追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
前回までのあらすじ
龍明山で悪魔の攻撃を受けた幸紀たち一行。山の上にいた弥生と明宵の2人を新たに仲間に加え、清峰屋敷への旅を続ける。
マイクロバスを手に入れた幸紀たちは、それを駆って次の町へと進んでいくのだった。
幸紀たちがバスを手に入れた数時間後
6月19日 午前2:00 三山県
「ええい、大人しくしろ!小娘どもが!」
「離してください!!」
「やめてぇええ!クズでノロマで生きる価値のない私だけど殺さないでぇぇええ!!」
4体の屈強な悪魔が、ふたりの少女を無理やり押さえつけるようにしながら、街の高層ビルの一室にふたりを連れてくる。
悪魔が木製の重厚な扉を押し開けると、綺麗に掃除された洋風の執務室が広がる。その中では、緑色の肌でハゲ頭の悪魔が、葉巻のようなものに火をつけて街を見下ろしていたが、少女たちが連れてこられたことに気づくと、そちらに向き直った。
「ハバッシュ様!ご指示の通り、この小娘どもを捕らえてきました!」
少女たちの肩を押さえつける悪魔たちが、ハゲ頭の悪魔、ハバッシュに言う。ハバッシュは、部下の悪魔たちに押さえつけられながらも抵抗しようとする少女たちを見下ろすと、小さく微笑んだ。
「ふむ…こいつらか。そちらの青白い髪が、
ハバッシュはそう言うと、押さえつけられているふたりの少女は顔をあげ、ハバッシュを見る。すぐさま、青白い髪をツインテールにした幼い顔立ちの少女、雪奈が声をあげた。
「街の人たちにあんなひどいことをして…!あなたたちなんなんですか!」
「我々は悪魔だ。あらゆる世界の全てを支配する権利を有する、絶対の強者。弱い人間は我々に殺されて当然なのだ」
「なんてひどいことを…!みなさん必死に生きてるんですよ!?それをこんなふうに踏みにじるなんて…最低です!」
雪奈は悪魔に対して強く言う。しかしハバッシュは余裕ある微笑みを浮かべながら答えた。
「好きに罵れ。お前たちにも、その最低な悪魔の血が入っているのだから」
「!?」
「な、なんで知ってるの…え、私のファン…?」
ハバッシュの言葉に、雪奈と咲来は目を見開き、言葉を失う。そんなことを気にせず、ハバッシュは指を鳴らした。
「さて、お前たちにも、我ら悪魔軍として協力してもらう」
ハバッシュがそう言ったかと思うと、雪奈と咲来の背後にあった扉が開き、新たな悪魔が現れる。その悪魔が持つお盆には、首輪のようなものがふたつ載っており、雪奈と咲来は嫌な予感がして抵抗し始めた。
「いや、やめてください!!協力なんてしません!!雪奈たちに何をする気ですか!?」
「ひどいことするんでしょ!?エロ同人みたいに!!」
「お前なんかそんなことをする価値もない。調子に乗るな」
ハバッシュはそう言い放つと、もう一度指を鳴らす。次の瞬間、悪魔たちはより強い力で雪奈と咲来を押さえつけ、他の悪魔が雪奈と咲来に首輪を無理やり取り付ける。
首輪が取り付けられると同時に、悪魔たちはふたりから離れる。
瞬間、ふたりの抵抗が止まったかと思うと、ふたりが自分の首輪を外そうと身をよじる。
「ふふふ、似合っているぞ、小娘ども」
ハバッシュはそう呟くと、自分が着ていた制服のポケットから、ダイヤルのついたリモコンを取り出し、次の瞬間、ハバッシュはダイヤルを一気にひねった。
「いやぁああああ!!!!」
直後、雪奈と咲来は目の色を変えて絶叫する。首輪を外そうと必死に動くのも虚しく、次の瞬間、ふたりは力尽きる。
そして、ふたりはうつろな瞳で顔を上げるのだった。
数時間後 6月19日 午前6:00
幸紀は、地面が大きく揺れた感覚で目を覚ます。幸紀が周囲を見回すと、正面の窓から見える景色はまだ薄暗く、右に見える運転席では、日菜子がバスの運転をしていた。
「…?」
「あ、おはようございます!幸紀さん!」
日菜子は幸紀が起きたことに気づいて挨拶する。幸紀は戸惑いながら状況を尋ねた。
「…ここは?」
「そろそろ葛柴町って場所に入るところです!」
「…そうか。ところで、お前運転できるのか?」
「はい!アルバイトで大型車の免許が必要だったから持ってるんです、って話を幸紀さんと交代する時にしたと思うんですけど…」
「そうだったか。なら任せよう」
幸紀はやや納得できないまま、背中を助手席のシートに預け、窓の外を眺める。いつもなら慌ただしく車が行き交う街の一般道のはずが、車の気配はおろか人の気配もない。荒れ果てた街の残骸がそこにあるだけで、バスはその中を走っていた。
幸紀はそのまま正面に見える緑の案内板を見る。そこには「葛柴町」と白い文字で描かれていた。
(ここの担当の悪魔は誰だったか…だがさして重要そうな街でもない、大した悪魔もいないだろう。さっさと抜けてもらうか)
幸紀がそう考えていたそのとき、急に幸紀の体が強い寒気に襲われる。幸紀は感じたことのない寒気に、思わず身を守り、背中を丸めた。
(!?)
