追放された最強の悪魔剣士の復讐道中記 -幸紀と星霊隊の24人の女たち- 作:晴本吉陽
前回までのあらすじ
悪魔軍の拠点を攻め落としていく星霊隊。対する悪魔軍は、晴夏と千鶴を利用して、別世界から侵略しようと試みるも、幸紀、晴夏、千鶴が協力したことでその野望を食い止める。
星霊隊は改めて悪魔軍を倒すために北上を続けるのだった。
6月23日 10:30 山取県 若竹市
狭間(はざま)結依(ゆい)は、周囲を見回しながら竹林にやってくる。そうして、あたりにだれもいないのを確認すると、そこにあった一本の竹に寄り掛かった。
「ふぅ~...バトルばっかでこりごり~。いい加減お楽しみといきたいよね~...というわけで、誰もいないし、せっかくだから...」
結依はそう言うと、自分のズボンと下着の間に手を滑り込ませようとする。瞬間、彼女は急に手を止めると、声を上げ始めた。
「ちょっと!!サリーさん!!私の体で何をしようとしてるんですか!!」
結依がそう声を上げると、結依の体に共存しているサキュバスのサリーが、高笑いを上げて結依の心に語り掛けた。
(きゃははは、いーじゃん。ご無沙汰してたんでしょ?体は正直にやりたがってたよ?)
「どうしてもやりたいことがあるって言うから体を貸したのに、最低です!仮にそうだったとしてこんな外でやることじゃ絶対にありません!!というか、みんなとはぐれちゃったじゃないですか!どうしてくれるんです!」
(まーまー、いざとなったら私がコーキを呼んであげるからさー。そんなことより、早くしようよ、お楽しみ!外でしたほうがスリル満点で...)
結依とサリーが口論、はたから見れば結依の独り言、をしていると、突然ふたりはやりとりをやめる。
(足音、しましたよね?)
(したねぇ)
結依は心の中でサリーとやり取りすると、背中にある竹に改めて寄り掛かり、足音のした方向を警戒する。足音は変わらず聞こえるが、その正体は見えなかった。
足音が止まる。次の瞬間には、女性の話し声が聞こえてきた。
(誰だろう...?)
結依は好奇心を抑えきれず、竹林の間をしゃがんで歩きながら声のした方向へと進んでいく。彼女が近づくほどに、声は鮮明になってきていた。
「...い...ず通りに...えぇ...我々『皇牙衆』の利益につながるように行動しています...」
結依は竹の陰から、林道の中央に立つ声の主の顔を確認する。
真っ白な長いストレートヘアーに、黄色い眼鏡。真剣な表情で腕時計に話をしているのは、結依と同じ星霊隊のメンバーである、透破(すわ)江美(えみ)だった。
「江美さん...?」
「...えぇ...今後も清峰と東雲の監視は続けます...もちろん...すべては女王陛下のために...」
江美は普段のおっとりとした口調とは全く真逆の口調でそう言うと、腕時計を顔から遠ざける。
そして、結依には気づかなかったのか、彼女に背を向けるようにしてその場を歩いて去っていくのだった。
(あの白髪女、なんか変なこと言ってたねぇ)
結依の中のサリーが結依の心に語り掛ける。結依はうなずくと、心の中で答えた。
(ちょっと追ってみましょうか)
結依はそう決めると、江美の後を追うように竹の陰から出て、少し開けた林道に出る。
しかし、江美の姿はそこにはなかった。
「あれ...?」
「盗み聞きなんて悪い子ですねぇ~」
「!?」
結依の耳元に聞こえた江美の声。結依が振り向こうとしたその瞬間には、江美が細いワイヤーで結依の首を締めあげていた。
「くぅぉっ...!」
「あなた、悪魔なんでしょう~?私たちの味方のフリをしてても、魔力でわかります~」
「ち、ちが...!」
「それに~私の秘密を知られちゃいましたからね~。消えてもらいますね~」
江美は平然とそう言うと、結依の首を絞める力を強める。結依は必死に暴れるが、ほどける様子はなかった。
(ヤバい!結依、体使うよ!)
サリーは結依にそう言うと、結依の意識と体を乗っ取る。直後、彼女は片手に魔力を集中させ、自分の武器であるカギ爪を発現させると、江美の顔があるであろう部分に、がむしゃらに武器を振るう。
不規則な行動を見切りきれないと判断した江美は、すぐにワイヤーから手を離すと、距離を取る。
首絞めから解放された結依(サリー)も、江美と距離を取りながら向かい合った。
「あら~、逃げられちゃった~」
江美は微笑みをたたえたままそう呟くと、右手に霊力を溜める。次の瞬間には、針のような手裏剣がそこに握られていた。
「次は逃がさん」
江美から笑顔が消え、鋭く低い声で結依(サリー)に言葉を発する。一方の結依(サリー)は、肩をすくめた。
「こう言われてるけど、どーする?結依?やっちゃう?」
結依の体を使っているサリーは、結依の口から、結依の意識に尋ねる。はたから見ればただの独り言を話しているようにしか見えない光景に、江美は手裏剣を握る力を強めていた。
「...ふーん、じゃ、頑張って」
結依の口はそう言うと、力が抜けたように体ごと俯く。すると、次の瞬間、結依は顔を上げ、江美に対して両手を突き出しながら首を横に振った。
「え、江美さん、聞いてください!私、悪魔じゃないんです!」
「すごい上手な演技ね~」
「違うんです!とにかく、一旦武器を置いてください!あなたのことは誰にも言いませんから!」
「信じられると思いますか~?」
「でも...」
反論しようとする結依だったが、瞬間、力が抜けてまた前かがみになる。そうしてまた結依の顔が上がると、結依は不敵な表情で話し始めた。
「ねぇおばちゃん、私のこと、殺したいなら殺しなよぉ」
「へぇ?」
「でも、今、私、コーキを呼んじゃったんだ~」
「...!」
「あはは!その反応、コーキのこと知ってるんだね?しかも、あいつに殺されかけたことがあるって顔してる!ビビっちゃってかーわーいー!」
「...黙れ」
「ここで殺しあってもいいけど、どっちかが死んだとき、コーキはどうするだろうねぇ?彼にとって『星霊隊』は大事な復讐の道具。それを勝手に傷つけるような奴、生かしておいてくれるのかなぁ??」
結依の体で、サリーは江美を脅迫するように質問する。
サリーの言葉を聞いた江美は、鋭い表情で結依を睨み、手裏剣を構える。一方、江美の目の前にいる結依は、妖しげな微笑みを浮かべているだけだった。
「…うふふ。何を言ってるんですかぁ、私たちは仲間ですよ〜」
江美は突然鋭い表情をいつもの笑顔に戻し、構えていた手裏剣を下ろす。結依の方もそれを見て、ほっと胸を撫で下ろした様子だった。
(でも秘密を知った以上、いつか必ず、こいつは消す)
江美と、結依の体を使っているサリーは、お互い内心でそう思いながら、そんな腹の内を探らせないように微笑み合うのだった。