追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
同じ頃 DTS研究所
いつの間にか気絶していた菜々子は、ゆっくりと重いまぶたを開ける。白色の蛍光灯の光が視界に入ってくると同時に、菜々子は自分の体がベッドのようなものの上に縛りつけられていることに気がついた。
(うう…悪魔に殴られて気絶したみたい…まだ頭が痛い…)
菜々子は後頭部の痛みに顔をしかめると、ゆっくりと周囲を見回す。緑色の肌をした悪魔達が、何かの機材の前を往復していた。
(…悪魔がたくさん…ってことは、ここは悪魔が占領したDTS社の研究所…さっきの公園からそう遠くない…早いところ脱出の方法を考え…)
「起きたか、実験体」
菜々子がさまざまな考えを巡らせようとしていると、それに割り込むように低く太い声が響き、菜々子の顔を悪魔の1体が上から覗き込む。菜々子から見て逆光で悪魔の顔はよくわからなかったが、緑色の肌をしているのはなんとなくわかった。
「実験体ィ?もしかして私のコト?私、そんな可愛くない名前じゃないんですケド…」
菜々子が軽口を叩いて状況を誤魔化そうとしたその瞬間、菜々子のことを実験体と呼んだその悪魔が、菜々子の下腹部を思い切り掴み上げる。女性として大切な部分を掴まれ、菜々子は小さく呻き声をあげた。
「…ぅっ…!」
「お前は実験体でしかない。このマズラの前ではな。無駄口を叩くのは許さん」
マズラと名乗るその悪魔は、さらに菜々子の下腹部を強く握る。そのままマズラは興味深そうに呟き始めた。
「ふむ…これが人間のメスか…ここに子を宿すのならあまり我らと構造は変わらないか…」
「この…っ…!」
菜々子は下腹部を掴まれた痛みに耐えかね、怒り半分に右手へ霊力を集中させようとする。しかし、いつもなら簡単に形作られるはずの菜々子の武器は、途中まで出来上がったところで崩れ去った。
「…!?」
「ふむ、効果アリ、か。このマズラの発明ならば当然だが」
マズラは菜々子の右手を見て呟く。菜々子はマズラの言葉から得られた情報を整理し始めた。
(こいつが発明した何かのせいで、霊力が使えなくなってる…!それに、私は実験体で、こいつはさっき私の体の話をしていた…ってことは、こいつの目的は…)
「人間が霊力を扱えないようにすること…それがアンタの実験目的、ってワケね?」
菜々子は自分の考えを率直にマズラへとぶつける。菜々子の考えを聞いたマズラはため息をついた。
「はぁ。人間風情が知恵者を気取って得意顔、反吐が出るな」
「図星突かれて怒ってるの~?カルシウム取ったら?」
菜々子が挑発するように言うと、マズラはベッドに縛り付けている菜々子の頬を平手で振り抜く。菜々子が悲鳴をあげると、マズラは菜々子の胸ぐらを掴み上げ、顔を近づけながら話し始めた。
「減らず口を叩けるのも今のうちだぞ。貴様らはそう遠くない将来、種族ごと我らの奴隷となるのだ」
「はぁ?お断りなんですケド!」
「貴様らの意見など聞いてはいない。すでに霊力防止装置はできている。あとは『品種改良』といったところだ」
「は?『品種改良』?...」
マズラの言葉に、菜々子は引っかかる。だが、すぐに菜々子は考えを巡らせると、目の前にいる悪魔の目的を口にした。
「…そうか、わかった。あんたら、霊力が使えない人間をたくさん作って、逆らえないようにして奴隷にするんでしょ?そのために、私の体を使って実験したいんだ。そうなんでしょ?ついでに人間にだけ効く兵器でも作る?」
菜々子の言葉に、マズラは片方の眉だけを大きく上げた。
「人間の、それもメスの個体にしては随分と頭が回るな」
「まぁね、私、賢くて可愛いイマドキのギャルだか…」
菜々子の軽口に対し、マズラは菜々子の顔を掴んで押さえつける。マズラはそのまま菜々子を見下ろして話し始めた。
「お前がいくら賢い個体であろうと全ては無意味だ。これから貴様は実験に使われる。お前の血が同胞を殺すのだ。自分の運命を呪いながら死ね」
マズラの右手にメスのような刃物が輝く。菜々子は必死にもがくが、マズラは冷静に、ゆっくりと菜々子の喉元に刃物を近づけた。
「さて…じっくりと解剖してやる…」
「マズラ様!」
刃物が菜々子の喉に当たろうとしたその寸前、悪魔の1体の声がする。マズラは手を止めた。
「なんだ。解剖に集中させろ」
「研究所の正面からコーキが来ております!警備隊はすでに全滅、指示をください!」
「ほう?あの裏切り者が来たのか」
部下の報告を聞くと、マズラは興味深そうに振り向き、刃物を持つ手を止める。部下がマズラの質問を肯定すると、マズラはニヤリと笑って刃物を置いた。
「ふふふ、よし、全兵力で迎え撃て。奴は一度この手で解剖してみたかったのだ。貴様らなどいくら死んでも構わんから必ず連れて来い!」
「はっ!」
マズラが言うと、部下の悪魔が走って去っていく。菜々子はベッドの上から一連の光景を眺めていたが、マズラはそんな菜々子のことも気にせずゆっくりと部屋の外に歩いていくのだった。
(…助かったの?私)
菜々子がそんな疑問を抱いたその直後、マズラは廊下に出るなり、菜々子のいる部屋のドアを閉める。そして、マズラは廊下にいる他の悪魔に指示を出した。
「例のガスを部屋に充満させろ」
マズラはそれだけ言うとその場を後にする。指示を受けた悪魔が廊下にあるレバーを操作すると、菜々子の目の先にある通風口から、白いガスが部屋に溢れ始めた。
(ガス…!?やばい、逃げなきゃ…!)
菜々子はそう思って身をよじる。しかし、いくら身をよじってもベッドから脱出することはできず、菜々子は知らず知らずのうちにガスを吸い込み、咳をし始めるのだった。
(助けて…お姉ちゃん…!!)
菜々子はもがきながら、声にならない声でそう叫んでいた。