追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
幸紀の無愛想な態度を気にせず、日菜子と四葉は幸紀に尋ねていく。幸紀は表情を変えないまま、無言で考えた。
(面倒な女たちだな…こいつらが納得できるような、適当な回答を出さないと…)
幸紀はそう思うと、ふと人間世界での自分の立場と、ここに来た表向きの理由を思い出すと、それを話し始めた。
「…俺は清峰侯爵の部下だ。だから悪魔とも長年戦っている」
「清峰侯爵…ニュースで聞いたことあります!悪魔関連の事件で、積極的に女王陛下や国会に訴えかけている人ですよね!」
幸紀のひと言に、四葉が大きく反応する。幸紀は四葉の言葉を肯定すると、話を続けた。
「俺は侯爵の指示を受け、悪魔に対抗する部隊、『星霊隊《せいれいたい》』のメンバーを集めるためにここに来た」
「悪魔に対抗する部隊…それに入るための条件は!?今、何人いるんです?」
「加入の条件は…霊力を有して、悪魔に対抗できること。今のところ、メンバーは誰もいない」
日菜子の質問に、幸紀は咄嗟に思いついた条件を加えて答える。すると、すぐに日菜子は手を挙げ、幸紀に言った。
「はい!私、星霊隊に入りたいです!」
「??」
「悪魔のせいで、いろんな人が困ってると思うんです。それを黙って見ていたくないんです!私は、多少なり霊力を扱えます。悪魔だって、1対1でなら倒したこともあります!それに…」
「それに?」
「…悪魔に襲われて、妹とはぐれちゃったんです。だから、星霊隊として悪魔を倒しながら、行方不明になった妹のことを探したいんです!お願いします!」
日菜子は真っ直ぐな瞳で幸紀を見ながら訴え、そして頭を下げる。幸紀が無表情で戸惑っていると、日菜子の隣に立っていた四葉も話し始めた。
「東雲さん、私も星霊隊に入れてください!霊力は…あんまり強くないですけど…でも、できることはなんでも頑張ります!助けてもらったご恩を、なんとかしてお返ししたいです!お願いします!」
四葉もそう言って頭を下げる。幸紀は追い払うつもりがそういかなかったことに頭を抱えた。
(…面倒なことになったな…いや、待て…ちゃんと強いやつを集めれば、それは巡り巡って悪魔どもを苦しめることになるのでは…だとすれば…)
幸紀はふと先ほどまでの日菜子と四葉の言動を思い返し始めた。
(このふたりは俺に比べれば弱い。当たり前だ。だが、こいつらは愚かにも常に他者のことを考え、他者を救おうとする。そういう奴だからこそ悪魔の群れにも平気で突っ込む。となれば、弱くてもこいつらを味方にした方が、悪魔どもを蹴散らす機会は増える。言ってることは綺麗事だから人を騙して強い奴を集めるのにも使える。好都合だ)
幸紀はそう結論づけると、頭から手を離し、日菜子と四葉を見下ろした。
「よし、わかった。君たちふたりを星霊隊として歓迎しよう」
「本当ですか!?」
日菜子と四葉は声を揃えて幸紀に尋ねる。幸紀は二人を見下ろして頷いた。
「あぁ。日菜子、君が隊長だ。四葉、君は日菜子を支える副長をやれ」
「えっ、幸紀さんが隊長じゃないんですか?」
日菜子が驚いて尋ねる。幸紀は一瞬下手を打ったのを悟ると、すぐにカバーを始めた。
「俺は星霊隊のメンバーを選ぶだけだ。実際に結成できれば、俺は単独で別行動をする」
幸紀が言うと、日菜子も四葉も納得した様子で頷く。日菜子は四葉の方に向いて軽く会釈をした。
「そういうものなんですか…四葉ちゃん、頼りないリーダーだけど、よろしくね」
「いえこちらこそ!よろしくお願いします!桜井さん!」
日菜子と四葉のやりとりを横目で眺めていた幸紀は、二人に尋ねた。
「俺は清峰侯爵の屋敷を目指す。君たちはどうする?」
「侯爵のお屋敷っていうと、霊橋区《れいきょうく》の方ですよね。途中に私の通ってる高校もありますから、東雲さんについていきます!」
「私も行きます!菜々子…妹も、そっちの方に逃げたかもしれないし!」
「ならまずは駅に行こう。電車が動けば、2時間程度で屋敷にいけるはずだ」
幸紀はそう言うと、ひと足先に振り向いて歩き出す。日菜子と四葉も、幸紀のあとに続いて歩き始めた。
正面しか見ない幸紀に対し、日菜子と四葉は周囲を見回しながら歩いていく。今3人が歩いているあたりには悪魔は全くいなかったが、それでも足元の人間の死体や、窓が割れたビル、崩れ落ちた看板など、悪魔が暴れ回り、平和だった街が破壊された形跡がそこかしこに見え隠れしていた。
「こんなの…ひどすぎる…悪魔たちはどうしてこんなことを…」
日菜子は歩きながらふと呟く。幸紀は背中越しに聞こえてきた日菜子の疑問に、思わず答えていた。
「それが生きがいだからな」
「え?」
「他人が作ったものを奪い、壊し、それによってまた他のものを奪っていく。そうしていずれは全てを支配する。それが悪魔たちの目的だ」
幸紀は吐き捨てるように言う。幸紀の語る言葉を聞いた日菜子は、悲しそうに俯いた。
「…それが本当なら、私、許せないです。殺された人たちにも家族がいて、必死に今日まで生きてきたはず。それを、そんな理由で奪うなんて…」
日菜子の言葉を、幸紀は背中で受け止める。日菜子は顔をあげ、幸紀の背中に言葉を投げかけた。
「幸紀さん、私、強くなりたいです。星霊隊のリーダーとして、妹を持つ姉として、人間として。みんなを守るために、悪魔なんかに負けないくらい強くなりたいです。いっぱい色んなこと、教えてください」
日菜子に言われると、幸紀はしばらく沈黙する。日菜子の言葉は、幸紀にとっては完全には理解しがたいものだった。
(他者のための強さ、か…俺には理解できんな。俺の力は、俺のためだけにある。結局、俺は悪魔で、この女は人間なんだな)
「幸紀さん」
「…わかっている。だが俺は手取り足取り教えるつもりはない。戦いの中で、自分なりに経験を積め。必要があれば、手伝おう」
幸紀は日菜子に対して雑にあしらう。しかし、日菜子はそんな幸紀の言葉に、前を向いて明るく返事をするのだった。