追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち-   作:晴本吉陽

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第7話(5)悪魔に心がないならば

その頃 屋上

 

「来るなぁぁあっ!!来るなぁぁああっ!!」

 

 建物の屋上、水咲は半狂乱になって叫びながら、自分の武器である鞭を目の前の悪魔に向けて振るう。鞭からは小さな水の波が放たれ、悪魔に対して衝突していたが、悪魔は自分の髪の毛を自在に操作してその波を全て打ち消す。

 

「ウ…ウゥゥ…!!」

 

「やだ…!!いやだ!!死にたくない!!」

 

 うめき声を上げながら迫ってくる悪魔を拒絶するように、水咲は鞭を振るいながら後ろに下がっていくが、すぐに自分の背中が屋上の手すりにぶつかったことに気がついた。

 

「!」

 

 水咲が逃げ場を失ったことに気がつき、動きを止めたその一瞬、悪魔の髪の毛が一気に水咲に近づくと、髪の毛は水咲の胴体を一気に縛り上げ、持ち上げた。

 

「きゃあああ!!?」

 

 水咲が悲鳴を上げるのをよそに、他にもある髪の毛の束が、水咲の首と足首を縛り上げる。そのまま水咲は悪魔の目の前まで引っ張られ始めた。

 水咲は必死に身をよじって抜け出そうとするが効果はない。悪魔は、水咲を目の前に連れてくると、髪の毛で隠れたその瞳で、水咲を睨み、声を発した。

 

「お前さえ…お前さえいなければ…!!」

 

「ち、違うの…!私は…!」

 

「うるさい!!!死ね!!!」

 

 言い訳をしようとする水咲を、悪魔は一喝すると、髪の毛の束を鋭く尖らせる。水咲にもそれが見えると、水咲は目を閉じた。

 

「いやぁっ…!!」

 

 水咲が貫かれるのを覚悟したその瞬間、黒い陰が水咲と悪魔の間を駆け抜ける。次の瞬間には、水咲を縛り上げていた髪の毛は全て斬り捨てられており、水咲を貫こうとした髪の毛も斬り捨てられ、水咲は床に倒れた。

 

「…!?」

 

 水咲は驚きながら顔を上げる。彼女の目の前には、黒いロングコートをたなびかせた幸紀が、悪魔の正面に堂々と立っていた。

 

「…貴様ァアア!!」

 

 悪魔は幸紀に対して声を張り上げる。その間に、江美は水咲に駆け寄り、介抱をしていた。

 

「どけェエエ!!そこの女を殺せれば用はない!!その女さえ死ねば!!私から全てを奪ったその女さえ死ねば!!!」

 

「ち、違うわよ!あれは、本当に…!!」

 

「黙れェエエ!!」

 

 水咲の反論に対し、悪魔は声を上げながら幸紀ごと水咲を貫こうと髪の毛を槍のようにして突く。しかし、幸紀はあっさりとそれを弾き返した。

 

「江美、こいつは俺がやる」

 

「は~い。じゃ、水咲さん、逃げましょうねぇ~」

 

 幸紀は背中越しに江美に言うと、江美は水咲を連れて階段の出入り口へ走り出す。当然悪魔は江美ごと水咲を殺そうとしたが、幸紀がその間に入り、髪の毛を斬ると、江美と水咲は建物の中に転がり込み、扉を閉めた。

 

 

 

 屋上で悪魔と2人きりになった幸紀は、刀を構えながら話しかけた。

 

「随分と暴れているな、イリーノス。何があった」

 

「コーキ!!そこをどけ!!その女を!私は必ず殺す!!邪魔をするならそいつらもだ!!」

 

 イリーノスはそう言うと、無数にある鋭い髪の毛の束で幸紀を貫こうと連打する。しかし、幸紀はその全てを斬り捨てた。

 

「私は彼を愛していた!!それを奪った奴は誰であろうと許さない!!邪魔をする奴らも皆殺しだ!!!」

 

 イリーノスが声を上げると、晴れていた青空が途端に赤くなる。幸紀はイリーノスが魔力を意図的に暴走させていることに気がついた。

 

「愛した男…人間のあの防衛長官か?」

 

