追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
「そこのバス、あなたの?」
「まぁそうだな」
青髪の女性が息を切らしながら尋ねる。幸紀がそっけなく頷くと、白髪の女性が話し始めた。
「私たち、悪魔から逃げて来たんです~。まだ結構な数の悪魔があっちにいて、逃げたいんですよ~」
「お願い…私たちを乗せてちょうだい…怖いの…!殺される…!助けて…!」
青髪の女性はそう言って涙ぐみながら幸紀の胸元に顔をうずめ、幸紀に体を密着させる。幸紀は冷ややかな表情でその女性を見下ろしたが、小さくため息を吐いて指示を出した。
「お前たち、名前は?」
「あ、
「…
「そうか。一度バスに乗れ、悪魔は俺が片付ける」
「でも、私、バスなんか使えないわ!それに悪魔はすごい数なのよ、お兄さんが殺されちゃうわ!」
「ナメるな、言う通りにしろ」
幸紀を心配する水咲に対し、幸紀は冷たく言う。そんな幸紀の様子を見た江美は、水咲の背中を押してバスへと進んだ。
「じゃあ、お願いしますね~」
「無事でいて、お兄さん…」
江美に押されながら、水咲は小さく言うと、2人はバスに乗り込んで行く。幸紀はそんな彼女たちを背中で見送ると、霊力を右手に集中させ、刀を発現させた。
そのうえで目を閉じ、魔力の流れに意識を集中させ、悪魔の存在を調べ始めた。
(…なるほど、確かに数100メートル離れたところに悪魔の大群が…)
幸紀がその気配を感じ取ったその時、それを塗り替えるように、強力なひとつの悪魔の気配が現れると、悪魔の大群を蹴散らす。幸紀は遠く離れたところで起きているこの現象に、思わず身構えた。
(…なんだ?悪魔軍が…一気に消し飛ばされた…?俺と同等の実力者がいるというのか?)
「あの、幸紀さん」
幸紀が内心思っていると、幸紀の横から声がする。幸紀が振り向くと、結依がそこに立っており、不安そうに幸紀を見上げていた。
「結依か、なんだ」
「私じゃなくて、サリーさんからの伝言なんですけど…『ヤバそうな気配がする』って…特級?クラスの悪魔が近くにいるんじゃないかって…」
「…サリーも感じたか…なら、間違いないだろうな」
「あの、幸紀さん、特級悪魔って…?」
「強い悪魔という認識でいい。詳しいことは後でサリーに聞け」
不安そうに尋ねる結依に対して、幸紀は短く言う。そんな幸紀たちの空気を無視して、逆方向から明るい弥生の声が聞こえてきた。
「幸紀くん!給油始めたよ!あと10分くらいかかりそうだって!日菜子さんが!」
「わかった。弥生、結依、バスの中に入っててくれ、中に客がいる。相手をしててくれ」
「お客さん!?わかった!行こ、結依ちゃん!」
「あ、はい!」
弥生に言われると、結依と弥生はバスの中に乗り込む。一方の幸紀は、1人その場に留まり、再び魔力に集中して気配を探る。悪魔の大群を蹴散らした、その強大な悪魔の気配は、その場に留まっていた。
(…そもそも同じ悪魔同士で戦っているのがおかしくはあるが、こいつは…何をしているんだ…?)
