追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
前回までのあらすじ
下山した先にあった街、葛柴町にたどり着いた幸紀たち一行。そこで悪魔の工作によって暴走させられていた霊力使い、雪奈と咲来を救出して仲間に加える。
幸紀たちは拾ったバスに乗りながら、目的地である清峰屋敷に行くため、次の街を目指すのだった。
6月19日 午前8:00
「
大量の傷病者が倒れている病室の扉を蹴り開け、緑の迷彩服を着た男性が、負傷した人間を肩に担ぎながら入ってくる。
璃子先生と呼ばれた女性は、病室の隅にいた。薄紫の短い髪に、医師らしく白衣をまとった彼女の目の前には、入ってきた男たちと同じように迷彩服を装備して重傷を負った男性が倒れており、璃子は必死に傷を縫い合わせていた。
「今行きます。
璃子は、自分の隣にいた、猫の頭を模した帽子を被った女性、麗奈に言う。麗奈は無機質に返事をすると、璃子から患者を治療するための道具を受け取り、璃子と場所を交代する。璃子はすぐに新しい負傷者のもとに駆け寄ると、その負傷者の肩を担いだ。
「状況は?」
「刃物で腹部を刺されてる!」
「…またこの傷…!この場で縫合します、そっちの救急キットを」
「璃子先生!」
璃子が目の前の患者の治療に取り掛かろうとすると、再び病室の扉が開く。同時に、璃子の目に新しい負傷者が3人飛び込んできた。
「負傷状況!」
「そっちから、裂傷、裂傷、脳震とうです!」
「すぐに横にして!麗奈!」
璃子は負傷者を運んできた兵士に指示を出し、縫合を終えた麗奈を呼ぶ。麗奈は冷静かつ淡々と負傷者を回避し、璃子のもとにやってきた。
「なんでしょうか」
「こっちの患者をお願い、例の刺し傷よ」
「了解しました」
麗奈は璃子の指示に従い、負傷者の治療を始める。その間に、璃子は3人の負傷者の傷の具合を診た。
「脳震とうは休めば大丈夫、こっちの裂傷は軽傷、この人の治療から始めます」
璃子は状況を説明すると、重傷患者に治療を施すため、近くにあった治療キットを手に取る。そうして璃子が治療を開始すると、再び病室の扉が開いた。
「璃子先生」
「今度はなに!?」
璃子は患者に目をやったまま尋ねる。やってきたのは、普通の迷彩服とは異なる軍服の男で、負傷もしていなかった。
「指揮官の安藤だ。作業しながらでいい。戦線に復帰できる兵士はいるか?」
「いません。全員治療中です」
「しかし悪魔軍の攻勢が強まってる、少しでも人手が欲しい」
「無理です。今動かしたら彼らは死にます!医師として患者を死なせるわけにはいきません」
「だがこのままでは…」
「無理に動かしたところで戦えないまま死んでしまいます!わかってください」
璃子は安藤の方を見ないまま、素早い手つきで傷を治療していく。安藤はそれを聞くと、軍帽を被った頭に手を置きながら頷いた。
「…了解した。こちらも最善を尽くす。部下のことを、よろしく頼む」
「任せてください」
安藤がそう言って歩き出そうとすると、安藤の正面から部下である兵士がひとり、駆けてくる。安藤が不思議に思っていると、部下は足を止めて報告を始めた。
「報告します!悪魔軍が撤退し始めました!」
「おぉ、デカしたぞお前ら!」
「いえ、我々ではなく、裏門に、その、バスがやってきまして…」
「バス?」
「はい、そこに乗っていた人たちが、その」
兵士が報告する言葉を選んでいると、安藤の背後から悲鳴が聞こえ始める。安藤が振り向くと、そこには窓しかない。安藤は窓に近づき、そこから外の光景を見下ろした。
見ると、分厚い壁のように立ち並んで裏門に迫ってきていた悪魔の大群に、正面からひとつの影が迫り、刀を振るう。影が躍るように刀を振るうたびに、悪魔が次々と黒い煙に変わっていった。
「すごい…我々の小銃がほとんど通用しない相手に、たった1人であれほどの…!」
報告に来た兵士は、2度目にも関わらず思わず声を上げる。気がつけば雲のように並んで迫っていた悪魔たちは、全てその影によって斬り捨てられていた。
影はゆっくりと刀を鞘に納める。そして、何気なく安藤の方を見る。
