追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
前回までのあらすじ
清峰屋敷を目指して旅を続ける幸紀たちは、その道中、人体実験をおこなっている悪魔を打ち倒し、研究所を突破する。
その過程で日菜子の妹である菜々子や、晴夏の友人である千鶴を味方に加え、いよいよ幸紀たちは目的地である清峰屋敷に到着しようとしていた。
チーム分け
A:幸紀、日菜子、晴夏、明宵、朋夜、華燐、菜々子、千鶴→屋敷を目指す
B:四葉、璃子、すみれ、望、心愛、紫黄里→生徒たちを帰宅させる
C:結依、弥生、雪奈、咲来、麗奈、水咲、江美→B班と別ルートで生徒たちを帰宅させる
6月20日 15:00
幸紀が運転するバスが高速道路を進む。しかし、整備されていたはずの道路はやはりところどころ破壊され、路上で放置された車も少なくなかった。
幸紀はそんな光景を横目で眺めつつ、上側に視線をやる。そこに設置されている案内標識には、矢印の先に『心泉府』と書かれていた。
幸紀は目を細める。そんな幸紀の隣に、日菜子がやってくると、周囲を見回して幸紀に話しかけた。
「幸紀さん、もうすぐ清峰侯爵のお屋敷ですね!」
日菜子の言葉に、幸紀は小さく頷く。近くに座っていた千鶴がそれに反応した。
「あの、すみません。さっき、お屋敷を目指してるってお話はしてもらったんですけど、なんでお屋敷を目指してるんですっけ…?」
千鶴が申し訳なさそうに尋ねると、近くにいた菜々子が話に加わった。
「ウチらは清峰侯爵の命令で悪魔たちと戦う部隊で、幸紀くんは悪魔に対抗できる人間を集めてる。侯爵に仕えるメイドさんたちは強い人も多いし、お姉ちゃんたちが集めたウチら以外の星霊隊のメンバーたちとも屋敷で合流する予定になってる。だから屋敷に行く、でしょ?幸紀くん?」
菜々子の流れるような説明に、日菜子以外のメンバーが感心の声を上げる。同意を求められた幸紀は短く頷いた。
「菜々子の言う通りだ。侯爵は対悪魔軍の急先鋒、当然その部下も猛者が揃っている。だが、それだけに悪魔軍の攻勢も激しいはずだ。気を引き締めろ」
幸紀の言葉に、女性たちの表情も引き締まる。話を聞いていた朋夜も、思い出したように話し始めた。
「そういえば、この状況、侯爵の屋敷では民間人の受け入れもおこなっていたはず。いくら精鋭が揃っているとはいえ、民間人を守りながら戦うのは至難の技でしょう。一人でも多く無事だと良いのですが…」
朋夜の言葉に、さらに女性たちの表情が鋭くなる。しかし、すぐに晴夏が空気を軽くするように声を上げた。
「なに、オレらならいけるっしょ!普通の人も助けて、メイドさんたちも助ける!やったろうぜ!」
晴夏が声を上げると、日菜子は改めて全員の前に立って話し始めた。
「晴夏の言う通りだよ!みんなで一緒に、人を助けよう!」
日菜子の号令に、女性たちは声と拳をあげて応える。幸紀はそんな様子を背中で感じながら、ひとり全く別のことを考えていた。
(屋敷の悪魔軍の指揮官はカザン…奴は俺の追放に一枚噛んでいるはずだ。俺の誇りを踏み躙った礼は、たっぷりさせてもらおう)
戦場に飛び込む中でもどこか明るい女性たちとは対照的に、幸紀は黒い感情を抱きながらアクセルを踏み締めるのだった。
同日 18:00 心泉府 霊橋区 清峰屋敷
太陽はもうほとんど沈み、西日が薄暗い森に囲まれた洋館である屋敷を照らす。その屋敷の最上階の5階から、屋敷の主人である清峰早苗侯爵は、窓の外の景色を見つめていた。
正面に見える緑豊かな山の裾野の両側からは紫の煙が立ち上り、さらに山の中央から無数の黒い影が屋敷の正門に歩いてきていた。
対して正門で待ち構えるのは、背は高いがか細い鉄の柵と、十数人のメイド服の女性たち。彼女たちは自らの霊力によって各々の武器を発現させ、柵の内側から迫り来る悪魔たちの様子を見ていた。
「また来たのか…!」
清峰は黒い眼鏡をかけ直しながら、状況を見て息を呑む。しかし、すぐに気を引き締めると、ポケットから通信機を取り出し、それに向けて声を張った。
「
清峰に呼ばれたメイド長、赤い長髪に成熟した体つきに赤いメイド服をまとった若い女性、灯野焔は、耳につけたマイク付きのヘッドフォンを抑えて言葉を返した。
「灯野です。今は食堂で一般の負傷者の手当てをおこなっています」
「北から悪魔の大軍だ。そこは誰かに任せて、戦闘の指揮を頼む!」
「承知しました、ただちに向かいます」
焔は自分のいる食堂の様子を見回す。彼女の部下であるメイドたちが慌ただしく一般の負傷者たちを手当てしている。焔はそのメイドのうちのひとり、青い髪のミドルヘアーの女性のもとに近づいた。
「
焔が低い声でその女性、
「は、はいっ!」
「これから戦闘です、ついて来て」
「はいぃっ!」
焔はそう言うと、振り向いて歩き出す。珠緒も焔について行くようにして歩き出すが、ふと、窓から外を見る。山から下ってくる悪魔の無数の黒い影に、珠緒は思わず顔を引きつらせた。
「すごい数…こんなの勝てるわけない…」
珠緒は思わず足を止めて呟く。ごく小さな独り言で、周囲の誰も聞かなかったが、焔はそれを聴き逃さなかった。
「珠緒、来なさい」
「…」
「珠緒!」
言葉を失っている珠緒に、焔は声を大きくする。珠緒が我に還ったかと思うと、直後に焔は珠緒のメイド服の肩口を掴み、そのまま食堂の外の廊下まで引きずり出した。
廊下ではメイドたちが慌ただしく走り回っている。焔は自分たちが注目されていないことを確認すると、珠緒を壁際に追いやり、声を大きくした。
「今の発言は何?一般の方もいるというのに、彼らを不安にさせるような発言をして」
「す、すみません!でも…!」
焔の詰問に対し、珠緒は言葉を返そうとする。そんな珠緒の頬に、焔は平手打ちを叩き込む。珠緒はわずかに赤く腫れた自分の頬を押さえながら、鋭い表情の焔の言葉に耳を傾けた。
「私たちは侯爵に仕えるメイド。メイドたるもの、周囲の士気には最も気を配らなければならない。自分の気持ちなど二の次三の次で任務を遂行しないといけないの。あなたならわかるでしょう、珠緒」
焔の冷静な叱責の言葉に、珠緒は小さくなって頭を下げる。焔はそのまま言葉を続けた。
「メイドである以上、周囲の士気を下げることは二度と言わないこと。淡々と目の前の任務をこなしなさい、いいわね?」
「はいぃ!申し訳ありませんでした!」
「行くわよ」
珠緒が反省したと認識した焔は、その場で叱責をやめ、手袋を着けながら指示を受けた場所に向けて歩き始める。珠緒も小さくなりながら焔の背中に続いた。