追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
前回までのあらすじ
悪魔であるサリーに憑依された女性、結依を新たに味方に加え、幸紀たちは清峰屋敷を目指す旅を続ける。
協力して地下鉄を動かした幸紀たちは、それに乗り込み、ゆっくりと次の目的地へと進んでいくのだった。
6月18日 15時 飛岡《とびおか》県 龍明山《りゅうめいざん》駅
2時間ほど電車に揺られ続けた幸紀たち一行は、終点の地下鉄の駅、龍明山駅にたどり着いた。
この2時間ずっと目を閉じていた幸紀は、電車が止まると同時に目を開ける。目の前の長座席では、星霊隊に加入した4人の女性たちがお互いに肩を寄せ合って眠っていた。
(…あんな危険な状況の後で、よく騒いで眠れたな…こいつらも案外図太い…悪魔と戦うには、これくらいの図太さは必要かもな)
幸紀は目の前で寝息を立てている女性たちを見ながらゆっくりと立ち上がると、女性たちのそばに寄る。彼女たちの寝顔を見下ろすと、幸紀は声をかけた。
「おい、起きろ。ついたぞ」
幸紀の声を聞くと、4人の女性たちはそれぞれ目を擦ったり、伸びをしたり、あくびをしながら、それぞれ目を覚ます。幸紀はそんな様子を横目で見ながらひと足先に電車を降り、駅のプラットフォームに降りる。
幸紀が周囲を見回すと、この駅もやはり非常灯がついており、さらにプラットフォームの各所にもガレキが散らばっていた。
(龍明山駅…予定通り悪魔軍の侵攻が進んでいるのなら、もうすでにこの辺りも悪魔が大勢いるだろうな。好都合だ)
幸紀がそう考えていると、後ろから女性たちの声が聞こえてくる。幸紀が背中越しに見ると、日菜子たち4人が列車からプラットフォームに降りてきていた。
「幸紀さん、ここが目的地っすか?」
晴夏が幸紀に尋ねる。幸紀が首を横に振ると、四葉が話し始めた。
「ここは龍明山駅です!最終目的地までは、まだまだ距離があります」
「あ、そうだ、山登りしなきゃいけねぇって話だったっけ?」
晴夏が確認すると、幸紀は頷いた。
「間違いないだろう。行くぞ」
「はい!」
幸紀がそう言ってためらいもせずに歩いていくと、日菜子も何も疑わずに幸紀の後ろをついていく。そんな日菜子の後に、晴夏、四葉、結依と続いて歩き始めた。
地下鉄の階段をのぼり、駅を抜けて地上に出た一行の目の前には、やはり荒らされた街が広がっていた。
バスのロータリーのあたりには車が互いに衝突しあって煙を上げており、近くに立っている建物の窓ガラスは全て割れていた。だが悪魔の姿はその場には見えなかった。
そんなことを考えている幸紀たちの目の前には、緑が生い茂る山が見えていた。
「あれが龍明山です!標高1201m、飛岡《とびおか》県と三山《みやま》県の県境にある山で、観光地としても人気です!」
「歴史的にも有名な山で、あの山について詠んだ100年前の短歌があったりしますよ」
四葉と結依が、何もわからないであろう晴夏に言う。晴夏は素直に感心の声を上げた。
「へー。異世界にも歴史とかあるんだなぁ。にしたって1201mって…キツそうだなぁ」
「疲れたらいつでも言ってね、いくらでも手伝うから。結依も、四葉もね!」
愚痴をこぼす晴夏に対し、日菜子が笑顔で言う。晴夏も四葉も結依も、そんな日菜子の言葉に、笑顔で頷いた。
幸紀はそんな4人のやりとりを背中越しに見ると、山に向けて歩いていく。日菜子たち4人は、そんな幸紀に続いていった。
30分後 15:30
幸紀たち一行は、龍明山の入り口にやってきた。しかし、その目の前に見える道は、深い森のために、昼間だというのに暗く、さらに道も整備された階段ではなく、不規則な岩肌の階段だった。
幸紀は何も言わずにその階段を登っていく。女性たちは、一瞬顔を見合わせると、やはり幸紀に続いた。
しばらくこの険しい山道を登っていると、晴夏はふと呟いた。
「なぁ、やっぱり幸紀さんって無口だよな。何考えてるんだろう」
晴夏は大きく足を上げて岩をあがりながら、前を進む幸紀の背中を見上げつつ、日菜子に話を振る。日菜子は首を傾げた。
「うーん…そうだよね…いつもこう、なにか心ここにあらずっていうか…」
日菜子はそう呟きながらふと後ろを見る。四葉と結依が、日菜子と晴夏に比べて大きく遅れているのに気がついた。
「あ、しまった、置いてきぼりにしちゃった!」
「しゃあねぇな、まかしとけ!」
晴夏はそう言うと、今まで登ってきた不規則な岩の段を身軽に降りていき、息を切らしている四葉と結依の前までやってきた。
「おーい!」
「はぁ…はぁ…晴夏さん!」
「先に狭間さんを!」
晴夏の声かけに、四葉が指示を出す。晴夏はその指示に従い、岩の段を降りると、しゃがみ込んで結依に手を伸ばす。
結依が晴夏の手を取って一段登る。
瞬間、結依は何かを踏み締めたが、本人は何も気づかなかった。
「ふぅ…ありがとうございます」
「おう、気にすんなって」
結依が晴夏と言葉を交わしながらもう一段登ろうと、足を上げた瞬間だった。
突如として地面から網が現れると、次の瞬間には、晴夏と結依をまとめて宙に吊し上げた。
「うわぁっ!?」
「きゃぁっ!?」
「鳴神さん!狭間さん!」
目の前で異常な事態が起き、四葉は網に捕えられた晴夏と結依を見上げて、すぐさま右手に霊力を集中させ、剣を発現させる。四葉は宙に浮いていく晴夏と結依に向けて剣を振おうとした。
「真空」
その瞬間、四葉の剣に何かの衝撃が走り、剣が吹き飛ぶ。四葉は周囲を見回したが、敵の姿は見えなかった。
(どこから…!?)
