追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
数分後 20:00
「…というわけで…つい先ほど配布した食料が最後となりました…」
すみれは、ひとり、舞台の上に立ち、100人ほどの人々の前に立って状況を話す。人々がざわめいたのを聞くと、すみれは深々と頭を下げた。
「この責任は、すべて、生徒会の責任者である私にあります。本当に申し訳ありません。どうか、他の生徒会のメンバーを責めないでください」
すみれの謝罪を聞き、すみれの目の前にいる生徒たちは黙り込む。舞台裏ですみれの謝罪を聞いていた望、心愛、紫黄里の3人は、重々しく俯くことしかできなかった。
「あのー、これから、どうする予定ですか?食料もないなら、ここにいるのも無理では…?」
生徒たちのひとりがすみれに尋ねる。すみれは顔を上げると、質問の答えに詰まり、俯いた。
「それは…」
すみれは必死に考えを巡らせているうちに、ひとつの結論に辿り着いた。
(…そう、この状況…全部の責任は私にある。だから、私の命で…)
「門杜さん?」
改めて女子生徒に呼びかけられると、すみれはその表情に決意を宿し、正面を向いて答えた。
「明日の朝、この学校を放棄し、脱出します」
すみれの発言に、その場にいた全員が驚く。舞台裏にいた望たち3人も初めて聞くことに同様の反応を見せた。
「詳細は明日の朝8時にお伝えします。ですので、みなさん明日の朝7時に起床をお願いします。それでは」
すみれはそう言って一礼すると、舞台の横へと歩いていき、望たちのいる舞台裏へとやってくる。
やってきたすみれに、すぐさま望がすみれに発言の意図を尋ねた。
「どういうつもり?脱出のアテなんてあるの?」
「ない…でも、もうこれしかない…!」
望の問いに、すみれは悲壮な表情で答える。そんなすみれの表情に気圧されながら、心愛がすみれに尋ねた。
「な、何をするつもりなの、すみれちゃん?」
「...陽動作戦」
「…!」
「私が校庭に悪魔を引きつけるから、その間に他の生徒には裏門から脱出してもらう。みんなには、他の生徒の誘導をお願いしたい」
すみれは真剣そのものな表情で他の3人に言う。同時に、すみれの作戦の問題に気がついた紫黄里は、すぐに尋ねた。
「…すみれちゃん、それって…すみれちゃんはどうするの…?あんな数の悪魔がいたら、すみれちゃんだって無事じゃ…!」
「だとしても、これしかないの…!もう…私たちには…!」
紫黄里の言葉に、すみれは弱々しく答える。すみれの言葉を聞き、心愛と紫黄里は俯き、言葉を失う。望は真っ直ぐにすみれを見つめると、小さく頷いた。
「オーケー。作戦はわかった。まぁ、どうせ全部囲まれてるから上手くいくとは思えないけど」
「望ちゃん…!」
「じゃ、先に寝かせてもらうね」
望はそっけなくそう言うと、他の3人に背を向けて自分が眠るためのスペースへ歩いていく。すみれはそんな望を見ると、心愛と紫黄里に軽く頭を下げた。
「明日はふたりにも苦労をかけると思う。私も寝るから、ふたりも早く休んで」
すみれはそう言ってその場を去っていく。舞台裏に残された心愛と紫黄里は、お互いに顔を見合わせた。
「心愛…このままじゃ、すみれちゃんも、みんなも死んじゃうよ…」
紫黄里は心愛に弱々しく言う。心愛は俯いて首を横に振った。
「…だとしても、もうなにもできないよ…」
「そんな!心愛だって、さっきまでなんとかしようって…!」
「もう無理だよ…!いくら頑張ったって、どうしたって…!私なんかじゃ…!誰も救えない…!笑顔にできない…!」
心愛はそう言って頭を抱えながら泣き崩れ、しゃがみこむ。いつも前向きだった心愛すらも弱音を吐くこの状況に、紫黄里は言葉を失うと、何も言えないまま舞台裏を後にする。
紫黄里はそのまま体育館の隅にある、自分の寝袋にやってくる。その枕元には、ノートパソコンがあった。
紫黄里は寝袋の上に座り込むと、ノートパソコンを開く。そのデスクトップの画面には、「通信不能」であるというマークがはっきり描かれていた。
(…あぁ…やっぱり…誰も助けになんか来てくれないんだ…どうしようもないんだ…!!)
