追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
その頃
日菜子たちが入り口付近で戦っていた頃、駐車場では国防軍と星霊隊の協力による患者の搬送が続けられていた。
「急いで!いつ突破されるかわからないわ!」
璃子は新しいトラックの荷台にスロープをかけながら患者を運んでくる国防軍の隊員たちを急かす。その横には、護衛担当である四葉と結依もいたが、璃子は違和感に気がついた。
(…麗奈がいない…?)
璃子の助手である猫帽子を被った女性、麗奈がどこを見回しても見当たらない。璃子がそのことを不審に思ったその瞬間だった。
トラックから少し離れた駐車場の天井の一部が、突如として音を立てて崩れたのである。
「…!まさか!」
その場にいた全員が思わず物音の方を見ると崩れた天井から悪魔が飛び降りてくる。それも、1体ではなく、続々と姿を現し始めた。
「敵襲!!搬送を急いでください!!」
四葉は声を上げながら悪魔と患者たちの間に立ち塞がる。結依も即座にやってくると、悪魔に対してボウガンで攻撃を始めたが、明らかに2人で対処しきれる悪魔の数ではなかった。
「加勢するわ!」
璃子は状況を理解すると、右手に霊力を集中させる。そして彼女の武器である身長より大きな大型のハンマーを発現させると、璃子はそれを肩に担ぎながら悪魔たちと患者の間に立った。
「先生!?」
「シネェエエエヤァ!!」
悪魔の1体が、璃子を目掛けて走ってくる。悪魔が棍棒を振り下ろそうとしたそのとき、璃子のハンマーが悪魔の顔面を真横から振り抜き、悪魔を5メートル先に吹き飛ばし、黒い煙に変えた。
「つ、強い」
「ボーっとしてないで!来るわ!」
璃子の攻撃に見惚れていた四葉に、璃子は一喝する。そんな璃子の耳に、銃声が聞こえてくると、四葉と璃子は思わずそちらを見る。
逃げ遅れたベッドの搬送役をしていた国防軍の隊員が、迫ってくる悪魔たちに向けてアサルトライフルの引き金を引く。悪魔は銃撃に怯まず正面から国防軍の隊員の脳天に棍棒を振り下ろした。
「軍人さん!?」
搬送されていたベッドの患者が呼びかけるのも虚しく、軍人は動かない。その間に悪魔は患者の周りを取り囲んだ。
「ひぃっ!?」
「シネェエエエヤァ!!」
「やめてっ!!」
璃子の叫びは届かず、悪魔たちは身動きが取れない患者に次々と棍棒を振り下ろす。次の瞬間には、患者は血まみれで力尽きていた。
そんな様子を見て、悪魔たちは歓喜の声をあげると、すぐに他の患者を殺すためにトラックの荷台へ走り始めた。
「ニンゲン!!タクサンコロセ!!ヨワイノカラダ!!」
天井の穴から出てくる悪魔たちに、1体の悪魔が指示を出す。それに従うように、悪魔たちは四葉や璃子の間をすり抜けると、患者たちがいるトラックの荷台へ殺到し始めた。
「許さない…!お前らなんか許さない!!」
璃子は怒りを露わにすると、トラックの荷台の前に向けて走りながら、その途上にいる悪魔たちを見るなり、手当たり次第にハンマーを振るい始める。真上から悪魔を叩き潰し、アッパースイングで悪魔を打ち上げる璃子だったが、気がつくと、トラックの荷台の前で悪魔たちに取り囲まれていた。
「先生!!今助けに…」
四葉は璃子が囲まれたのを見て、すぐに助けに行こうとするが、直後、悪魔に殴りかかられ、それを剣で受け止める。
(このままじゃ助けに行けない…!先生…!!)
