追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
同日 14:00 冬城県 冬城市 冬城時計塔 1階
悪魔軍の本拠点となっていた時計塔を陥落させた星霊隊の24人の女性たちは、少し遅い昼食を取っていた。
しかし、声を発する人間は誰もいない。全員が黙々と食事を続け、一切の会話をしていなかった。
(ねぇ、結依?何この空気?誰か死んだのぉ?)
部屋の隅で黙々と食事を続ける結依の脳内に、サリーが話しかける。結依は食事をしながら、脳内でサリーに答えた。
(別にそういうわけじゃないんですけど…今、揉めてるんですよ。幸紀さんについて、みんな意見が割れてて…どうするんだろう…)
結依は周囲を見回すが、やはり誰も言葉を発さず、互いに目線も合わせようとしない。結依は、自分の食事を終えると、部屋の隅に置かれた、ひと皿だけのカレーに目をやった。
「あ、あの、食べ終わったので、それ、持っていきますね!」
結依は、そう宣言すると、部屋の隅に置かれたカレーを持ち、全員のいるその部屋から逃げるように、早足で去っていく。
誰もいない階段を駆け上がり、3階にあるスタッフ用の個室の前にやってくると、結依は扉を叩いた。
「幸紀さん?いますよね?入りますよ」
結依は一方的にそう言うと、扉を押し開け、中に入る。
部屋の中では、幸紀が、1人、部屋の隅に置かれたベッドに腰掛け、黙々と刀の手入れをしていた。
「…結依か」
幸紀は結依の方を一瞬見てから呟く。結依は小さく頷くと、入ってすぐのところにあった小机にカレーを置き、扉を閉めた。
直後、結依の体から分離するように、サリーの姿が現れると、幸紀の隣に座り込み、彼の腕に頬擦りし始めた。
「あーん、コーキぃ…やっと2人きりで『お楽しみ』できるね?ちょうどベッドもあるしぃ、コーキのすっごい立派なアレで…」
「そんなことしてる場合じゃないですよ!!」
幸紀の下半身に手を伸ばそうとするサリーを叱りつけるように、結依は声を張り上げる。結依は、幸紀の正面に立って話し始めた。
「どうするんですか、幸紀さん!?さっきのニュースで、みんな、あなたが悪魔だって知っちゃいましたよ!?四葉さんなんかは、ニュースを信じて、状況次第ではあなたを倒すつもりです!」
「上等だ。斬り捨ててやる」
「かっこいい!」
「ダメです!あの子たち、騙されているだけなんですよ!それを殺すなんて…そんなのひどいです!素直に真実を言いましょう?悪魔たちに理不尽に追放されて、その復讐のために戦っているって…!みんななら信じてくれます!」
「悪魔と人間は分かり合えん。いくら言葉を尽くしても無駄だ。お前もそう思うだろう、江美」
「へ?」
幸紀が江美の名前を呼ぶと、部屋の扉が開き、江美が入ってくる。
「あちゃー、バレてましたか~」
「いつの間に…」
驚く結依をよそに、幸紀は江美の方に目をやった。
「今回のニュースで、お前の上司にも俺の正体が伝わったのだろう?上の命令で俺を消しに来たか?」
幸紀は江美に尋ねる。一方の江美は、微笑んだまま、幸紀の隣に腰掛けた。
「そんな物騒なことはしませんよ~。まだ命令も来てないですから」
「来たら殺すか」
「う~ん、それも微妙ですね~。私としては、あなたにはまだ死んでほしくないんですけど~」
江美の言葉に、サリーが反応した。
「へー、白髪女、見どころあるじゃん」
「まぁ、私。知性派なんで~。というのはさておき」
サリーの茶々を受け、江美の声が一段低くなる。
「天正都に悪魔が潜入しているのは間違いのない事実…それも、結界を貫通している以上、並外れて危険な悪魔。『皇牙衆』の忍びとしては、東雲幸紀以上に、天正都にいる悪魔を危険視している。それは『皇牙衆』の上層部も同じはず」
「江美さん、それって…」
「幸紀さんの力が必要ってことです~」
江美はそう言うと、幸紀の方に向き直った。
「なので、どんな形であれ、あなたには天正都に行ってもらいますよ。『星霊隊』のみなさんと一緒に。説得を諦めるなんて言うのは、ナシですからね~」
「俺に指図をするな」
「指図じゃなくて『お願い』ですよ~」
江美はそう言うと、ベッドから立ち上がり、部屋の出口へ歩き出した。
「それじゃあ、私はこのへんで。そろそろ他の子達にバレちゃうかもなんで」
江美が部屋を去る。残された結依も、幸紀の方に向き直った。
「幸紀さん、みんなを説得すること、もう一回考えてみてほしいです。みんなを信じてみてほしいです、お願いします」
結依はそう言って頭を下げると、部屋を後にしようとする。部屋に残ったのは、幸紀と、その股ぐらに顔を埋めるサリーだけだった。
「信じるとか信じないとかメンドーだね、人間って。そんなことより、コーキ、久々に、『お味見』を…」
「あ、消し忘れた」
幸紀のズボンのファスナーに手を伸ばそうとしたサリーだったが、結依が扉を開けて呟くのと同時に、その姿を消す。結依は、背中越しに幸紀に小さく会釈をしてから、扉を開け、部屋を出るのだった。
部屋の中で幸紀は1人になる。
天井を眺め、そして、また刀の手入れをするのだった。