追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
「そういや、ねーちゃんたちの名前聞いてねぇな。教えてくれよ」
晴夏は日菜子たちに言う。言われた日菜子は、四葉や幸紀と顔を見合わせて打ち合わせすると、名乗り始めた。
「じゃあ、私から。桜井《さくらい》日菜子《ひなこ》です。一応、『星霊隊』っていう部隊の、リーダーをやらせてもらってます」
「金髪でピンクメッシュの日菜子ちゃん、な。よろしく」
「どうでもいいんだけど、たぶん、晴夏ちゃんより年上だよ、私」
「え?いくつ?どう見ても同い年くらいっしょ」
「21です」
「おみそれしましたお姉さま」
日菜子の年齢に、晴夏は冗談めかして頭を下げる。日菜子はそんな晴夏の態度に、思わず声を漏らして笑った。
「別にそんな態度取らなくていいよ。年下の子に親しくしてもらうのには慣れてるし、普通に好きに呼んでくれていいよ」
「じゃあ、お姉さま?」
「…日菜子がいいなぁ!」
「おっけ!じゃあ、日菜子な!よろしく!」
晴夏は明るく日菜子に言う。晴夏はそのまま、水を飲んでいる四葉に目をやった。
「そっちのメガネのお姉さんはさすがにオレや日菜子より年上っしょ!」
四葉は晴夏の言葉に、思わずむせる。日菜子に介抱されながら、四葉は晴夏を睨むようにして顔を上げた。
「…千条《せんじょう》、四葉《よつば》、高校!2年生!女子高の!生徒会長です!」
「あちゃー、同学年《タメ》だったか」
「制服を見ればわかりますよね!?どう見ても高校生でしょ!?」
「いやぁてっきり異世界だからそれが私服なのかと」
「違います!そもそも人の顔を見て年齢を適当に言うなど失礼極まりません!特に女性に対しては!反省文です!400字詰めで6枚です!」
「悪かったって」
四葉の怒りに対し、晴夏は小さくなりながら言う。日菜子が四葉を宥めているのを見ると、晴夏は食べ終わったおにぎりの包装を綺麗に折りたたんでいる幸紀の方に目をやった。
「そっちのお兄さんは?」
「東雲《しののめ》幸紀《ゆきのり》」
「東雲、幸紀。うーん、じゃあ、あだ名はユキちゃん?それとも、シノさん?」
「好きに呼べ」
笑いかけながら話す晴夏に対し、幸紀は食べ終わった商品のゴミをまとめながら、無愛想に突き放す。晴夏はそんな幸紀の所作を見て、首を傾げた。
「じゃあ素直に幸紀さんって呼ばせてもらうんすけど、育ち良いんすね」
「は?」
幸紀は鋭く晴夏を睨む。強烈な殺気を感じた晴夏は、慌てて付け加えた。
「いやいや、悪い意味じゃないんすよ!ただ、わざわざ食べ終わったゴミをこういう風に綺麗に整理するのとか、オレだったらやらないでテキトーに捨てちゃうなぁって思って!あ、もしかしてこの世界じゃ普通なんすかね?」
晴夏は日菜子と四葉に尋ねる。四葉はある程度片付けていたが、日菜子は全く片付けていなかった。
「いや…私も晴夏ちゃんと同じだね…お恥ずかしい限りです、はい」
「うう…でも、ちょっとはしてます!」
「ほら、普通しないっすよ。それをわざわざやるのは、やっぱ育ちがいいっていうか、礼儀正しいっていうか。少なくとも、オレはいいなぁって思うっす」
晴夏が言うと、幸紀はじっと目の前に置いたゴミに視線を落とした。
「…俺にこういうことを教えてくれた者がいた。そのおかげだ。決して俺がどうこうではない」