「四葉!結依!晴夏!」
先に進んでいた日菜子も異常事態に気がつくと、四葉の方に駆け降りようとする。しかし、そんな日菜子の足元に何かの衝撃が飛んでくると、日菜子は思わず足を止めた。
「なっ!?」
日菜子も周囲を見回すが、あたりに見えるのは薄暗い森と草木だけ。そんな日菜子と四葉の状態を見た幸紀は、改めて周囲を見回した。
(悪魔軍とは思えないが…)
幸紀が考えていると、背後から強く、鋭い霊力が、凄まじい速度で迫ってくる気配がした。
(!)
幸紀はすぐさま振り向くと、霊力で刀を発現させてそれを振るう。幸紀は、その気配の正体を斬り伏せた。
(霊力の込められた銃弾…!)
幸紀がそう思ったその瞬間、もう1発同じ銃弾が横から飛んでくる。幸紀は再びそれを斬り落とすと、彼の視界に映るうっそうとした草木の中に、草木と同じような色の服を着た人間が伏せていることに気がついた。
(奴か)
幸紀はそう思うと、その人間に向けて駆け出す。幸紀が走り出すと、その人間も気づかれたことに気がつき、草木の中から頭を上げた。
「やば!」
その人間は高い声でそう呟くと、構えていたライフルを肩に担ぎながら幸紀に背を向けて走り出す。幸紀は通常の道ではない草木の生い茂る斜面を逃げていく人間と、全く同じ経路を辿って走っていく。
幸紀に追跡されていることに気がついたその人間は、振り向いて一瞬足を止めると、霊力を片手に集めて何かを形作り、足元に転がそうとする。
瞬間、幸紀は一気にその人間に駆け寄ると、彼女が手に持っていたものを真横に蹴り飛ばす。その道具は、彼女の手を離れ、宙に舞った。
「あっ!」
彼女が思わず声を上げると、蹴り飛ばされたその道具が爆発し、強い光を放つ。
構わず幸紀は彼女の頭上に刀を振り下ろす。瞬間、彼女は持っていたライフル銃で幸紀の刀を受け止めるが、直後、幸紀は彼女の首を左手で掴み上げた。
「ぐぅうっ…!!」
幸紀はそのまま刀を振り上げ、目の前の女に振り下ろそうとする。そのとき、追いついた日菜子が幸紀の腕にしがみついた。
「待ってください幸紀さん!その人、人間です!!殺しちゃダメです!!」
「そ…!無理…!気持ちいいけど…!離して、死んじゃう…!」
日菜子が叫ぶのと同時に、幸紀が首を絞めているその人間が必死に声を上げながら幸紀の左腕を叩く。幸紀は鋭い表情で彼女を睨みながら脅した。
「そこにあった罠はお前の仕業か?えぇ?」
「そう…!そうだよ…!」
「ならあの女たちを解放しろ、今すぐ」
「わかった…!わかったから緩めて…!」
幸紀に首を絞められている女性が必死に言うと、幸紀はその女性の首から手を離す。その女性は、色白の顔を若干紅潮させると、軽く咳払いをしてから幸紀を見上げた。
「けほっ、けほっ…いやぁ、お兄さんの首絞め、よかったよ…」
その女性はうっとりとした表情を浮かべ、緑白色の長い髪を軽く払うと、幸紀に刀を向けられながら、罠にかかった晴夏と結依のもとに歩き始める。日菜子はその女性とともに歩き始めた。
「ごめんねーお姉さんたちー!今降ろすからねー!」
その女性は明るく高い、緊張感のない声で晴夏と結依に言うと、慣れた足取りで草木の生い茂る斜面を下り、太い木に巻きついていたワイヤーをほどいていく。そしてゆっくりとワイヤーを伸ばしていくと、それに伴って晴夏と結依が閉じ込められている網が地面に降りる。
四葉は晴夏と結依に駆け寄ると、網をほどいて二人を助け出す。四葉に助け出された晴夏と結依は、幸紀と日菜子のもとに歩み寄ると、罠を解除した女性の方に向き直った。