追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
その頃、体育館の外にあったトイレの前では、並んでいた女子生徒たちの前に、軍刀や棍棒を振りかざした悪魔が数体現れていた。
「やめてぇっ!!」
「きゃぁああ!!」
「キェェッヘッヘ!!」
女子生徒たちが悲鳴をあげ、逃げようとするのも虚しく、悪魔たちは女子生徒たちを捕まえ、軍刀で貫き、またある悪魔は棍棒で女子生徒の足を払うと、地面に倒れた女子生徒の体に、何度も棍棒を叩きつけていた。
「やめろっ!!」
多くの女子生徒たちが無惨に攻撃されているその状況を目の当たりにし、すみれは声を上げながら、悪魔たちに背後から斧で切り掛かる。
一般の女子生徒への攻撃に気を取られていた悪魔たちは、すみれの攻撃に反応できず、声もあげずに一撃で黒い煙へと姿を変えた。
同様に、望も武器である長い棒で悪魔たちを叩き伏せ、黒い煙に変えていく。
すみれと望が肩で息をしながら周囲を見回した頃には、そこにいた全ての悪魔は黒い煙に変わっていた。同時に、10人以上はいたはずの女子生徒たちも、無惨な姿に変わり果てていた。
「…」
「みんなー!!」
すみれと望が凄惨な光景に言葉を失っていると、遅れて駆けてきた心愛がふたりの背中に声をかける。
すみれは一度振り向いたが、すぐに足元の女子生徒たちに目を落とす。
「…!そんな…!!」
心愛もすみれの目線の先に広がる無惨な光景に気がつくと、思わず息を呑む。しかし、すぐに右手に霊力を集中させ、スタンド付きのマイクを発現させると、死体のそばに駆け寄った。
「だ、大丈夫だよ!今、心愛が歌うから!!みんなの傷を癒やすから!!」
「無駄だよ」
「らーらーらー…!」
望の言葉を無視して、心愛の震える歌声が辺りに響く。それに合わせて、死体に付けられていた無惨な傷跡が徐々に治っていく。
心愛は歌い終えると、足下の死体に声をかけた。
「どう!?傷は治ったよ!さぁみんな!起きて!!心愛のライブはこれからだよ!!」
「聞こえないよ、その子たちには」
必死に死体に呼びかける心愛に対し、望は静かに言い放つ。そんな望に、心愛は涙ぐみながら声を張った。
「そんなことないもん!!みんな…!起きてよ…!!ねぇ…!ねぇってば…!!」
心愛は死体を揺する。ひとつの傷もない、はたから見て眠っているとしか見えない死体は、いくら揺られても目を覚ます素振りも見せなかった。
「起きて…!起きて…!!心愛の歌を聞いてよ…!!みんな私のファンなんでしょ…!?みんなの笑顔のために歌うから…!だから…!!うわぁああ…っ」
心愛は死体のそばに膝を折り、声を上げて泣き崩れる。心愛をじっと見下ろしていた望は、彼女の横に立って見下ろした。
「これが現実だよ。あんたがいくらすごいアイドルで、みんなに夢を見せようと、結局こうやって死ぬ…無駄に希望を持ったって、助けもこない。だったら最初から夢なんて見せない方が…」
「門杜さん!!」
望が呟くように話していると、体育館から女子生徒のひとりが駆けてくる。すみれが振り向くと、女子生徒は必死な形相で話し始めた。
「た、体育館裏から悪魔が!しかも、倉庫に火が!」
「なんだって!?」
「今、
「紫黄里が…!わかった、すぐ行く!望、心愛!」
すみれは女子生徒からの報告を受けると、すぐに走り出す。それに合わせて望も武器である棒を地面に突きながら走り始める。一方の心愛はその場で泣いたままだった。
「心愛、何やってんの、行くよ!」
望はそんな心愛にひと声かけてから走る。心愛は涙を拭うと、ようやく立ち上がって望の後に続くのだった。
その頃 体育館裏
「嘘でしょ…!も、燃やされちゃってる…!!」
体育館の壁に張り付きながら、紫黄里はひとり体育館裏にある防災倉庫の様子を見て言葉を失っていた。
「ヒェヒェヒェ!燃エロ!!」
防災倉庫の周りには、最低でも3体以上の悪魔がおり、倉庫の扉を破壊し、その中に持っていた松明を放り込んでいる。紫黄里は、ひとりではなすすべがないと判断していた。
(な、なにかしなきゃ…!あの中には食料が…!で、でも、あんなにいたらどうしようもないよ…!!)
