追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
第14話(1)新たなる敵 -日菜子と菜々子-
前回までのあらすじ
清峰屋敷を攻めていた悪魔、カザンを打ち倒した幸紀と星霊隊。
星霊隊は悪魔に反撃するため、アカツキ国の東側から、北にある悪魔軍の本拠点を目指して戦うことになる。
一方の幸紀は自分が悪魔軍を追放された理由に、悪魔軍の上層部が関わっていることを知り、悪魔を殲滅する決意を新たにするのだった。
6月22日
アカツキ国の最北端に位置する、冬城県。悪魔による総攻撃を受けたここは、数日と耐えることもできず悪魔に占領され、アカツキ国を侵略する悪魔軍全体の本拠点が設けられていた。
かつてはこの街の代表的な観光スポットになっていた赤レンガ造りの時計塔は、悪魔軍によって見る影もなく黒色の謎の金属に改造され、昼夜を問わずその建物の周りから紫の煙が立ち上り、建物の中は薄暗い青の光が照らしていた。
「テルギア総司令官のおなり!!」
時計塔のロビーだった1階に、軍服をしっかりと着た悪魔たちが集い、規則正しく整列して椅子に座る。その悪魔たちの中央を、銀のマントを羽織った、漆黒の肌に赤い線の走る体をした悪魔、テルギアが堂々と歩くと、その先にあったひと際大きな椅子に悠々と腰をかけた。
テルギアは頬杖をついて足を組むと、自らの着ている軍服の右の胸ポケットから爪やすりを取り出す。彼はそのまま自分の爪をヤスリがけしながら話を始めた。
「昨日、報告が入った。カザンが死んだそうだな」
テルギアは興味がなさそうに、爪ヤスリをし、自分の爪に息を吹きかけ平然とする。それに対し、その場に集まっていた悪魔たちの間では動揺が巻き起こっていた。
「カザン殿はかなりの兵を率いていたはず…」
「人間風情が簡単に突破できるはずがない!」
「だが負けている…一体なにがあったというのだ…」
動揺する部下たちの様子を気にせず、テルギアは自分の爪を眺めながら話を続けた。
「追放したコーキが暴れているらしい。やつは霊力を使える人間を従えて各地の悪魔軍を攻撃している。ここに迫ってくるのも時間の問題だろうなぁ」
言葉の内容に反し、テルギアは他人事のように事実を伝える。部下たちの動揺はより一層強まり、混乱状態に陥り始めた。
「コーキ…!やつは強すぎる…!」
「人間の血が入っているとはいえ、奴は最強だ…」
「バカが、汚れた血の悪魔の何を恐れているのだ!」
「じゃあお前が戦え!」
「お断りだ!」
悪魔同士で口論すら起きているその最中、集団の中から1体の悪魔が、中央の通路に歩いて出ると、テルギアの前に跪き、頭を下げる。テルギアが自分の爪から、目の前に跪いた悪魔へと目をやると、ざわめいていた悪魔たちも空気が変わったことを察知し、沈黙した。
「そこの。顔を上げろ」
テルギアに言われると、跪いていた悪魔が顔を上げる。紫の肌に、金色の瞳、そして乱雑な銀色の髪。他の悪魔たちとは異なる、珍しい風貌の悪魔を見て、テルギアは興味深そうに両手を組み合わせた。
「ほう…
テルギアは目の前の悪魔に命令する。命令を受けた悪魔は、堂々と名乗り始めた。
「私の名はポラリス。テルギア様にお願いがあり、ここに参りました」
「言ってみろ」
テルギアが言うと、ポラリスは少し下を向いてから息を吸い、そして改めて声を張った。
「私に、コーキ討伐の指示を与えてください」
ポラリスの言葉に、周囲の悪魔たちは再びざわつく。
「あんな若造が…?」
「自殺行為だ…!」
そんな言葉のなか、テルギアはひとり満足そうに微笑むと、立ち上がって声を張った。
