追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち-   作:晴本吉陽

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第7話(4)隠し事をする2人

(コーキ!奴だよ!特級の悪魔が来てる!)

 

(そうらしい…!)

 

 幸紀と璃子が運転席を入れ替わっていると、結依の心にいるサリーが魔力で幸紀の脳に直接語りかけてくる。幸紀はすぐさま霊力を右手に集めて刀を発現させると、最後尾の座席に走り始めた。

 

「っ、い、いやあああ!!!」

 

 その瞬間、後部座席の窓が割れる音が響くと同時に、水咲の悲鳴が聞こえてくる。水咲は窓から離れようとしたが、その瞬間、割れたところから黒い髪の毛のようなものが伸びてくると、水咲の体を縛り上げた。

 

「助けてぇえ!!助けてぇええ!!」

 

「水咲さん!」

 

 水咲の絶叫を聞きながら、日菜子は霊力で自分の武器を装備するが、それも虚しく、水咲の体は黒い髪の毛によって窓の外に引きずり出される。水咲の足を掴んでいた江美も、同時に巻き込まれ、水咲と江美の2人は道路の真ん中に投げ出された。

 

「水咲さん!江美さん!!」

 

 日菜子は遠ざかっていく2人の背中に声をかける。水咲と江美の前には、人間よりもひと回りほど大きな人型の生物が立っており、足まで覆った白い服に、黒い長髪で顔を隠していた。

 

「なに、あの怪物…!」

 

「ホラー映画の女幽霊みてぇだ…」

 

 日菜子と晴夏が様子を見て思わず呟く。幸紀は同時に、その不気味な悪魔の正体に気がついていた。

 

(あいつはイリーノス…!確かに特級の悪魔だ、コイツらでは勝てん…!だがなぜこんなところに…)

 

 幸紀の脳内には疑問がよぎったが、構わず幸紀は破られた窓のそばへ駆けると、そこにいた日菜子に命令した。

 

「日菜子、ここを離れろ。後で追いつく」

 

「えぇっ!?」

 

 幸紀は言うだけ言うと、破られた窓からバスを飛び降り、かなり離れてしまった水咲と江美のもとへと走り始めた。

 

 

 その頃、道路の真ん中に放り出された水咲と江美は、目の前にいる巨大な悪魔を見上げていた。

 

「う、嘘でしょ…こんなところまで追ってくるなんて…!!」

 

 水咲は右手に霊力を集めて武器である鞭を発現させるが、尻をついた状態で、怯えながら後ずさっていた。

 

「ア…アァァ…ッ!!!」

 

「ひぃっ!!」

 

 悪魔は不気味な声をあげると、地面に垂れていた前髪を振り上げる。危険を感じ取った水咲は、慌てて立ち上がると、悪魔に背を向け、近くの建物にへと走り出した。

 

「あ、水咲さーん」

 

 水咲のそんな様子を見ていた江美のもとに、束になった悪魔の黒髪が槍のように迫ってくる。しかし、江美はあっさりとそれを回避すると、スーツの胸ポケットから何かを取り出す。

 そんな江美を真横から殴るように、髪の毛の束がやってくる。しかし、江美はその場で大きく後ろへ宙返りをすると、取り出したそれを地面に叩きつけた。

 

「ドロン…」

 

 江美が投げたものは煙幕だった。悪魔の周りに灰色の煙が漂うと、江美はその隙に水咲が逃げた建物へ走っていった。

 

 一方の悪魔も髪の毛を地面に叩きつけて風を起こし、煙を吹き飛ばして視界を確保する。誰もいないのを確認すると水咲が逃げた建物の中へ駆け出した。

 

 少し遅れて、幸紀がやってくる。幸紀が見たのは、ちょうど建物の中に入った悪魔の後ろ姿だった。

 

(無差別に攻撃しているわけじゃなさそうだ…明確に水咲を狙って追跡している…なぜだ?)

 

 幸紀は脳裏によぎる疑問を抱えたまま、建物の中に走る。

 建物の1階に来た幸紀は、さっそく気配を探る。悪魔の気配は、幸紀の頭上から感じられた。

 

(上か)

 

 幸紀はそう判断すると、同じ部屋の奥に見えた階段へ駆け出し、駆け上がって2階にやってくる。

 幸紀は周囲を見回すと、目を閉じて悪魔の気配を探り始めた。

 

(奴は…)

 

 幸紀がそうしていたその瞬間だった。

 

「もらった」

 

「!」

 

 幸紀の背後から低い声が聞こえてきたかと思うと、幸紀が振り向く間もなく、何者かが細いワイヤーのようなもので幸紀の首を背後から締め上げる。

 

(何者だ…?完全に気配が消えていた…!)