「そうだ!!」

 

 幸紀はイリーノスの言葉を聞くと、俯きながら無言で首を横に振り、そして顔を上げて声を発した。

 

「悪魔が他者を愛することなどない。貴様がやっていることは人間の行動を上辺だけ真似たものにすぎない」

 

「ならばお前はどうなのだ!!他の女を庇って一人で私と戦っている!!これでもお前は他者を愛していないと言うのか!!悪魔は他者を愛さないと言うのか!!」

 

「奴らは俺の復讐の駒でしかない。道具には相応の手入れをするだけだ。なぜなら、俺は悪魔だからな」

 

 幸紀は眉ひとつ動かさずに、冷静に言い放つ。イリーノスは、天を仰いで声を上げると、無数の髪の毛を幸紀に向けて突っ込ませた。

 

「人間の血が混ざった半端者が!!偉そうに悪魔を語るなぁあああっ!!!」

 

 イリーノスの叫びがあたりに響く。しかし、幸紀は迫ってくる髪の毛を冷静に注視すると、瞬間、髪の毛の間をすり抜け、目にも止まらない速さでイリーノスの懐に潜り込む。

 

「『断影(だんえい)』」

 

 幸紀は大きく息を吸うと、片手で握っていた日本刀を両手で握り直し、次の瞬間、刀を大きく振り抜きながら、イリーノスの胴を切り裂いて、イリーノスの背後に立った。

 

「…ア…アァ…」

 

 イリーノスは刀で斬られた部分を手で抑える。しかし、それも虚しく、徐々にイリーノスの体は切られた部分から黒い煙へと変わり始めた。

 

 幸紀は背中越しにそんなイリーノスを見つつ、刀を鞘の中に納めると目を閉じながら俯いた。

 

「半端者、か…ふん、お互い様だな。人の心を持った悪魔が、悪魔にも人間にもなれない怪物に殺される…皮肉だな」

 

 幸紀はそう呟くと、振り向く。イリーノスは膝をつき、静かに語り始めた。

 

「…いや…コーキ…これで良かった…悪魔は心など持ってはいけない…悪魔の本質は破壊と支配…人間の美徳である愛と思いやりとは真逆…悪魔に…人の心は優しすぎる…」

 

 イリーノスは弱々しく声を発する。イリーノスの体がどんどんと黒い煙に変化していくのを、幸紀は黙って見守っていた。

 

「ありがとう…コーキ…私という怪物を終わらせてくれて…お前には…人間の優しさがある…だから強いのだな…あの女に…逆恨みをして悪かったと伝えてくれ…」

 

 イリーノスがそう言葉を発すると、次の瞬間、彼女の体は黒い煙になり、風に吹かれて消える。赤くなっていた空も、元の青さを取り戻した。

 

(俺は悪魔だ…人の心など、優しさなど、俺にはない…だから…静かに死ねイリーノス…あの世で、愛した男から、本当の優しさを教えてもらうがいい)

 

 幸紀は空に昇っていく黒い煙を眺め、そして静かに目を閉じるのだった。

 

 そんな幸紀の正面から、怯えた様子の水咲と江美が姿を現した。

 

 水咲は江美の横で、何度も幸紀の周囲を警戒する。幸紀が目を開け、そんな水咲を睨むと、水咲は小さく両手を上げた。

 

「な、なに?」

 

「…悪魔は片付けた」

 

「そ、そうなの。すごいわね、お兄さん…!私、もう怖くて…」

 

 愛想笑いをしながら幸紀に近づく水咲に対し、幸紀は刀を突きつける。水咲は目を見開いた。

 

「えっ…」

 

「この悪魔はお前に謝っていた。お前を殺そうとしていたのに、だ。何があったんだ。もし隠し事をするなら容赦はせんぞ」

 

 幸紀は水咲に刀を突きつけながら脅す。

 

 水咲は幸紀の刀を見ると、諦めたようにため息を吐き、ズボンのポケットから指輪を取り出した。

 

「…それは?」

 

「…防衛長官が、あの悪魔に贈ろうとしていた婚約指輪よ」

 

 水咲は愛想笑いを消し、媚びるような態度も無くして話す。水咲はその指輪を握り直した。

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