追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
同じ頃 心泉府
新たに悪魔軍の指揮を任されたポラリスは、腹心である悪魔を引き連れて、星霊隊の次の攻撃目標である悪魔軍の拠点にやってきていた。
「即座にこの拠点を放棄し、撤退していただきたい」
彼は拠点の指揮官と向き合うと、冷静に言う。しかし指揮官は、自分より小柄なポラリスを見下ろすと、首を横に振った。
「お断りする!貴様ら邪族ごときが偉そうに指示を出すなど千年早い!しかも拠点を放棄して逃げろだと?小僧、ふざけているのか!?敵がこんなところに攻めてくるわけがないだろうが!」
指揮官はポラリスに近づき、見下ろして声を荒げる。そんな指揮官の様子を見て、ポラリスの背後に控えていた、指揮官よりも大柄な邪族の悪魔が、指揮官ににじり寄る。その鋭い眼光と殺意に、指揮官は思わずポラリスから下がった。
「やめろ、フェルカド」
様子を見ていたポラリスは、その大柄な悪魔、フェルカドに下がるよう指示する。フェルカドはポラリスの指示に従い、不服そうな表情のままその場から引き下がった。
「ここにはここの事情があるのでしょう。無理を言って申し訳ありませんでした」
ポラリスは途端に慇懃な態度で指揮官に頭を下げる。ポラリスの急な態度の変化に、フェルカドも指揮官も戸惑ったが、構わずポラリスは言葉を続けた。
「それでは我々はここで失礼します。指揮官殿も、どうぞお体に気をつけて」
ポラリスは柔和な笑顔でそう言うと、踵を返してテントを去っていく。状況を理解しきれないフェルカドだったが、ポラリスに続いてテントを出ていくのだった。
テントの外では、一般兵である悪魔たちが油断し切って休息を取っている。そんな光景を横目で見ながら、ポラリスとフェルカドは足早にその場を去ろうと歩いていた。
「若、カザン殿が敗れ、敵が攻め上がってきていることをなぜ言わないのです。このままではお味方が負けてしまうのではありませんか」
フェルカドは疑問をポラリスにぶつける。ポラリスは吐き捨てるように鼻で笑い飛ばすと、胸ポケットに入っていたタバコを咥えて火をつけた。
「構わん。この程度の連中は負けても問題ない」
「しかし」
「『俺の言うことを聞かなかったせいで負けた』という証拠ができれば、次からは説得しやすくなる。それよりも、だ」
フェルカドの疑問を軽く流し、ポラリスは違うことに意識を割く。彼はズボンのポケットからスマホのようなものを取り出すと、動画を眺め始めた。
「悪魔軍は敵を侮りすぎるあまりに情報収集を怠っていた。まずは敵を知る必要がある」
「警戒するべきはコーキのみ、という話では?」
「いいや、違う。コーキが引き連れているという女たち、奴らの強さはここにあると俺は確信している」
ポラリスはそう言いながら、スマホの映像に目をやる。そこに映っていたのは、本日録画された星霊隊の活躍だった。
「まぁこんな映像だけではそれもわからん。実際にこの目で見て、確かめようではないか。お前好みの猛者とも戦えるかもしれんぞ、フェルカド」
ポラリスはそう言ってフェルカドにスマホを投げ渡し、歩いていく。スマホの画面を見たフェルカドは、肩をすくめてポラリスに続いていくのだった。
「こんな女どもに、そんな力があるとも思えませんがな」
翌朝 6月23日 心泉府 御道区 6:00
「ギャアアアアア!!!」
悪魔たちが寝泊まりするテントから少し離れた廃ビルの2階で、ポラリスは悪魔たちの悲鳴を聞いて目を覚ました。
さっそくポラリスは割れた窓のすぐ近くにあったガレキに隠れながら、窓の外の様子を見る。無数のテントが並んでいたスクランブル交差点のあらゆる方向から、さまざまな色の光が飛び交い、テントから出た悪魔たちは次々と黒い煙に変わっていく。
「始まった始まった!」
ポラリスは仲間たちが倒れていく様子を嬉々として眺める。そんなポラリスの背後から、フェルカドが低い姿勢で近づいてきた。
「若!お味方が次々と敗走しています、救援を…!」
「しなくていい。それよりもよく見ろ」
切迫した様子のフェルカドに対し、ポラリスは冷淡に言う。ポラリスの言う通り、フェルカドも窓の外を眺めると、黒いロングコートの剣士が、悪魔たちを次々に斬り捨てていた。
「あれはコーキ!やはり手強い相手…!」
「そっちじゃない。右だ」
ポラリスはフェルカドに対して言う。ポラリスの言う通り、右側を見ると、複数人の女性たちが逃げようとする悪魔たちを追撃していた。幸紀1人の殲滅のペースには劣るものの、確実に悪魔たちを倒しつつあった。
「あれが噂の女どもですか、若」
「ああそうだ。ひとりひとりはコーキの力に遠く及ばないが、よく連携が取れている。奴らがいるから、コーキも目の前の戦に集中していられる、そうは見えないか?」
「そうですな。若の言う通りです」
ポラリスとフェルカドが話している間にも、女性の集団は次々と悪魔を倒していく。
その女性たちの中で、ピンク色が混じった金髪の女性が、悪魔軍の指揮官を殴り倒し、声を上げる光景がポラリスの目につく。直後、他の女性たちも腕を上げてそれに呼応し、悪魔たちを殲滅する手を早めていた。
「ほう…あの女か」
「なにがですか?」
「敵部隊の要だ。あの金髪が部隊の指揮官と見ていいだろう」
「コーキが指揮を執っているのではないのですか?」
「奴はただ暴れているだけだ。名目上は組織の長かもしれんが、実際に部隊をまとめあげているのはあの女だろう」
ポラリスはそう言うと、口角をニヤリと上げ、腕を組む。彼はそのまま、悪魔たちのもとへ走っていく金髪の女性を見て、フェルカドに命令した。
「あの女に色々聞くとしよう」