追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち-   作:晴本吉陽

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第5話(4)氷をとろかして

同じ頃 葛柴町 大型ビル地下

 

「ハバッシュ様!2号機の信号、消失しました!」

 

 緑色の肌をした悪魔が、大型の機械を見つつ、同じく緑色の肌の悪魔、ハバッシュに言う。優雅にティーカップで何かを飲んでいたハバッシュはその手を止めると眉を上げながら報告した自分の部下に近づいた。

 

「なに?機械の不具合か?」

 

「いえ、デバイスが何者かに破壊されたようで…」

 

 部下の悪魔が報告するのを遮るように、悪魔たちのいる部屋の外から断末魔のような声が聞こえてくる。ハバッシュとその部下が部屋の入り口の方を見ると、次の瞬間には扉が真っ二つに両断され、日本刀を持った黒い悪魔、幸紀が姿を現した。

 

「ほう?貴様はコーキではないか」

 

 ハバッシュが意外そうに言うと、幸紀は何も言わずに刀を振るい衝撃波を発生させる。ハバッシュがあっさりしゃがんで避けると、部下の悪魔と彼が操っていた機械は真っ二つに切り裂かれた。

 

「あーあー、我らの技術の結晶が…」

 

 ハバッシュは破壊された機械を見てボヤく。そしてすぐに幸紀の方に向き直ると、腰に提げていた上級士官用の拳銃を幸紀に向けた。

 

「全く。悪魔軍から追放され、次の勤め先は人間の犬か?コーキよ」

 

「いいや、お前たちの敵だ」

 

「変わらんだろうが」

 

 ハバッシュはそう言って拳銃の引き金を引く。銃弾が飛んできたが、幸紀はあっさりとそれを斬り捨てた。

 

「大違いだ。俺が人間を使っているのだ。貴様らを滅ぼすために」

 

「ふん、恩知らずが」

 

「お互い様だ」

 

 幸紀はそう言ってハバッシュの顔面に刀で突きを放つ。ハバッシュはなんとかそれを回避すると、横から幸紀に銃撃を浴びせる。しかし幸紀には効果はなかった。

 

「…ちっ」

 

 ハバッシュは思わず舌打ちする。その瞬間、幸紀の刀はハバッシュの胴体を貫いていた。

 幸紀は刀を抜くと、改めて刀を振るい、立ち並んでいた大型の機械に衝撃波を放ち、機械を破壊する。ハバッシュは床に倒れながら血を流していた。

 

「汚れた血の裏切り者が…!いつか報いを受けるんだな…!」

 

「人間の血が入った汚れた血か。今も昔もそれを散々利用しておいてよく言えたな、この恥知らずが」

 

 幸紀はそう言うと、ハバッシュの首に刀を突き立てる。次の瞬間には、ハバッシュは黒い煙に変わっていた。

 

「貴様らには誇りも恥もない。だからこそ他者の尊厳を平気で踏みにじる。俺はそれが許せん」

 

 幸紀がひとことそう呟くと、黒い悪魔だった体が、いつもの悪人面の人間のものに戻る。自らが破壊した機械たちに背中を向けると、幸紀はどこかへ歩き始めるのだった。

 

 

 

 その頃、日菜子たちは雹が降る中を駆け抜けてもう1人の霊力使いで、この雹の原因である女性、雪奈のもとへ向かっていた。

 

「この探知器によれば、雪奈さんはあのビルの最上階にいるはずです」

 

 明宵は冷静に他のメンバーたちに言う。他のメンバーたちが目の前のビルを見上げると、暗い空の下、確かに屋上に誰かがいるのが見えた。

 

 瞬間、日菜子たちの進行を遮るように氷柱の弾丸が機銃のように発射される。先頭を走っていた日菜子は、すぐさま足を止め、寸前でその攻撃を回避した。

 直後、再び氷柱の弾丸が発射された音が聞こえてくる。しかし、日菜子たちが見ると、氷柱の弾丸は空に向けて発射されており、次の瞬間には、誰もいない方向に発射されていた。

 

「あれ?攻撃にしては狙いが変じゃない?どこ狙ってるんだろう?」

 

 走りながら弥生が呟く。明宵は、屋上でおぼつかない足取りで歩く雪奈の陰を見て、その答えを発した。

 

「例によって暴走しています…しかも制御を失った状態で…!おそらく咲来さんを助けた影響で電波が一極集中しているのでしょう…!今すぐ止めないと彼女自身も危険です…!」

 

「え!?私のせい!?生きててごめんなさい!!」

 

「でも今すぐなんて!あんなところ階段で行っても時間がかかりますよ!」

 

 明宵の言葉に咲来が反応したのを無視して、四葉が声を上げる。全員が苦い表情をしていると、日菜子が咲来に声をかけた。

 

「咲来ちゃん!私たちを吹っ飛ばせる!?屋上まで!」

 

「えぇぇ!?そういう趣味ですか!?奇遇ですね私も痛いのとか苦しいのが好きなタチで」

 

「どうなの!?」

 

「はいぃい楽勝ですぅうう!!」

 