「いいだろう。このテルギアの名において、ポラリス、貴様にコーキ討伐の任を与える。現地の指揮官たちと連携してコーキに当たるがいい」
「ははっ、ありがたき幸せ」
「行け」
「はっ!」
周囲の視線や言葉を意に介さず、ポラリスはテルギアの言葉に従い、その場に背を向け、建物を出ていく。そんなポラリスの背中を見送り、テルギアは再び椅子に腰掛けると、背もたれに身を預け、足を組む。
「よし、解散だ。各自、あとは手筈通りにな」
テルギアが面倒くさそうに言うと、部下である悪魔たちは戸惑いながらその場を去っていく。テルギアはそれに構わず、椅子の肘掛けで頬杖をつき、まぶたを閉じ、つぶやくのだった。
「コーキ、か。大人しくしておけばよかったものを」
6月22日
「そぉおおりゃあああ!!!」
「ギャアアアアアア!!!」
街の中央にあるマンションのロビーで、桜井日菜子の気合いを入れた叫びと、悪魔の悲鳴が響き渡る。
本日、日菜子は、ここに避難していた一般の民衆を救助するため、星霊隊の仲間たちと共に戦っていた。
そして、たった今、最後に残っていた悪魔は、日菜子の拳により、民衆の前で黒い煙と化す。日菜子は軽く腕を振るって周囲を見回すと、遠くで控えていた仲間たちを呼び寄せた。
「みなさん、もう大丈夫です!今から来る女の子たちの指示に従ってここから逃げてください!」
「は、はい」
「ありがとうございます」
日菜子に言われた一般市民は、やってきた別の星霊隊のメンバーたちに誘導されつつ姿勢を低くしながらその場を離れていく。
そんな一般市民とすれ違うように幸紀と四葉が日菜子のもとにやってきた。
「日菜子さん!この辺りの安全は確保しました!」
「四葉!幸紀さんも、お疲れ様です!」
四葉の報告に、日菜子は言葉と笑顔を返す。そんな2人の柔らかな雰囲気をよそに、幸紀が話し始めた。
「日菜子、このまま次の作戦の準備にかかる。四葉とともに、拠点に戻って明日の作戦の打ち合わせに入ってくれ」
「了解しました!」
「私は用事があるので、日菜子さん、先行っててください!」
「わかった!じゃあ、また後で!」
幸紀と四葉から指示を受けると、日菜子は2人に別れを告げ、マンションのロビーを走って出ていくのだった。
マンションを出た日菜子は、軽く背中を伸ばしながら、星霊隊のメンバーたちが拠点としている建物へと歩いていく。そんな日菜子の背後から、彼女の妹である菜々子が日菜子の横に並ぶようにして歩き始めた。
「お姉ちゃん!おつ~」
「菜々子!大丈夫?怪我してない?」
「全然へーきだよ。でもマジ疲れたー」
「ふふ、お疲れ様、菜々子!今日も頑張ってくれてありがとうね」
「それほどでも?あるよねぇ?きゃははは」
日菜子が菜々子を労うと、菜々子は軽口で応じる。明るい様子の菜々子を見て、日菜子は優しく微笑みながら、夕陽が西に輝く空を眺めた。
「明日も私たちは悪魔たちと戦う…ゆっくり夕陽を眺める余裕もないね」
「東側から一気に攻め上がりながら北上して、悪魔軍の本拠点を短期決戦で落とす。こんな無茶なことやってたら、そりゃあ休む暇もないよねぇ」
「でも、これは私たちにしかできないことだよ。だから、多少苦しくても、絶対にやり遂げたい。菜々子の知恵も貸してほしい」
「わかってるよぉ、言われなくても。ったくもう、お姉ちゃんてば、普段リーダーなんてやるタイプじゃないのに、急にそれっぽくなっちゃうんだから」
「頼れる妹がいてくれるからね!」
肩をすくめながら話す菜々子に対し、日菜子は満面の笑みで信頼を見せる。菜々子も照れくさそうに微笑み返すと、2人は夕日に向かって歩いていくのだった。