幸紀はふと日菜子の方を見る。日菜子は平然とした様子で車を運転していた。
(なぜだ?なぜこの女は寒さを感じていないんだ…!?)
幸紀は震えながら座席から落ちる。日菜子は幸紀が座席から落ちた音で、思わずそちらに振り向いた。
「幸紀さん!?大丈夫ですか!?誰か!起きて!」
日菜子は運転しながら背後に並ぶ座席で眠る他のメンバーたちに声をかける。その声に真っ先に反応したのは、運転席の真後ろの席に座っていた四葉で、彼女はすぐにメガネを掛け直すと、幸紀が倒れているのに気がついた。
「東雲さん!」
四葉は幸紀に声をかけると、すぐに幸紀へと駆け寄り、介抱し始める。幸紀を介抱する中、四葉がふと顔を上げて窓の外を見ると、窓ガラスに氷の
「さ、桜井さん!こ、氷が!」
「こっちの窓にもだよ!急に冷えてきたし…」
日菜子が四葉に答えていると、バスのルーフから、何かがぶつかる音が聞こえてくる。四葉は自分の頭上を見たあと、窓の外を見て音の正体に気づいた。
「
「どういうこと?こんな季節に雹が降るなんて…」
日菜子は疑問に思いながらバスを止めず前に進めていく。同時に、彼女は雹の隙間から見える街の景色に気がついた。
「凍ってる…!」
「なんですって!?」
「街が凍ってるよ!!建物も!道路も!」
「そんな!?」
日菜子の言葉が信じられず、四葉は窓の外を見る。風に流され吹雪のように降り注ぐ氷の粒の間から、確かに、凍りついたという表現が正しい、窓ガラスの割れた建物が見えた。
バスの窓は全て閉め切っていても、外からの冷気が伝わってくる。その異様な寒さに、寝ていた他のメンバーたちも次々と目を覚ました。
「うぉぉサミぃなぁおい。なんだ?こっちの世界ってこんな冷えるのか?」
「低血圧に寒い朝はダメですよぉ…」
「山の下って、こんなに寒いんだー…」
「晴夏!結依!弥生!」
晴夏と結依と弥生が愚痴をこぼしながら目を覚ます。さらに明宵も無言で目を覚ますと、周囲を見回した。
「…この霊力…!」
明宵は何かに気づくと、自分の席から運転席の日菜子と四葉のもとへと駆け寄ると、尋ねた。
「…日菜子さん、ここはどこですか?」
「え?葛柴町って…」
「…なるほど…では雪奈さんと咲来さんですね…」
日菜子の言葉を聞くと、明宵は呟く。四葉は明宵に尋ねた。
「何か知っているんですか、冥綺さん!」
「えぇ…この事態を引き起こしてるのは…」
「それより前を見ろ…!何か来るぞ…!」
明宵が話そうとすると、幸紀が声を上げる。四葉と明宵が前を見ると、降り注ぐ雹の隙間から、鋭い氷柱のようなものが3つ、一行が乗っているバスに向けて飛んできていた。