四葉は悪魔と鍔迫り合いをしながら璃子を心配する。
「うぐぅっ」
次の瞬間、鈍い殴打音と、低い悲鳴が、璃子のいた方から聞こえてきた。
「先生…!」
四葉は璃子を助けに行こうとするが、逆にその一瞬を突かれ、悪魔に押し切られると、姿勢が崩れたところを真横から棍棒で殴り抜かれた。
「あぁっ!!」
間一髪霊力で身を守ったため致命傷は負わなかったものの、四葉はその場に倒れる。すぐにそんな四葉に群がるように無数の悪魔たちがやってきた。
「ヤッチメェエエァアア!!」
「いやぁああ!!」
棍棒を装備した無数の悪魔たちに取り囲まれた四葉は、死の恐怖から目を閉じ、悲鳴をあげることしかできなかった。
しかし、いつまで経っても四葉の体に衝撃が来ない。
四葉はゆっくりと目を開ける。
彼女を見下ろしていたはずの無数の悪魔たちは、そこにはいなかった。
「…え?」
「ギャアアアア!!」
次の瞬間、四葉の頭上から悲鳴が聞こえてくる。四葉は不思議に思って起き上がり、振り向くと、黒い煙の中でひとり立ち尽くす黒いロングコートの後ろ姿があった。
「…抵抗できないものを数で囲んでリンチ…そんな勝利で狂喜乱舞とは…悪魔軍も地に堕ちたな」
「幸紀さん…!」
四葉はその後ろ姿に声をかける。呼ばれた幸紀は、一瞬だけ四葉に顔を見せると、その場に倒れていた璃子の肩をゆすった。
「おい」
「ううっ…」
「生きているな」
幸紀は璃子が生きているのを確認すると、璃子の体を仰向けにし、それを抱きかかえると、荷台を背もたれにして座らせた。
「…なんでこっちに…正面の悪魔は…」
「最初から来なかった。1匹もだ。おかしいと思って来てみたら案の定だ」
璃子の質問に、幸紀は短く答える。璃子はそれを聞くと、殴られた頭を抱えながら、荷台に体重を預けて立ち上がった。
「…まるで最初から全部筒抜けだったみたい…まさか…!」
璃子は自分の発言で何かに気づくと目を見開く。幸紀は頷くと、四葉と結依に声をかけた。
「四葉、結依、ここを頼む」
「どこに行くんですか?」
「敵の指揮官と、こちらの裏切り者のいるところだ」
「裏切り者…!?」
「頼んだぞ」
四葉が驚くのをよそに、幸紀は悪魔たちがやってきた天井の穴に向けて歩き始める。璃子も、幸紀に続いた。
悪魔たちはまだその天井の穴から姿を現し、トラックへと駆け出そうとする。しかし、幸紀はそんな悪魔たちの先手を取るようにして悪魔たちを斬り捨てながら、天井の穴の真下にやってきた。
「ふん」
幸紀は短く息を吐くと、自分の足に霊力を込めて跳躍し、天井の穴を通って病院の地上1階に出る。置いて行かれた璃子は少し驚いたが、すぐに持っていたハンマーを地面に叩きつけ、その反動で跳躍して幸紀の後に続いた。
「やっぱり電源が落ちてる…」
璃子は薄暗い病院の廊下を見て呟く。幸紀はそれを聞くと周囲を見回しながら璃子に尋ねた。
「電源を管理しているのはどこだ」
「そっちの廊下の奥よ」
璃子は指で差し示すと、幸紀を先導するように走り始める。幸紀は璃子にゆっくりと続いた。
幸紀と璃子が目的地の部屋の前に来ると、その廊下の奥から安藤が姿を現した。
「おっ?東雲に璃子先生、なにやってんだ?」
「この部屋の中に裏切り者がいる。仕留めにきた」
「なるほど。こっちと同じだ。急に停電したって報告が来たから、様子を見に来たんだ」
安藤はそう言うと、目の前の扉を見てアサルトライフルを構える。幸紀はそれを見ると、扉のドアノブに手を掛けた。
「行くぞ」
幸紀は低い声でそう言うと、扉をゆっくりと開ける。すぐに開いた扉から安藤、璃子と部屋の内部に突入すると、部屋の奥に誰かがおり、そこから光が出ているのが見える。暗い中でその光によって浮かび上がった、猫の頭のようなシルエットに、璃子は小さく声を漏らした。
「麗奈…!」
「敵だ!かかれ!」
「シェアアアアァァ!!」
暗闇の中にいた悪魔軍の指揮官、ラウムが、璃子と安藤の姿に気づいて声を上げると、暗闇から悪魔の群れが現れ璃子たちに襲い掛かろうとする。すぐさま安藤はアサルトライフルを発砲し始めた。
「ちくしょう、多勢に無勢だ、撤退を…!」
「必要ない」
安藤が声を上げたその瞬間、背後から幸紀の声が聞こえたかと思うと、次の瞬間には彼らの目の前に並んでいた5体の悪魔の首は飛び、黒い煙に変わると、その中に幸紀が立っていた。
「俺があの悪魔を片付ける。お前たちはあの女をなんとかしろ」
「でも…なんで麗奈が…!悪魔に協力なんて…!」
「機械を操ることなど容易だからな」
「…!?」
幸紀の言葉に、璃子は困惑する。その間に、電源設備と向き合っていた麗奈が振り向き、ラウムの前に立つ。手袋の外れた彼女の左手の一部に機械的な穴が開いており、そこからは機械のケーブルが何本か伸びていた。
「どういうことだ東雲!あのお嬢ちゃんは機械だったのか!?」
「…いや、ただの機械でもなさそうだ」
安藤が幸紀に尋ねたその瞬間、麗奈の右手に霊力が集まると、彼女の右手に武器が握られる。短い棒の両端に、剣のように光が伸びた、両刃のビームソードだった。
「悪くない霊力だ。この小娘の相手は任せたぞ」
「おい!」
幸紀は一方的に安藤と璃子に言い放つと、麗奈の後ろに控えているラウムのもとに駆け出す。