紫黄里はそう思うと、そっとPCを閉じ、涙を流しながら顔を寝袋に埋めるのだった。
翌朝 7:00 白鷺女子高校 体育館
『籠城開始から3日目、食料、なし。
これから、最後の脱出作戦について、避難者全員に連絡する』
すみれは生徒会日報を書き終えると、舞台の上に立ち、目の前に座る生徒たちに話し始めた。
「このあと8時から脱出作戦を行います。みなさんを誘導するのは翡翠、市子、柳生の3名です。裏門から脱出し、近くにある白鷺大学に避難します。裏門から脱出する際に今建てている岩のバリケードのほとんどを撤去する必要があり、脱出の瞬間悪魔に包囲される可能性が高いです。したがって、迅速な行動をお願いします」
すみれは淡々と作戦を説明する。人々がざわついたのを聞きながら、すみれは舞台を降り、舞台裏の望、心愛、紫黄里の3人のもとにやってきた。
「…私の能力で作ったバリケードだけど、最初に校庭の方を開けるから、悪魔が殺到すると思う」
「わかってる…みんなをお願い」
望から短くいわれると、すみれは他の3人に言う。その場にいた4人は、お互いに顔を見合うと、頷き合った。
すみれは窓の外から校庭を眺める。晴れた青空に照らされた校庭は、平和だった頃と変わらないように見えたが、すみれにとっては最後に見る景色なのだと思うと、すみれは大きく息を吐くことしかできなかった。
1時間後 8:00
「行動を開始します。みなさん、生徒会の誘導に従って動いてください」
すみれは舞台の上に立ち、全員に指示を出す。紫黄里と望が生徒たちを誘導して体育館の外へと歩かせているのを見ると、すみれはその列から少し外れながら体育館から外に出る。
渡り廊下をひとり歩き、すみれはものの数分もかからず、誰も何もいない校庭にやってきた。
「…」
すみれは天を仰ぎ、大きく息を吸う。そして覚悟を決めると、右手に霊力を集中させ、右手に斧を発現させて構えた。
(何も怖くない…責任を取るだけ…私は死んで当然なのだから…)
すみれは自責的にそう思うと、顔を上げ、正面の大岩を見つめる。その岩の向こうには、無数の悪魔がいるはずで、すみれは斧を両手で握りしめた。
永遠にも思える沈黙が流れると、突然大岩が動き出し、地面に埋もれていく。すみれには、望が霊力を使い、岩を操作しているのだということがわかった。
岩の全体がすっかり地面の中に沈み込むと、そこに群がっていた無数の悪魔たちが姿を現す。すみれの視界いっぱいに立ち並ぶ悪魔たちの姿に、すみれは思わず後ずさった。
(怖がっちゃだめ…みんなのために…時間を稼がなきゃ…少しでも多く、悪魔を倒さないと…!)
すみれはそう自分に言い聞かせる。しかし、何百を超える悪魔たちが声を上げながら迫ってくるその光景に、すみれの手足は震えて動けなくなっていた。
「コロセェエエエ!!!」
悪魔たちは声を上げると、一斉に走り出し、すみれひとりを目掛けて飛びかかる。すみれは思わず目を閉じ、下を向いた。
(役立たずで…ごめん…)
すみれは心の中で他の仲間たちに謝る。そうして、脳天に振り下ろされるであろう棍棒の衝撃を待った。
「ギャアアア!!」
次の瞬間、あたりに響いた甲高い無数の悲鳴。
聞こえるはずのないそんな声に、すみれが目を開けて顔を上げると、迫っていた悪魔たちは黒い煙に変わり、その中に、ひとり、黒いロングコートをたなびかせて立っている人間の背中があった。
「相変わらず数だけは多い。好都合だ」
「あ、あなたは…?」
右手に握った刀を振い直す、そのロングコートの男に、すみれは尋ねる。男はわずかに振り向くと、傷のついたその顔で、すみれに小さく名乗った。
「東雲幸紀」