追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち-   作:晴本吉陽

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第8話(3)シュガーハート・ライブ

3時間後 19:00 白鷺女子高校 体育館

 

「食料を配ります。こちらに並んでください!」

 

 体育館の奥にある舞台の近くで、すみれが声を上げる。すみれの横には、長机と、その上には大量の缶詰や水などの食料が置かれており、数人の女子生徒が、列に並んだ人々にその食料を配布していた。

 

「人数分の食料は十分にありますので、急がず指示に従ってください」

 

 すみれは指示を出すと、次は舞台の上で機材のセッティングを行なっている心愛と紫黄里に声をかけた。

 

「心愛、紫黄里、舞台の方は?」

 

「時は至れり…!すべての準備は整った!」

 

「食料の配布はどうですか?」

 

「全員分終わりました!」

 

 紫黄里と食料を配布する係の生徒が返事をすると、すみれは頷き、体育館内で座りながら食事をしている避難者たちに対して声を張った。

 

「みなさん!生徒会です!事前に連絡をしました通り、これから、『シュガーハート・アタック』の、市子心愛さんによる特別ライブをおこないます!照明が暗くなりますが、食事をしながらお楽しみください!それでは、照明を落とします!」

 

 すみれは声を張ると、舞台裏に控えていた生徒に指示を出す。指示を受けた生徒たちは、徐々に体育館の照明を暗くし、少し先も見えないほどに照明が暗くなった。

 

 真っ暗になった体育館で、突如として舞台だけが明るくなる。そうして明るい曲が流れてくると、スポットライトを浴びながら、体育館の舞台裏から、心愛がマイクを片手に明るく現れた。

 

「やっほー!!みんな!!みんなの心を甘くとろかす!シュガーハート・アタックの、心愛だよー!!」

 

 曲が止まり、舞台の中央に立った心愛が声を上げながら、客席の人々に向けて大きく手を振る。しかし、客席の人々は、ただ乾いた拍手の音を響かせるだけだった。

 そんな様子に、心愛は少し困ったように微笑むと、すぐに明るい声で話し始めた。

 

「みんなー!もっと元気出してよー!確かに、こんな状況でライブって、みんなもおかしいと思うよね?でも全然違うよ!こんなときだからこそ!明るく前を向こう!今日は苦しくても、明日はきっと大丈夫!みんなで一緒に前を向けばね!だから、心愛の歌を聞いて、みんなで一緒に前を向こう!辛いことも苦しいことも、今だけは忘れて!一緒にみんなで盛り上がろう!」

 

 心愛は客席の人々に語りかける。客席の人々は返事をしなかったが、心愛は構わず、笑顔のまま話を続けた。

 

「それじゃあ、さっそく1曲目!あ、これはねぇ、心愛にとって思い出の曲なんだ!みんなもきっと聞いたことのある曲だと思う!それじゃあいくよ!『らぶらぶ・ざ・わーるど』!」

 

 心愛が指を天高く突き上げると、舞台近くのスピーカーから、爽やかなエレキギターの音が響き始める。その音に合わせて心愛は軽やかにステップを踏み、その笑顔のまま歌い始めるのだった。

 

 

 

数分後

 望は、ひとり見回りから体育館に戻ってくると、嵐のような拍手喝采が体育館の中に響いているのに気がついた。

 体育館の中に入った望は、心愛が舞台の上でスポットライトを浴び、思うままに踊っているのから目を背けると、舞台から最も離れた場所に立っていたすみれのそばに歩いて行った。

 

「すみれ」

 

「あぁ、望」

 

「見回り行ってきたよ。見た感じどこも異常ない。だから逆にどうしてあんなに悪魔たちが入ってきたんだか…」

 

 望が話していると、観客の人々が歓声を上げ、話を遮られる。望は思わず片耳を塞いだが、次には拍手が響いたため、ほとんど無駄だった。

 

「…」

 

 苦い表情をする望を見て、すみれは舞台を見上げて微笑んだ。

 

「さっきまでみんな、絶望して沈んでいた。それが今はこうして笑い、声を上げている。心愛は、本当にすごいアイドルだよ」

 

「そーだね。どうせ死ぬなら夢を見ながらの方がいいか」

 

 望は片足で立ちながら、背中を体育館の壁に預けてすみれに言う。すみれは望の悲観的な言葉に思わず耳を疑ったが、その直後、心愛の歌っていた曲が終わり、観客たちが拍手を送った。

 

「みんなありがとう!盛り上がってきたね!どんどん歌っていくよ!次の曲は…」

 

 心愛が話していると、舞台裏から紫黄里が顔を出す。心愛が紫黄里に気づくと、紫黄里は両手でバツ印を作る。心愛はすぐにトラブルが起きたことを察すると、話を続けた。

 

「ごめんね!次の歌の準備に、ちょっと時間がかかるんだ!みんな少し休んでて!」

 

 心愛が言うと、観客たちは一度熱狂から醒めて、何人かが体育館の外にあるトイレへと歩き始める。望とすみれは、壁に寄りかかりながらそんな光景を横目で見ていた。

 

「…こうして見ると、多いね、人。100人くらい?」

 

 望は体育館の外へ出ていく人々を見て呟く。望がふとすみれを見ると、すみれは固い表情をしていた。

 

「ここにいる全員を…私は守らなければならない。責任とは、本当に重い…改めて四葉はすごいと思うよ。もしいれば四葉が責任者だったろうし」

 

「彼女どこでなにやってんだろうね。そもそも生きてるんだか」

 

「きゃぁあああ!!!?」

 

 すみれと望が雑談をしていると、体育館の外から女子生徒の悲鳴が聞こえてくる。すみれと望はすぐに一瞬で目配せをしあうと、悲鳴が聞こえた方角へと走り始める。

 何かを察した舞台上の心愛は、すぐにマイクで全員に呼びかけた。

 

「みんな!落ち着いて!ここにいて!今、生徒会の人たちが様子を見てるから!」

 

 心愛はそう言うと、慌てて舞台から飛び降り、すみれや望の走って行った後を追うのだった。

 

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