幸紀の疑問をよそに、強大な悪魔の気配は、ある程度周囲を右往左往すると、その場から幸紀たちとは逆方向へ離れていった。
(あの動作…何かを探していたのか…?それにあの気配…どこかで感じたような…)
「幸紀さん!」
幸紀が考えていると、その後ろから日菜子の声が聞こえる。幸紀が振り向くと、日菜子と四葉がそこにいた。
「給油終わりました!」
「食料も数日分調達しました!バスにも運び込めてますよ!」
「…もう終わったか。ならば行こう」
幸紀は日菜子と四葉の報告を受けると、バスへと乗り込んでいく。
幸紀に続いてバスに乗り込んだ日菜子と四葉は、バスの最後部座席に見慣れない2人が座っており、メンバーたちと会話しているのに気がついた。
「あれ?誰だろう、あの2人?」
「すみません!奥のお2人!お名前を教えていただけませんか!」
日菜子が疑問に思うと、四葉が声を張って尋ねる。水咲と江美は会話を止めて答えた。
「
「
「星海?うーん…?」
江美と水咲が名乗ると、四葉は何かを考え始める。それをよそに、幸紀は車のエンジンを始動させると、バスを走らせ始めた。
「わぁっとと!」
四葉が車の振動によろめくと、日菜子が四葉を支える。ある程度揺れがおさまると、水咲は運転席にいる幸紀のもとに歩み寄り、幸紀に話しかけた。
「お兄さん、無事でよかった。悪魔に襲われなかった?怪我はない?」
「悪魔は来なかった。だが、近くにはいた。だからすぐにこの場を離れる」
「あぁ、そうなの。ごめんなさい、私のせいで…」
「どのみち旅の途中だった。気にするな」
「ありがとう…優しくて素敵ね、あなた」
水咲は甘い声と表情を作って幸紀に言うが、幸紀は運転に集中して水咲に見向きもしない。四葉はそんな水咲の横顔を見て首を傾げていた。
「んん?この人、どこかで見たような…?」
「水咲さん、ここは揺れますから、後ろで江美さんとも一緒にお話ししましょう」
「えぇいいわ」
四葉の考えをよそに、日菜子は水咲を連れて後部座席に歩いていく。日菜子は江美の座っているところまで歩いていくと、雑談を始めたが、四葉はその様子を無言で見つめていた。
「…どうしましたか、四葉さん…」
四葉が立っている横の座席から、ぬるっと顔を出してきた明宵が四葉に尋ねる。四葉は少し驚くと、状況を話し始めた。
「あぁ、冥綺さん。さっきこのバスに乗り込んだ2人がいるじゃないですか。そのうちの1人に見覚えがある気がして…」
「…私はないですね…でも、2人とも尋常ではない霊力の気配を感じます…」
「うーん…なんでしょうこの違和感。すごくまずいような…」
四葉がそんなことを呟きながら明宵の隣に座るのをよそに、後部座席では日菜子は江美や水咲にこれまでの旅の話をしていた。
「へぇ、そんなにやっつけてきたの~。最近の若い子はすごいのね~」
「江美さんも若く見えますけど。でも、それもこれもみんなで一緒に協力してきたおかげなんですよ!」
「でも偶然こんなに霊力の強い子たちが集まるなんてツイてるのねぇ~」
「いいえ!私たち、『星霊隊』っていう悪魔と戦う部隊なんです!今は霊力の強い人たちを集めながら、清峰侯爵のお屋敷を目指して旅をしているところなんですよ!」
「清峰?清峰早苗?」
「はい!幸紀さんが侯爵の部下で、メンバー集めを命令されたんですって」
「へー」
江美は日菜子の話に食いついて尋ねる。その間、水咲はずっと背後の窓や周囲を見回しており、日菜子はそんな水咲の様子に気がついた。
「水咲さん?どうしたんです、ずっとキョロキョロして」
「えっ?あぁ、いやなんでもないわよ、全然」
日菜子の前で、水咲は髪をいじりながら、やや上ずった声で答える。水咲は相変わらず周囲を見回し続けており、日菜子にはそんな水咲が不審に思えた。
やがて、水咲が背後の窓を見ると、水咲の動きが止まった。
ほとんど同時に、運転席でも幸紀が何かの強烈な気配に気がつき、背筋を伸ばすと、緊張感漂う声で璃子を呼んだ。
「璃子、運転代われ」
「え?了解」
(コーキ!奴だよ!特級の悪魔が来てる!)
(そうらしい…!)
幸紀と璃子が運転席を入れ替わっていると、結依の心にいるサリーが魔力で幸紀の脳に直接語りかけてくる。幸紀はすぐさま霊力を右手に集めて刀を発現させると、最後尾の座席に走り始めた。