「何する気ですか!?」

 

 日菜子と咲来の問答に、四葉が尋ねる。日菜子は答え始めた。

 

「さっき咲来の風を食らったとき、すごい勢いで飛ばされたの。あれを応用すれば、ここから雪奈のところまですぐに行ける!」

 

「さっきサキですって、おもしろーい!」

 

「ちょっと黙れ」

 

「だから、私と結依だけでも飛ばして欲しい!」

 

 日菜子は裏で咲来と晴夏がやり取りするのを気にせず、四葉に説明する。しかしすぐに四葉は反論した。

 

「危険です!着地を誤れば死んでしまいますよ!?」

 

「このまま何もしなかったら雪奈ちゃんはそれだけで死んじゃうよ!そんなの見てられない!たとえ危険でも、私は全員が助かる道を選ぶ!」

 

 日菜子は強い意志で言い切る。四葉は日菜子の言葉を聞くと、頷いた。

 

「わかりました!みんなで行きましょう!風音さん!準備を!」

 

「はいぃい!」

 

「皆さん整列してください!」

 

 四葉の指示を聞き、咲来が自分の武器であるギターを発現させる間に、四葉は咲来の前に他のメンバーたちを横一列に整列させる。全員が整列したのを見て、咲来は声を上げた。

 

「そ、それじゃあ行きますよぉ!ロックンロォオル!!」

 

 咲来は叫びながら地面を踏み鳴らし、ギターをかき鳴らす。瞬間、その場にいた全員を包むようにして大きな竜巻が巻き起こる。次の瞬間、乱気流が起きたかと思うと、女性陣の体は風によって宙に浮き上がった。

 

「このまま行きますよ!追い風に乗ってぇえ!」

 

 咲来はギターをもう一度かき鳴らす。彼女たちを空中へ押し上げていた風の向きが変わり、彼女たちの背中を勢いよく、雪奈のいる屋上へ押し込む。

 凄まじいスピードで日菜子たちは屋上に近づいていき、その体が屋上へと投げ出されようとしていた。

 

「みんな!行くよ!!」

 

 日菜子の号令に合わせ、全員体に霊力を纏わせながら屋上に転がり込む。勢い余って日菜子と晴夏は屋上から転がり落ちそうになったが、すぐに武器を地面に押し付け、摩擦で耐えた。

 日菜子たちの目の前にいる、青白い髪の少女、雪奈は、苦しみ、唸り声を上げながら、手に持っている白いステッキを四方八方に振り回し、氷柱を放つ。

 

「よし、私が行く!結依!雪奈ちゃんを!」

 

「はぁーい」

 

 日菜子は言うが早いか、雪奈の気を引くために雪奈へ走り出す。すぐに日菜子に気がついた雪奈は、ステッキを日菜子に向けて唸った。

 

「ウウウヴァア!!」

 

 血走った目で、雪奈は日菜子に氷柱を放つ。日菜子に氷柱が直撃しそうになったその瞬間、四葉の放った衝撃波と弥生の放った銃弾が、氷柱に直撃し日菜子の身を守る。

 小さな爆発が起きた煙の中から日菜子が飛び出し、雪奈を掴んで羽交い締めにすると、日菜子は声を上げた。

 

「結依!!今!!」

 

「ウヴァアッ!!ヴァア!」

 

 理性を失っている雪奈は、日菜子の腕の中で暴れ狂い、そのうち日菜子の足や腕が凍っていく。しかし、日菜子はそれを無言で耐えると、雪奈の耳に語りかけた。

 

「大丈夫…!すぐに終わるから…!」

 

「そ…すぐキモチよくしてあげる」

 

 音もなく雪奈の真正面に歩いてきた結依は、雪奈の唇に自分の唇を重ねる。

 魔力が結依の中のサリーに吸収されていく。

 同時に、凍らされていた日菜子の腕や脚が元に戻り始めると、氷漬けになっていた街が徐々に元の姿を取り戻し始め、降っていた雹も止み、空は明るさを取り戻した。

 結依は雪奈と濃厚な口付けをしながら、武器であるカギ爪を発現させ、雪奈に取り付けられていた首輪を切断する。

 次の瞬間、雪奈は気絶しながら結依にもたれかかった。

 

「…ふふふ…ごちそうさま」

 

「…霊力の暴走が止まった…これで解決ですね」

 

 結依が雪奈を抱きかかえていると、明宵が小さく言う。それを聞いた日菜子たちは、喜びを露わにするのだった。

 

 そんな彼女たちの耳に、車のエンジン音が聞こえてくる。音の方向を見ると、彼女たちが乗ってきたバスがゆっくりと走ってきていた。

 バスは日菜子たちのいるビルの前で止まる。そして、そんなバスの中から、幸紀が姿を現した。

 

「あ、幸紀さん!」

 

「悪魔軍は片付けた。お前たちも目的は達成できたのだろう。早く降りてこい」

 

 幸紀は建物の下から声を上げる。幸紀に言われた日菜子たちは、明るく返事をすると、日菜子が雪奈をおぶって建物の中の階段を降りていくのだった。

 

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