追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
同時刻 心泉府 御道区
日菜子は仲間たちと共に、悪魔たちを撃退した。
「みんな!お疲れ様です!次の目的地に行くので、みんなバスの方に乗ってください!」
日菜子は、メンバーたちに向けて声を張る。それに従って、その場にいたメンバーたちは、少し離れたところに停止しているバスに向かって走り始めた。
(バスの運転は幸紀さんに任せてるから...私は他の人たちを呼びに行こう)
日菜子はそう思うと、仲間たちを見送り、踵を返して他の仲間のもとへ走ろうとする。
「助けてくれぇええ!!!」
瞬間、日菜子の耳に、助けを求める男の声が響く。日菜子は思わず足を止めると、悲鳴のした方向へと振り向く。人の少なさそうな、廃ビルの立ち並ぶ街の一角。声の正体は見えなかったが、日菜子はすぐさま走り始めた。
「待っててください!すぐ行きます!!」
反射的とも言えるように走り出した日菜子。そんな彼女の姿を、たまたま路地から現れた菜々子が目撃した。
「お姉ちゃん…?待って、お姉ちゃん!」
日菜子の後を追うように、菜々子も声を上げながら走る。そんな菜々子の声に気づいた日菜子は、足を止め、慌てた様子で話し始めた。
「菜々子!誰かが助けを呼んでるみたいなの、だから急がないと!」
「落ち着いてお姉ちゃん!悪魔の罠かもしれないよ!?」
「罠じゃなかったら!?困っている人を見捨てることになるよ!そんなの私、できない!」
言うが早いか日菜子は止めていた足を再び動かし、絶叫が聞こえた方へと走り出す。菜々子はそんな日菜子を見ると、静止するのを諦め、日菜子の後を追うようにして走り始めた。
ものの数分もかからず、日菜子と菜々子はビルに囲まれた、やや開けた場所にやってくる。あたりには悪魔はいないが、灰色のスーツに身を包み、地面を這いずっているサラリーマンがそこにいた。
「大丈夫ですか!?」
さっそく日菜子が倒れているサラリーマンに駆け寄り、介抱するように声をかける。サラリーマンは日菜子の顔を見ると、日菜子の腕にしがみつきながら、錯乱した様子で話し始めた。
「あ、悪魔が!!悪魔に襲われたんだ!!」
「落ち着いて、もう大丈夫です!菜々子、周りを警戒して!」
日菜子は手早く指示を出しながら、サラリーマンの肩を担ぎ上げる。その間、菜々子は武器である鎖を発現させながら周囲を見回していた。
「…悪魔なんていなくない…?」
菜々子は日菜子に一瞬背を向けるようにしながら周囲を見回す。そのほんの一瞬だった。
「何するの!!?」
菜々子の耳に聞こえてきた日菜子の悲鳴。すぐさま菜々子が振り向くと、サラリーマンは日菜子を羽交締めにし、手に持った布を日菜子の口に近づけようとしていた。
「お姉ちゃん!!その手を離せこの!!」
菜々子が声を荒げながら鎖を振おうとする。しかしその瞬間、背後から大きな手が菜々子の手を握り、鎖を振おうとする手を無理矢理止める。
「!?」
菜々子が驚いて振り向くと、そこには、菜々子が見上げるほど大きな、紫色の肌の悪魔が、立っていた。
その巨大な体格に違わず、腕力も凄まじく、菜々子がいくら腕を振るっても、手を振り解けない。
そんな菜々子に構わず、その巨体の悪魔は、腕力に任せて菜々子の体を引き込むと、その勢いを生かして菜々子の腹に膝を叩き込んだ。
「うっぐ…!!」
あまりに強烈な一撃に、菜々子は声にもできない嗚咽を漏らし、その場に膝を折る。悪魔は菜々子の腕を乱雑に引っ張り、菜々子をコンクリートの上に倒す。
「菜々子ぉっ!!」
日菜子は自分の妹が暴行されている状況を見て、自分も敵に拘束されているのにも関わらず、声を上げる。その一瞬の隙を突き、日菜子を拘束していたサラリーマンは、持っていた布を日菜子の口に押し付ける。
「んんんっ…!!」
「寝ていろ、大人しくな」
日菜子を拘束しているサラリーマンの姿が、徐々に紫色の悪魔の姿に変化していく。日菜子は悪魔の手を振り解こうとしていたが、結局は振り解くことはできず、意識を失い、悪魔の腕の中に倒れ込んだ。
「よし、いくぞ、フェルカド」
「はっ」
日菜子を気絶させた悪魔、ポラリスは、部下である大柄な悪魔、フェルカドに指示をすると、日菜子を脇に抱えて歩き始める。フェルカドも、その場に倒れた菜々子を放置し、ポラリスに続いてその場を後にするのだった。
「ぅ…ぐ…ぉ…ねぇ…ちゃん…!」
菜々子は遠ざかっていく悪魔たちの背中に手を伸ばす。しかし、悪魔たちは、日菜子を連れて虚空へと消えていくのだった。
「くっ…そぅ…!!」
菜々子は拳を地面に叩きつけると、ゆっくりと体を起こす。フェルカドに膝を叩き込まれた菜々子の腹部には、まだまだ凄まじい激痛が走っており、菜々子は腹部を押さえながら、仲間たちのいるはずの場所に向けて歩き始めた。