安藤はようやくその影の正体に確信を得ると、ニヤリと微笑んだ。
「…東雲、幸紀…ったく、カッコつけやがって」
「は?」
兵士が安藤の呟きに尋ねる。安藤は気にせず振り向くと、兵士に指示を出した。
「奴が乗ってきたバスを迎え入れろ!今なら何やっても大丈夫だ、急げ!」
「は、はっ!」
兵士は安藤の指示を受けると、すぐに走り出す。安藤も、兵士が進んだ後に続いてゆっくりと歩いて行くのだった。
数分後 桜丸病院 裏門地下駐車場
幸紀以外の一行を乗せたバスは、迷彩服の人間たちに誘導されて地下駐車場にやってくる。そんな光景を見て、車内にいた晴夏は四葉に尋ねた。
「なぁなぁ、あの人たちは?」
「
「国防軍…自衛隊みたいなもんか。今まで見なかったけどな?」
「私たちが移動してきた地域は、国防軍の基地から離れてますから。出動に時間が掛かったんだと思います」
「へー。まぁでも、軍隊と合流できたならもう勝ちみたいなもんっしょ!」
「…そうとも言えないです」
四葉と明るく話していた晴夏の横から、本を読んでいる明宵が口を挟む。晴夏は不思議そうに明宵の方を向いた。
「え?なんでよ。軍隊って強いんだろ?」
「…悪魔は銃撃や砲撃などの通常攻撃に強い耐性を持っています。軍隊の通常の武装はあまり効果がありません…だから霊力の研究が行なわれているのです…」
「そういや…そういう話だったな」
明宵の解説に、晴夏は納得する。それも束の間、日菜子が運転するバスが駐車場に止まり、日菜子はシートベルトを外して後ろの席に座っているメンバーたちに声をかけた。
「着いたよ!みんな降りちゃって!」
「はい!」
日菜子の指示に従い、バスに乗っていた女性たちはそれぞれ座席から降りる。日菜子もサイドブレーキをかけると、メンバーたちと共にバスを降りた。
星霊隊の女性たちがバスを降り、駐車場に立つと、その視界の奥から軍服姿の安藤が歩いて現れる。彼女たちを迎え入れた兵士たちの空気感が張りつめたのを見て、安藤が重要人物であることが彼女たちにもわかった。
「可愛らしいお嬢さんたち、こんな歓迎で申し訳ない。私は第13小隊の安藤少佐だ。ところで、東雲って男がいると思ったんだが」
安藤は軍帽を軽く上げながら挨拶すると、メンバーたちに尋ねる。先頭にいた日菜子が代表して話し始めた。
「幸紀さんのこと、ご存知なんですか?」
「ん?あぁ、まぁ。あいつとは…」
「余計なことを喋りたがるのは相変わらずだな、安藤」
安藤がニヤニヤしながら話そうとすると、星霊隊の女性たちの背後から幸紀が歩いて現れる。安藤は傷だらけになっていた顔を明るい笑顔にすると、声をあげて笑い始めた。
「フハハ!久しぶりだってのにそれか!相変わらずぶっきらぼうな奴だな、東雲!」
「俺が馴れ馴れしくする方が嫌だろう?」
「違ぇねぇ。ガハハ!!」
安藤は幸紀に歩み寄ると、幸紀の肩に手を置いて笑う。幸紀はそっけない態度のようで、わずかに微笑んでいた。
そんな2人の様子に、星霊隊の女性たちは戸惑っていたが、安藤は気にせず話し続けた。
「全く、お前がこんなに女の子を連れ回してるとは予想外だったぞ?
「侯爵に頼まれて悪魔に対抗できる部隊を編成してる」
「あぁ、『星霊隊』か。てことはこの子たちが。はー、美女揃いだな、顔で選んだろ?」
「あぁそうだ」
「えぇ!?」
「冗談だ」
「コイツ…ハッハッハ!」
安藤は眉ひとつ動かさず冗談を言う幸紀に大笑いしながら、幸紀の肩を何度も叩く。そんな安藤の様子を見て、日菜子は安藤に声をかけた。
「あのー…」
日菜子が声をかけると、安藤は途端に明るかった表情を軍人のそれに戻した。
「…冗談はここまでだ。我々は現在とある作戦を立案中だ。君たちが『星霊隊』なら、改めて協力をお願いしたい。とりあえず責任者と相談したいんだが…『星霊隊』の責任者は東雲だよな?」
「いいえ、私です」
安藤が尋ねると、日菜子が言う。安藤は驚いたが、すぐに納得した。
「わかった。では東雲と、そっちのお嬢さん、ついてきてくれ。残りのお嬢さんたちは、うちの者が案内する」
「はい!」
安藤は日菜子と幸紀を連れて駐車場の奥へと歩き出す。残りの女性たちは、兵士たちに連れられてどこかへと歩き出すのだった。