 

 幸紀は首を絞められながらも、冷静に考える。ワイヤーを通して背後に自分を引く強い力を感じたが、幸紀は自分の首に食い込んだワイヤーを無理矢理握りしめると、それを引き剥がす勢いで、自分の首を絞めているその人間を投げ飛ばした。

 

「!」

 

 幸紀は自分の正面に倒れた、その首を絞めてきた相手を見下ろす。紺色のスーツ姿に、白い長髪の女性、江美だった。

 

「あいててて…あら、幸紀さんだったの、ごめんなさいねぇ~私ってば慌てん坊だから…っ!!」

 

 愛想笑いをしながら謝る江美の首を、幸紀は無理矢理掴み上げると片手で江美の首を絞めながら、江美の体を壁に叩きつけた。

 

「そんな言い訳が通用すると思ったか?」

 

「がぁっ…!ご、ごめんなさい、本当にわざとじゃないのよ、そんなに怒らないで…」

 

「それじゃない。貴様、何を隠している。俺が一切の気配を感じられない人間などあり得ない、特殊な訓練を受けた人間のはずだ。それがイリーノスと俺を間違えるとは思えん。何者だ、お前は」

 

 幸紀の問いかけに対し、江美は幸紀の手を剥がそうとするのを止める。そして、江美から今までの陽気な表情が消えると、江美は無表情にも近い表情で幸紀を見下ろして答え始めた。

 

「…お前こそ何者だ、東雲幸紀…あの悪魔のことは一部を除いて誰も知らないはず、それの固有名を言い当てた…」

 

「…」

 

「お前は悪魔軍のスパイだ…!どこかで本当の東雲幸紀と入れ替わって…ぐぅうっ!!」

 

 江美の言葉に、幸紀は江美の首を絞める力を強める。江美の抵抗が激しくなるのを、冷酷な目で見ながら、幸紀は尋ねた。

 

「貴様はどこかの組織の人間だろう。このままならあと20秒で貴様は死ぬ。任務も達成できないままな。死にたくなければ全てを言え。10…9…」

 

 幸紀はカウントダウンを始める。江美は遠のく意識の中で様々な考えを巡らせていた。

 

「5…4…!」

 

「…皇牙衆(こうがしゅう)…!」

 

 江美は声を絞り出す。幸紀はその言葉を聞くと、手を離して江美を解放した。

 幸紀の前に跪いて、江美は咳をする。幸紀はそれを見下ろしながら江美の発した言葉を反芻し、その意味を思い出した。

 

「皇牙衆…聞いたことがある…何百年も前からある女王陛下直属の諜報機関、忍者部隊と…まさか実在したとはな。何をしていた」

 

「…防衛長官殺害事件を追っていた…世間では星海水咲の犯行になっているが、我々はこの事件に悪魔が関与している可能性が高いと判断し、独自に調査と星海の護衛をおこなっていた…」

 

 幸紀の問いに、江美は淡々と答える。幸紀はそれを聞くと、手に握っていた刀の切先を江美の首元に突きつけた。

 

「なぜ俺の正体がわかった」

 

「我々皇牙衆の忍びは魔力を感知できる…ひと目見た時から貴様の魔力が尋常ではないのはわかっていた…」

 

 江美はそう言うと、ゆっくりと幸紀を見上げ、睨んだ。

 

「秘密を話すような忍びに生きる価値はない…貴様は悪魔なのだろう、早く私を斬れ」

 

「偉そうに指図をするな。勝ったのは俺で、言うことを聞くのは貴様の方だ」

 

 幸紀はそう言うと、しゃがみ込んで江美の頬を両手で掴み上げ、瞳を覗き込む。江美は不服そうだったが、幸紀は高圧的に話し始めた。

 

「貴様をいつ殺すかは俺の自由だ。今の俺は一体でも多く悪魔を屠るための『駒』が欲しい。お前もその『駒』になれ」

 

「…強引な男…やはり危険人物…でもなぜ悪魔と敵対を…」

 

「貴様に話す義理はない。今お前が話すべきは俺に従うかどうか、それだけだ」

 

 幸紀はそう言って改めて刀を突きつける。江美は俯いて考えると、すぐに幸紀を睨んで言葉を返した。

 

「…従う…任務のため…でももし貴様が我らに敵対することがあればその時は…!」

 

「殺す?ふん、好きにしろ、できるものならな」

 

 幸紀は江美に対して言い放つと、江美の頬を掴んでいた手を離す。江美がよろめいたその瞬間、建物の上の方から水咲の悲鳴が聞こえてきた。

 

「助けてぇえええ!!いやあああ!!」

 

「…行くぞ」

 

 幸紀は短くそう言うと、刀を握り直して階段を登り始める。江美は少し遅れて幸紀の後に続いたが、すぐに幸紀の隣を走り始めた。

 

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