーキさん!!」
サリーの声と結依の声が交互に幸紀に聞こえてくる。幸紀はゆっくりと動いて鞘に納めた刀を発現させると、結依の様子を見守る。結依はゆっくりと振り向いて、軍刀を自分の首に突きつける。幸紀の目に映る結依の瞳からは、涙が溢れていた。
「結依、お前はせっかく助かった命を捨てようというのか」
「そうです!」
「なぜだ」
「プライドです!!あなたと同じです!!あなたならわかるでしょう!?」
「わからんな。わかるように話せ」
(コーキぃ)
「サリーは黙ってろ。俺はこの人間と話をしている」
幸紀は低い声でサリーの声を一蹴すると、結依の言葉を持つ。涙で呼吸が荒れている結依は、肩を上下させながら話し始めた。
「…このままじゃ…私が私じゃなくなっちゃう…ずっと頭の中で、別の人の声が聞こえてきて…気がついたらその声に体を乗っ取られて…!自分の体が自分の意思で動かない…!悪魔に体を乗っ取られて、いつか大切な人を傷つけるかもしれない…!そんなの絶対に嫌!!」
(だから死のうっての!?バカじゃないの!?だいたいね、私がいなかったらあんたは死んでんのよ!多少体使われるくらいは妥協しなさいよ!!)
「それで困るのが私ひとりじゃないから!でもここで死ねば、これ以上誰かに迷惑をかけることはない!だったらここで…!」
「逃げるのか?」
感情的に語る結依に対し、幸紀は冷ややかに、短く尋ねる。結依は想像もしていなかった言葉に、思わず幸紀の方を向いた。
「…え?」
「ここで死んで、逃げるのが、お前の言うプライドなのか?」
「…他人に迷惑をかけないのが私のプライドです!逃げとかなんとか言われても!私はそのために死にます!」
「なるほど、なら殺す」
(え!?)
結依の言葉に、幸紀は刀を鞘から抜く。サリーも結依も、想定外の幸紀の言動に、動揺し始めた。
(ちょ、ちょっとコーキ!殺すのはコイツだけだよね!?私はうまいこと生き残るよね!?)
「そんな器用なことはできん。一緒に死ね」
(待ってよぉ!!なんでそんな怒ってんのよ!)
「目の前のこの女は『俺と同じ』と言った。誇りのために死ぬと。だが、俺は自分が苦しいというだけで死を選んだりはせん。そんなのは戦う勇気もない臆病者のすることだ。そんな奴と一緒にされるなど屈辱の極みだ。俺は侮辱は許さん。コイツは殺す。死にたいなら好都合だろう」
(待って待って!お願いだから!!)
「死ね」
幸紀は冷徹に言葉を発すると、刀で真っ直ぐに結依の眉間へ突きを放つ。
サリーの悲鳴が、魔力越しに聞こえてくる。
瞬間、刃同士のぶつかる音が響いた。
結依はゆっくりと目を開く。
結依の顔目掛けて飛んできていた幸紀の刀は、結依の持つ軍刀によって横に弾かれていた。
「…」
(た、助かったの?私、何にもしてないけど…)
「どうやら結依はまだ生きていたいらしい」
幸紀はそう言うと、結依に弾かれ、床に突き刺さった刀を抜き、鞘に納める。結依は軍刀を落とすと、両手で顔を覆いながら泣き始めた。
「…あぁ…情け無いなぁ、私…結局死にたくないなんて…!プライドなんて偉そうなこと言って…全然ダメだな…!」
「生きる者は皆そうだ。自分の命は可愛い。誇りは二の次、三の次。誇りのために死ねる者などそうはいない」
幸紀は結依に語りながら軍刀を拾い上げる。そして刃の部分を拳で叩き折った。
「だが俺は知っている。誇りとは、命懸けで生き、戦った後に得られるものだ。今の貴様は守る誇りもまだない、ちっぽけな命だ」
幸紀は折れた軍刀を投げ捨てると、軍刀を握っていた手を結依に差し出した。
「死にたいならいつでも死ね。だが生きる以上は、誇りのために戦え。そして戦って死ね。『俺と同じ』ならばな」
幸紀に言われると、結依は俯く。未だ納得がいっていない結依の様子を見て、幸紀は口に出して命令した。
「サリー、貴様もその人間の許可を得ずに体を乗っ取るな」
(えぇ!?なんでよ!つまんないじゃん!)
「お前が勝手に体を使おうとするからこうなったんだろう。またこういう事態が起きれば次は手加減はしない。まとめて死んでもらう。わかったか」
(なんでそんな)
「死にたいか?俺はお前などいなくてもいいんだぞ、サリー。俺に必要なのは、ある程度の霊力を有する人間で、悪魔じゃない」
(そんなこと言わないでよぉ、コーキ。わかったからぁ、おとなしくするからさぁ)
「俺でなく結依に言え」
幸紀が高圧的に言うと、それに押し負けたサリーは、しおらしくなって結依の心に話しかけた。
(…もう勝手に体使ったりしないからさ、仲良くしてくれる?)
「…『仲良くしてくれる?』ですって」
「聞こえている」
結依がサリーに言われたことを幸紀に伝えると、幸紀は頷く。結依は、サリーに優しく声をかけた。
「…約束を守ってくれるのなら…二度と勝手に私の体や意識を乗っ取らないでくださいね?」
(もちろんだよぉ)
「…正直信用はしきれないです…あなたは悪魔ですからね...でも何かのご縁で一緒になって、命も助けてもらったわけですから…そうですね、この体の中で、一緒に仲良くやりましょう」
(さっすが~、ありがと~結依!)
サリーの調子のいい返事が、幸紀と結依の耳に聞こえてくる。幸紀がそれを見て頷くと、真っ暗だった建物の中で、赤い非常灯が付き、辺りの様子が多少見えるようになった。
結依は幸紀の手を取って立ち上がる。
直後、制御盤のある部屋から、四葉が現れた。
「東雲さん!電源、復旧しました!シャッターも開いたので、電車、動かせます!」
四葉が幸紀と結依に駆け寄りながら状況を報告する。それを聞いた幸紀は、結依と顔を見合わせて頷くと、歩き始めた。
「よくやった。行こう」
「はい!」
幸紀がそう言って歩き出すと、結依と四葉、2人の女性は、彼に続いて歩いていくのだった。