追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
体育館と本校舎を繋ぐ渡り廊下を渡り、すみれ達3人は本校舎の下駄箱を通り抜け、校庭を正面にして立つ。
3人が見ると、確かに青い肌の悪魔が3体、軍刀のような刃物を持って周囲を見回していた。
「あいつらどっから入ったワケ?」
「それは倒してから確かめよう」
望の疑問に、すみれはひと言そう返すと、右手に霊力を集中させる。そして次の瞬間、すみれの右手には、長柄の、槍がついた大斧が握られていた。
「ふふふ…仕方ない、我が左手に込められた力を解き放つとしよう…」
「いちいちなんか言わないと戦えないの?」
すみれが武器を握ったのに呼応するように、紫黄里と望も自分の手に霊力を集中させる。次の瞬間、紫黄里の左手には弓が、望の右手には、望の身長を越す長い棒がそれぞれ現れた。
「よし…行くぞ…!!」
すみれは紫黄里と望も臨戦態勢に入ったのを見て、目の前の悪魔達へ駆け出す。悪魔達はすみれに気がつくと、それぞれ左右と中央へ散らばった。
「せいやぁああ!!!」
すみれは裂帛の気合いを込めて正面の悪魔に斧を振り下ろす。しかし、その悪魔はあっさりと後ろに下がってそれをかわす。すみれは3方向から悪魔たちに囲まれる形になった。
「ヤレェエ!!」
「させない」
「外さん!」
すみれの左右にいた悪魔たちが声を上げ、持っていた軍刀を振り上げる。瞬間、左から迫ってきた悪魔の足元からは鋭い岩が生えてきてすみれの身を守ると、右から迫ってきた悪魔の体は麻痺して動きが止まった。
「ナ、ナニィ!」
悪魔が動揺したその隙に、すみれは自分の大斧を構え直すと、麻痺した悪魔を横から斧を振るって首元を切り裂き、岩で身動きが取れなくなった悪魔に関しては、その岩ごと一気に両断した。
「すみれ!」
望がすみれに声をかける。すみれが殺気を感じると、残っていたもう1体の悪魔が、すみれに斬りかかっていた。
「!」
すみれは回避しようとしたが、間に合わず、腕をわずかに斬られる。しかし、すぐに斧を振るうと、悪魔の首を横から薙ぎ払い、黒い煙に変えた。
「…よし、これで、敵はいないな」
すみれは周囲を見回しながら言う。望と紫黄里が小さく頷くとおり、校庭に敵はもはやおらず、見えるのは校門の前や塀の周りを塞ぐ10メートル以上の大岩だけだった。
「みんな~!」
戦いを終えて武器を光に変えるすみれたちの背後から、高く可愛らしい声が聞こえてくる。3人が振り向くと、ピンクの髪をツインテールにした、小柄で可愛らしい制服の女子が駆けてきていた。
「心愛(ここあ)」
すみれはやってきた女子生徒の名前を呼ぶ。呼ばれた女子生徒、心愛は、すみれたちの姿を見回した。
「戦いに行ったってみんなから聞いて、慌てて来たんだ!大丈夫?怪我はない!?」
心愛は明るく高い声で3人に尋ねるうち、すみれの腕に斬られた傷があることに気がついた。
「あ!すみれちゃん!!怪我してるよ!!」
「む…かすり傷だ、問題は」
「ダメ!動かないでね!」
すみれを一方的に制し、心愛は右手に霊力を集中させる。すると、彼女の手に、スタンド付きのマイクが現れた。
そうして心愛は小さく咳払いをすると、マイクに口を近づけた。
「らーらーら」
正確に音程が取られた声で、心愛が歌い始める。見る見るうちにすみれの傷が消えていくと、心愛は歌を止め、すみれは頭を下げた。
「ありがとう、心愛。これでまた戦える」
「ううん!!いいんだよ!困った時はお互い様だよ!それより~…」
心愛はすみれに口を近づけ、小声で尋ね始めた。
「前に言ったゲリラライブ、やってもいい?」
「あぁ。みんなに事前に連絡はしてある。お願いするよ」
「やった!」
すみれの言葉に、心愛は小さく跳ねて喜ぶ。すみれは紫黄里の方を向いた。
「紫黄里、心愛を手伝ってあげてくれないか」
「ふふふ…いいだろう…!混迷の世にこそ光あるべし!こんな時だからこそ、砂糖のように甘い歌声で、皆の心を救うのだ!心愛よ!」
「うん!まっかせて!みんなを笑顔をするのが、アイドルの仕事だもんね!」
紫黄里に言われ、心愛は満面の笑みで答える。そんな中、望はひとりで何も言わずに体育館の方へと、武器である長い棒で体を支えながら歩き始めた。
「望、どこへ?」
「…悪魔たちがどこからやってきたのか調べに。ライブだかコンサートだか知らないけど、私は手伝えないから」
望は緑の髪で隠れた片目を他の3人に向けて言うと、右脚を引きずりながら歩き始める。そんな望を見て、心愛は望に声をかけた。
「望ちゃん!足への霊力が無くなっちゃったんじゃ…!今歌うから」
「やめてよ。意味無いの、知ってるでしょ。どうせ時間が経ったらまた霊力で誤魔化せるから」
「でも」
「ほっといて。歌の練習でもしてなよ。見回りは私がやっとくから」
望は冷たく突き放すように心愛に言うと、足を引きずりながらその場を後にする。心愛は小さくなっていく望の背中を、寂しそうに見つめていた。
「…」
「だ、大丈夫であろう!望ちゃんは、その…前に悪魔に怪我をさせられてるから、慎重になってるだけ、なんだと思うよ」
そんな心愛を、紫黄里が身振り手振りをしながら励ます。先ほどまでの芝居がかった口調は、途中からなくなっていたが、心愛は気にせず、明るい表情に戻った。
「…うん!そうだね!じゃあ、そんな望ちゃんも笑顔にできるくらいの、最高のステージにしよう!紫黄里ちゃん!頑張ろうね!」
「任せよ!黒き翼とシュガーハートの歌声で、世界を笑顔で包むのだ!ふははは!」
心愛に言われ、紫黄里は再び芝居がかった口調で答えると、心愛と紫黄里は高笑いを上げる。そんな2人の様子を、すみれは少し下がったところから見守り、微笑んでいた。