幸紀はそれだけ答えると、目の前のゴミを片手で握りしめ、立ち上がった。
「余計なおしゃべりはおしまいだ。行くぞ」
「行くって、どこに?」
「南矢倉駅だ」
「西船橋ぃ?」
「どう聞き間違えたらそうなるんですか」
幸紀の言葉に対して聞き返す晴夏に、四葉が軽くツッコミながら立ち上がる。日菜子に続いて晴夏も立ち上がると、晴夏はさらに質問を続けた。
「あ、そうだ、さっき日菜子が『星霊隊』って言ってたけど、それってなんなん?」
「悪魔と戦う部隊だよ。霊力を扱える、強い人が選ばれるんだ。といっても、今は私と四葉ちゃんしかいないけど」
「霊力?なんだそりゃ?」
晴夏の質問に、日菜子が答えると、晴夏はさらに質問を続ける。日菜子が返答に詰まっていると、幸紀が答えた。
「一種の精神的なエネルギーだと思って欲しい。人によって扱えるかどうかは異なり、この世界の人間でも、霊力を全く扱えない人間もいる。悪魔に対しては非常に有効で、悪魔には本来、銃撃などの通常の攻撃はほとんど通用しないが、霊力を纏わせるだけで奴らを消し炭にすることも可能だ」
「へー、すげぇ!じゃあ、日菜子も四葉も、霊力のエキスパートってこと?」
幸紀の解説を聞き、晴夏は日菜子と四葉の方を見る。2人は残念そうに首を横に振り、日菜子が話し始めた。
「私たちはそこまで強くないんだ。だから、悪魔を倒す旅をしながら、霊力の強い人たちを集めて、星霊隊に入ってもらうっていうのが、私たちのこれからの目標だよ」
「そうなんだ。じゃあ、その、次の目的地には、強い奴がいっぱいいるってこと?」
「違います。私たちの旅の目的地は、清峰侯爵という人のお屋敷です。そこに行くために、南矢倉駅を使おうという話です」
日菜子の説明に続き、晴夏が質問すると、四葉が答える。話を聞いていた幸紀が、さらに補足した。
「清峰屋敷には、霊力に秀でたメイドたちも多く、是非とも星霊隊に加えたい。だが、悪魔軍のこの攻撃を見る限り、恐らく屋敷は集中的に攻撃されているだろう。可能な限り早く、屋敷に行きたい」
幸紀の補足説明を聞いた晴夏は、難しい顔をして頷くと、明るい表情で顔を上げた。
「ほうほう。まぁなんとなく状況はわかったぜ。とにかくオレは3人についていくよ!飯も奢ってもらったし、行くアテもねぇからさ!悪魔と戦うってのはよくわかんねぇけど、まぁ大丈夫だろ!」
「軽く考えすぎです!」
「へへ、オレ、難しいこと考えるの苦手だからよ。よろしく頼むぜ、生徒会長!」
晴夏はそう言って四葉の肩を叩く。四葉が呆れながら晴夏の手をゆっくり払い除けたのを見ると、幸紀は黒のコートの裾を払いながらコンビニの出口の方にへと歩き始めた。
「いくぞ」
「あ、待ってください、幸紀さん!」
幸紀の後を追って日菜子が走り出すと、四葉と晴夏もその後に続いた。
コンビニを出た幸紀はまとめたゴミを外のゴミ箱に捨てると、あとからついてくる3人に目もやらず、真っ直ぐ目的地の方へと早足で歩いていく。
日菜子、四葉、晴夏の3人は、ゴミをゴミ箱に捨ててから幸紀について行こうとする。
瞬間、日菜子が足を止める。それにつられて四葉と晴夏も足を止め、日菜子の方へ向き直った。
「桜井さん?」
「どうした日菜子?早く行こうぜ」
「上!!」
日菜子が声を上げる。四葉と晴夏も、日菜子に言われた方角に目をやると、赤褐色の肌の悪魔が1体、コンビニの屋上から、晴夏と四葉の頭上へ飛び降りてきていた。
「シネェ!!」