追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
御道区 某所
次の悪魔軍の拠点を攻撃するため、星霊隊のメンバーたちは移動に使っていたバスに集合していた。
幸紀もこのバスに乗り込み、運転席に座ってバックミラーを使って席に座るメンバーたちを確認する。同時に、幸紀は何か違和感を覚えた。
(…数がおかしい…?)
幸紀はそう思うと、すぐにそばに座っている四葉に声をかけた。
「四葉、全員揃ったか。確認しろ」
「はい!」
幸紀の指示を受けると、四葉は立ち上がって誰がいるかを確認する。数秒で確認を終えると、四葉は幸紀に報告した。
「日菜子さんと菜々子さんがいません!他はみんないますけど…!」
「日菜子が?...妙だな」
幸紀は四葉からの報告を聞き、小さく呟く。その直後、バスの入り口に、腹を抱えた菜々子が、ゆっくりと歩いてやってきた。
「幸紀くん…!」
苦しそうに声を絞り出す菜々子の様子を見て、傷の治療ができる心愛や、心配した珠緒や四葉など、数人が駆け寄る。菜々子はやってきたメンバーたちに小さく礼を言うと、幸紀に状況を報告し始めた。
「お姉ちゃんが…お姉ちゃんが…敵に攫われちゃった…!」
「えぇっ!?」
菜々子の言葉に、その場にいたメンバーたちは思わず声を上げる。幸紀も、表情こそ変えないが、わずかに目を動かした。
四葉はすぐさま幸紀の座る運転席に近づくと、幸紀に訴えかけた。
「東雲さん!日菜子さんを助けに行きましょう!私が指揮を執りますから…」
「ダメよ」
四葉の言葉を遮るように、後部座席から焔が現れ、短く言葉を発する。焔の冷酷とも取れる言葉に、菜々子は思わず反発した。
「そんな!どうして!?」
「今、私たちは作戦行動中よ。西側で国防軍が悪魔を防ぐ間、一気に、素早く悪魔軍の本拠点まで攻め上がる。それが私たちの作戦でしょう?すでに作戦の進行に若干の遅れが出ているわ。これ以上の遅れは、他の戦線で戦う味方の損害を増やすことになる」
「でも」
「短期決戦からの早期決着、これが作戦の肝よ。残念ながら、日菜子さんを助けている暇はないわ」
焔の現実を見据えた正論に、菜々子は言葉を返せない。四葉も焔の言葉に黙り込むと、幸紀もバスのエンジンを始動させた。
「行くぞ」
「待って幸紀さん!!お願いだから!!」
菜々子はバスを走らせようとする幸紀に対し、声を張り上げる。幸紀は菜々子の方を見なかったが、菜々子は言葉を続けた。
「焔さんの言ってることはわかってる!全面的に正しいとも思う!!でも!!でも!!お姉ちゃんを助けて欲しいんです!!」
「菜々子さん」
「もうお姉ちゃんしかいないの…!私の家族は…!たったひとりの…大事なお姉ちゃんなの…!!いつも私を守ってくれて…いつも私を大事にしてくれて…自分のことより私のことを大切にしてくれる…そういうお姉ちゃんなの…!!私のことだって、あんな危険な場所に飛び込んでまで助けてくれた…!そんなお姉ちゃんを…私、見捨てたくないんです!!」
菜々子の瞳に涙が浮かび、声に震えが混じり始める。菜々子の心からの訴えを聞き、賛同していた四葉も、反対していた焔も、思わず俯くが、四葉が苦しそうに首を横に振った。
「…でも…ここで日菜子さんを助けには…」
四葉がそう言葉を発した瞬間、ここまで何も言おうとも、何もしようともしなかった幸紀が突然立ち上がり、運転席から降りた。
「江美、運転を変われ。四葉、次の攻略作戦の指揮は任せる」
「え?」
幸紀の言葉に、四葉と、菜々子も戸惑う。それをよそに、江美は運転席へと座り、幸紀は霊力で自分の日本刀を発現させつつ、バスを降りようとしていた。
「菜々子、案内しろ」
「…!!」
「どういうこと、幸紀!?時間がないのは知っているでしょう!?」
幸紀の言動に対し、焔が尋ねる。幸紀は平然とした態度で答え始めた。
「ああ。だからお前たちは先に行け。俺と菜々子は後で合流する」
「幸紀さん…!!」
幸紀の言葉に菜々子は感極まって言葉を失う。構わず幸紀はバスを降りると、鞘からわずかに刀を出して刃の状態を確認してから、声をかけた。
「行くぞ、時間がないんだろう」
「…はい!」
幸紀に言われると、菜々子もバスを降りる。そうして2人がバスから離れるように歩き始めると、バスは次の目的地を目指して走り始めるのだった。