追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
前回までのあらすじ
清峰屋敷に向かう途中にあった、桜丸病院を襲っていた悪魔たちを、国防軍と協力して撃退した幸紀と星霊隊のメンバーたち。
女医の璃子と、元アンドロイドの少女である麗奈のふたりを新たにメンバーに加えた一行は、清峰屋敷への旅を続けるのだった。
6月19日 午前9:00 福富(ふくとみ)県 羽沼(はぬま)市 羽沼留置場
幸紀たちが病院で戦っていた頃、この留置場の中は全くと言っていいほど音がしていなかった。ここの留置場に設けられた10個の部屋のうち、人間が入っているのは2つだけであり、そのうちのひとつに留置されていた女性は、たった今、目を覚ましたからである。
「ふぁあ…」
目を覚ました彼女は薄暗い部屋のなかで布団からゆっくりと身を起こすと、立ち上がって伸びをする。露出度の高い黒のノースリーブは、彼女の魅惑的なボディラインを際立たせた。
伸びを終えた彼女は、濃紺の短髪を軽く払う。そして、どことなく周囲の違和感を感じ取ると、目の前の鉄格子に近づき、廊下を見回した。
「あ、おはようございますぅ~、お隣さん~」
そんな彼女の耳に、正面から馴れ馴れしい女性の声が聞こえてくる。見ると、真っ白で長い髪に、メガネとスーツを身につけた若い女性が、通路を挟んで向かい側の鉄格子の向こうにいた。
「…」
青い髪の女性は警戒して白髪の女性を睨む。睨まれた白髪の女性は、ニコニコしながら話し始めた。
「怖い顔しないでくださいよ~。私、透破(すわ)江美(えみ)っていいます~。普段は近所の商社でセールスマンやってるんですけどぉ、もう仕事が嫌になって食い逃げしたら捕まっちゃって~。昨日の深夜からここに入れられちゃってまぁ大変って感じです~」
「そう。おしゃべりがお上手なのね、おばあさん」
「おばあさんて、いやまぁ、よくおばちゃんとは言われますよ?この髪色じゃ年寄り扱いされちゃいますし~。でも私まだまだれっきとした20代ですから~、おばあちゃんって呼ばれるのは心外です~」
「そうなの。じゃあまずは長話をやめることからおすすめするわ。話が長いと年寄りみたいよ」
江美の言葉に対し、青髪の女性はそっけなく、かつ容赦無く言うと、暇そうに布団に横になろうと布団を整理し始める。江美はそれにも眉を少し上げるだけですぐに微笑むと、青髪の女性に話しかけた。
「お姉さんの顔、見たことありますよ~」
「そう。まぁよくいる美人顔よね」
「いいえ~、新聞で見たんです。もしかして防衛長官を殺して大量の現金と宝石を奪った、星海(ほしうみ)水咲(みさき)さんじゃないですか~?」
江美は微笑みのまま青髪の女性に尋ねる。青髪の女性は、横になろうとしていた動きを止め、江美の方に向き直ると、江美を睨んだ。
「…そうだって言ったらどうするの?」
「別にどうにもしませんよ~。あ、でも、私は殺さないでおいてくださいね。お金も宝石も持ってませんから」
「…あっそう」
「にしても実物の水咲さんて綺麗ねぇ。新聞じゃあ何人も男の人を騙してお金を稼いできたって書いてたけど、これは騙される男の人もたくさんいるでしょうねぇ」
「くだらないおしゃべりは嫌いよ。用がないなら黙ってて。警官も来ないなら、私は寝るから」
「ならずっと寝続けることになっちゃいますよ?」
おっとりとした江美の口調の中に、急に緊張が混じる。水咲は微笑み続ける江美の言葉の真意が理解できず、尋ねた。
「…どういう意味?」
「そのままですよ~。今日は警官は来ないです」
「どうして言い切れるの」
「簡単ですよ。今、この国の各地で悪魔が出現していますから~。今頃ここのお巡りさんたちも、みんな殺されちゃったか、逃げたか。どっちでしょうねぇ」
まるで他人事かのように、世間話のように微笑みながら言い切る江美に対し、水咲は若干の不安を覚えたが、すぐに余裕の表情を取り繕うと、ズボンの後ろポケットに手を伸ばした。
「そう。じゃあ、これの出番は案外早かったわね」
水咲はそう言うとズボンのポケットから何かを見せる、江美が見ると、それは鉄格子の鍵だった。
「わ。さすが~。お得意のハニートラップですか~?」
「さぁ。ただおまわりさんと仲良くおしゃべりしてる間に拝借しただけよ」
江美の言葉を適当に流しながら、水咲は自分を閉じ込めている鉄格子の鍵を外し、通路に出ると、悠々と歩いていくのだった。
「あれ?私は置いてかれるんですか~?お~い!」
江美は鉄格子の内側から水咲の背中に声をかける。しかし、水咲はそれを無視して歩いていく。江美は眉を上げると、ため息をつき、右手に霊力を集中させるのだった。
地下にある留置場から階段をのぼり、地上の警察署にやってきた水咲は、その内部がひどく荒らされているのを目の当たりにした。警官たちの死体が転がり、デスクの書類はひっくり返されている。
水咲は思わず息を飲むと、霊力を右手に集中させ、自分の武器である鞭を発現させた。
「わー、思ったよりもひどいことになってますねぇ」
「!」
背後から声が聞こえると、水咲は慌てて振り向き武器を構える。しかし、そこにいたのはニコニコと微笑む江美だった。
「あんた、どうやって鉄格子から抜け出したの…!?」
「それよりも~、ちょっとやばいかもですよ~」
江美は水咲の質問を気にせず、水咲の背後を指差す。水咲が振り向くと、警察署の扉を蹴破って悪魔が2体、姿を現した。
水咲は鞭を構えながら江美に尋ねた。
「…あんた、戦えるわよね?」
「まぁ、人並みには」
「そう。なら、押し通るわよ」
水咲はそう言うと、正面から悪魔に向けて走り出す。江美もそんな水咲の隣を走り始めた。