「アァン?ナンダ、オマエ?」
「!!」
紫黄里が考えていると、悪魔が突然振り向き、紫黄里の存在に気づく。紫黄里はすぐに武器である弓を左手に発現させようとするが、悪魔の動きは早く、紫黄里が弓を引くよりも先に近づくと、悪魔の一体が紫黄里の首を締め上げた。
「くっ…ぁぁ…っ!!」
「ヤレェ!!」
紫黄里が必死にもがくのをよそに、悪魔たちが声を掛け合う。紫黄里は必死に悪魔の腕から抜け出そうとするが、それも叶わず徐々に悪魔たちは紫黄里ににじり寄ってきていた。
「紫黄里!!」
そんな紫黄里のもとに、駆けつけてきたすみれが声を上げる。すみれは真っ先に紫黄里の首を絞めている悪魔を頭から一刀両断すると、紫黄里と悪魔たちの間に立ち塞がった。
「紫黄里ちゃん!大丈夫!?」
むせて咳をする紫黄里に心愛が駆け寄って尋ねる。その間に、すみれは遅れてやってきた望と共に2体の悪魔たち相手に斧を振り回し、悪魔たちを一掃した。
「火を消さなければ…!消火器を!」
すみれが指示を出すと、望がたまたま近くにあった消火器を手に取り、火が上がっている防災倉庫に近寄る。望はなんとか消火器を操作すると、防災倉庫内に上がっていた炎に消火液を浴びせていく。
ものの数分で火はすべて消えたものの、倉庫の中にあった食料は、すべて真っ黒な灰になってしまっていた。
「…」
「状況は!?食料は!?」
倉庫の前で立ち尽くす望のそばに駆け寄り、すみれは倉庫の中の様子を確かめる。そして、目の前の光景が想像していた中でも最悪の事態であることを理解すると、何も言えずにその場に膝をついた。
「すみれちゃん…?」
「…食料は燃え尽きた…全部…もう…1日分も残ってない…」
心愛の呼びかけに、すみれは事実を口にする。突きつけられた現実に、すぐに紫黄里は声をあげ、頭を下げた。
「ごめんなさい!私がもっと早くみんなからの報告に気づいていれば…!」
「気づいてればどうなったの?変わらないよ」
懺悔する紫黄里に対して、望はぶっきらぼうに言う。望は一瞬足の痛みが走り、それを庇うように姿勢を崩したが、すぐにその場に座り込み、燃え尽きた倉庫を見つめた。
「大丈夫。1週間で死ぬはずだったのが明日に縮まっただけだから。紫黄里が気負う必要はないよ」
「そ、そんなことないよ!」
望の言葉に対し、心愛は咄嗟に声を上げて反論し始めた。
「諦めなければきっと助けは来るよ!食料だってきっと…なんとか…!」
「どうやって?全方向を悪魔に囲まれて、外とも通信も繋がらないし、バリケードで外の様子もわからない。そんな中で誰が助けに来てくれるの?」
「それは…」
「根拠のない言葉でまたみんなの目を現実から背けるの?そもそも、あんたがライブなんかやってなかったら、紫黄里も物音で気づけたんじゃないの?笑顔にするだのなんだの言ってるけど、所詮あんたがやってることなんてただの自己満足だよ!」
「やめるんだ!!」
感情的になって心愛を攻撃し始める望に対し、すみれは声を張り上げる。心愛と紫黄里の瞳には、わずかに涙が浮かんでいた。
望は座ったまま心愛や紫黄里から目をそらす。沈黙が辺りに漂う中、すみれが重々しく口を開いた。
「…誰が悪いだとか、お互いを責め合うのはやめよう…責任はすべて私ひとりにある…防災倉庫が燃やされたのも…さっき大勢の生徒が殺されたのも…全部私の責任だ…」
すみれはそう言葉を並べると、燃え尽きた防災倉庫から目を背けるようにして体育館の方へ向いた。
「…とにかく、みんなに事実は伝える。体育館に戻ろう」
すみれは弱々しく言うと、俯きながら体育館に歩いていく。女性としては大柄なはずのすみれの背中が、他の3人には小さく見えながら、すみれに続いて体育館の中に入って行った。